夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
博麗神社で過ごすようになってから三日。終に私の待っていた日が訪れた。
宴会に参加するのは初めてのことだけど、それはきっときっと素敵なことのはず。多くの人が集まり、美味しい料理に舌鼓。お酒の香りと楽しげな雰囲気が其処にはあるはずなんだ。
でも、その宴会は夜から始まるらしく、今はまだ昼間だからもうちょっとだけ時間がかかる。早く宴会が始まらないかなぁ。
博麗神社での生活だけど、私はそのほとんどの時間を今も寝転んでいる縁側で過ごした。此処は居心地が良いからねぇ。
かと言って、ずっと寝転んでいたわけじゃあなく、昼間は霊夢と一緒に神社の掃除を手伝ったりもしている。でも、掃除は直ぐに終わってしまうから、やっぱりこの縁側で寝転んでいる方が多かった。
そうやって私が縁側でゴロゴロしていると、霊夢はお茶を片手にいつも私の傍に来て、私の頭をわしわしする。何が面白いのかはわからない。でも、霊夢はそうやって私の頭をわしわしするのだ。
頭をわしわしされると、私の頭は動いてしまうわけで、動いてしまうと首に付いている鈴が綺麗な音を出す。それがちょっと面白い。
とは言え、これじゃあ本当に私が畜生みたいだから、それはなぁ、と思って抵抗してみようとも思ったんだ。けれども、私の頭をわしわしする霊夢を見て、そんな気も失せてしまった。
だって、霊夢は優しく微笑むような素敵な顔だったから。
それなら、まぁ、良いのかなぁ。なんて思って私はわしわしされ続けた。
博麗神社での昼間はそんな生活。季節が季節だからやらなきゃいけないことが沢山あるけれど、宴会までは我慢するのだ。
そして、夜になると霊夢は寝てしまう。けれども、私はまだ寝なくても大丈夫だから、夜の間も縁側でゴロゴロを続けた。
私が少し動くと首の鈴がチリンと音を出す。私が沢山動くと鈴も沢山音を出す。それが何とも面白い。
そんなことを暫くの間していると、誰かが訪れてくれるのだ。
最初の夜は萃香だったし、その次の夜は紫だった。そして、その次は幽々子。皆々、昔からの知り合いで、そんな知り合いと会うことができたから本当は一人ぽっちとなるはずの夜も素敵時間を過ごせたと思う。
一人過ごす夜も嫌いじゃあないけれど、どうせなら騒がしいくらいの方が私は好きなのだ。
そして、今日はこの博麗神社で宴会が開かれる日。そんな楽しみなモノがもう目の前まで近づいてきている。
楽しみなモノが近づいて来ると、どうにも私はそわそわとしてしまう。そわそわとしてしまうと、私は色々なモノに誘われやすくなってしまうのです。けれども、此処で何かに誘われてしまうと、もしかしたら宴会に参加できないかもしれない。
あのそぞろ神は直ぐに私の心へ乗り移ろうとするし、道祖神もまた私を招こうとする。けれども今ばかりは遠慮してもらいたいところ。
「え、えと浅葱?」
「ん~? どうしたの?」
じゃあ、どうしようかと考え、私が出した結論は――
「その……いや、私は嬉しいのだけど、これは?」
霊夢にガシっと掴まることだった。
ふふん、これなら宴会が始まるまで私が何かに誘われることもない。これぞ完璧な作戦。まさに非の打ち所が無い。大陸の言葉で言ったら、ぱーふぇくとすらとてじー。きゃー、大陸の言葉も使えちゃう浅葱さんってば素敵。
「こうしていればね。宴会まで私は誘われないんだ」
「あっ、うん。そうなんだ」
そう言って霊夢は少しばかり困ったような顔をしていたけれど、どうやら嫌ではないみたいだった。それなら宴会が始まるまではこうさせてもらおうか。
昼間の間はそうやって霊夢へしがみつくことで、どうにか誘われず過ごすことに成功。そして、夕方になると、妖精やら妖怪やらがポツポツと集まり始めた。
少しずつ少しずつ、愉し気な香りが漂い始めている。
「それじゃあ、宴会の準備を始めるから浅葱も手伝ってくれるかしら?」
「うん、わかった!」
きっときっと素敵な宴会はもう目の前だ。
そして終に宴会が始まった。
少しの人間と、沢山の妖精妖怪。そんな奴らが集まって皆それぞれで楽しそうな雰囲気を作っていた。賑やかな声に美味しそう料理の匂い。鼻の奥まで届いた吟醸香が私を誘う。
そんな素敵な雰囲気が広がっていたから、私の口からは――ふふん。と嬉しそうな音が出た。
今しがた食べた月のお団子は美味しかったし、次は何を食べようかしら?
「よお、いるとは聞いていたけど、本当に帰って来てたんだな」
そうやって、次に食べる料理を探していると、白黒の服に黒色の大きな帽子を被った少女が私に声をかけてきた。
はて、初めて見る顔だと思うけれど、君は誰だい? それがわからなかったから、こてり首を傾げてみる。すると、私の首についた鈴がチリンと音を出した。
「ん~? ああ、もしかして私のこと忘れちゃったか?」
「うん。えとえと、君は誰だい?」
どうやらこの白黒少女は私を知っているらしい。でも、やっぱり私には君が誰なのかわからない。
「魔理沙だよ。霧雨魔理沙。どうだ? 何か思い出せそうか?」
あら、可愛らしく素敵な名前じゃあないか。ん~、でもなぁ、ちょっと君のことは思い出せないかも。随分と特徴的な格好ではあるけれど、私は一度寝ちゃうと色々なことを忘れちゃうからなぁ。それに人間を覚えるのは本当に苦手なんだ。だって、君たち人間は私が寝ている間に消えてしまうもの。いつだって。
「まぁ、忘れちゃったのならしょうがないな」
うむ、仕様が無いのだ。
それにいくら忘れてしまったと言え、これからまた頑張れば良いだけ。私が君に何かをしてあげることはできないかもしれないけれど、私もできるだけ頑張ってみるよ。
そんな会話をして、魔理沙は一度私の頭をちょいと乱暴にわしわししてから、また別の場所へ向かっていった。乱暴なことをされるのは好きじゃあないけれど、どうしてなのやらそれほど悪い気分じゃあなかった。
それからは沢山の人との出会いがあった。これだけ沢山の人がいるんだもの、そりゃあ出会いだって沢山あるよね。
魔理沙の次に声をかけてきたのは、吸血鬼であるレミリアとその従者の咲夜。やっぱりこの二人も私のことは知っているみたいだった。一方、私だけどレミリアはなんとなく覚えているくらい。確か紅い霧の人だったよね。咲夜は……うん、ちょっと覚えてないや。フランドールのことは覚えているんだけどなぁ。
そんな二人はまた紅魔館へ遊びに来いと誘ってくれた。誘われたのだから是非行きたいところ。でも、紅魔館って何処にあるんだろうね?
その次は、私が起きてから初めて会った鈴仙や赤青の人と輝夜。
私がお団子美味しかったよ。と伝えたら、鈴仙は何処か恥ずかしそうに、ありがとう。なんて言ってくれた。別に恥ずかしがるようなことじゃあないと思うんだけどなぁ。
「……どう? 昔と比べて今の世界は」
そんな赤青の人の言葉。
「私は素敵な世界になったと思うよ」
遠い遠い昔。それこそ、君たちがまだ地上へ居てくれたときだって、悪いわけじゃなかった。それに、それよりももっと昔は誰もいなくて寂しかったもの。その時の私はずっとずっと一人ぽっちだった。たまに神々が話かけてくれたり、遊んでくれたりもしたけれど、アイツらはいつも忙しそうだったからなぁ。
そして、君たちは月へ行ってしまったから、また私は一人ぽっちに。どれくらいの時間を一人で過ごしたのかわからないけれど、あの時は寂しかったなぁ。
そんな時と比べれば今の方がずっとずっと素敵だ。私は騒がしい方が好きなのだ。色々な雰囲気を感じることができるから。それは絶対に一人じゃできないことだから。
「そう……それなら良かった」
そう言って赤青の人は笑った。うむうむ、良い笑顔じゃあないか。
それに――
「君もそう思わないかい?」
私自身がこんな存在だから、穢れのない月の世界のことはさっぱりわからないけれど、この穢れが沢山ある地上の世界だって悪いものじゃあないと思うんだ。
もしかしたら、それは穢れ者の小唄。けれども、少しの穢れがあるからこそ、この世界はより素敵に見えてくれる。だから穢れのことも少しだけ大切にしてくれれば嬉しいと私は思うんだ。
「そうね。私もそう思うわ」
なんて言ってから目を細めた彼女の顔はなんとも素敵な表情だった。
「それじゃ、私たちもいくわね。待っているからいつでも遊びに来なさい」
「うん。それなら行かせてもらうよ」
真ん丸お月様の下、皆でお餅ついたりしてみたいよね。お餅をつくのは月の兎お仕事だけど、別に私たちがやって悪いことじゃあないはずなのだし。
ぶんぶんと私が手を振れば、軽く手を挙げてそれに応えてくれた3人。
月の民である君たちには色々と思うところもあるけれど、これからも仲良くできたら良いなぁと私は思うのです。
ふふん、やっぱり宴会は良いものじゃあないか。
こんな素敵なモノがあるのだし、やっぱり起きて良かったと私は思うのです。