夢の続きをもう一度   作:にばんしぼり

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捌

 

 

 さてさて、なんとも困ったことになってしまったぞ。

 紅葉を見ることができたのだし、これで私は帰ろうと思った。思ったのだけど……

 

「博麗神社って何処にあるんだろう」

 

 困ったことに帰る場所がわからない。博麗神社が私の家と言うわけではないから、別に帰らなくても良いんじゃないかなぁ、なんて思わなくもないけれど、もし私が帰らなければきっと霊夢が心配する。心配させてしまうのは申し訳ないから、私は博麗神社へ行きたいのだ。

 う~ん、これは困っちゃうねぇ。

 

 とりあえずこの山を降りて、それから考えようか。

 なんて思った時のこと。

 

「そこの奴。止まれ。この妖怪の山へ何の用だ?」

 

 そんな声をかけられた。

 そして、その声をかけてきた奴の方を見ると、其処には天狗がひとり。あらぁ、天狗なんて久しぶりに見た気がする。でも、天狗は其処ら中の山々にいたから別に此処にいてもおかしくはないのかな。

 

「おっすおっす。此処の山の椛は綺麗だねぇ」

 

 きっと君は此処の山に住んでいるのだろう。だから、もしかしたらこの椛の綺麗さが良くわかっていないのかもしれない。どんなに綺麗なものだろうと、ずっと見続けていればそれが普通になっちゃうもの。

 それは悲しいことだけど、仕方の無いこと。だから、こうやって私が教えてあげるのだ。

 

「質問に応えろ。お前は誰で、何の用で此処へ来た」

 

 そうだと言うのに、この天狗ったら何故か怒っているんだ。別に怒られるようなことをした覚えはないんだけどなぁ。

 怒りん坊な奴は苦手だ。もっと柔らかくなれば良いというのに……う~ん、難しいものだねぇ。

 

「私はね。浅葱って言うんだ。此処へは椛を見に来たんだよ」

 

 今の季節は秋。そんな季節なのだから、私が色付いた椛に誘われてしまうのも仕方無いね。

 

「……人間か?」

「違うよ」

「妖怪か?」

「それも違う」

「神……には見えんが」

「だって神でもないもの」

 

 私は私だ。そんな立派な存在じゃあないのだ。

 さてさて、それにしてもこの天狗は何がしたいんだろうね? 私としては博麗神社の場所を教えてもらえると嬉しいのだけど……なんか、そんな雰囲気でもない。ふふん、私だってちゃんと空気が読めるのだ。

 

「じゃあ、お前は何者だ」

 

 そう聞かれると困っちゃうんだよなぁ。

 だって、自分でも私が何なのかははっきりと分かっていないもの。

 

 だから、私は天狗の質問には何も応えなかった。応えられなかった。

 

「良く分からんが……とりあえず、お前を捕まえさせてもらう。詳しくはその後で聞こう」

 

 そして、そんな言葉を落としたと思ったら、一気に私へ近づいて来た。

 ちょ、ちょっと待ってほしいぞ。そんな私を捕まえたって何も良いことはないよ? 食べても美味しくはないだろうし。それに私は博麗神社へ行かなきゃあいけないのだ。

 

 だから、私は一生懸命逃げることにしました。

 でもね、この天狗ったらすごく速いの。私も私で一生懸命逃げてみたのだけど、捕まりました。ダメでした。今にも泣きそうだ。

 

「おとなしくしろ。危害さえ加えなければ、此方からも乱暴なことはしない」

 

 ガシっと私の腕を掴んで天狗がそう言った。

 もうすでに乱暴なことをしてるんだけどなぁ。ちょっと椛を見に来ただけだと言うのに……どうしてこうなったんだろうね?

 

 ん~……やっぱりこのまま捕まっていたら不味いよねぇ。

 うん、仕方無いか。

 

「さあ、こっちへ……って、あら?」

 

 捕まえるのはやっぱり嫌だったから、私は身体を薄(・)め(・)た(・)。

 薄くなった私の身体は掴んでいた天狗の手をするりと抜け、自由の身に。でも、これをしてしまうと、私が生き物じゃあなく思えてしまうから、やっぱりあまり好きではない。

 

「貴様……何をした?」

 

 ……あかん。なんでかわからないけれど、天狗がもっと怒った。まじ意味わからん。

 

「え、えとね。私はこのあと用事があるから、今捕まるのはちょっとマズイなぁって思ってね。だからね、別に君に何かをしようとかそう言うわけでは……」

 

 なんて一生懸命言い訳を重ねる。

 そうだと言うのに、コイツったら私の言葉を全然聞いてくれないのね。挙句の果てには妖弾まで放ってくる始末。こんなのどうすれば良いのさ。

 

 時の流れが遅くなる世界。

 視界を埋め尽くすほどの妖弾。それがゆっくり、ゆっくりと私の方へ近づいて来た。

 

 う~ん、流石にこの量を避けるのは無理だ。私は速く動くこと自体が苦手なのだから。とは言え、このままだと妖弾が私の身体に当たってしまう。当たったらきっと痛い。それも嫌だなぁ。

 また身体を薄めればすり抜けることもできるけれど、それもなぁ……

 

 はて、そうなると残っている手はひとつだけ。うん、まぁ、最近は食べていなかったし丁度良いのかもしれない。

 

 もう目の前まで近づいてきている沢山の妖弾。それらを全部、まとめて、残さず――

 

 

 

「いただきます」

 

 

 

 視界を埋め尽くしていた妖弾はもうひとつも残っていない。全部残らず私がいただきました。

 別段、美味しいとかは思わないけれど、今回起きてから何かを食べたのは初めてだから、ちょっとだけ特別な気分になる。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 けふっと息を吐いてから、そんな言葉をひとつ落とす。

 色々とできないことの多い私だけど、食べることだけは得意なのだ。まぁ、食べると言うより、消すと言った方が正しいのかもしれないけれど。

 

「…………」

 

 そんな私のことを見つつ、ポカンと口を開けたまま固まる天狗。そんな顔は面白いけれど、眉間に皺が寄っているせいで、少し怖い。

 とは言え、私は乱暴なことが苦手なのだし、これくらいは許してほしいなぁ。許してくれないんだろうなぁ……

 

 そんな私の予感は当たったらしく、天狗はまた妖弾を放ってきた。それもさっきよりもずっとずっと多い量を。

 う~ん、これはどうしたものか。本当に、君へ危害をくわえようとか思っていないんだけどなぁ。

 

 とりあえず、先程と同じように妖弾は全ていただいた。私には身体なんてない。だからどんなに攻撃をしようと無駄なんだけどなぁ。それにあまりわちゃわちゃしていると、私の中から穢れが出てきちゃう。そんなことになったらその土地が死ぬ。それは嫌なんだ。

 一度穢れてしまったものはなかなか治らないのだから。

 

「あのね。私は本当にちょっと椛を見に来ただけなんだ。だから、逃がしてくれると嬉しいのだけど……どうかな?」

 

 そう私が声をかけると、天狗は困ったような顔になった。

 あらぁ、困らせてしまったのか。でもなぁ、私にはどう仕様も無いんだよなぁ。

 

 

「あら? どうにも騒がしいと思ったら、貴女でしたか。こんな場所で何を?」

 

 

 どうしようかと、うんうん、考えているとまたあの天狗とは違う新しい声が聞こえた。

 其方を見ると、また違う天狗がひとり。なんとも今日は色々な人と会う日だ。

 

「秋だからねー。椛を見に来たんだよ」

 

 決して天狗と会うために来たわけじゃあないんだ。

 

「まぁ、貴女ならそうでしょうね。悪いことをするような人ではないですし」

 

 おろ? もしかして君は私のことを知っているのかい? ん~……天狗は沢山いるからなぁ。会ったことがあるってことだと思うけれど、私は君を覚えてないなぁ。

 でも、その首からぶら下げている機械みたいな奴は素敵だね。何なのか私には分からないけど。

 

「……射命丸か。コイツは?」

「うん? ああ、この方なら大丈夫ですよ。悪いことをする人ではありませんので」

 

 ほほー、君は射命丸って言うのか。そう言われると何だか聞いたことがある気がしてくるぞ。多分、気のせいなんだろうけど。

 そして、うむうむ、そうなのだ。昔はやんちゃなときもあって、山ひとついただいてしまったり、島を丸々全て殺してしまったりしたこともあるけれど、今はもうそんなことしない。

 ふふん、私だってちゃんと成長するのだ。

 

「……そうか。では、コイツのことはお前に任せる」

「はい、それが良いかと」

 

 うむ、あの怖い天狗も何処かへ行っちゃったし、何が何やらさっぱりだけど、どうやらなんとかなりそうな雰囲気だぞ。

 これで、博麗神社の場所も教えてもらえると嬉しいんだけどなぁ。

 

「ホント頭の堅いことで……さて、もう安心して良いですよ」

 

 此方を向いてくれた射命丸。

 なるほど、もう大丈夫なのか。それなら安心だ。

 

「えと……今はなんと言う名前なのですか?」

「今はね、浅葱って言うんだ」

 

 ふむ、どうやら本当に昔、会ったことがあるみたいだ。優しい人だと嬉しいんだけどなぁ。

 

「なるほど、今は浅葱さん、と。ふむ……それでこのあとの予定は?」

「えとね、博麗神社へ行きたいのだけど、博麗神社の場所が分からないんだ」

 

 手帳のようなモノを取り出し、其処へ何かを書きながら、私に尋ねる射命丸。うむうむ、射命丸は優しそうな人で良かった。さっきの奴は怖いからあまり好きじゃない。

 

「ふふっ、相変わらずですね、貴女は。それなら私が連れて行きましょうか?」

 

 ころころと笑いながら、素敵な提案。

 なんと、そんなことをしてもらえるのですか? それは嬉しい。

 

「いいの? 私は君に何もできないのだけど……」

「そんなお返しなんていりませんよ。貴女の頼みなら喜んで引き受けます」

 

 おおー、なんて素敵な人なのだろうか。

 私が射命丸にしてあげられることは本当に何もないから、流石に申し訳なくなる。いつかこの恩を返すことができれば良いのだけど……

 

「それでは、行きましょうか。しっかりと私に掴まってください」

「ありがとう」

 

 そうお礼を言ってから、言われたように射命丸に正面から抱きついた。背中だと翼の邪魔になってしまうもの。

 私が抱きついた瞬間、射命丸の口からヘンテコな笑い声のようなものが聞こえた。

 うん? 何かおかしなことをしたのかな?

 

「え、えと……抱きつくのは嫌だった?」

「い、いえいえ! まさか、そんな! むしろ……じゃなくて、はい! 問題ありません! そ、それでは行きますよ」

 

 そ、そう? 問題がないのなら良いけど……でもね、嫌だったら嫌と言ってくれても良いんだよ? 場所さえ教えてもらえれば私だけでもたどり着くことが……できないかもしれないけど、頑張るから。

 

 そんなことを伝えようと、射命丸の顔を見ると、少しだけその顔を赤く染め、笑っているような……困っているようななんとも複雑な顔だった。

 ただ、嫌がっているようには見えない。それなら良いのかな? うん、良いと言うことにしておこう。

 

 それじゃあ、よろしくお願いします。

 

 

 

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