夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
「浅葱さんは今、博麗神社で暮らしているのですか?」
射命丸に抱きかかえられながら、空中をお散歩。
さっきまでは私の上にあった椛たちも、今じゃ私の下となっている。椛ってのは木で、木は私よりも大きい。だから椛を上から見ることなんてほとんどない。それがなんとも新鮮で、それがまたなかなかに素敵な景色だった。
「うん、そうだよ。今は霊夢と博麗神社に住んでいるんだ」
霊夢はたまにすごく怖い時もあるけれど、だいたいの霊夢は優しいから好きだ。それにあの場所は空気の流れも良く、とても過ごしやすい場所だと思う。だからあの神社には色々な奴が集まってくるのだろう。
まぁ、その集まる奴らが人間じゃない奴ばかりだから、逆に人間は来ないのだけど。
「なるほど、そうでしたか。以前、私が博麗神社へ訪れた時は見かけませんでしたが、もしかして最近になって暮らし始めたのですか?」
暑くもなく、冷たくもない秋の空気は心地良く、空中を飛んでいるものだから、その空気が流れる風を遮る奴もいない。うむうむ、空中のお散歩ってのもまた良いものだねぇ。私もひとりで飛べるようになりたいなぁ。
「うん。真ん丸がちょっと欠けちゃった次の日から暮らしているの」
「なるほど。あの前回の異変の時からでしたか」
ああ、そっか。あの赤青の人の所へも行かないとだ。だって私はお呼ばれされたのだから。ただ、ひとりじゃ行けそうにないんだよなぁ。レミリアの場所だってそうだ。行きたい気持ちはあるけれど、やっぱりひとりじゃ行ける気がしない。
こんな小さな身体の私にとってこの世界は大きすぎる。
「さて、浅葱さん。目的地が見えてきましたよ」
そんなことを射命丸から言われ、視線を動かしてみると確かに博麗神社が見える。
おおー、すごい。本当に帰ってくることができたぞ。ちょっと無理なんじゃないかなぁって、若干諦めかけていたから素直に嬉しい。
そして、此処まで私を運んでくれた射命丸だけど、博麗神社の境内へ入ることはせず、博麗神社の手前で私を下ろした。
「寄っていかないの? ほら、お茶とか飲んだりして」
もしかしたら上手く淹れることはできないかもしれないけれど、せっかく此処まで運んでくれたのだ。そのお礼はしたい。霊夢だってお茶の一杯くらいならくれるだろうし。
「あー……それは嬉しいお誘いですが、遠慮しておきます。それにほら、きっとまた会えますし」
そっかぁ。それは残念だ。
うん、でも君がそう言うのなら私も止めはしないよ。
「ありがとね。此処まで運んでくれて」
「いえ、貴女の頼みでしたらいつでも。それではまた」
射命丸はそう言ってからものすごい速さで博麗神社を後にした。
う~ん、やっぱり天狗って種族は皆速いんだねぇ。私は速く動くことが苦手だから、羨ましく思ってしまう。ただ、ゆっくりってのも良いものなんだよ? だって、早すぎたら見逃してしまうことが沢山あるもの。
「あら、おかえり浅葱。どう? 椛を見ることはできた?」
射命丸と別れ、博麗神社の境内へ行くと、霊夢が境内の掃除をしていた。
この季節は落ち葉が沢山出るからねぇ。私も手伝うけれど掃除は大変そうだ。ただ、せっかく落ち葉があるのだし、焼き芋とかやってみたなぁ。ホクホクで甘いアイツは私の心を掴むのだ。
「うん、紅かったよ」
「そう、それなら良かったわ。それにしても、よく無事に帰って来れたわね。もう少ししたら私が迎えに行こうと思っていたのだけど……」
あら、そうだったのかい? でも、これで霊夢の手間を省くこともできた。それはきっと良いことのはず。
「天狗がねー、私を送ってくれたんだ」
「天狗……? まぁ、何もなかったみたいだし、良いけど」
うむうむ、射命丸には感謝だ。また会えるって言っていたけれど、私もまた会いたいなぁ。
少しずつ少しずつ知り合いも増えていき、今はなんとも良い気分。どうせ寝てまた色々と忘れちゃうんだろうけれど、また寝てしまうまで私なりに頑張ってみようと思うんだ。
「それじゃあ浅葱、ちょっと掃除を手伝ってもらっても良い?」
「うん、わかった」
次はどんな出会いがあるんだろうねぇ。
―――――――――
それは、とある晩秋の夜のことだった。
いつものように私は起きていて、いつのも縁側へ腰掛け、半分くらいが欠けている月を見ながら足をぷらぷら。そんなことをしていると、誰かが訪れて一緒にお酒を飲んだりお話したり。それが私の夜の過ごし方だった。
ただ、その日に訪れたのはいつもとはちょっと違う奴。
「おっ、まさか本当に起きているとは思わなかったぜ」
少し強い風が吹いたかと思ったら、そんな言葉を落としつつ私の前に白黒の人間が現れた。
急に現れたものだからちょっとビックリしてしまったけれど、どうにかビックリしないように頑張ってみる。
「おおー、魔理沙じゃあないか。おっすおっす」
「ああ、魔理沙だぜ。おっすおっす」
魔理沙は霊夢と仲が良いらしく、博麗神社へよく訪れる。でも今は霊夢が寝ているし、こんな時間に訪れるのは初めて。そうだと言うのに、どうしたんだろうね?
「霊夢の奴は寝ているか?」
「うん、寝てるよ。だって今は夜だもの」
妖怪なんかは夜に起きている奴が多いけれど、霊夢は人間。普通、人間ってのは夜寝てしまうものなのだ。
あれ? でも、魔理沙だって人間だよね。そうだと言うのに、どうして魔理沙は起きているのだろうか。
「そうかそうか。そりゃあ良かったよ。なぁ、浅葱。ちょっと私と一緒に出かけないか?」
何が良いのか私にはわからないけれど、魔理沙は良いと言っているし、きっと素敵なことなんだろう。
それで、どうやら魔理沙はお出かけをしたいらしい。そして、私と一緒に。うむうむ、なんとも素敵な香りがするぞ。
「うん、行く」
「よし、そうとなれば早速出発だな。浅葱は確か……飛べないんだったよな? それじゃあ私の箒の後ろへ乗ってくれ」
おおー、飛んでいくのか。それはまたワクワクするじゃあないか。何処へ行くのかわからないけれど、きっと素敵な場所なんだろう。
魔理沙から言われたように、箒の後ろの方へ座り、落ちないよう魔理沙をがっしりと掴む。すると、魔理沙は直ぐに真っ暗な空目掛けて地面を蹴った。
今まで、霊夢や射命丸と一緒に空を飛んだことはあった。そんなあの二人はふよふよと空をお散歩するような飛び方。けれども魔理沙は違った。荒々しく、空気を掻き分けながら飛ぶ。私に当たる風は強く、思わず目を瞑ってしまう。荒々しいのは苦手な私。けれども、どうしてなのやら今は悪い気分じゃあない。
なんて言うか、こう……わくわくするんです。私はこんなに速く動くことはできないから、こんな経験をしたことがない。そんないつもと違う経験が私の心を乱す。
そして、それが何処か心地良い。
「っと、今日は門番が仕事をしているのか……」
風が強く、目なんて開けてられなかったけれど、ようやっと風を切る音が止まり、魔理沙が何かしらの音を溢した。でも、何を言っていたのかまでは分からない。
「浅葱、しっかり捕まってろ!」
でも、そんな魔理沙の声はしっかりと聞こえた。
瞬間――私のすぐ後ろからものすごい音が響き、また風を切る音がした。しかも、さっきの奴よりもずっとずっと強い音。
きっと普段の私ならその音にビックリして泣いてしまっていたかもしれない。でも、その時ばかりは何故か怖いとは思わず、むしろ楽しかった。
何が起きているのかはさっぱりだけど……
「よし、到着だ」
魔理沙がそう言ったから恐る恐る目を開けてみる。
そして、まず見えたのは真っ赤な真っ赤な建物だった。
おおー、此処は紅魔館じゃあないか。なるほど魔理沙は此処へ私を連れてきたかったのか。うむ、丁度私も紅魔館へは行きたいなぁって思っていたところなんだ。
でも、もうちょっと優しい感じで来た方が良かったんじゃないかなぁって私は思うんだ。いや、楽しかったけれどさ。
「いいか浅葱。お前は知らないかもしれんが、紅魔館へはこうやって来るのが礼儀なんだ」
なんと、そうだったのですか。
でも、それは困った。だって、私には魔理沙みたいに速く動くことはできない。せっかくお呼ばれされたのに、それじゃあ困ってしまう。
「私は魔理沙みたいにできないよ?」
「安心しろ。お前が来たい時は、今日みたいに私が連れてきてやるから」
おおー、それは嬉しいよ。なるほど、紅魔館へ行きたくなったら魔理沙へ頼めば良いのか。……なんかちょっとおかしい気もするけど。
「よしっ、それじゃあ紅魔館の中へ潜入だ!」
「潜入だー!」
ふふ、これは素敵なことが起こりそうだぞ。
うん?
潜入?