「こ、これって…」
『ああ。本来なら君達の部隊には関係ない仕事なんだが…この事件は君達に無関係とは言えないんだ…』
「そうやな…。」
先日の一件以来、はやてと統夜の間には良くない空気が漂っているはずなのだが、彼女の身内であるヴォルケンリッター以外にはその事実は気付かれずにいた。
元々統夜は機動六課…いや、時空管理局に関わる人間との間に溝があった。単純な話だ…元クラスメイト程度の関係と割り切っている統夜にしてみれば、必要以上に関わっていないのは今まで道理だ。
衣食住の世話になっている以上は頼まれれば仕事はするし、フォワードのメンバーの訓練も見ているし(仮面ライダー達の中では新人なのでそれほど目立っていなかったが、面倒見は良い方)、ゼイビアックスの配下のモンスターが出れば戦いに行く。…元々はやてとの接触は部隊の中では何気に一番低かったのだし、元々あった溝が表面化した事を除けば今までと何も変わっていない。
食堂等で接触する機会も有るかと思えば、何気に統夜の食事時間は決まっていない。……主に原因はモンスター関係で、だ。モンスターを片付けてから食事にする事も有れば、モンスターの出現に備えて早めに食事にする事もある。
故に他のメンバーの前で会う事が無ければ統夜とはやての間に流れる空気も感じる事は無い。
そんな空気が漂う中で起こった事件……それは……レリック所かロストロギアも関係していない……『殺人事件』だった。
本来なら、機動六課には関係ない事件だが、被害者達のある共通点から、今回は機動六課ここに廻ってきた。
「これって…」
「酷い…」
「…オレ達だけって言うのは正解だな」
「そうだね…これはあの子達にはちょっと見せられないかな…」
部隊長室でその事件の現場の映像を見せられたなのは、フェイト、統夜の三人はそんな感想を零す。三人が三人とも顔色が悪い。獣にでも襲われて力任せに引き千切られた人の屍が散乱しているそれは確実に肉が食べれなくなる事だろう。
「せやな…暫くお肉は食べれそうに無いで…」
「それで…この部隊とは関係ない事件なんじゃないのか?」
「…それなんやけど…。被害者達の現場の共通点、統夜君なら分かるやろ?」
「…なるほど、オレの専門って訳か…」
そう言って映像の一部を指差すとそこには『鏡面』が存在していた。全ての現場に共通しているのは『鏡面』…。鏡面など無い方が珍しいと言えるかも知れないが、それでも、鏡面と言うキーワードから考えられることは一つ。それも、今までの様に誘拐するのではなく相手を殺す事だけを目的としているそれは…モンスターやゼイビアックスの指示では無く…。
「ゼイビアックス側の…仮面ライダーが犯人って訳か…」
感情を持って行動する『仮面ライダー』と言う事になる。
統夜の出したその結論に集まっていた全員が無言のまま頷く。
地球とベンタラの二つの世界を守る為の力…ゼイビアックスの手によって作られた複製品とは言え、こんな事に使われるのは統夜には耐えられない事だ。
「それで、何でこの部隊に廻ってきたんだ? ロストロギアとかを探して確保するのが専門なんだろ?」
もっとも、事件の内容がゼイビアックスに関係しているから廻ってきたと言う可能性も考えられるが、明らかにはやてとスターズ、ライトニングの副隊長達の表情から読み取れる感情はそれだけではない…。何より、管理局の上の人間がどれだけ統夜の事を知っているのかも疑問なのだから、その考えは却下する。
「…
「う、うん…。知っている相手なんや…この人達は…」
「知り合い? だったら余計に…」
「すまない、辰輝。その事はあまり聞かないでいてくれるとありがたい」
「…そう言うなら、追求はしないけどな…」
知り合いで有るのなら、余計に捜査から外すだろうと考えて聞こうとする。だが、シグナムからそう頼まれる。ふと、なのはとフェイトの顔が視界に入るが、間違いなく二人共はやて達と被害者がどう言う関係なのか理解したと言う表情を浮かべている。
「すまない」
その事に多少の疎外感を感じてしまうが、隠し事をしているのはお互い様だ。
「それで…被害者の共通点…それだけは教えてもらえるんだろう?」
ゼイビアックス側のライダーの動きを阻止するにしても、相手の狙い程度は知っておいたほうが良いと思っての判断だが…。
「…この事件の被害者の人達は…ある事件の被害者の関係者なんや…」
「被害者の…関係者?」
そうなるとその事件の犯人が一番怪しいと思うべきなのだが、流石にそんな簡単な結論に至らない訳が無いだろうと考えて追求するのを止める。
「一体何の…「『闇の書』、ミッドチルダじゃ有名な事件なんだよ…」…そうか」
フェイトからそう説明してもらう。それ以上は言いたくないと言う意思が表情に浮んでいる。
そう言うと統夜は適当な鏡面へと向かって歩き出す。
「統夜くん、何処に…」
「モンスター退治…オレはその事件の事を知らないし、何時も通りの仕事をするだけだ」
そう言って手を振りながら統夜は鏡の向こう側の世界へと立ち去って行った。
鏡の向こう側の世界…住人の姿も無く、地球とベンタラの関係に似たその世界の名を統夜は知らない。
この世界に誰かが居たのか、最初から住人の存在していない無人の世界なのかは分からない。ミッドチルダの平行世界と思われるこの世界の住人達がどうなったのかも……統夜には分からない事だ。
「それで…居るんだろう、オレ達に何の用だ?」
統夜の言葉に答える様に物陰から黄色い装甲の鎧を纏った仮面ライダーアックスに似た獅子をイメージさせる仮面ライダー、仮面ライダーレオンが現れる。
「気付いてたのか?」
「気が付いたのは、ついさっきだけどな…その様子から、前から居たんだろ?」
そう言い放つとドラゴンナイトのカードデッキを取り出し、
「KAMEN RIDER!」
ドラゴンナイトへと変身すると、
『
慣れた手つきでドラグセイバーを召喚する。
(…特徴的に契約モンスターはライオン型でアックスに似ていると考えるとパワータイプのライダー。…そうなると…こいつが)「一つだけ教えてもらおうか…最近有った殺人事件…その犯人はお前だな?」
確信こそ無いが直感的にそう判断する。
「ああ…オレが殺した…それがどうかしたのか?」
「ああ、そうかよ!!!」
そう叫びドラゴンナイトはドラグセイバーを振るってレオンに切りかかる。振り下ろされたドラゴンナイトの剣をレオンは大剣型のカードリーダー『レオンバイザー』で受け止める。
「何で殺した…? ゼイビアックスだってこんな事は「あいつ等は…」っ!?」
レオンバイザーを振るいドラゴンナイトを弾くとレオンはカードデッキから取り出したカードを新たなカードを抜き出し、レオンバイザーに装填する。
『
聞き慣れない電子音が響くとレオンの両腕に巨大な剣の付いた手甲『ソードクロー』が召喚される。
「あいつ等は自分達の感情をオレに押し付けた!!! それだけじゃない…オレの邪魔をした…だから殺してやったんだよ…」
狂気に満ちた声が響くと重厚な装甲を身に纏った姿からは想像できない俊敏な動きで前方へ展開された右手の手甲のブレードを叩きつける。
「こいつ!?」
大きくレオンから距離を取る為に後ろに跳ぶと先ほどまでドラゴンナイトの居た空間を展開された左腕のブレードが凪ぐ。
「それだけじゃない。オレの邪魔をしたのは…オレの気持ちが分かるはずの同類だけじゃない…管理局と言う組織も…。あの人殺しの
ドラゴンナイトに対して告げているのか本人が自身に言い聞かせているのか分からないが、これだけは分かる。
「だけどな…将軍は言ってくれた…。『その憎しみを我慢することが無い。存分に復讐すれば良い』ってな!!! その為の力もくれた!!! だから、将軍の敵であるお前も殺す…ドラゴンナイト!!!」
「オレにはお前を殺す気は無い…だけどな…。
互いに決意を込めて叫んだ瞬間、
『
新たな電子音が響き、ドラゴンナイトが慌てて後ろに跳ぶとその瞬間、現われたガルドサンダーの放った火炎弾が先ほどまでドラゴンナイトの立っていた場所に直撃した。
「っ!? 今のは!?」
「久しぶりだな…トウヤ・タツキ」
「お前は…仮面ライダーブレード!?」
ガルドサンダーを引き連れて現われる第三者…仮面ライダーブレードが日本刀型のカードリーダー・ガルドバイザーを持って現われる。
「ブレードさん」
「レオン…将軍の宿敵の一人を此処で確実に始末するぞ」
「はい」
(…二対一か…これは、ちょっと拙いか?)
ドラゴンナイトと対峙しながらガルドバイザーを構えるブレードとソードクローを構えるレオン。一対一なら負けないだろうが二対一となると救援の期待できない此方では完全に不利だろう。
「はっ!」
「っ!?」
「オラ!!!」
「ぐっ!!!」
切りかかって来るブレードの一閃を避けるとその隙を突いたレオンの一撃に弾き飛ばされる。そして、体勢が崩れた瞬間を逃さずにブレードがドラゴンナイトを斬る。
ブレードに続いて襲い掛かるレオンのソードクローをドラグセイバーを盾代わりにして受け止めるが防いだ事で出来た隙を逃さずに放たれたブレードの蹴りがドラゴンナイトを吹き飛ばす。
「こ、こいつら…」
「良い言葉だな…一人一人の力じゃ及ばなくても…」
「力を合わせれば勝てるって言うのは」
そして、優位に立っていたはずのライダー達が距離を取った事の意味を直に理解するが、それは既に遅すぎた。
「悪役が言う事か?」
「力を合わせるのはヒーローの専売特許じゃ無いって事だ」
立ち上がりながらサバイブのカードを取り出すが、今からサバイブ化してもカードを使う間もなくファイナルベントの直撃を受けるのは間違いない。ガードベントでの防御やファイナルベントでの相殺も二人での連携した
「さあ…これで終わりだ」
「死ねよ」
確実に此処でドラゴンナイトをベントするつもりなのだろう、二人のライダーが互いに取り出すのは同じ『ファイナルベント』のカード。
ドラゴンナイトへとトドメが刺されようとした瞬間、
『
新たな電子音が響いた瞬間、現われた影が二人のライダーの手からファイナルベントのカードを弾く。
「なに!?」
「ブレードさん…こいつらは!?」
「アドベントビースト?」
新たにドラゴンナイトを助ける様に現われた二体のモンスター-出現の仕方から考えてアドベントビーストだろう-に対してドラゴンナイト、ブレード、レオンの三人が疑問の声を上げる。
追い詰められたドラゴンナイトを助けるように現われたのは、二体の馬型のモンスター。
一体は額に角を持った
一体は翼を持った
「悪いけど、彼を此処でベントさせる訳には行かないんだ。」
そして、そのモンスターを呼び出してだろう者がドラゴンナイト側に立って戦場へと降り立つ。
「な!? その姿は…。」
「ウイングナイト…。」
ドラゴンナイトもブレードも現われたライダーの姿にウイングナイトを重ねてしまう。ウイングナイトのそれとは違う鮮やかな翡翠の様な翠色と銀色。蝙蝠のウイングナイトに対してユニコーンとペガサスをイメージさせる意匠を持っている。
「…将軍の作ったコピーの中でウイングナイトをベースにしたのは……オレだけのはずだ。」
「お前は一体…?」
「ぼくはフォーラ…『仮面ライダーフォーラ』。ドラゴンナイト、説明は後だ。今はこの場を切り抜けるのが先だよ」
フォーラと名乗ったライダーはカードリーダーらしきユニコーンの頭を象った槍を持ってブレードとレオンに対峙する。
「…レオン、一度退くぞ」
「…でも!!!」
「…ここでドラゴンナイトを始末できないのは痛いが、新たな仮面ライダーの存在を将軍に報告する必要がある。それに、“時間稼ぎ”は出来ただろう?」
「…くっ…くそ!!!」
「やれ!」
ガルドミラージュとガルドストームの巻き起こす風がレオンとブレードの姿を隠すと、二人のライダーはそのまま姿を消す。
「逃げられたか。ドラゴンナイト、相手は一人じゃない…地球とベンタラ、二つの世界の仮面ライダーアックスがそうだった様に…」
「っ!?」
フォーラの言葉に地球とベンタラのアックスの事を思い出す。アックスはスピアーに変身する弟を相棒としていた事を。
「時間稼ぎ…まさか…」
「うん、君が考えている通りだ。敵はあの二人の仮面ライダーだけじゃない」
「それで…お前は一体何者なんだ」
「ぼくは、ユーブロンの知り合いだよ。それに…」
そう言ってフォーラが変身を解くと、
「お前は」
フォーラとの会合を終えた統夜が機動六課の隊社に戻ると、
「あっ、統夜、丁度良かった、一緒に来て!」
慌てた様子のフェイトに連れられて部隊長室に連れて行かれる。
「おっ、統夜も来たのか?」
「…モンスター退治して帰ってきて直に連れてこられたけど…何のようなんだ?」
「お前の専門で間違いないからな」
隊長室に連れて行かれるとヴィータにそう声をかけられる。
「実は…統夜君が出て行ってから暫くしてクロノ君…この部隊の後見人の一人でうちらの友達の『クロノ・ハラオウン』って言う人から連絡があったんや」
その場に居る全員の表情が明らかに暗い。
「ハラオウン?」
「うん、私のお兄ちゃんなんだ」
「紹介してあげたいけど、今はそれ所じゃ無いの!」
聞かされた名前に対して疑問の声を上げると、フェイトとなのはの二人からそう告げられる。
「それ所じゃ無い…って、例の事件の被害者がまた出たのか?」
「…これを幸いちゅうと拙いかもしれへんけど、誘拐されただけで済んだ様や」
「それで…その誘拐された人間と言うのが…」
そう言って映し出されるのは一人の老人の写真。
「この人は『ギル・グレアム』。引退した元時空管理局の提督で……私の後見人になってくれた人や」
「…付け加えるなら…『闇の書』と言う事件の関係者か」
統夜の言葉にはやては戸惑いながらも頷く事で答える。
「オレはさっきまで敵のライダーと戦っていた」
「っ!? 統夜くん、大丈夫だったの!?」
「ああ。しかも付け加えるなら…この事件の犯人の片割れらしい。自分が犯人だって自白までしてくれた」
そう言って仮面ライダーレオンと戦った事をブレードとフォーラの事を伏せて話す。フォーラの事については今はまだ黙っている様に本人から頼まれているので、ブレードも現われた事も伏せて話した。
「モンスターに襲われていないその事件の関係者の中に…仮面ライダーレオンは居る。あいつは自分もその事件の関係者だって言っていた」
「じゃあ、グレアムの爺ちゃんが攫われたのは…」
「被害者の会の代表だった事から、か」
統夜の言葉にその事実に行き着くが…。何故今までの人間と違って殺されなかったのかと言う疑問が沸いてくる。
「それで統夜君、その…レオンちゅう仮面ライダーは他に何か言ってへんかった?」
「…確か」
レオンの言っていた言葉を思い出しながら、次の言葉を紡ぐ。
-あの人殺しの
「そう言っていたけどな」
その言葉を聞いた瞬間、タダでさえ顔色の悪くなっていたはやてが倒れる。
「はやて!」
「主はやて!」
「はやて!」
「はやてちゃん!」
慌ててその体を支えるのはシグナムとヴィータの二人、フェイトとなのはの二人も慌てて倒れた彼女に駆け寄る。
「八神! …知り合いが被害にあった…それだけじゃないだろう?」
そう、その姿から連想できるのはまるでレオンの言葉が何も知らなかった統夜の口を通じて、はやてへと突き刺さった様に感じられる。
「『闇の書』と言う事件…それに関係しているのか?」
「統夜君…はやてちゃんだけじゃないよ。立場は違うけど私達全員がその事件の最後に関わってたの」
統夜の言葉に答えたのは、はやてでは無くなのはだった。
「立場が違う…? まさか…レオンの言っていたのは…」
なのはの言葉からその先の言葉を確信を持って言える。
「…八神の事なのか?」
知られたくなかったと言う表情を浮かべるはやての表情がそれが正しいと物語っていた。