シグナムとの模擬戦から数日が過ぎた頃
「…あの腐れ異星人…」
「にゃはは…統夜くん、落ち着いて…」
食堂でダークオーラを纏っている統夜に苦笑しながらそう告げるなのは。昨日一日、一時間に一度7時から19時までと言う一種の嫌がらせに近いレベルでモンスターが…それもレッドミニオン級が散発的に出没してくれていたのだ。
雑兵相手なのだから楽勝なのは良い。だが、明らかに敵の動きは統夜に対しての嫌がらせか、何か別の目的の為のカモフラージュとしか思えないのだ。
その前には、はやてにフェイトを攫ったライダーについての報告書を纏める様に頼まれ、なのはにフォワード陣の訓練を頼まれた。曰く『そんなに強いんだから、教えないと勿体無い』そうである。
「大体なぁ、オレが訓練なんて手伝って良かったのか?」
「だって統夜君はたった一年でそんなに強くなったから、統夜君に教えてもらえば、絶対、あの子達の為になるって思ったから」
なのはが基礎を重点的に教えているのに対して、統夜がやっているのは実戦形式の応用を磨かせているのに近い。擬似的に自分が強くなった過程を再現しているのだ。
統夜の場合、殆ど実戦の中で磨かれた一種の我流の戦い方であり、レンとの訓練も実戦形式であった以上、彼に出来るのは相手のレベルに合わせて手加減しながらの実戦形式の訓練しか無い訳であり、ドラグレッダーまで召喚しての実戦訓練となった訳である。
流石に加減が分からなくて初日にやり過ぎた時は散々『やり過ぎだ』と、なのは達に怒られた。なお、その時のフォワード陣のコメントは『死ぬかと思った』だそうだ。
元々、行き成り応用から入って基礎を我流で身に着けたと言って良い統夜だから、それは仕方ないと言えば仕方ない。
そして、色々と考えた結果、その反省を含めて、翌日からは個人の戦闘能力の上昇を目的として、一対一、または二対一での実戦形式の訓練に切り替えた。アドバイスできるのは戦闘で見えた弱点や問題点を指摘したりと言う形でしかなく、後は戦いの中で強くなれとしか言えないのだ。だから、自分に出来る事は精々、壁になること程度である。
頼んだなのはには、『個人の能力の上昇によるチームの能力の上昇を』と言う考えと言ったが、統夜としてははっきり言ってチームワークは専門外なのだ。
アドバイスにしても、素手での格闘が得意なスバルは自分と戦い方が似ている為に教え易いのだが、他のフォワード達には他のライダーの例を挙げてアドバイスする程度しか出来ない。
「まあ、オレは給料と居・食・住の確保してくれている分くらいは働くから、何でも言ってくれ」
そう言って、なのはとの会話を切り止める。
「ねえ、統夜くん、フェイトちゃんになんて返事するの?」
「っ!? ………その事を聞くな………」
何気に昨日はやてにフェイトに告白された事を知られ、なのは達にも知られてしまっている。その表情は楽しそうにニヤニヤとしている。
昼食を終えた統夜は廊下の壁に背中を預ける。
はやてに提出する様に言われたライダーについての報告書については、頭に血が上っていたせいか、殆ど瞬殺と言うペースで倒したせいか、シェルクラブについて思い浮かべる部分は少ない。寧ろ、ライダーやモンスターとの戦いになれた自分の報告よりは、敗北したフェイトの報告の方が彼女達は参考にはなるだろう。
だから、自分の視点…ベンタラのライダーである『仮面ライダーインサイザー』の姿や能力が似ていた事から出来る推測を交えてのライダーとの戦闘の際の注意点を挙げて、主にアドベントビーストの存在等の対ライダーを仮定した戦闘に役立ちそうな内容を挙げておいた。
なお、最重要点として挙げた対モンスター戦術としては、『向こうの世界に引きずり込まれたら、完全に引きずり込まれる前に誰かに連絡を入れて、深追いせずにオレが行くまで待て』と書いておいた。
乱暴な言い方だが、生身の人間が鏡面世界(ベンタラとも違うので便宜上こう呼ぶ)から元の世界に戻るにはモンスターかライダーの力を借りるしかないのだから、探し回る手間は少ない方が良い。
そんな報告書を一時間毎に現れるレッドミニオン達を倒しながら、纏め上げる羽目になった。
(…思った以上に書きすぎたかな…?)
万が一自分達と敵対した時にも役に立ってしまう情報にならない様に気を付けてはいたが、ゼイビアックス製とは言えライダーと戦う為の方法と言う時点で、教えるのは自分達と戦う上での注意点となる。
(…それにしても…頼まれて鍛えてはいるけど、やっぱり、子供を戦わせるのは気が引けるよな…。こっちの世界は就労年齢は低いらしいけど、どう考えても、人手不足の管理局が魔法の才能が有る子供を戦わせる為にしか思えないんだよな)
地球で育った自分だからそう考えるのだろうかと、そう思わずには居られない統夜であった。だが、別の世界の法を正しいとも間違っているとも言える立場ではないのだからと、考えを切り上げる。
(…ゼイビアックス…奴は何を考えているんだ…? あの<r青蟹:インサイザーモドキ>にしても、勝手に行動させているみたいだし…。う…)
あの時の事を思い出し思わず顔が赤くなる。
レッドミニオン達の散発的な動きがなくても、昨日は遂にフェイトに告白された事をはやてに知られ、散々からかわれたのだから、精神的な面で疲労は大きい。
……統夜の本音としては出て来てくれる敵は『もう少し強い方が余計な事を考えずに済む』そうである。
敵は何処まで行っても結局は戦いなれた雑兵…稀に強い固体も存在するが、それもワンランク上の雑兵として『ホワイトミニオン(日本名:シアゴースト)』が存在する最下級の敵…所詮は悩む余裕が多々有る相手なのだ…。
(…なんて返事するかな…)
思い出すのは以前フェイトを助けた後にされた“告白”の事。10年も思われ続けて告白された事については嫌な訳がない。流石に何で自分の事を好きになったのかは気になる所だが、それ以上に、ゼイビアックスに告げられた言葉が原因で彼女への返事に悩んでしまう。
「はぁ…」
昼食を終えて食堂を出てから天井を眺めながら統夜は溜息をつく。
先日の告白の一件以来どうしても、フェイトとは顔を合わせ難い。どう答えて良いのかと言うのも有るが、それ以上に答えを出すのを躊躇わせているのは、ゼイビアックスから放たれた呪詛の様なあの言葉。
「っと、八神の所に報告書を提出しに行くか…」
妙な方向に考えが進んでいくのを感じて、統夜は自分に言い聞かせる様に呟く。特に何時までとは言われてなかったが、なるべく早くと言われていたので、完成次第提出しようとは思っていたのだが…。伝えるべき情報の取捨選択等をしていたら、今日まで掛かってしまった訳である。
そんな訳で、部隊長室に足を運ぶ。
「失礼します」
「失礼するなら帰ってや~」
妙なボケをされてしまうが全面的にそれを無視して昨日完成した報告書を提出する。
「前に戦ったゼイビアックス側のライダーについての報告だけど、オレの視点で良かったのか?」
「うん。一応、フェイトちゃんにも話を聞いたんやけど、かなり厄介な相手みたいやな」
「…いや、初めて未知の敵だからってのも有るんだろうけどな…。それに、オレの予想だけど、アイツはまだライダーの力を使いこなしていない…力に振り回されている印象があった」
「どうしてそう思ったのか教えて貰ってもええ?」
「…『ファイナルベント』…ライダーのカードの中で最も破壊力の高いカードだ。必殺技って言い換えても良いかな? こっちが使ったって言うのに、向こうは使う様子がなかった。ファイナルベントに対抗する手段は、回避か、防御系のカードで防げるか、同じファイナルベントでの相殺しかない」
回避されてダメージを与えられないと言う点からもファイナルベントは避けられない状況を作ってから使うのがセオリーで、以前統夜がトラストのファイナルベントからスティングを庇った様に防御する事が上げられる。最後のファイナルベント同士のぶつけ合いは賭けに近い。最悪は相殺ではなく相打ちか弱い方が負ける。
「それじゃあ、次に出てくる相手はもっと強くなっとるちゅー事になるん?」
「そうなるだろうな。まあ、それでもオレは一年間も奴等と戦って来たんだ、そう簡単に負けは無いだろうけどな」
嬉しくは無いが、統夜は過去一年間のゼイビアックスとの戦いで対モンスター・対ライダー戦の経験は積んでいる事と、サバイブモードと言う最強の切り札が有る以上どれだけ強くても、仮面ライダーになったばかりの相手にそう簡単に負けはしないとは確信できる。
「それにしても…折角、怪物事件や行方不明事件の真相が分かってもこれじゃあ報告できへんな」
「は、はやてちゃん、元気出してくださいですぅ~」
「そうだろうな」
思いっきり机に突っ伏しているはやてと、彼女を励ますリインⅡと、はやての言葉に同意する統夜。
はやての言葉も最もだろう、『犯人は<r異星人:エイリアン>とその手下のモンスターです』等と報告した所で返って来る反応は、『ふざけるな!!!』と怒鳴られるか、色々と心配されて医者を紹介されるか、病院に連れて行かれるかだろう。
「統夜くんの<rカードデッキ:それ>を見せてもエイリアンの存在を証明する証拠にはならへんしな」
「まあ、それを上手く説明するのも、<r機動六課:ここ>の<r最高責任者:トップ>の八神の仕事だろ? せめて、ゼイビアックスを指名手配とかにする事は…」
「ああ、それならもうなっとる。はぁ…どうしてこんなSFな事件になっとるんやろ?」
「オレからしてみれば、次元世界の概念その物がSFにしか思えないけどな」
思わずそう言いたくなる二人だった。
流石にゼイビアックスは刑務所を襲撃した張本人なのだ。名前も素顔も不明な為に監視カメラに写っていた仮面ライダーアビスの姿で指名手配になっている訳だが、統夜達の知るゼイビアックスの顔ではどっちにしても素顔とは思われないだろう。
もっとも、統夜ならエイリアンの存在を証明したければ、ユーブロンに会わせると言う選択肢も有るのだが、そんな事はしたくない。
「一応、この事や統夜くんの事は他言無用ちゅう事で信頼できる人達には話しておくつもりやけど」
「ゼイビアックスの事は兎も角、オレの事は勘弁してくれ…って言う訳には行かないんだろう?」
「せや、統夜君の事も考えると、ゼイビアックスの事も統夜君から後見人の人達に直接説明して貰った方がええと思ったんや。それに、ゼイビアックスの事を考えると、地上の人にも信頼できる人には話し説いた方がええと思っとる訳なんやけど…」
「…後見人については何も言う気は無いけどな…その地上の人って言うのは、信用できるか?」
「それについては私が保障するで。それに、私の言葉が信用できないんやったら、スバルに聞いてみればええよ」
「…スバルちゃんに…か? 何でだ?」
「私が話そうと思っている人は陸士108部隊の部隊長で、私もお世話になった人で、スバルのお父さんの『ゲンヤ・ナカジマ』三等陸佐や」
「なるほど」
はやての言葉に納得する。はやてが世話になった相手な上に自分の部下の父親…信頼する要素は有ると判断して良いだろう。
「まあ、それに関しては全面的に八神に任せる」
「任せとき、もう誰も悲しませない為にも…ゼイビアックスの勝手にはさせへん」
返されるはやての言葉を聞きながら、部隊長室を出て行こうとすると、
「ところで、統夜くん、何で名前で呼んでくれへんの?」
「……またそれを持ち出したか……」
「せやで、頼んどるのに、統夜くん全然名前で呼んでくれへんやん! フェイトちゃんとフォワードの子達やシグナム達は名前で呼んどるのに」
付け加えておくと、年下のスバル達フォワード陣を名前で呼ぶのはそっちの方が気安いからで、シグナム達の場合は『はやての身内=苗字は同じ?=苗字だと分かり辛いから』と言う理由である。
「…だから、前にも言ったはずだ…「じゃあ、お願いだから、名前で呼んでくれへん?」…“はやて”。これで良いんだろう?」
「うんうん。それでええよ、統夜くん」
満足気に頷くはやてに溜息をつきつつ、部隊長室を出て行こうとした時、
「ところで、統夜くん…フェイトちゃんにはちゃんと返事はしたんか?」
「……………Why……………?」
そう言われてそのまま停止してしまう。
「な、なんで…そんな事を聞く?」
「その様子はまだのようやな。なんで、返事をしてへんのや?」
なんでと問われると幻聴の様に聞こえてくるのは、呪詛の様に響く、
『仲間達を裏切る』
ゼイビアックスから言い放たれた言葉…。だから、彼女の告白を受け入れて良いのか思い悩む。
「…少なくても…彼女が好きだと言ったのは、十年前のオレだろう? 今のオレ向かって言われた言葉じゃない…」
だから、言ってしまうのは心にも無い拒絶の言葉…。
「うーん…それは違うと思うんやけどなぁ…。それに、今のって嘘やろ?」
「どうしてそう思うんだ?」
「うーん、なんとなくやけど、統夜くんだったら、そう思っとるんやったら、もっと早く直接言うと思っただけやで」
「…………。話がそれだけならこれで失礼させて貰う…」
「あっ、統夜くん。一つだけ言わせて貰ってもええ?」
「…なんだよ?」
「うーん、あんまり返事を先延ばしするのもどうかと思った訳やから…」
「「あっ」」
「フェイトちゃんを呼んどいたんで、しっかりと返事せなあかんよ」
はやてに嵌められたのか…思いっきり部隊長室に入ってきたフェイトとばったりと会ってしまった統夜だった。
「あ…あの…統夜…」
「あー…なんだ、フェイト?」
「あの時の返事…聞きたいな」
そう告げられるフェイトの言葉に一度息を吐き。
「…十年だろ…人が変わるには十分すぎる時間だ…」
「……うん……」
「だから、こう言うのも酷いかもしれないけどな…“十年前”のオレじゃなくて、“今のオレ”が好きだと言えるなら、もう一度告白してくれ」
そんな返事しか言えない自分がイヤになる。それは結局の所単なる問題の先送りでしかない。だが、同時に昔の自分とは違うと言うのも間違いない。
彼女の想いを受け入れる事がベンタラの<r仲間:ライダー>達を裏切る事にのならそれもイヤだ。どんな形にしろ彼女の思いを裏切るのも嫌だ。だから、今の自分に出来る選択は…先送りでしかない。
「…………。うん。私は今の統夜の事も絶対に好きになるから!」
「ああ。だから、先ずは今は友達からだな」
「うん」
そう言って笑いあう二人。統夜から差し出された手を握り返すフェイト。さて、この統夜の選択は如何なる未来を与えるのは、何者にも分からない事であるが…。
物語は新たな未来へと繋がる。
部隊長室
「あっ、フェイトちゃんと統夜くんの事、クロノ君にも教えてあげへんとあかんな~」
狸の耳と尻尾を幻視させる空気を纏いながら楽しげに「ふっふっふっ」と笑うはやてであった。