とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

13 / 31
つかれた。


玉座に侍る者、魔神への到達

白い爆炎が踊る。

ケテルから放たれた白い炎の槍を、上終はギリギリで掴み取る。右手の『天地繋ぎ(ヘヴンズティアー)』がフル稼働し、それでも抑えきれない感覚に悪寒しつつ受け流す。

真正面から受ける必要はない。

ただほんの力の方向を変えてやるだけで回避できるのだから、右手はなるべく自由にさせておかなければならないのだ。

当然、ここでパラケルススのようにヤケになるケテルではない。翼を推進力として扱い、白い炎をジェット噴射のような形で打ち出して接近してくる。

上終は『天使の力』を宿した者の身体能力を目の当たりにしたことがあった。だが、ケテルのそれはガブリエルを越える加速。

接近戦を選んだ相手に対して、上終の右手は絶大な威力を発揮するが、それも当たらなければ意味がない。

右腕の手首から先という条件も割れているために、軌道も読まれやすいのが『天地繋ぎ』の弱点のひとつだ。

ケテルから繰り出された初撃を左腕を盾として防御する。なんとか間に合った左腕はしかし、防御ごと貫いて上終を吹き飛ばした。

「ぐっ――!!?」

折られた。たった一回の防御で左腕を叩き折られて、背後の樹木に激突させられる。

次いで放たれる回し蹴りを戦闘論理で以って読んで、しゃがんで回避。樹木を蹴り潰した足を右手で掴もうとする時間もなく、引き戻されていた。

まずい、と。

上終は直感する。

次の攻撃は躱しきれない――!!

そもそも、先の蹴撃を避けられたこと自体が奇跡に近い。戦闘論理があるとはいえ、ケテルは人間以上の身体能力を持つ苦手な敵だ。

それに、彼はパラケルススのように強大な力を持っているだけの素人ではない。力と経験を持ち合わせた本物の猛者。

上終一人だけでケテルに勝つことなど到底できないだろう。

そう、一人だけなら。

「横槍か」

目の前を横切る光の矢。

ケテルはそれを後ろに飛んでやり過ごし、光の矢が飛んできた方向に視線を投げた。

レイヴィニア=バードウェイ。杖の先を差し向け、それに新たな魔力を注ぎ込んでいる。

無造作に杖を振るえば、ケテルの位置に純白の爆発が生じる。膨大な天使の力をそのまま力として扱い、ぶつけるモノだ。

これをレイヴィニアは『召喚爆撃』と呼んで運用している。が、安全確認を省いたロケットの打ち上げのようなモノで、生半可な魔術師が行えば高確率で自爆するだろう。

ドーム状の爆発はしかし、距離を取ることで躱される。

「レイヴィニア……助かった」

「さっさと立て。戦うぞ」

手を掴んで引き上げられた。

なぜ左手だったのかを問い質したかったが、再び戦闘態勢を取り始めた二人からして聞いている暇はない。

上終も右の拳を強く握り締める。

二度の激突が行われようとしたその時、目の前を二つの影が突っ切っていった。

「こいつ……っ!!」

かたや、苦悶の表情を浮かべる天使。

天使の翼と聖人に迫る身体能力で追撃を仕掛けてくる敵から逃げ、目にも止まらぬ速さで迎撃を行う。

かたや、自前の長刀で連撃を浴びせる長髪の女性。

次々と振るわれていく神速の刃は天使の翼と拮抗するどころか、逆に翼を斬り払う。一合打ち合うごとに散っていく己の武器を見ながら、天使は神裂の実力に歯噛みしていた。

(これほどとはな……だが)

これは一対一の勝負ではない。

数々の敵と味方が入り乱れて、互いを庇いながら敵を刈り取る乱戦である。そこに厳粛なルールなど存在しないも同然なのだ。

不意を打つ―――神裂の気を引いた男が横に視線を送って合図する。

別の戦場から抜け出してきた幹部の一人が、翼にありったけの魔力を込めて一本の槍として突き放つ。

ゴォ!!!と空気を斬り裂いて飛来する刺突。それを、爛々と輝くオレンジ色の炎の巨神が吹き飛ばした。

「……『魔女狩りの王(イノケンティウス)』」

炎の巨神の両腕が翼のガードごと本体を焼き貫いて、戦闘不能に陥らせる。死んではいないようだが、摂氏3000度の炎を受けたのでは復帰は絶望的だ。

相手が横槍を入れるというのなら、こちらもそうするまで。

対魔術師に特化したステイルと神裂には、何よりも魔術師であろうとする彼らは相性が悪い。

これで五対七。

人数差は逆転した。黄金の夜明け団はケテルを除けば圧倒的なまでに強くはない。

戦況は優勢に傾いている。

(不利だ。私たちは劣勢に立たされている)

僅かに唇を噛むレイヴィニア。

少しばかり崩れたポーカーフェイスで、彼女はだんだんと焦燥を募らせていく。

その目が見据える先は燦然と輝く黄金と鋼鉄の城だ。

ラジエルの書の解読が終われば、その時点で誰が何人いようと関係なく戦いは終了する。虐殺にもならない神域の蹂躙によって、ここにいる全ての人間が消し飛ばされるだろう。

故に、数の差は気休めにしかならない。

真に倒すべきは取り巻きではない、それらに取り囲まれている王冠。ヤツが前線に出ている今こそが最大のチャンスだ。

「上終、ケテルを倒す。ついてこい」

「俺でいいのか?」

「ああ……少しは信頼してやってもいいと判断した。まだまだ右手のオマケだがな」

素直じゃないレイヴィニアの言い草に、上終は苦笑する。が、そんなことよりも彼女の信頼を得られたということが嬉しかった。

高鳴る鼓動に合わせて右の拳がさらに強く硬く握りしめられる。そして、ケテルの姿を探そうと周囲に視線を配ると、

「後ろだ!!」

「――ッ!!」

レイヴィニアの声が耳に届くが早いか、上終は身体をひねって右の裏拳を背後に叩き込む。

ギィン!!と白い炎の翼と『天地繋ぎ』が激しくせめぎ合う。

瞬間、上終は息を呑んだ。

目に映る光景は舞い散る天使の羽と切断され焼け落ちていく小指と薬指。右腕は上方に弾きあげられ、翼の一撃に敗北したことを示している。

「なッ……!!?」

「右手を叩き斬ってやろうと思ったのだがな。『天地繋ぎ』……やはり侮れん」

先の攻防を制したはずのケテルは、なぜか悔しげな表情をした。彼の一撃も全力と自信をもって放った最高の一閃だったのだ。

天使の力と魔力を最大限まで注ぎ込み、鋭く磨き上げた一点集中の剣によって上終の右手を貫通した。

言うのとやるのでは大きな差が発生するが、ケテルは『天地繋ぎ』に傷をつけるという偉業を達成したのだ。

右手から焼けるような痛みが腕を伝って脳に到達する。その痛みと絶対的な信頼をしていた右手が、斬られたという事実への驚愕が上終の動きを鈍くする。

だが、上終に叫んだ時点で放たれていたレイヴィニアの魔術によって、追撃をくらうことは免れた。

撃ち出された風の砲弾はケテルの目と鼻の先に迫っていたが、標的は空間に溶け込むように消える。

風の砲弾はそのまま空間を突き進み、樹木に当たって爆ぜる。

「ケテルにあんな能力は――」

「――そうだ。これはマルクトの能力だ」

再び空間から溶け出すように出現したケテルは、上終の間合い深くに入り込んでいた。

その時、無数の風の刃がケテルを襲う。彼はそれを打ち消すのに時間を取られ、上終に距離を取ることを許してしまう。

「レイヴィニア=バードウェイ。なるほどな……ビナー、お前の言いたかったことがわかったぞ」

見下す笑み。

ケテルは言い放った。

「お前は『いつでも同じ動作で同じ術式を扱う』ことで力を増幅しているな? 私に喰らいつくほどの魔術の威力の正体はそれだ」

そう。

レイヴィニアは魔術師ではあるが、元はただの人間だ。だというのに、『神血大聖槍』の術式を操る聖人のレプリシアとも互角に戦ってみせた。

それほどの強大な力の正体がそれだ。

奇しくも『生命の樹』の魔術と似た原理で、彼女の力は成り立っていた。過去から延々と繰り返してきた動作の集積が魔術的記号となり、レイヴィニアを強化していた。

そこには並々ならぬ努力があったはずだ。

いつでも同じ動作で同じ術式を扱う。確かに不可能ではないが、『完全に同じ動作』を何回もできる者は少ない。

ほんの一ミリでもズレれば、通常の威力の普通の魔術となってしまうのだ。

上終には想像もつかない領域の努力―――普段の彼女からは予想もできない術式の正体に、目を丸くして驚く。

だがしかし、ケテルはレイヴィニアの努力を笑い飛ばしてみせた。

「不器用だな、バードウェイ」

三十六対の翼が花開く。

あたかもその威容を見せつけるように。

「―――!!!」

果たして、この慟哭はどちらのモノだったか。

ただ確実なことは、砲弾の如く走り出した上終の拳がケテルの横っ面を打ち抜いたということだった。

彼の表情は怒りに染まり。

指の爪が食い込むほどに五指が握られていた。

『天地繋ぎ』は一瞬だけケテルの身体を停止させるが、地面に仕込まれていた術式に吹き飛ばされる。

範囲外へ離脱されられた上終は、突き殺すような目で怨敵を睨みつけた。彼の眼差しには憎悪すら混ざっている。

「たとえ偽善者と罵られようと―――レイヴィニアの努力を否定したお前を許しはしない」

「そうか。君の偽善者ぶりは常々把握していたさ。魔術結社の仲間に始まり、レプリシア、ペンザンスの人間……そして次はバードウェイか?」

「それがどうした。決めたぞ、俺は誰だろうが救け……っ!?」

ゴン、と杖の先で頭を殴られた。

横に視線を投げると、あっさり下手人は見つかった。他でもない、レイヴィニアが上終を殴ったのだ。

彼女はそっぽを向いて言う。

「お前はバカか? 挑発に乗ってるんじゃない。それに――」

言いかけて、彼女は言葉を止めた。

「……終わりだ。構えろ」

そうだ、これは言うべきじゃない。

何より、私のガラじゃない。

言葉に出してしまったら、何かが変わってしまいそうな……そんな気がする。

だから、続く言葉は胸にしまっておく。

――『嬉しい』という感情を、彼女が否定することはなかった。

「上終。お前から潰してやる」

突如として現れたケテルに反応できた者は誰一人としていない。咄嗟に魔術を発動しようとしたレイヴィニアだが、翼のひとつに動作を崩される。

拳が腹部に突き立てられる。

まさしく内臓と骨格を揺るがすような拳撃は意識にヒビを入れ、身体を突き飛ばされた。

空中に投げ出される。朦朧とする思考で飛翔するケテルを睨むような視線で突き刺す。

「ぐっ、あああぁぁああぁあぁああッ!!!」

樹海を切り裂くような絶叫が響き渡った。

今できることは全力でケテルの相手をすること。――――それが勝利への礎になると信じて!!

三本だけになった右手を必死に突き出す。

顔面を狙った拳は体重も乗っておらず、速度もお粗末だ。明らかに触れることだけを望んだ悪あがき。

ケテルは容易にそれを振り払い、白い炎の翼を操る。

「終わりだ!!!」

勝利宣言。

もはや対応することは不可能。

これで勝敗は決した――!!!!

 

 

 

 

 

―――天使の胸から鉄槍の穂が突き出た。

 

 

 

 

 

「………!!!!!!???」

驚愕の表情を浮かべるケテル。

上終は間欠泉のように噴き出す彼の血を頬に掠めながら言う。

「俺たちの勝ちだ」

ギギギ、と。

調子の悪いゼンマイ人形かのように首を動かし、鉄槍の柄の方向を見やる。

艶のある黒い髪。雪白のような綺麗な肌を血に染め、端正な顔を憎しみに歪めた少女。

「レプ……リシア………ッ!?」

心臓を潰されたこの世のモノとは思えない醜い声で、少女の名前を呼んだ。

しかし、黒髪の少女は首を振って否定し、酷薄な笑顔を貼り付けた。

「わたしはアナスタシアだよ、お父さん。……お母さんの気持ちはわかった?」

鉄槍を引き抜く。

こぶし大の穴から滝のように血が流れ落ち、地面を赤に染めた。天使の翼が消え失せ、地面に墜落したケテルは痙攣しながら腕と脚を駆使して這いずる。

心臓が存在しないというのに、未だ動き回れるだけの体力があるのはメタトロンの力といったところか。

「……わ、私は…………こ、れ……………」

口から血の塊を吐き出しながら、さながらイモムシやムカデのように地を這いずって、城へ移動していく。

マルクトの力を使わないのは、もうそれすらの気力も生命力も残されていないということだ。

「さようなら」

無慈悲な鉄槍がケテルの頭を貫く。

その寸前、この場にいる全員が彼の遺言を脳内に刻みつけた。

  「これで魔神へと到達できる」

 

 

――力を追い求めた。

生まれた時からそれしか頭になかった。

その少年が生を受けたのは、この世のすべての犯罪が集約したスラム街だった。

物心ついた頃から父親という存在はなく、唯一の『母親のようなモノ』はいつも部屋に男を連れてきて日銭を稼いでいた。それも、連れてくる相手は日によって変わり、時々二人や三人に増えることもあった。

母から施しを受けたことはない。

彼女はある種の――いや、この地球では既にありふれた類の狂人だったのだ。

毛むくじゃらで筋肉質の男から受け取った少ない金で買っていたのは、なにやらタバコ状のモノ。

タバコを吸うくらいなら、大人であればどこの誰でもできる簡単なこと。しかしここは犯罪が横行するスラム街だ。

ジョイント―――簡単にいえば、大麻とタバコを混ぜたモノだ。母親は日常のようにそれを咥え、時には錠剤のクスリも買っていたようだった。

そんな家庭だ。少年は自分の力で生きるしかなかった。いくつか下の弟も養いながら。

街の大人たちの喧嘩を見て戦い方を学び、食べ物を盗むために気配を消す方法と視線を逸らす方法も自然に身についた。そして、日々を命懸けで生き抜き少年が青年になる頃のことだった。

母親を殺した。

酷く脆い弱い力。少年はそんな彼女に虐げられていたことに憤りを覚え、我が物顔で盗ってきた物を奪う母親を殺したのだ。

とても呆気ない無味の殺人。この時、少年は青年となり、スラム街の支配者たちと肩を並べた。

一週間経った。

殺しを覚えてたくさんの人間(ゴミ)を殺した。

一ヶ月経った。

スラム街のトップ組織に目をつけられた。内容は勧誘だったが、交渉しに来た人間を全員殺した。

一年経った。

いつの間にか組織は壊滅して、たった一人だけの支配者となっていた。殺しをする必要もなくなり、スラム街の人間としては豪勢な生活を送れるようになっていた。弟も充分に育ち、このまま一生を過ごすつもりでいた。

そんなある日。

青年が夜の街を歩いていると、人気の無い路地裏で何らかの行動をしている不審者を発見する。

この街は全員が不審者といえるが、ソイツはあらゆるところが違っていた。

金や銀の糸で刺繍された黒いローブを羽織り、手に見たこともないような杖を握っている。足元には円の中に幾何学的な模様が刻まれた奇怪な絵。

後になってからソイツは魔術師だと判明したが、彼は青年を見つけると同時に杖を横に構えた。

そこからはもう反射だった。

足を掛けて転ばせ、忍ばせたナイフで頸動脈を掻き切る。流麗に行われた一瞬の早業により、魔術師は叫ぶ前にあの世に旅立った。

死体を漁ってみれば、宝石やチョークや何とも知れない血の入った瓶まで。そのローブの裏側には『The Hermetic Order of the Golden Dawn』と綴られていた。

青年はスラム街育ちのために文字を読めず、悩んでいると暗闇から老齢の魔術師が現れる。

老魔術師はため息をつくと、青年に視線を移して考え込んだ。

時同じくして、青年は悟る。

『この魔術師は殺せない』、と。

今しがた殺した魔術師が比較にならないくらいの力を、老魔術師は秘めていたのだ。

青年が動けずにいると、老魔術師は長く伸びた顎の髭を撫でながら提案した。

「魔術に興味はないか? 無いと言ってもムリヤリ連れていくがの。そこの阿呆の代わりをしてもらわねばならん」

これが、魔道への入門。

青年は弟を引き連れ、老魔術師が頭領を務める『黄金の夜明け団』に入団し、新たな力を追い求めたのだ。

そうして最高幹部会『生命の樹』のトップに登りつめた時、彼はある女性と出会う。

マリア=フランキッティ。

要は体の良い政略結婚。彼は人と関係を持つことに興味も関心もなかったし、必要ないとも思っていた。

彼女との間に産まれた子どもは兵器として利用するため、レプリシアという名前を与えた。だが、母親の情というのだろう。

マリアは娘にアナスタシアという名前を贈り、陽炎の城から彼女を逃がした。

レイヴィニアとの関係を持ったアナスタシアの場所を突き止め、見せしめとして彼女の眼の前で母親を殺した。

ラジエルの書の存在も見つけ、究極の力へと至る方法は確立。

無数の屍が積まれた山の頂上。

それらがケテルを支える柱。

―――ここでは終わらないッ!!!!!

魔神到達の儀式はついに大詰めを迎えた。

『エノク書』においてエノクは神によって天上へ昇り、人間・エノクは天使・メタトロンへと昇華した。

エノクは天界へと引き上げられると、小さな神と称されるメタトロンになり、人の身では届かぬ天使の領域――神の領域へ足を踏み入れた。

アナスタシアに殺されるということは、ケテルを天上へ上げて神の領域へ押し上げる儀式。

神と同一視されるメタトロンは神の属性を持ってはいるが、それは天使の属性に付随したモノにすぎない。

完全なる神へと到るには――?

知識だ。

力ではない。

人類をここまで発展させ、これからも進化させ続ける知識こそが真の力だ。

ラジエルの書にはこの世の究極の知識がある。

―――そして、いま。

「来い……!!」

頭上で羽ばたく天使。

序列第二位。知恵を司る天使――ラジエル。

ラジエルは己が記した書物をアダムに与え、その後他の天使の策謀により失われた書物をラハブという娼婦がアダムの元へ返した。

その後、無数の代を経てエノクに託されたラジエルの書は彼に知識を与えた。そうして天界に認められたエノクは死を乗り越えてメタトロンとなる。

ラジエルの知識を与えられることで死を乗り越え、死することなくメタトロンへと昇華した。

ケテルは死を乗り越える必要があったからこそ、アナスタシアの一撃を受けたのだ。

全ての条件は揃った。

邪魔する者はいない。

これが。

これが。

これが。

「これが、魔神(かみ)の力――!!!」

ドォッ!!!!!という轟音とともに純白の炎が辺り一帯に炸裂した。円形に広がった炎は森林を更地に変え、矮小な人間を呑み込んだ。

規格外許容外の力は地殻を揺るがして、人智を超越した地震が引き起こされる。

白い炎が踊る地獄の中心で、魔神はただただ嗤っていた。

「まだまだ出力の調整が甘いな………最大限威力を抑えたはずがこれとは」

全力の一割にも満たない力を解放しただけでこれだ。全力を出せば世界はあっさりと崩れ去ることになるだろう。

全てが焼け落ちた世界で、なおも動けるほどの体力が残されている二つの影があった。

レイヴィニアとアナスタシア。

アナスタシアは特に傷が深いようで、安静にしておかなければ今にも死んでしまいそうだ。

「上終!?」

二人に落ちる影は上終のモノ。

右手を前に突き出した彼は、身体全体に火傷を刻まれながらも二本の足で地を踏みしめていた。

言われずともわかる。彼は身を挺して少女たちを庇ったのだ。

膝をつく。

瞳に光は無く、身体の力はもう残っていないに等しい。

「下がれ……レイヴィニア」

戦わなくては。

たとえ勝ち目が無くても。

それだけが残された人間の使命。

他の場所でも起き上がる人影があった。

「くっ…まだ……」

神裂 火織。上終と同じく満身創痍ながら、長刀を杖代わりにして立ち上がる。

「今回くらいは見せ場が欲しいですねえ……!!」

少し遅れて、マークが起き上がる。インパクトの瞬間、全力を注いで炎を吹き散らしたのだ。しかし、恐るべきは防御を突き破ってダメージを与えた魔神の力。

………勝てる気がしない。

それでも彼らは立ち向かう。

奇跡に望みを繋いで。

上終は自分の中の撃鉄を何回も何回も叩き下ろし、ゆっくりと少しずつ立ち上がっていく。

「……止まるつもりはないのか」

レイヴィニアが上終に問う。

彼はしっかりと頷いた。

「ああ。……すまない」

「私も戦う。ボスが部下に任せっきりでいられるか」

「……いくぞ」

次の瞬間、群青の光線が飛来する。

ケテルに向かって飛翔する群青の光線は、身体の耐久度を無視した限界突破の疾走。

殺す。濃密な殺意が込められたケセドは瞬く間にケテルに到達し、音速の蹴りを放つ!!!!

「そういえばお前も因縁があったな」

突き抜ける。

ケセドの胸に差し込まれた左手は心臓ごと胸板を貫き、白い炎で以って跡形もなく焼き尽くした。

――――上終の中の何かが切れた。

身体が熱を持つ。

血が沸騰し、骨が焼ける。

心臓のあたりがめちゃくちゃに熱くなり、瞳の奥に炎が灯った。

上終は誰にでも何にでも共感できる。

初めて人の死を目の当たりにした彼が抱いた感情は、怒りであって悲しみであって喪失感でもあった。

四人が駆ける。

マークの風の刃が首を狙う。

それと同時に、神裂の最強の術式『唯閃』がケテルの胴に斬りかかった。

レイヴィニアの召喚爆撃が背後から襲いかかる攻撃の檻は、正しく必殺を表している。

「無駄だよ」

風の刃を躱すまでもなく直撃させるが傷一つなく、召喚爆撃も同様に耐え切って手を伸ばす。

掴み取ったのは神速で動く長刀の刃。それをへし折り、魔神としての力を解放しようとする。

その直前、ケテルは召喚爆撃の起きた背後に振り返り、ひどく愉しげな笑みを向けた。

「上終 神理」

召喚爆撃の光と爆音に紛れて、上終が右手を突き出していた。それを軽々と見破り、ケテルは光が収束した右手を差し向ける。

「くっ……おおおおおおおおおおおああああああああっっっ!!!!!!」

絶叫する。

何があっても届かせる!

何があっても打ち倒す!!

何があっても敗けない!!!

こんなヤツに世界を渡してはいけない!!!!

偽善だろうと行動するのが俺だ。

世界を繋ぐ――!!!

「その右手、もらった」

長大な剣となった光は。

親指を突き抜けて肩に切り込んだ。

そのまま縦に振るえば―――

「っ、あ」

――――右腕が、宙を舞った。

 




魔神ならこれくらいできますよね。
次回は最終決戦になりそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。