とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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やっと書けました。
おまたせしてごめんなさい。


三つの右手、それぞれの戦い

まばたき。

人間が無意識に行うこの行動。

その速度は平均して0.3秒とされている。

これは目蓋を開くときより閉じるときのほうが速いとされていて、閉じる場合では0.1秒かかる。これほどの速さによって人間は障害物から目を守っているのだ。

まさにまばたきほどの時間。

上条の行った生理的反応は、彼女にとってはあまりにも大きな隙だった。

「――!!?」

彼には理解できない領域の速度。

無意識のうちに行ったまばたきの時間で、目の前に敵が来ているとなったら理解が追いつかないのも当然だ。

腕を上げて防御にあてようとするが、それよりも速く神裂の拳が上条の頬に突き刺さった。

姿勢を傾けさせられたところを神速の蹴り上げが襲い、叩きつけるカタチの肘撃によって土を味わうこととなる。

一撃一撃が血肉を潰し骨格を粉砕する剛撃。

指一本動かすだけでも多大な疲労感がのしかかる。しかし、動かなければ死ぬ、と本能が叫ぶ。

それに従って真横へ転がれば、長大な刀身が地面を斬り砕いた。

上条の背筋を悪寒が走り抜ける。

死んでいた。

一瞬でも遅ければ彼は右半身と左半身とに分割され、内臓と血液を垂れ流す肉塊と化していただろう。

四肢を活用してとにかく跳ぶ。

無様でも醜くても良い。ただただ動きまわって生存確率を引き上げ、現在の一瞬を未来の一瞬へと繋げる。

相手は人間を超越した存在だ。

その拳は岩を砕き、軽く走ればチーターすらも軽々と追い抜くだろう。喩えるのなら、それは音速旅客機と軽自動車がレースをするようなモノ。

対等なのははじめだけ。元より操っている機体が違うのだから当然である。

頼みの綱の右手も意味は成さない。

敵は肉体のみで異能攻撃よりも強力かつ手軽に、上条を追い詰めていけるのだから。

(それでも……右手で触れれば!!)

音速旅客機に軽自動車が速度で勝てる道理は無い。が、しかし、ルールを変えてみればどうだろう。

『速度』で勝負するのではなく、『デザイン』や『重量』で勝敗を競い合う。それならば上条にもいくらかの分はあった。

神裂は度重なる『唯閃(ゆいせん)』の使用で動きが鈍っており、彼女を操っているのは魔術。であるのなら、上条の右手で触れてしまえば異能の効果は打ち消せる。

聖人と人間の戦いはそこに帰結した。

如何に触れるかに注力する人間と、如何に触れさせずに倒すかに注力する聖人。

上条は小指一本でも接触すれば勝利は確定する。

ここまでのハンデを背負いながらも、彼は苦戦を……もはや戦いにすらなっていない苦戦を強いられていた。

「くっ……おぉおおおぉぉおおッッ!!」

ブチブチと切れていく筋肉繊維の音を聴きながら、上条は裏拳気味に右拳を薙いだ。

掠りもしない。

それどころかガラ空きになった胴に拳を叩き込まれる。

まるで銃弾――ズドンッッ!!という重苦しい衝撃が上条の身体を蹂躙し、大きく吹き飛ばした。

「ごっ…がばっ……!!」

呼吸が死んだ身でありながらも、一瞬足りとも神裂から目を離さない。そう、まばたきすら許されない。

息をつく暇もないとはまさにこのこと。

それどころか、目を閉じて開くだけの暇すらないほどの神速の連撃。

神裂の接近に身構えていた上条だが、彼女が居合いの体勢を取ったまま動かないことに疑問を覚える。

その瞬間。

キィィン!!と甲高い刃鳴りが響く。

突如として巻き起こった突風に上条の身体はさらわれ、それに混ざった鋭い物体が彼を斬り裂いた。

全身から血が噴き出す。

激痛が感覚を支配し、衣服が血を吸って重くなる。

(……魔術、か?)

血をこぼしながら考える。上条は魔術というモノの存在を知っているだけで、それが何を出来るのかがわからない。

どういう方式で発動するのかがわからない以上、彼は未知の魔術に対して身体を張るしかないのだ。

神裂の手が柄に触れる。

―――来る!!

「……っ!?」

数瞬経ってようやく気づく。

咄嗟に突き出した右腕に、無数の切り傷が刻まれていた。

ぼんやりとした視界が次第に晴れていき、その謎の斬撃の正体に辿り着く。ギシギシと軋む右腕の痛みに顔をしかめつつ、神裂を見据える。

「ただのワイヤー……だったってのか」

七閃。

神裂が持つ長刀『七天七刀』の鯉口に仕込まれた鋼線を、居合いの動作によって隠して飛ばす技である。

魔術師の身体能力を以ってしても、難易度が高いであろうこの技を神裂はいとも簡単に連発してみせた。

「さてさて。どうしましょうか、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』? こういう手合いはあなたの弱点でしょう?」

銀髪の科学者は愉しげに笑む。

上条は牙をむいて彼女を睨みつけ、強く五指を握りしめて吠えた。

「うるせえ……!! ゴチャゴチャ言ってねぇでテメェもかかってこいよ!!」

「あらあら、男の見栄ってやつなのです? そこの聖人サンだけでもう死にかけじゃないですか、『幻想殺し』」

返答する間もなく、神裂の七閃が飛ぶ。

今度こそ何もすることができないままに斬撃の嵐に巻き込まれ、紙切れを吹いたように吹き飛ばされた。

血が目に入り込む。

上条が着ている制服の白いシャツが血で染まり、地面に倒れ伏す彼の姿はまるで赤黒い塊だ。

(く、そ……)

次元が違う。

そもそもの自力に開きがあった。

上条が限界まで鍛えて鍛えて鍛え抜いた実力の場所を、彼女は彼より幼い頃にとうに飛び越えていたのだろう。

神の力の一端を引き出せる聖人と、右手に一発芸があるだけの人間では戦闘にはならない。

『たった一度触れるだけ』。

そんな圧倒的なハンデがありながら、神裂 火織は上条 当麻を寄せ付けない。

あの女の言うとおりだった。

アイツ自身が手を出す必要なんて全く無い。ただ上条が蹂躙される光景を鑑賞するだけで事は済む。

(イヤ…待てよ)

上条の内から疑問が湧き上がる。

(なんだってアイツはこんな場所にいやがる……!? あの杭を突き刺した時点で勝敗は決したようなモノなのに)

銀髪の科学者は神裂を支配するためのアクションを起こした。彼女の口ぶりからしても神裂が圧勝することは理解していただろう。

ならば、あの時に逃げていればよかった。

二人の戦いを観察するにしても、離れた場所から見守るべきなのだ。空を覆う天使の群れは大勢の目を引いたはずだから。

故にそこには目的がある。

(単純に考えて――効果範囲の制限か。それとも、魔術の大元がアレなのか……)

二つに一つ。

それを確かめる術は簡単で難しい。

(……だけど)

暗雲立ちこめる未来に光が生じる。

ぐぐぐ、とゆっくりとだが確実に上条の身体に力が入っていき、ついに立ち上がるまでに至った。

その姿を見て銀髪の科学者は驚くことなんてなかった。彼女は『知っている』。

上条 当麻のような人間を。

圧倒的不利を一手で打開する存在を。

(『天地繋ぎ(ヘヴンズティアー)』……上終 神理と同じ右手に力を宿す者は学園都市にもいたのです。ま、『幻想殺し』と『理想送り』の方が先なのですが)

単に彼女が黄金の夜明け団という立場だっただけ。普通の科学者としての人生を送っていれば、幻想殺しと理想送りしか知り得なかっただろう。

だから彼女は嗤う。ヒーロー殺しの策を胸中に秘めながら。

思い通りに上条は走り出す。

大きく開いた神裂との距離を詰めるために。

結局、彼のやることは変わらない。

右手で触れればすべての謎は解ける。

上条の心の支えとなっているのは、状況が打開できるかもしれないという淡く脆い希望だ。

だがしかし、それこそが彼の原動力。

ひとつの砲弾となって駆ける上条を狙うのは斬撃の嵐――七閃。

「――!!」

左脚と肩を斬り裂かれる。

重要なのは上条が致命傷を避けたということ。

前兆の感知。

彼はその右手の性質のため、学園都市に来る前も来た後からもありとあらゆる不幸に見舞われてきた。

時に金髪の超能力者中学生を助けたり。

時に黒髪のキザな先輩を助けたり。

学園都市の技術の結晶であるSF映画のような機械『駆動鎧(パワードスーツ)』とも戦闘を繰り広げてきた。

その経験から得たのは彼女たちの笑顔だけではなく、ある一種の技術だ。

攻撃や行動の前兆を観測し、それに対応して動く。これは無意識的なモノであり、意識して行えば精度が落ちる。

ただ、完全な前兆の感知を習得するには幾度の戦闘経験でも足りなかった。

再度放たれる七閃。

機動力を削ぐための一撃なのか、脚を狙った斬撃が先に飛来する。

跳んだところを潰すためにクモの巣のようなワイヤーが襲いかかった。

それを上条は足から滑り出すように跳んだ。見ようによってはドロップキックにも見えるかもしれない。

また身体の各部を刻まれるが、この一撃に彼は確信した。

(……やっぱりだ。キレがない)

鋼線(ワイヤー)がたわんでいた。

そしてそれを視認できる程度の速さ。

戦闘前では彼女は力を使い果たしていた。失った体力は即座に取り戻せず、『唯閃』の連発によって身体にも影響は出ていたのだ。

魔術の効果により一時は聖人の力を使えたのだろうが、今になってようやく限界が迫っている。

「うおおおおああああッ!!」

上条の口から絶叫が轟く。

七天七刀の間合いに入った。つまりは、ここから彼は生身で次に繰り出されるであろう攻撃に対応しなければならない。

それ自体は今までと変わらないが、神裂の真骨頂である長刀の一撃はこれまでの何よりも重いだろう。

 

雷光のような太刀が閃いた。

 

全身全霊を懸けた回避。

息をすることも忘れて、コマ送りになった世界で必死に身体を動かす。

鋼鉄をいとも容易く斬り断つ電速の刺突。

上条のウニのような頭に飛来するその突きは、卵の殻を砕くように頭蓋骨を破壊し脳漿を飛び散らせただろう。

突き通したのは彼の左腕。

だが、その程度で止まる刺突ではない。

肉の盾を貫いてなお見劣りしない神速の剣撃が、愚直に頭部を破砕せんと狙った。

「……っ、ああああああ!!」

グン、と真っ直ぐな軌道が逸れる。

左腕が傾いたことで突きの軌道が歪められ、上条自身の頭も動いていたことでかろうじて回避に成功した。

右手の掌が神裂に向く。

素早く突き出された右手が触れたのは、彼女の肩だった。

パキン!という音が鳴り響く。

魔術『ペテロの否認(The denial of St.Pater)』は幻想殺しにより破壊された。聖人殺しの術式はいま、粉々に打ち砕かれたのだ。

神裂の瞳に正気が舞い戻る。

死体のような上条の姿を直視して、泣きそうな声をあげた彼女は―――

「……!!!」

―――上段への蹴撃を放った。

この結果は上条の想定していた解そのもの。

『効果範囲』か『魔術の大元』か。

効果範囲ならば幻想殺しが触れた時点で全ては収まる。魔術の大元ならば幻想殺しが触れたとしても、本体が別にあるなら魔術は再度発動する。

神裂にかかった術式は一度打ち消されたにも関わらず、再起動して彼女の意識を塗り潰した。

そのため、上条に攻撃が直撃することはない。

既に右腕を上げていた上条はそれを防ぐ。追撃を受けないように突き刺さった刀身を引き抜いて後ろに跳――「もらった」――銀髪の科学者は嗤う。

対幻想殺しの秘策。

彼はどんな絶望的な状況であっても打開するだろう。ヒーローとはそういう存在だ。それはどんな兵器でもどんな能力でもどんな魔術でも変質させることはできない。

だが、彼らは決して『無敵』であるとはいえない。上条や上終なんかはまさにそうだろう。

状況を打破する不思議な力。だが、解決の糸口を見つけただけで、状況を打破したといえるだろうか?

銀髪の科学者はあえて曖昧な状況を作り出し、彼らの不思議な力が働かないように調整した。

『木原 角度』はこの世の全ての角度を把握する科学者であり、魔術さえも使用できる稀有な人材だ。しかし、言ってしまえばそれだけ。

彼女が真正面から彼らとぶつかっても敗北するのは確定的である。

したがって、彼女はひとつの力を信じないことにした。

科学に頼ろう。

魔術に頼ろう。

兵器に頼ろう。

ひとつでは対処される。

彼らを撃破するには無数の手が必要。

彼女が最後の最後に選んだのは兵器だった。

上条は物理攻撃に弱い……それもある。

信じたのは歴史。

紀元前より生まれ、ただの石のようなモノから徐々に研ぎ澄まされていき、小さな太陽を再現するにまで至った人間の悪意。

その中でもコンパクトで確実に殺害できるのは、拳銃であろう。

学園都市製の積層プラスチックでできた光線銃のような銃口が、上条に差し向けられた。

(死になさい、ヒーロー! あなたが護ろうとした『禁書目録(インデックス)』は我々がいただくのです)

彼女は気付かない。

この作戦には欠陥があることに。

重大な欠陥を抱えたまま放たれた殺意の弾丸は、上条の命をあっさりと奪うはずだった。

 

 

()()()()()

 

 

猛然と突き進む弾丸は途中で減速する。

誰かの右手に命中したかと思えば運動エネルギーは0になり、まるで元々そこにあったかのように空中に縫い付けられていた。

上条をかばうように立っていたのは、どこか彼とよく似た少年。黒と茶の混じった癖毛を揺らしながら、少年は銀髪の科学者を睨みつける。

「派手にやりすぎたな。……覚悟しろ」

「ハッ! 何ですか、ヒーローはヒーローを引き付けるとでも!?」

彼女の周りに待機していた天使たちが飛び上がり、戦闘態勢をとった。これで戦力は天使と聖人、そして科学者自身だ。

対するは上条と乱入してきた少年のみ。

銀髪の科学者が選んだ選択肢は戦力に物を言わせた電撃戦。状況を打開する時間も無く彼らを片付けるためである。

そして。

命令を下すよりも早く。

風の砲弾と一本の槍が地上を蹂躙した。

舞い散る光の粒子のなかで銀髪の科学者は目を凝らして、二つの攻撃が飛んできた方向を見やる。

「ガキが……ッ!!」

「ふん。そのガキに見下される気分はどうだ、魔術師モドキ」

嘲るような笑みを浮かべるレイヴィニア。

愉悦の混じった彼女の表情を見て、槍を投げ放ったアナスタシアは小さく肩を震わせた。

(すっごい悪い顔してるなぁ……)

突然の闖入者たちに上条は目が飛び出そうなほど驚愕し、気まずそうに近くの少年に問う。

「あ、アンタたちは何なんだ……?」

「ただの魔術師と執事だ。立てるか?」

そう言って手を差し伸べる。

上条は素直に差し出された右手を掴んで、重い足取りながらも立った。

「上終 神理だ。よろしく頼む」

彼らが見据えるのは銀髪の科学者。

真に殴るべき敵は見つかったと言わんばかりに上条は右拳を握り締めた。

「俺は上条 当麻だ。よろしくな、神理」

上終はしっかりと頷く。

次の瞬間。

『幻想殺し』と『天地繋ぎ』が駆けた。

 

 

無人と化した学園都市の道路。

そこに停まっていたトラックは全速力で疾走していた。荒々しい運転には、どこか不慣れな印象を受ける。

その操縦席に座っていたのは、明らかに年齢違反の少年だ。彼は笑顔になりながらアクセルを踏み込む。

(計画通り)

術式の正体がバレた。

上条のもとに増援が現れた。

――全て計画通り。

この状況こそが彼の欲したモノ。

木原 角度に人間が集中したいまこそ、『禁書目録』を捕縛する最大のチャンスだ。

ただ、問題点があるとするならば。

(『理想送り(ワールドリジェクター)……上里 翔流の動向が掴めないことだ)

魔術的、科学的手段を使っても、ことごとくが謎の少女たちの仕業によって失敗に終わる。

この場で最も警戒すべきは上里だ。

ともすれば、右手の力を持つ三人のなかで本当に気を配るべきは彼だったのかもしれない。

それほどまでに危険な存在だ。

少年……パラケルススがそこに思い至った直後。

ドンッッ!!!という轟音が耳朶を激しく叩く。下半分をごっそりと失ったトラックはオレンジ色の火花を散らしながら、猛烈に滑っていく。

その瞬間、彼は燃え盛る炎によって形作られた巨大な右手の影絵を見た。

普通の炎ではない魔術による炎は、光を複雑に屈折させて通常ではありえない影絵を作り出している。

トラックの進行方向に佇んでいるのは、まさしくどこにでもいるような平凡な高校生。

冷たくパラケルススを睨む彼の唇が静かに動く。

「……完璧だ、絵恋(エレン)

右手を振るう。

直後、アスファルトを膨大な摩擦熱で溶かし削りながら直進するトラックの上半分が、巨大な影の手に掻き消された。

その前に操縦席から飛び降りていたパラケルススは、辛くも『理想送り』の脅威から逃れることとなる。

そんな彼を追撃するように、摂氏3000度の炎の巨神が腕を振り下ろした。

ただそれだけの動作が必殺となる炎の巨神はまさに法王級。迷わず賢者の石を仕込んだアゾット剣を引き抜き、赤黒い魔力の刃で両断する。

だが、相手は炎。

一時的に掻き消すことには成功したものの、完全に消滅させることは叶わなかった。

「本当にここで良かったのかい? 君の言うあの子にその勇姿を見せてやれたのかもしれないのに」

上里が言う。

隣の赤髪の神父は鼻を鳴らしてそれを拒否。

「僕はあの子にとっての敵にしかなれなかった。それに、記憶を失った彼女に何を見せようとも無駄だろう」

だから、と彼は付け加える。

「こんなわかりやすい敵を倒してこそ、僕はあの子に謝る資格を得られる。……違うか?」

「いいや、それで合ってるさ。少なくとも、ぼくなんかよりは比べ物にならないくらいに」

ゆっくりと、彼らはパラケルススに接近する。

一歩一歩に果てしない感情を込めて。

威圧感を与えるという目的もあるのだろう。しかして彼はそれを軽く笑い飛ばした。

こんなことはもう体験している、と。

「いいじゃないか! 中々のヒーローっぷりだ、ヘドが出るね!! でも警戒しておくことをオススメするね! なんてったって……」

もぞり、と何かがうごめく。

上里とステイルの視線が向いた位置には、1メートルほどの淡く発光する白いイモムシのようなモノが這いずっていた。

よく見れば、小さいが人間の手足が生えており、それを使って這っているのがわかる。と、思えば急激に手足は引っ込み、白いイモムシは光量を上げる。

何かがマズイ―――そう直感した上里は即座に右手をかざしてイモムシを消し飛ばそうとする。直前、彼は気づいた。

これはイモムシなんかじゃない。

これはサナギだ……!!!

「ここには第二位の垣根 帝督がいるんだから!!」

ドオッ!!と爆音と真っ白な光を撒き散らして、ソレは顕現する。

ワインレッドのホスト崩れのスーツを着込んだ紅顔の美少年。左眼は白い部分が黒く、黒い瞳の部分が白くなっている。

背中から飛び出すのは三対の翼だ。

ただただ純白に彩られていた六枚の翼の半分が、緋色に置き換わっていた。

「オイオイ、なんだこの愉快な状況は」

くぐもった笑いで垣根は言い放つ。

すべてを掻き消す理想送りとすべてを焼き尽くす炎の巨神が同時に襲いかかる。

垣根はこれを横に飛んで理想送りの効果範囲をずらし、右半身だけの身体でなお生き延びていた。

彼にとって炎の巨神の動作はあまりにも緩慢。翼で摂氏3000度の一撃を受け止め弾き返す。

「「!!?」」

上里とステイルの驚愕が重なる。

自身を持って不意を打った攻撃を簡単に対処された。

さらに。

「解析完了。……テメェの魔術で以って討ち滅ぼされろ」

ステイルが持つ最強の切り札。

魔女狩りの王(イノケンティウス)』は召喚さえしてしまえば、ほぼ勝敗が決する強大な術式だ。彼はこの術式のために近接戦闘を切り捨てたといっても過言ではない。

それを、六体。

それぞれ翼から舞い起こった粒子が、純白の魔女狩りの王と真紅の魔女狩りの王に変貌して姿を顕す。

つぅ、と。

垣根の口の端から血が洩れ出した。

「チッ、魔術の反動は制御できねえか」

魔術、と言ったかこの男。

ステイルは驚愕を通り越して呆れすら覚えた。

昔に学園都市とイギリス清教で、能力者に魔術を使わせるという実験があったことを思い出す。

その少年は『エリス』と呼ばれていた。

魔術の知識を得るだけならば、当然影響は出ないが実際に使用した場合は別である。能力者の脳は魔術を使うようにはできていない。

その拒絶反応からエリスは死亡した――そのはずだった。そうでなければいけなかった。

だというのに、目の前の男は魔術を解析し魔術を行使したのだ。

「どういう……ことだ」

「ただのゴリ押しさ。魔術を使って死ぬってんなら、魔術を使っても死なない方法があればいい」

そう。

魔術の拒絶反応は垣根の身体をめちゃくちゃに破壊するだろう。が、パラケルススがホムンクルスの研究途中で編み出した人体細胞構築論に基づいて『未元物質(ダークマター)』で創り出す。

そうすれば失った内臓なんて何億個も取り戻せる。どんな傷だって一瞬で治せるのだから、拒絶反応なんてあって無いようなモノだ。

垣根は酷薄な笑みで宣言した。

「少し実験台になれよ。――俺の『未元物質』がどこまで通用するか教えてくれ」

 




上終くんサイドの話は次回です。
ていとくんへの溢れる愛が止まりませんでした。少し後悔してます。
次回もよろしくお願いします。
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