とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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難産でした。
雑になっていると思うので、指摘お願いします。


角度を旅する猟犬

「……上終か」

「どうして嫌そうな表情をするんだ!?」

上条と神裂の戦いから遡ること十数分。

生後数週間から数ヶ月にランクラッブした男、上終 神理は学園都市を彷徨っていた。マークたちに置いていかれた、という表現の方が正しいかもしれない。

なにせ、高校生ほどの身体年齢でそれなりに成熟した精神であるとしても、幼稚な部分は拭えない。良く言えば、好奇心が旺盛だった。

ここは科学の街。

ありとあらゆる最先端技術が集まる都市だけに、上終を引き寄せる要素が多かったのだろう。

そのためにマークたちの行動についていけず、取り残される結果となった。まあ、端的にいえば迷子だったのだ。

ところどころに設置された迷子センターのような施設に入ることも考えたが、理性がそれを繋ぎ止める。

しかし、携帯もなければお金もないのが事実であり、肩を落として街を歩いていた。

そんな時に出会ったのが、我らが明け色の陽射しの大ボス・レイヴィニア=バードウェイである。

その傍らにはアナスタシアもついていて、何かの作業をしている最中のようだ。

邪魔してはいけない、という思考が頭をよぎる。が、上終はこれを心寂しさでノックアウト。すかさず二人の少女のもとに駆け寄った。

その反応がレイヴィニアのいかにも期待ハズレといった表情。

もう慣れたことなので気にしないが、上終としてはジャブのように効いてくるためやめてほしいというのが本音だ。

そんな彼の心情など露知らず、少女は腕を組んで問いかけてくる。

「まあいい。なんでお前がこんなところにいる?」

ギクリ、と上終は震えた。

迷子になっていたなどと伝えれば、自主規制がかかるレベルの事態になるに違いない。

そうなれば、彼は世にも珍しいサイケデリックな星座となるだろう。

土下座をしても意味はない。彼女は上終の土下座をもう何百回と見てきたのだから、効果は無いに等しいのだ。

「単刀直入に言おう、迷子になっていた。だからアノ魔術はやめてくれ!!」

早口で言いつつ、右手を前に突き出す。

せめてもの抵抗に右手を盾にしていたのだが、いつまでたってもオシオキが飛んでこないことに疑問を覚える。

閉じていた目蓋をゆっくりと開く。

そこにいたレイヴィニアは不機嫌な顔をしていたが、手を出す様子ではなかった。

「……今回は見逃してやる。だが、ひとつ条件を付けさせてもらう」

「あ、ああ」

もしや、最近流行りの上げて落とすタイプなのではないだろうか。

なにか片寄った上終の知識の囁き。久々の肉壁役に復活もありえるかもしれない。彼は最悪の未来を想像していたものの、良い意味で予想を裏切られることとなる。

「私たちから離れるな。お前に勝手な行動をされると面倒だからな」

「………君は本当にレイヴィニアか?」

呆気にとられながら言葉をひねり出す。

普段の彼女なら確実に魔術が飛んでくるところだが、それがないとなると別人であることも考えられる。

「あん? 誰にそんな口をきいてやがるんだ上終ぇ?」

――別人じゃなかった。

現役バリバリのレイヴィニアだった。上終は自分の失言に気づくと、

「すまん、なんでもするから許してくれ!!」

こんな風に奴隷精神を発揮する。

傍から見ているアナスタシアには、新手のプレイにしか思えないような光景だ。

上終の姿にいたたまれない気持ちになった彼女は、そろそろ助け舟を出すことにした。

「レイヴィニアは上終さんのことが心配なだけだから――って、ギャアアアアアア!!?」

不意に撃ち出された魔術に、それこそギャグみたいに吹き飛ばされるアナスタシア。

今夜はアナスタシア座が見られそうな予感がする。そんなくだらないことを考えるのは、これから自身に巻き起こる事態を察しているからか。

「……聴いたな」

「いや、一言たりとも聴こえなかった」

目をそらしながら答える。

それがまずかったのか、レイヴィニアが杖を握る音がここまで響いてきた。

一秒後には夜空に輝く星座になる――その運命が決定したとき、東の空から純白の光が発生する。

まるで夕焼けのような白光の方向を振り向けば、無数の白いナニカが蠢いていた。遠目ではひとつひとつの全貌は掴めないが、一度相対したことのある上終には忘れもしない。

ホムンクルスを司令塔として仮初の身体を操らせる戦うだけの存在。知性を殺すことにしか費やせない哀れな彼らのことを。

両手の掌に、あのホムンクルスの死にゆく感触が蘇る。目を伏せた彼の体重が軽くなってしまったあの感触は、筆舌に尽くしがたい感覚だった。

伸びきった両手の指を抱き締めるかのように、ゆっくり握り込む。

自然と足が純白の空の方向へと身体を振り返らせ、全身に力がみなぎっていくのを感じた。

同時に胸の奥から、あの錬金術師に対しての醜い感情が溢れ出していく。

そう、パラケルススは懲りていない。

彼は自身のためならこの世の全てを切り捨てる……たとえそれが、愛着を持った自分の『作品(へいき)』であっても。

(……そんな人間を野放しにしてはいけない)

上終は密かに誓う。

あのどうしようもない悪人を、この手で止めてみせることを。それは誰に向けたモノでなく、たった一個体のホムンクルスに捧げる約定だ。

彼は首だけ振り返ってレイヴィニアに言った。

「今から俺がするコトは、君の思惑に反することか?」

彼女は薄く笑う。

あたかも、その問いを待っていたと言わんばかりに。レイヴィニアは複雑な感情が入り混じった視線を上終に注ぐ。

「明け色の陽射しのボスをナメるなよ、それくらい想定済みだ」

そう言って、通信機器を取り出す。

明け色の陽射しの構成員はみな、ある特殊な条件下においての非常用の連絡手段として、携帯電話が配られている。

一々魔術を使うよりも便利であるため、最近ではもっぱらこちらの通信方法を使うらしい。

レイヴィニアは大きく口角を吊り上げて、学園都市各地に散らばった構成員に指令をくだす。

「プランBだ。――あの気色悪い天使どもを叩き潰すぞ」

その言葉を聴いた直後、上終は顔いっぱいに喜色を広げた。

「レイヴィニア……!」

「だから言っただろう? お前の行動なんて想定済みだとな」

魔術結社のボスとしての笑みではない、普通の少女としての笑みを彼に向ける。

それと同じくして、彼女は思う。

(まったく、私も上終に影響されたものだな。以前ならこんなことはしなかった)

自嘲気味になるが、それでも明け色の陽射しを背負わされていた頃とは雲泥の差だ。その荷物を降ろしてくれたのは、アナスタシアと上終の二人。

レイヴィニアは数秒だけ目を閉じて、勢い良く開く。

「準備はいいな?」

「ああ、行こう!」

 

 

――木原 角度は歯を噛み締める。

彼女が世界で一番嫌っているモノ。

それは何かを諦めさせられることだった。

始まりは十年前。

『木原一族』の一人として産まれた彼女は七歳の誕生日を迎えたとき、信頼していた姉に夢を諦めさせられた。

『木原』は一生を科学に捧げ、歴史に名を残すような天才たちを数多く輩出する一族である。

彼らの存在は間違いなく人類の糧となったことであろう。だが、木原一族には狂気的でいて破滅的な信条が備わっていた。

『己の実験では倫理の問題や人権を無視し、実験体の限界すらをも無視して行うことが研究の第一歩である』―――いうなれば、これが木原一族の闇だったのだ。

数値化されたデータには意味がない。

実験体の真の可能性は壊してみなければわからない。そんな思想を良しとしていた一族にとって、彼女は異端だった。

〝なにも、殺す必要はない〟

〝ほんとうの科学者なら、そんな方法を使わないでも結果を出さなければならないのに〟

木原 角度は優しすぎた。

そして、優しい彼女が抱くユメもまた、優しいモノに違いない。

『角度』とは、人類にとってなくてはならない非常に重要な要素である。そのことは現代に近づくにつれての技術からうかがい知ることができる。

まず、大砲などの兵器。

複雑な弾道計算では何よりも角度が重要視され、これが判明しなくては撃つことすらままならない。

次に、宇宙開発。

宇宙空間のカプセル型宇宙艇が地球に到達するために潜り抜けなくてはいけない細い道。その狭き門は数値にして6.5度からプラスマイナス0.9度の間である。

この角度で突入しなければ、宇宙艇はたちまち地球の大気の抵抗によって弾き飛ばされるか、大気の摩擦熱で溶かされてしまうだろう。

光ファイバーなどもこれにあたる。

光の全反射を利用するその仕組みからして、角度は何よりも大切だ。

彼女は一目見ただけで、その物体の様々な角度を数値にして認識することができた。これは超能力のような開発で得たモノではなく、ただ単純な才能だった。

〝わたしの力で人類を発展させたい〟

『木原』のような手段は使用せず。

真っ当な研究者として、角度の方面から人類のさらなる発展を目指す彼女の夢は、あまりにも優しかった。

だから。

諦めさせられた。

その夢の内容が禁忌だったわけじゃない。

ただただ、木原にしては優しすぎたから。

姉である『木原 病理』はあらゆる手段を用いて、彼女を諦めさせようとした。なぜなら、病理は『諦め』を司る木原だったからだ。

それでも彼女は諦めなかった。

『木原』の異常性に唾を吐き捨て、善性の道を歩く。

そんなことは幻想だ。

木原は木原であるだけで、己の悪性に従うことこそが正義なのだ。人を思いやる木原なんて木原じゃない。

木原 病理が取った方法は実に『木原』らしかった。

実力行使で沈黙させ、脳に思考を誘導する機械を埋め込む。否、思考を誘導するというのは遠回りな表現になる。

正確には彼女が『木原』らしくない思考をしたとき、それを阻害する。ただそれだけの装置。

そこからは薬物投与や心理学を応用した手段で徐々に木原に染め上げていった。

こうして出来上がったのが今の木原 角度。

だがしかし。

病理には誤算があった。

脳を弄くられ薬物を投与されようと、彼女の想いは淡く淡く残っていたのだ。想いの残滓こそが、諦めに対する強大な嫌悪感。

故に、己の計画を諦めざるを得なくなったこの状況に、激しい怒りを抱いていた。

「殺す、殺してやる……!!!」

獣のように犬歯をむいて、レイヴィニアとアナスタシアの二人を睨みつける。

視線だけで突き殺してしまいそうな殺意の奔流が、彼女の中で渦巻いていた。

「やってみろ。期待はしてないがな」

余裕を崩さない薄い笑顔で、レイヴィニアは銀髪の科学者を見下しながら嘲笑う。

瞬間。ブツン、と額で何かが切れた。

戦闘態勢をとっていた天使たちは次々と二人に襲いかかる。

純白の壁はそれだけで彼女らを押し潰す。

 

 

()()()()()

 

 

「アナスタシア、下がっていろ」

カッ!!!と、純白の天使たちに負けないくらい真っ白な爆発が発生した。

真白の大爆発は多くの天使を吹き飛ばし、ドロドロに融解させた。

召喚爆撃。

莫大な力をそのまま莫大なエネルギーとして操る、レイヴィニアが扱う魔術の中で最大級の威力を発揮する攻撃である。

だが、『未元物質(ダークマター)』を元として造り上げた『Mixture/ver.DARK MATTER』は召喚爆撃にも耐えられるようにできていたはずだ。

原因は考えるまでもなく明らか。

単純に、威力があがっていた。つまり、角度が持つデータとはかけ離れた爆発力が生み出されていた。

「なぜ……!?」

「意外に察しが悪いな、魔術師モドキ」

杖を振り下ろす。

進化した召喚爆撃。これが解き放たれたのは直後のことだった。

爆風が肌を撫でる。

アナスタシアが口の端をひくつかせながら、表情で『やりすぎ』だと語っている。

黄金の夜明け団。

彼らとの戦いで成長したのは上終だけではない。

黄金の夜明け団は『生命の樹(セフィロト)』というシステムを利用して、本物の天使の力をその身に宿していた。それ故か、彼らは天使の力の扱いに長けていた。

陽炎の城に残された魔術の研究結果。

イギリス清教に『ラジエルの書』を引き渡す代わりに、彼女は研究結果を全て掠め取ったのだ。

そこから得た力。

より効率の良い天使の力の運用方法を編み出したレイヴィニアの魔術は、一段階進化を遂げた。

もぞり、と後ろで気配が起きる。

振り返ればそこにいたのは、他でもない銀髪の科学者。

「ふ、ふふ……素晴らしい向上心だと認めてあげるのです」

「不名誉だ。いらん」

「もらえるモノはもらっておけば?」

軽口を叩き合う金髪と黒髪の少女たち。

木原は迷わず拳銃を差し向け、精確に三回引き金を引いた。

学園都市製の追尾し体内で炸裂する三つの銃弾はしかし、黒髪の少女が手繰る鋼鉄の槍に叩き落とされる。

音速で動き回れる聖人にとって、銃弾を防御することはそう難しいことではなかった。

銀髪の科学者が居た場所に目を向けるが、既に彼女はその場にいない。それどころか、辺りを見回しても影すら見つからない。

アナスタシアが張り巡らせていた本能の網。領域内の敵を撃墜するテリトリーに、異物感が混じる。

前後左右、どこでもない。上空にも気配は感じられない。ということは―――

「……ッ!!?」

―――下!!

異常な光景。

ほっそりとした左腕だけが、デコボコの地面から突き出ていた。

その左手が握っていたのは灰色の野球ボール大の物体……手榴弾だった。手首のスナップで、安全ピンが抜かれた手榴弾を放り投げる。

次の瞬間。

ドォォンッッ!!!と爆撃じみた轟音に遅れて、紅蓮の爆発が巻き起こった。

「ぐうっ…」

爆発の中心から数メートル離れたところに、アナスタシアは転がされていた。爆発の直前に、錬金術で槍を板のように変質させていたのが功を奏し、重傷は免れたようだ。

だが、鋼鉄の破片が身体に突き刺さっていて、そこらから生温かい血が流れ出している。

「アナスタシア!」

「他人を心配してる場合ですかァ!?」

手榴弾に舞い上げられた粉塵。

その微細な粒子の一つ一つから、銀髪の科学者は姿を現して右手の杭を突き立てようとする。

聖人にしか魔術の効果は及ばないが、彼女が求めた使い方は物理攻撃としての役目だ。

レイヴィニアの頭部目掛けて振り下ろされた一撃をすんでのところで回避し、杖から杯に変わったソレを振るう。

杯を包み込むように氷の刃が編み上げられ、真横に振り抜く。

瞬時に姿を消した銀髪の科学者。

まるで世界から離脱したような錯覚。

「――!?」

思わず驚愕する。

木原 角度は。

氷の刃の先から、這いずり出ていた。

鋭く磨かれた水晶のような刃に似合わない図体を、ずるりと上半身だけ引き抜いて杭を突き出す!

狙いよりも速度を意識していたのか、レイヴィニアの頬を切り裂くまでに終わる。

咄嗟に氷の刃の術式を解除し、全方向に気を配る。気休めにしかならないが、しないよりはマシだろう。

こんな魔術は見たことがない。

魔術師の思考から逸脱した術式。

一切の伝承や神話に頼らない科学の魔術。

これを木原 角度はこう名づけた。

 

 

ティンダロスの猟犬(The Hounds of Tindalos)』――!!

 

 

その能力は実に単純明快だ。

90度以下の鋭角から鋭角へと移動する。

ただそれだけの術式に過ぎないが、効果は絶大だ。既存の伝承に頼らない、知識だけを基幹とした新しい魔術を、彼女は創り出したのだ。

これを魔術として確立させるには、もちろん代償なくして実現できない。

当然だ。魔術とは伝承や神話を深く狭く切り取る『模倣神技』が元となっている。

『ティンダロスの猟犬』の名を冠しているとはいえ、名称の起源であるクトゥルフ神話は作家が創ったモノで、厳密には神話ではないのだから。

己に架した代償とは、0.01度でも角度を見誤れば確実に死ぬ……それこそが彼女の術式。けれど、彼女が角度を見誤ることはありえない。

この世の全ての角度を把握する彼女に、その可能性は無いと断言できる。

(――この術式を突破できますか!!)

絶対の信頼を置く術式。

鈍角でなければ事実上宇宙の果てまで到達できるこの術式に、明確な弱点は無いといえよう。

次に移動する先は、レイヴィニアの服の装飾から。彼女には銀髪の科学者の思考も読めなければ、術式の全貌も捉えていないだろう。

(殺った)

波打つスカーフから身体を滑り出す。

確実に当てられるように、頭と杭を持つ右手だけが現れた。

この時。

レイヴィニアは完全に反応できていなかった。

杭は彼女の碧い眼を刺し貫いて、前頭葉まで貫通する。その後に残った敵を殲滅して、この一件は終結する。

そんな確信が心を支配していた。

「歯ぁ食いしばれよ、三下ァァ!!!」

ドボォ!!!という粘ついた破砕音が、銀髪の科学者の顔面から鳴り響く。

その直後。

バギィン!とガラスが粉々に砕けるような感覚が、彼女に連続して襲いかかった。

術式を無効化されたことでスカーフから弾き出され、手を下した張本人の顔を睨んだ。

「『幻想殺し(上条当麻)』ッ……」

――神裂はどうした!?

その目に映ったのは、上終がひたすら回避に専念することで神裂を食い止めている場面だった。

つまり、上条は彼を犠牲にしてここまで辿り着いたのだ。問題はそれを引き受けてしまう上終の偽善者ぶりでもある。

確かに対人に特化するのなら『天地繋ぎ(ヘヴンズティアー)』の方が、異能に関わらず止められるため便利ではあるだろう。

それよりも何よりも。

理解できない。

全くもって理解できない。

「な…んで、テメェはんな野郎を信頼できんだよォォッ!!!」

初対面の相手に背中を任せる。

そんなことは愚者のすることだ。

「……テメェがそれを言うのか。俺を助けて手を差し伸べてくれたヤツを信頼しねえでどうするんだ!!!」

幻想を殺す右の拳が突き刺さる。

隕石のような勢いでみぞおちにめり込んだ拳に、彼女の身体は思い切り仰け反った。ぐらつく意識に付随して、指先から力が抜けていく。

聖人殺しの杭は右手からこぼれ落ち、上条の幻想殺しによって木屑と化した。

(ま、ず 術 式を)

追い打ちをかけるように拳が飛来する。

仰け反った身体をそのまま地面に叩きつけるように、上条の右拳が彼女の顔面を打ち据えた。

脳を揺るがす剛撃に、硬い地面に激突することで後頭部を強く打ち付ける。

術式の再構築が間に合わない。

アクションを起こす度に無効化される。

木原 角度と上条 当麻は相性が悪すぎた。

一発でも右手の拳打をくらえば術式を破壊され、再構築する隙に殴り倒される。

(だ  け ど……っ)

『ティンダロスの猟犬』だけが彼女の魔術ではない。威力は弱いが四大元素の術式も最低限には扱える。

ありったけの魔力を注ぎ込んで、彼女は掌から小さな太陽のような火球を上条に向けて撃ち出した。

即座に右手で打ち砕かれる。

その間隙に彼女は拳銃を取り出して、上条の胸辺りに狙いをつけていた。

ギョッとして回避行動を取ろうとするが、引き金を引く直前に烈風が拳銃を吹き飛ばす。

――レイヴィニア。彼女が放った風の魔術である。

「う、あ」

最後の希望は潰えた。

抵抗する暇もない。

ドロリと粘液質の赤黒い液体が鼻から流れる。

トドメ。

上条のハンマーめいた拳が振り下ろされる。

(でき た こ  れ)

バシュン!と瞬間移動のように角度の姿が消えた。

トドメの一撃は空振りに終わり、地面を打った拳の皮が裂けて少ないながらも血が滲み出す。

間に合った。

ここまでの一連の動作を術式の立て直しとともに行った。賭けに近かったが、彼女の執念がこの結果を引き寄せたのだ。

「上終とそこのウニ頭! 右手を掲げておけ!!」

アナスタシアを引きずり寄せながら、レイヴィニアは言い放つ。

「「!?」」

上条はウニ頭と言われたことに若干傷つきつつ、言われたとおりに右手を空に掲げた。

上終も何らかの事情を察しているのか、近くに神裂を引き寄せて右手を準備させている。

木原 角度は逃げるだろう。

あの術式がある以上、狭い範囲への攻撃は確実に命中しない。さっきの上条のように隙を突くでもしなければ、それは確定的だ。

「元は天使どもを消し飛ばすための魔術だったのだがな。――やれ」

携帯電話を通じて、命令は伝達された。

瞬間。

ッッドォォォオオオオン!!!!!と青白い極光が広場を覆い尽くした。

目蓋を閉じていても視界が真っ白に染まるほどの光量に、上条は訳も分からず叫び声をあげる。

白む視界は徐々にもとの明るさを取り戻していき、恐る恐る目蓋を開くとそこら中が焦げて燻っていた。

「良し。指向性に不安があったが、うまくいったな」

ひとり満足気に頷くレイヴィニア。

広場の隅で今まさに逃げていたであろう銀髪の科学者が、あられもない姿で横たわっていた。

金髪の少女は科学者の胸の辺りを見て舌打ちする。

――明け色の陽射しとは、大人数による儀式魔術に長けた魔術結社だ。学園都市に構成員を散らせたのは、各地の龍脈の力を利用するため。

先程の魔術は原理としてはレイヴィニアの召喚爆撃とあまり変わりはない。

龍脈の膨大な力をそのまま扱う。違うのは、あらかじめ狙撃するポイントを決めておくことである。

微弱な魔力の通り道を作っておくことで、膨大な龍脈の力をそこに通す。

電気回路の導線のようなモノだ。電池から送られる電気を電球まで繋ぐことで効果を発揮させる導線を作り出したのである。

故に、ほんの少しだけ遅れた。

本来なら上終と一緒に乱入するところを、少し遅れて別の場所から登場したのはこれが理由。電気回路でいう電球を設置する作業を行っていたのだ。

つまるところ。

「今回は活躍できなかったな、上終」

「それは禁句じゃないか!?」

レイヴィニア=バードウェイはなんやかんやで頼りになるということだ。

 




今週は遅れてすみませんでした。
来週から元のペースに戻していけると思います。
次回は愛しのていとくんが頑張ります。またお会いしましょう!
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