とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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ようやく終わりが見えてきました。
インデックス編はあと二、三話です。


世界を拒絶する者と天界の力を振るう者

理想送り(ワールドリジェクター)』。

条件さえ満たしてしまえば、この世のありとあらゆるモノを世界の余剰次元へ追放する力。

上里 翔流の右手に宿っていたこの力は、彼を幾度となく助けてきた。

右手の影を起点に問答無用で敵を排除するこの力を、彼はとてつもなく嫌っている。

ずっと疑問に思っていた。

自分自身は平凡な人間で、それこそどこにでもいるような男子高校生だったはずだ。

お隣さんの不良少女も。

園芸部員の地味な女の子も。

彼女たちはみんな平凡の域から出ない、どこにでもいるような人間だった。

それは悪いことじゃない。

彼女たちは平凡でこそ輝いていたのだから。

なのに。

いつしか歪んでしまった。

不良少女は魔術師に。

園芸部員は『原石』に。

取ってつけたような常軌を逸した非凡な存在に変わってしまった。

ぼくはこんな世界を望んでいない。

最初は死に物狂いで、目の前の女の子を救い上げた。それはただの自己満足で、ましてや彼女からの好意を得ようなんて思っていなかった。

泣いていた。

救いを求めていた。

けれど、救いを求めるということは、求めた対象も巻き込まれてしまうということ。だから、彼女たちは一人で苦しんでいたんだ。

そんなのは許せなかった。

救い上げたことまではいい。

それで彼女たちがぼくなんかに好意を抱くなんてのは、絶対におかしい。

『理想送り』。

条件さえ満たしてしまえば、この世のありとあらゆるモノを世界の余剰次元へ追放する力。こんな得体の知れない右手こそが、現実を歪めたんじゃないのか。

そう、ぼく自身が彼女たちを歪めた。

右手を斬り落とそうとしたことだってあった。それは仮初の好意をもった女の子に妨害されてしまう。

でも。

それでも。

ぼくが戦い続けたのは何故だ?

決まっている。

見捨てられなかったからだ。

たとえそれがぼくに歪められた現実だとしても、目の前の人間が苦しんでいるのは紛れもない事実だ。

だから、救ける。

―――天使に取り囲まれていた彼を見た瞬間、上里の身体は無意識に動いていた。

即断即決。

苦しみながらも戦うステイルの表情に、彼はヒーローの証を見たような気がするから。

結果、ステイル=マグヌスは決してブレないたったひとつの信念を持っていた。

すでに記憶を失った『禁書目録』のために、全てを捧げる。彼の記憶に禁書目録という少女はいるが、禁書目録の記憶に彼はいない。

それでも、彼は戦い続ける。

上里がステイルに協力することを選んだのは、彼が自分にはないれっきとしたヒーローだったからだ。

故に、上里 翔流は戦地に飛び込む。

それこそがヒーローの本質だと知らないまま。

 

 

右手を振るう。

ステイルの炎の魔術によって描き上げられた影の巨人の手は、ただそれだけで垣根 帝督を消し飛ばすはずだった。

ゴバッ!!と頭上にあった風力発電機のプロペラが、喰われたように消え去る。

「……!?」

上里は息を呑んだ。

垣根を対象としたはずが、まったく別の場所にある風力発電機を消し飛ばした。

もう一度照準を合わせて、力を発動しようとしたところで気づく。

影が曲がっている。

垣根に影を向ければ、まるで光線がレンズを通ったみたいに屈折していた。

「おい」

嘲るような調子で言う。

直後、上里の全身にアイロンを押し当てたような焼けつく痛みが襲った。痛み、だけではない。顔に、首に、手に、火傷の痕が広がっている。

彼の驚愕をよそに、垣根はさらなる一手を打ち込もうとしていた。

「ボケッとしてんじゃねぇぞ」

六枚の翼が勢い良く開く。

現れたのは、上里の視界を覆う白濁とした塊。

この塊には『未元物質(ダークマター)』で構成されている以外、特殊な機能も干渉力もなにもないただの質量である。

特筆するところがあれば、その質量はあまりにも絶大。極限の密度と極大の体積が合わさった、常識外の超質量。

中学生がノートに描いたようなソレは、押し潰すというたったひとつの目的のみで放たれる。

だが、到達するよりも速く、上里の理想送りは極大の質量を余剰次元へと追放していた。

それは分かりきっていたのか、垣根にはさして動揺は無い。お茶を濁すように、適当に六体の純白と真紅の魔女狩りの王(イノケンティウス)を向かわせてくる。

この程度に手間取る上里ではない。

消し飛ばす。

六体の魔女狩りの王を根こそぎ排除すると、またもや全身に焼けつくような激痛が走り抜けた。

「な……ッ!?」

理解が追いつかない。

垣根はただ飛んでいるだけで、上里に多数の火傷を負わせている。

―――ただ飛んでいるだけ?

ハッとして垣根の翼に視線を向けた。

透き通る白と緋色の翼……その後ろには、燦々と地球を照らす太陽の光。

上里の脳裏をよぎるのは、『回折』という単語。

しかし、と彼はその予想を振り払う。

いくらソレを利用したとしても、太陽光線を殺人光線に変えることなどできるものか。

「分かってねえな、テメェ」

言った途端、翼がすさまじい光を発した。

それでもう充分。

上里の予想通り、アイロンを肌に強く押し当てたような灼熱する痛みが神経を蹂躙する。

「今のは『回折』だ。光波や電子の波は、狭い隙間を通ると波の向きを変えて拡散する。高校の教科書にも載っている現象だ。複数の隙間を使えば波同士を干渉させられる」

仮説は的中していた。

翼を介して太陽光線を通過させ、殺人光線へと変貌させた。だが、この世界の物理法則ではそうならないことは感覚で分かるだろう。

それなのに、太陽光線は殺人光線として上里に襲いかかったのである。

「俺の『未元物質』は正真正銘、この世には存在しない新物質だ。理論上では存在するはず、なんてチャチな話じゃねえ。本当に存在しないんだよ」

つまり。

「『未元物質』は既存の物理法則に縛られない、独自の物理法則に従って機能する。当然、干渉したモノもな」

『未元物質』は異世界の物質であり、それに干渉されればこの世界のモノも、独自の物理法則に従う。そのため、太陽光線を殺人光線へと仕立てあげることができたのだ。

上里の影を屈折させたのも、『未元物質』による干渉の結果だろう。

それに加えて。

この垣根 帝督にはもうひとつの手札がある。

炎よ(Kanez)――」

ボォ、と掌から炎が現出した。

形作るのは剣の刀身。

「――――巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

編み上げられたのは一本の炎剣。

これが構築された途端に、垣根は赤黒い血の塊を吐き捨てる。

「魔術……超能力者には使えないはずなんだけどね」

身近に魔術師の少女がいるからこそ、分かるし知っている。『能力者に魔術は使えない』……否、使えることには使えるが、行使した瞬間に術者は傷を負う。

なぜなら、能力者の脳は超能力を扱うための回路に仕上がっていて、そこに異物が混じると拒絶反応が起きる。

だというのに、垣根はステイルの魔術を完全にコピーした上で使いこなしている。それは何故か。

「俺の『未元物質』に常識は通用しねえ」

ステイルが扱う魔術はルーンと呼ばれる。世界最古の文字を基幹としたモノだが、彼は炎のルーンに特化した魔術師だ。

問題はここから。

魔術と『未元物質』の共通点。

魔術とは異世界の法則を現実に適用して、奇々怪々な超常現象を引き起こすことにある。

そして、未元物質はこの世には存在しない物質を操る能力―――そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

事実、ステイルがルーンで生み出した火とライターの化学反応で生み出した火は違うモノ。魔術の炎が強引に光を捻じ曲げたことからもそれは明らかになっている。

そこに気づけば後は簡単。

『魔術』を『未元物質』として扱えば良い。

それが垣根がステイルの魔術をコピーできた理由だった。

「関係ないな、全部消し飛ばすまでだ」

ドオッ!!と烈風を巻き起こし、垣根は突撃する。

振りかざされた炎剣。

紅蓮の炎が上里を斬り断つ直前、彼の行動は完了していた。

右手を握り込む。

たったのそれだけで良い。

垣根の頭部から胸部にかけてを理想送りが喰い破り、あっさりと勝敗は決した。

――『未元物質』に常識は通用しない。

振りかざされた炎剣が一瞬膨張し、骨片の灰すら残さない爆発が上里に直撃する。

「ごっ、がぁッ――!!!?」

咄嗟に理想送りで爆発を追放したものの、瞬時の行動により全体を削り取ることはできなかった。

ノーバウンドで数メートル吹き飛んだ彼の身体は、ビルの外壁に衝突することでようやく停止する。

痛覚が飛んでいた。規格外の衝撃は上里の意識をバラバラに引き裂き、うつ伏せ倒れるのみ。

脳の冷静な部分で弱い心に激を飛ばす。

爆発の影響で右眼がうまく見えない。左眼だけを必死に動かし、垣根の方向を見やる。

白い粒子が寄り集まり、肉体を再構成していた。心臓が形作られ、筋肉が編まれていく。

垣根 帝督に怪我や重傷という概念は無い。

『未元物質』の一粒も残さずに、新天地に追放しなくては倒しきることは不可能だ。

一切の問答を無用とした即死。

勝つ方法はそれしかない。

「立てよ、まだくたばった訳じゃねえだろ?」

両腕を広げながら近づいてくる。

彼にとって、この戦闘は実験にすぎない。新しく手に入れた己の力を測るための、勝利が確定した『遊び』だ。

「ま、テメェも頑張った方だ。無能力者のクセに俺を一回でも殺したんだからよ。――だから楽に殺してやる」

来る。

最後の一撃が、来る。

ブチブチと筋肉を断裂させながら、死に体で立ち上がる。握り締めるのは右手。

何よりも硬く握り締めた右の拳。

「『禁書目録』とやらも手に入れて、アレイスターとの直接交渉権でも勝ち取ってやる」

垣根は気づかない。

ある言葉が上里の戦意に火をつけたことに。

「俺の『未元物質』は世界に届くぞ」

禁書目録(インデックス)』を手に入れるだと?

ふざけるな。

あの男の渇望を無駄にするというのか。

あの男の切望を無碍にするというのか。

あの男の希望を打ち砕くというのか!!

顔も見たことがない。

声も聞いたことがない。

けれど、上里は戦うと決めたのだ。

『禁書目録』もステイルも何もかもまとめて救うために。

故に、彼は垣根の言葉を笑い飛ばす。

「お前じゃどこにも届きはしないさ。……やってみろよ、超能力者。彼らの幻想はお前らなんかに殺されやしないぞ」

「言ってろ、ハッタリはそこまでか?」

翼を大いに広げて、凄む垣根。

上里は薄く笑う。

「ああ。来いよ、チンピラ」

この言葉に、垣根の頭は沸騰しかけた。

それを理性で押さえ込む彼に、追撃とばかりに上里は自身の想いを浴びせかける。

「『()()()()()()()()()()()()()…!!」

「よく言ったじゃねえか。よほど愉快な死体になりてえと見える――ッ!!!!」

飛翔。

音速を軽く飛び越えたこの速度に、普通の人間が反応するなんてのは不可能だ。

したがって、上里は一瞬後には愉快な死体と化していた。

そのはずだった。

垣根が見たのは、死に際であるというのに笑う上里の顔。

垣根には分かる。

アレは勝利を確信した笑みだ――!!!

 

 

     「()()()()()()()()()?」

 

 

直後。

辺り一帯が理想送りに削り取られた。

垣根はおろか、アスファルトの地面も林立する建物も見えざる怪物に食い荒らされる。

理想送りとは、右手の影を起点にありとあらゆるモノを消し飛ばす力だ。が、右手の影を起点としたのは、理想送りの範囲が広すぎる故の応急措置。

リミッターを外した理想送りなら、条件を満たしさえすれば地球だって吹き飛ばしかねない。

その条件とは『願望の重複』。

ようは、理想送りはブレない信念を持つ人間には反応せず、多重の願いを持つモノだけを消し飛ばすのだ。

それは願望が重複した人間が創り上げた物体も例外ではない。

上里は皮肉げに笑んだ。

「……ぼくにこんな力を宿らせるなんて、神様ってヤツは意地悪だな」

そう呟いて、彼は崩れ落ちた。

 

 

ステイルとパラケルススの戦場は拮抗していた。

ステイルが全力を引き出せるのは、ルーンを描いたカードを配置した範囲内に限る。無論、範囲外でも魔術は扱えるが、彼の全力には程遠い。

「――巨人に苦痛の贈り物を!!!」

炎剣を振り回す。

それをパラケルススは難なくアゾット剣で防御し、赤黒い刃で切り返した。

首をひねって斬撃を躱すと、錬金術師の背後に迫っていた魔女狩りの王が両手を組んで振り落とした。

当たった――確信するステイル。

しかし、パラケルススは口の中で何かの単語を呟くと、炎の巨神の腕が真横に曲がりくねる。

「その程度かい? これくらいの児戯で終わってもらっちゃ、ボクが困るぜ?」

電柱の上に飛び乗って、パラケルススはステイルを嘲笑う。

彼の本領は魔術戦である。

まして、現代の天才魔術師ごときが400年前の天才錬金術師に勝てる可能性は無いに等しかった。

錬金術師にして医師だったパラケルススの功績は賢者の石の錬成、ホムンクルスの作成だけに留まらない。

四大元素。

パラケルススの生まれる以前から提唱された、古代ギリシャの世界を構成する四つの要素のことだ。

それらは『火』『風』『水』『土』。

これは現代の魔術まで利用されてきた属性であり、ひとつひとつに十字教の天使を対応させる考え方もある。

パラケルススが提唱した理論は、この四大元素のそれぞれに対応する精霊の存在。

火に対応するのはサラマンダー。

風に対応するのはシルフ。

水に対応するのはウンディーネ。

土に対応するのはノーム。

この思想を取り込むことで四大元素の理論は、すさまじいまでの発展を遂げる。後に原子の発見に繋がったとも言われている。

四大元素に対応する精霊は四大精霊と呼ばれ、エーテルという未知のエネルギーで身体を構成している。パラケルススはこの理論の開祖だ。

――彼の周囲に四つの光が尾を引いて飛び回っていた。それぞれが赤、緑、青、黄色に発光している。

ステイルが見たのは間違いなく四大精霊。魔女狩りの王の腕を捻じ曲げたのも、恐らくはサラマンダーによる干渉だろう。

「サラマンダー、シルフ、ウンディーネ、ノーム……キミも魔術師なら、この子たちのことも知ってるだろう?」

冷や汗が噴き出す。

ここにきて、ステイルは相対している相手の力を思い知った。四大元素とは言うのなら、世界を構成する『神の理』だ。

パラケルススはソレに対応する精霊を従えることができる。

「―――『四大元素の剣(Four Erementals Sword)』」

世界を構成する四大元素。それらの属性を司る精霊の力を宿したアゾット剣。

ドクン、とステイルの心臓が跳ねる。

あたかも細い糸で心臓を巻かれているかのような、鋭い痛みが胸に迸った。

極限まで凝縮された虹色の魔力が構成する剣は、世界そのものを軋ませているような錯覚すら覚える。

長大な刀身が振り下ろされた。

魔女狩りの王を前線に出して、虹色の刀身を受け止めようとする。

「ごっ…がぁあああぁああぁぁああああああッッッ!!!?」

あの炎の巨神が盾にすらならない。

回避行動に移っていたステイルすらも、余波でダメージを与えるほどの威力を発揮していた。

溢れ出る膨大な四大の魔力は刀身に凝縮されてもなお、強大な力を絶えず放出している。その放出された力を受けるだけでステイルに傷を負わせた事実に、彼は戦慄する。

「ボクの『四大元素の剣』は絶対切断だ。この世界にあるモノなら、この剣は紙みたいに全てを斬り裂く」

世界を構成する要素で鍛えられた剣は、世界の物質に干渉することでどんなモノでも絶ち切る。デタラメなその力に、ステイルは打ちのめされた。

脳内を駆け巡るのは対抗策の数々。

次々と策が浮かび上がっていくが、どれもが通用しないとして撃沈する。 

(……クソ!! なにか方法は――)

「それじゃあ、死ね」

四大元素の剣が魔術師を薙ぎ払う。

直前に炎剣を爆発させて逃れようとしていたようだが、時すでに遅し。切断とまではいかなかったが、彼を切り払った。

うつ伏せに転がったステイルの身体から、血の池が広がっていく。

同時に隠し持っていたルーンのカードが、舞い散る桜の花びらのように宙に舞った。

結局、天才魔術師は天才錬金術師に勝つことはできなかった。

…………だがしかし。

ステイル=マグヌスがパラケルススに勝てないなどという道理は存在しない。

燃える。

燃え上がる。

生命力を薪として燃え上がる業火は、彼の覚悟が灯った最高の炎。

散らばったルーンが火の玉と化す。

「……?」

何の気になしに、パラケルススは四大元素の剣を振るう。それだけで宙空に漂う火の玉は消滅し、残滓すらも残らない。

 

 

ただそれだけで、虹色の剣は瓦解した。

 

 

「これは……!!?」

喫驚するパラケルスス。

もう一度剣を造り上げようと試みるが、今度は火の玉自体がぶつかってきた。直後に起こるのは数瞬前の再現。

原因を探るパラケルススの思考は、いとも容易く結論に辿り着いた。 

「属性のバランスを崩した……なるほどね、それでこそ魔術師だ」

一見無敵に見える四大元素の剣。

これには弱点が存在していた。

四大元素それぞれの魔力を、均等にしなくてはこの剣は結び目を解くように瓦解してしまう。

本来は干渉する剣だが、干渉されることにはとことん弱く、このように属性のバランスを崩されれば意味はない。

普段なら四大元素の剣を作り上げた時点で、敵は瞬殺される。そのため、弱点とはいえない弱点だが、ステイルはそれを見抜いたのだ。

立ち上がる。

血まみれの身体で。

「――ッ!!」 

重なる。

あの男と。

上終 神理と。

〝どうした、パラケルスス〟

ヤツの声が響く。

これはただの幻想だ。

身体にまとわりつく炎を振りはらうように、パラケルススは咆哮した。

ステイルが動く。

青白い炎剣と赤い炎剣。

十字を描くように放たれたソレに、パラケルススはアゾット剣の切っ先を差し向ける。

青と赤の炎剣を受け止めるのは、虹色に輝く波紋のような楯だった。

「『四大元素の楯(Four Erementals Shield)』……!!」

均衡する四大元素の楯は、剣とは反対に全ての干渉を受け付けない世界の楯。

その前では炎剣はあまりにも脆弱だった。

そこから、楯は目まぐるしく剣へと変化し、確実にステイルの胴体を刺し貫く。

「かっ……た?」

それは、神のみぞ知る。

ただひとつ言えることは。

刺し貫かれたステイルの姿は、霞のように消えていたということだけだ。

 

 

「……手酷くやられてるじゃないか」

「きみに言われるのもどうかと思う」

あらゆるモノが消し飛んだ場所。

そこで、全身に火傷を負った高校生と血をだくだくと垂れ流す魔術師がいた。

魔術師の方は無駄な装飾がついたローブで傷口を縛っている。手早く治療しなければ危ないだろう。

「ケータイは……壊れてる」

恐らく、殺人光線の影響で内部の機器が故障したのだろう。外装もそれなりに熱くなっている。

「困ったな。カードを使い切ったから、焼いて塞ぐこともできない」

「そんなグロシーンをぼくに見せるつもりだったと!?」

ステイルのルーンは、あの時使用した二つの魔術によって全て消失した。

一つは四大元素のバランスを崩すための火の玉の術式。

二つ目はパラケルススを欺くための蜃気楼の術式だ。炎の熱気で蜃気楼を生み出し、ステイル自身の幻影をつくった。

実際には炎剣を放った時点でステイルは逃走しており、後に残っていたのは蜃気楼だけ。

(我ながらうまくいったものだ……)

もう二度とあんな真似はしたくない、と切実に願うステイル。

カードがないとはいえ、メモ帳の紙にルーン文字を描くだけで炎は使える。それで代用することにした彼は、口を開く。

「なあ―――」

―――直後、真向かいの空で青白い閃光が巻き起こった。

上里は気まずそうに言う。

「ええと、どうする?」

「傷口を焼いて止血してから行こう。流石にこのままじゃキツい。手伝ってくれ」

この後、上里が絶叫しながら施術を行ったことは言うまでもない。

そんな彼らの上空では、小指の第一関節ほどの()()()が浮いていた。

 




上里くんはキャラがキャラなので、ゆっくり丁寧に掘り下げていきたいです。
次回もまたよろしくお願いします。
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