とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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原作二巻に入ります。
よろしくお願いします。


黄金と愚者の黄金
『人間』が打ち砕くのは愚者の黄金


インデックスの事件のあと。

妙に顔を赤くしたステイルが、罵っているのか労っているのかよく分からない口調で感謝の言葉を述べてきた。

スポーツ解説者もビックリの早口でおまけに短いものだから、上条には一種の腹話術にも感じられたほどだ。

一方の神裂はサムライガールらしく礼儀正しかったが、それをチャラにするくらい驚いたのが実年齢が十八歳ということである。

思わず口に出してしまった上条がどうなったのかは、あまりにもあんまりなので省いておく。

彼らが伝えに来たのは『インデックスを預かっていてほしい』ということだった。

十万三千冊の原典。

それを守るための最終手段が、あの自我を失った状態。そもそも、インデックスが魔術を使えなかったのは、アレに魔力を使っていたからと考えられる。

そうなれば、魔力を回復しているかもしれない。

ありえないことだとは断言されているが、イギリス清教としては注意するに越したことは無いのだろう。

ステイルは『奪還しにいく』などと物騒な言葉を残していたが、おそらく照れ隠しのようなモノだ。むしろそうであってほしいと、上条は願っている。

いくら何でも立て続けに戦闘するのは耐え切れなかったのだ。

そんなわけで、美少女シスターと暮らすことになった上条。

彼はあることに悩まされていた。

うつむいたままの姿勢から、視線だけを机を挟んだ向かいへと移す。

そこにいたのは、液体も固形物もまとめて飲み物ですと言わんばかりに暴食を行うシスターだった。

上条は良識を持ち合わせた人間だと自覚している。そのため、年頃の女の子に食べ物のことで注意するのは気が引ける。

(どうする……ッ!? このままだと上条家の家計は火の車どころか、太陽レベルになってしまうのでは!?)

真っ赤に燃え上がる学生寮を幻視した。

ただでさえ、あの天使モドキに部屋が破壊されたのだ。その分のお金はイギリス清教から強請ったものの、入院費だって馬鹿にならなかった。

つまり、上条家の家計は大ピンチなのだ。

「あ、あのですねインデックスさん?」

話を切り出す。

神妙な面持ちの上条に、インデックスはキョトンとして首を傾げる。

「なにかな?」

「朝昼晩そんなに食べられてはウチの家計がですね? インデックスも女の子なんだから、体重とかカロリーとか……」

机に突っ伏して出来る限りの悲壮感を演出する。貧乏学生上条 当麻はお金がかかると強いのだ。

そろそろウソ泣きに移行しようとした彼は、重ねた両腕の間からインデックスの様子を覗く。

あたふたする彼女の姿を予想していた上条だが、あっさりとその予想は裏切られる。インデックスは得意気な表情で口元を緩めていた。

(お、鬼がここにいらっしゃる!?)

タダ飯食らいの居候シスターの本質に、上条は恐れおののく。本格的に炎上する上条家を夢見た彼は、ガタガタと震える。

すると、インデックスは懐に手を突っ込んで、なにやら分厚い茶封筒を取り出した。

上条の身体が凍りつく。

「ま、まさかそれは!?」

「ジャパニーズマネー! なんだよ!!」

恐る恐るそれを受け取り、汗ばんだ手で口を開く。中に入っているのは間違いない、諭吉さんの群れだった。

それとともに、二つ折りにされた白い紙が滑り込ませてある。

「?」

どうやら手紙らしい。

開けば、懇切丁寧な字で長々とした文章がしたためられていた。送り主は神裂のようだ。

『二人で仲良く使うように』という言葉で締めくくられている。

インデックスを抱きしめたい感情に駆られたが、脳の冷静な部分が行動を停止させる。飛びかかる前のネコのような体勢で、上条は思う。

「……どうして今出した?」

ギクリ、とインデックスが震え上がる。

神裂の手紙には封筒に入っている金額が記されている。実際にある額はそれよりも少ない。

上条は呆然と視界を上げた。

冷や汗をかいているインデックスが目をそらしながら、

「げふん」

直後のことである。上条の頭の中で何かが切れた。

「てんめぇぇぇぇ!!!」

「お、お菓子を少し買っただけなんだよ! それに、あまりにも恵みが無いこの家はおかしいかも! となりのまいかは――」

「よそはよそ! うちはうち! どうやら一般人と『少し』の感覚が違うことを理解してねぇな!?」

今度こそ上条は飛びかかる。

消費されたお金は確かに少なかったが、貧乏学生にとってはそれでも惜しいことだ。

「とうまにだって責任はあるんだよ! 私の心にサタンを生み出したのは紛れもなくこの環境のせいなんだから!」

上条の飛びかかりを回避して、インデックスはカサカサと彼から距離を取る。

「なんて清々しい責任転嫁!? 上条さんだってスイーツ☆を食べたくなるときもあるんですぅ!! サタンに負けたのはお前じゃねーか!」

負けじと追いかける上条。

テーブルをぐるぐると回る鬼ごっこは、上条が本棚の角に足の小指をぶつけることで終結する。

悶絶する彼の顔のそばにあった携帯電話が、けたたましい音を鳴らした。

「はい……」

半泣きで言う。

満身創痍の上条に追い打ちをかけるかのように、小萌先生の声が響いてくる。

『明日は記憶術の小テストなので、ちゃんと勉強してきてくださいねー? 上乗せ課題の提出期限も明日までなのですよ』それだけ言って、通話は切れてしまう。

上条は床に両手両膝をついて叫んだ。

「不幸だああああああああ!!!」

八月八日。

上条 当麻の一日は始まる。

 

 

本棚を見ればその人の性格がわかるという。

上終 神理はというと、本棚どころか本がマンガ一冊もなかった。基本的な知識はあるのだが、専門的な分野になると疎いのはこのせいだ。

このままではさすがに不味いと判断した上終は、数少ない日本円を握りしめて書店を訪れていた。

人生初の買い物に感動を禁じ得なかった彼は、ぎこちない動きで店内に入り込んだ。

その際に、ある広告に視線を吸い寄せられる。

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爽やかな笑みを浮かべる合格生と講師陣の画像が切り貼りされたポスターだ。

多少胡散臭い部分はあるが、やはり全国シェアトップということはソレに足る実績があるのだろう。

(学校、か)

興味はあるが、年齢に応じた所へ通わなければならないのなら、上終は保育所からスタートしなければいけない。

その事実に気づいて、生後五ヶ月未満の少年はがっくりと肩を落とした。

(そういえば、上条 当麻も高校生だったか)

ツンツン頭の少年を思い出す。

面と向かって話したことはないが、上里と並んで上終の興味を引く人物のひとりだ。

似ている、という感覚は変わらないが、あの後に気づいたことがある。

何か決定的な部分が違う。まるで本物のモナリザと、それを機械で精巧に描き写したモノを並べたような違和感。

これを置き換えるのなら、上条・上里が本物の絵で上終が偽物の絵である。

脳の奥深くは理解しているはずなのに、それを口に出せない奇妙な違和感があった。

思考の深みにはまりかけていたが、必死に振り払って本の吟味に向かう。

……数十分見回っているだけだったが、上終にとっては満足な時間だった。意外なのが、学園都市だというのに占いやオカルト系の本が置いてあることだ。

科学漬けにされている分、ここの学生はそういう方面に飢えているのだろうか。

自己催眠的な方式を取ることで能力を発動させる者も少なくなく、いかにも魔術のような動作をする能力者もいるのだという。

増えた知識に上終は高揚感を覚える。

(これは……ああ、そうか)

もしかしたら、『上終 神理』は勉強が好きなのかもしれない。

記憶を失くす前は路地裏に転がされていたため、ロクでもないヤツだろうが、今の上終は違うのだ。

そうと決まれば買う本のジャンルはひとつ。

参考書コーナー。一通りの教科を揃えただけで勉強した気になれるという魔境である。

目についた一冊を手に取ろうとしたとき、横から伸びてきた右手とぶつかり合う。

「おっと、すまない」

「いや、こちらこそ……って」

互いの顔を見合わせる。

上条 当麻と上終 神理が期せずして出会うこととなった。

無論、そこに第三者の思惑が存在していることは、彼らには知る由もない。

 

そんなこんなで。

「さんぜん、ろっぴゃくえん……」

一昔前の少女マンガのような驚き方をするインデックス。

上条のマイバックに納まる参考書を恐ろしげに見つめ、彼女は信じられないといった表情をしている。

そうして、ボソッと呟く。

「とうま、それだけあったら何ができた?」

「……げふん」

上条は目をそらしながら、バツが悪そうに咳き込んだ。

その行為がいけなかった。二秒後にはインデックスに飛びつかれ、頭皮に何度も犬歯が突きたてられる。

「ギャアー!? ハゲるハゲる!!」

組み伏せられたプロレスラーのように地面を叩く。

上条は近くにいるレフェリー(かみはて)に助けを求めていたのだが、彼は微笑ましくこの光景を見守っていた。

「た、助けてくれ!」

上条の叫びに、上終は首を傾げて言う。

「む、じゃれているんじゃなかったのか?」

「これがそんな場面に見えやがりますかチクショー!」

確かにヘビに捕食される前のカエルにも見える。日常的に魔術をぶっ放されている上終は、感覚が麻痺していたのだ。

彼が止めようとする寸前に、インデックスは気が済んだようで上条から離れる。

むっすー、とした顔で暴食シスターは上空の上条の背後辺りに人差し指を向けた。

その先ではアイスクリームショップの看板が、くるくると回っている。距離は遠くないが、人通りが少ないのが気になる。

「アレで許してあげるんだよ」

「……3600円分もアイスは食えないぞ」

バチバチと視線をぶつけ合う。

そんな二人をよそに、上終はアイスクリームショップを確認した。

「………」

これは言うべきなのだろうか。

きっと、これを伝えてしまえばインデックスはまたもや猛獣少女と化すだろう。

だが、隠した方がとんでもないことになるだろうと判断して、上終は事実を伝えることにした。

「二人とも、この店は休業だ」

 

結局、安っぽいファーストフード店でインデックスの欲望を紛らわせることに。

彼女の機嫌取りに奔走する上条は、ゆっくり過ごせる席を探していた。だがしかし、午後の店内の混み具合は半端ではなかった。

通勤ラッシュ時の駅みたいに人がごった返している。

「そっちはどうだ?」

「ダメだ。ギャルが先生の背中に火つけるとか物騒な話してた」

「……そんな街なのか、ここは」

口の端をひくつかせる上終は、呆れたように言葉を捻り出した。

二人はおっかなびっくり後ろに目を向ける。

黙り込んでいるインデックス。彼女の両手の上には、バニラとチョコとイチゴの三つのシェイクが載っていた。

上条のツッコミ気質が疼いたが、この状態の彼女を刺激すれば死亡確定だ。

「……とうま、私は是が非でも座って一休みしたい」

ぽっかりと穴が開いたような、感情が篭っていない声だった。

従わなければ丸かじりにされるだろう。

(昼食を作り置きしておいたのは正解だったな)

現実逃避する執事兼料理人の上終。明け色の陽射しでの仕事は、掃除と料理しかないのだ。

そんな彼を置いて、上条が店員さんの元へダッシュする。事情をほんわか風味に説明すると、営業スマイルで窓際の一角を指差してくれた。

指先を追いかけてみれば、

「うっ!?」

ちょうどぴったり収まる四人掛けのテーブル席だった。それは良い。

そこには、明らかに時代錯誤というか場違いな人がいる。

端的にいえば、巫女さん。

巫女さんが机に突っ伏していた。

これはマズいと確信した上条は、上終とインデックスに話しかけようとしたが遅かった。

「座らないのか?」

上終は図太く問う。彼も大概変人である。

瞬時に上条は『上終 神理』を脳内の変人ブラックリストにぶち込んだ。話した回数はほぼ無いが、上条の考えは間違いではない。

忍び足でテーブルに近付くと、巫女さんの肩が小さく動いた。

「く」

上条は嫌な予感を抱えながら、巫女さんの紡ぐ言葉を待つ。

「―――――食い倒れた」

 

 

学園都市には不思議な建物がある。

『窓のないビル』。

通称の通り、そのビルにはひとつも窓がない。しかも中に入るためのドアもなく、階段もなく、エレベーターも通路もない。

これでは建物としての機能を果たせるはずがなく、このビルに侵入するには空間移動能力が無ければ出入りも許されない最硬の要塞なのだ。

核シェルターを優に超える強度を誇る窓のないビルに、一人の魔術師が立っていた。

ステイル=マグヌス。

魔術師である彼は、本来この学園都市にいてはいけない存在だ。イギリス清教に所属するステイルは生粋の魔術サイドの人間である。

そんな彼が学園都市にいるということは、ひよこの群集に子犬が混じっているのと等しい。

つまり、彼にはそれほどのコトを実行するだけの理由があった。

『イギリス清教代表』として『学園都市』と対話しに来ているのだ。自分の上司に魔術を向ける彼が選ばれるのは、人選ミスだろう。

「……」

胃もたれのような不快感。

今まで何人もの魔術師を殺してきた彼でさえも、ソレには慣れることができなかった。

ビルの中であることを忘れてしまいそうな広大な空間。一切の照明が存在しないこの部屋を照らすのは、壁に設置された無数のモニターの光。

壁から数えきれないほどのチューブやケーブルが中心に向かって伸びている。

中心にあるのは巨大なビーカーだ。

学園都市製の強化ガラスでできた円筒には、弱アルカリ性培養液を示す赤い液体が満たされている。

そして、ビーカーの中には逆さに浮かぶひとりの『人間』がいた。

聖人、囚人、罪人、識者、賢者――人を表す言葉は多々あるが、男にも女にも子供にも大人にも見える『人間』は『人間』としか表しようがない。

「ここに来る人間は皆、私の在り方を観測して、同じ反応をするのだが―――」

ステイルの考えていたこと。

ビーカーの中の『人間』はそれを見抜いていた。

誰に問われたわけでもなく、『人間』は答える。

「―――機械にできることを、わざわざ人間がする必要はないだろう」

推定寿命1700年。

『人間』の限界に到達したソレに、ステイルは恐れを抱く。

学園都市の科学力にではなく、出来るからと言って物言わぬ機械に命を預けるその在り方に。

合理と理念の塊。

『人間』とはここまで歪んでしまえるのか。

「ここに呼び出した理由はすでに分かっていると思うが――――不味いことになった」

学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーは淡々と告げた。

「『吸血殺し(ディープブラッド)』、ですね」

アレイスターは存外普通に頷く。

彼が語るには、超能力者の一つである吸血殺し自体は問題ではないらしい。が、それに本来立ち入ってはいけない魔術師が関わってきたコトが問題なのだという。

基本的に魔術サイドと科学サイドは絶対不可侵を結んでいる。魔術師の一人や二人処理することは容易いが、それこそがタブー。

仮にも自陣側の魔術師が、科学サイドの超能力者に倒されることに良い顔はしない。つまるところ、ステイルが呼び出されたのは『魔術師の処理』だった。

魔術師が魔術師を倒すのなら、内輪揉めということで解決してしまえる。

「それで、問題となる『戦場』の縮図だが」

暗闇に画像が浮かび上がる。学園都市の研究所などではありふれた技術だが、魔術師であるステイルにはどんな方式なのか見当もつかない。

画像に映し出されているのは、一見どこにでもあるような普通のビルだ。

端には『三沢塾』と綴られている。

アレイスターが語った内容はこうだ。

学園都市には『超能力開発』という飛び抜けた教育がある。三沢塾が学園都市に進出してきたのは、この特有の学習法を盗んでくるためのスパイ。

中途半端に超能力開発をかじった三沢塾は悪い感化を受けた。一言で表すなら、科学崇拝のようなモノだ。

『自分たちしか知らない科学技術』。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――そんな、新興宗教じみた考えに取り憑かれた。

学園都市の三沢塾支部校は、その『教え』に従って吸血殺しの少女を監禁。

それは吸血殺しに利用価値を見出したのではなく、『この世に一つしかない再現不可能の能力者』であれば誰でも良かったらしい。

ステイルは目眩を覚える。

『吸血殺し』。これを語る上で欠かせないある生き物は、科学とは真反対を行く怪物であるというのに。

「………」

この話がややこしいのは、吸血殺しを監禁した三沢塾を魔術師が乗っ取ってしまったところである。

三沢塾に潜む魔術師を見つけ出して始末しなければならない。

230万人の能力者が溢れかえるこの場所で、たった一人の孤独というのはステイルには愉快だった。

「そうでもない」

釘を刺すようにアレイスターは言った。まるで本当に人の心を読んでいるかのような奇妙さだ。

「魔術師にとって天敵となる『一つ』を、私は保有している。否、『二つ』と言った方が正しいか」

ステイルの脳内ではアレイスターが暗に語る人間の名が浮かび上がっていた。

「……『幻想殺し(イマジンブレイカー)』」

「そして『理想送り(ワールドリジェクター)』だ。さて、君には上条 当麻を協同相手として欲しいのだが」

魔術師に断る選択肢は無い。

ただひとつ、彼には疑問があった。

「超能力者が魔術師を倒すのは悪いのでは?」

「それも問題ない。アレはスプーンを曲げる力も持たない正真正銘の無能力者だ。価値のある情報は何も無い。科学側に魔術側の情報が流れ込む心配はしなくて良い」

心の中で舌打ちする。

目の前の『人間』の腹積もりが読めない。

『幻想殺し』は230万分の1の奇跡などというレベルではない。地球人口約70億分の1の神の悪戯だ。

それが異能なら、たったの右手一本で紀元前モノの神器すら破壊してしまうほどの稀有なチカラ。

だというのに。

アレイスターはぞんざいに扱う。

あたかも鋼を打つ刀鍛冶のように。

『人間』は思い返したように付け加える。

「『天地繋ぎ(ヘヴンズティアー)』が介入してくるだろうが、泳がせたままにしておいてくれ。ヤツに手を出されると面倒だ」

『天地繋ぎ』。それを言ったとき、アレイスターの声に初めて感情が灯った。

ぞんざいに扱うことは変わりないが、幻想殺しとは訳が違う。喩えるなら、訓練と虐待のように。

軍隊の訓練は当然厳しいモノだが、それは兵士の成長を促すためだ。上終にするのは人間が鬱憤晴らしのために、動物を叩く行為と言い換えていい。

厳しさの種類が圧倒的に違っている。

「それでは、頼んだ」

ステイルは超能力者に手を引かれ、空間移動によってこの場を去った。

しばらくした後、巨大ビーカーの後方の暗闇から一匹のゴールデンレトリバーがのそりと現れる。

木原 脳幹。

人間と同じだけの知能を持った、一人の科学者だった。

彼はロボットアームを駆使して葉巻を吸う。

「『天地繋ぎ』を介入させて良かったのかね? アレは君の『計画』に邪魔な存在だろう?」

「構わない。三沢塾にはあの錬金術師も潜入していることだ。ヤツらを潰し合わせる。それで始末できれば良いのだがな」

脳幹は甘ったるい煙を吐き出す。

彼はロマンを理解する男だ。『天然モノの対魔神兵器』と評した脳幹にとって、上終は興味深い研究対象に属する。

だが、脳幹に言わせればただのそれだけ。

「ふむ、研究対象としては気にかかるのだが……上終の行動は好かないな」

アレイスターは同意する。

「ああ。アレは喩えるのなら、黄金と黄鉄鉱か。外見は似ているが本質が異なる――愚者の黄金だよ」

黄鉄鉱(パイライト)

黄金色の輝きを放つこの鉱石は、素人が見れば黄金と間違えて喜んでしまうことが多い。

故に、愚者の黄金。偽物にも成り切れない、愚者のみが囃し立てる鉱石である。

黄金を前にすれば全てがくすんで霞んでしまうソレが指し示すのは上終 神理。

「―――()()()()()()()()()()()()()()()を打ち砕くぞ」

『人間』は微笑む。

愚者の黄金が粉砕される未来を見据えて。

 




次回は三沢塾に突入。
上終くんにはそろそろ地獄を体験してもらいます。
それでは、次回お会いしましょう!
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