とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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四話と合わせて読んだほうがいいかもしれません。



戦塵の先触れ

「……へぇ。お前らの協力をしろ、ってこと」

イギリス・ロンドンの無数にあるビルの一つ。その屋上で、白髪の幼女と青色の伊達男が対峙していた。

それだけで殺しかねない殺気を向けられる青色の伊達男は、ゆらりと殺気を受け流す。

「そうだ、『白の禁書目録』。俺らと組んで明け色の陽射しを殲滅しようぜ。過去のことは水に流してよォ」

ケセド=フロイデンベルクは嘯く。

まるで挑発するかのように。

口角を限界まで吊り上げて、レプリシアは笑みのような複雑な表情を作り出す。

「断る」

「おいおい、しっかり考えたのかよ?」

冷や汗を浮かべて問いかける。

その口調に反して、彼は腰を沈め膝を曲げて戦闘態勢をとっていた。

「無論、考えるまでもない。わたしの望みは魔術師を一人残らずブチ殺すことだ。――『神血大聖槍』」

『槍』が顕現した。

ただそこにあるだけで世界を歪める聖遺物。手にした者は世界を支配すると謳われた、神話級の聖槍がぎらりとした光をそり返す。

槍が動く。

――死んだ。対峙するケセドでさえそう錯覚してしまうほどの存在感と殺気。

音速で挙動するレプリシアが繰り出す、世界最高の槍に青色の伊達男は呆気無く――――

「――ッあァ……!?」

「ナメるなよ、クソガキ」

―――打ち抜かれることは無かった。

なぜなら、レプリシアの両腕が一瞬にしてミンチと化し、槍ごと地面に叩き落とされたからだ。

それも全くのノーモーションで。

何か魔術的な動きをすれば、レプリシアは一瞬とかからずそれを潰すことができるが、青色の伊達男は魔力の気配も何も無かったのだ。

ケセド=フロイデンベルクは酷薄に笑いながら、崩れ落ちたレプリシアを見下す。

「油断禁物。いい言葉だと思わねぇか」

白髪の幼女の顔面を爪先で打ち据え、靴底の裏で後頭部を地面に押し付ける。

自身の血に溺れながら、レプリシアは屋上の至る所へ視線を走らせ、解答を導き出した。

「あらかじめ……結界を………?」

「正解だ。迂闊だったな……さて、『テメェはこれくらいじゃあ降参しねぇよなァ』!!」

今度こそ、レプリシアは嗤う。

極限まで凝縮された闇を瞳に忍ばせて。

「『伝承変更・完全治癒』」

ズグ、と潰れた腕の断面から肉が隆起する。

その肉塊は徐々に人間の腕の形に整っていき、依然と寸分違わぬ細腕が再現されていた。

病的なまでに白い指で槍を掴み取り、幼女らしからぬ妖艶な微笑みで頷きかける。

「ええ。その通りよ、おじさま。――『伝承変更・絶対貫通』」

それを聴いた瞬間、ケセドは全力で屋上の外へ跳んだ。

直後のこと。

ドォッ!!!という轟音を引き連れて、槍が真紅の光線を放つ。

真紅の光線――刺突は、進行方向上の物質を全て削り取り、地平線の彼方まで直進していく。

「化け物が……!!」

真紅の光線を見送りながら落下する。

おそらく、あの刺突は重力を振り切って宇宙にまで到達しているのかもしれない。

レプリシアの位置を確認しようとして、ビルに目を向けたその時、ケセドは言葉を失った。

「殺す殺す殺す!!!!」

ビルを足場にして地面へと駆け下りながら、突っ込んでくる!!

「チッ!『調整』はしっかりしとけよ!クソが!!」

悪態をつきながら『空気を蹴る』。

真っ直ぐに落下してくるレプリシアは、急激な方向転換に追従できず地面に墜落する。

しかし、彼女は世界に20人といない『聖人』の一人だ。

苦もなく着地を決め、撃ちだされた弾丸のように飛翔する。

『生命の樹』序列第四位、ケセド=フロイデンベルクと『白の禁書目録』、レプリシア=インデックスの人智を超えた競争が、始まった。

逃げるのはケセド。

追うのはレプリシア。

捕まれば、死あるのみ。

 

 

昔の捨てきれなかった記憶。

儚く尊い、彼女との記憶。

……今ではもう、すっかり色褪せてしまった。

その少女が産まれたのは、異世界の法則を現実に適合し、ありとあらゆる現象を引き起こす技術――魔術の家系。

世界各地の様々な伝承や伝説を利用する魔術だが、少女の魔術結社はその点において特異といえた。

始まりは、国家や組織の支配のためにカリスマを研究する機関。

カリスマというのは、とある聖書に書かれた『神からの贈り物』を意味する宗教用語だった。これを社会的な用語として使い始めたのは実に20世紀である。

その機関は当時としては、革新的な思想を持つ団体であったといえるだろう。

宗教と密接な関わりがあるため、元々オカルト色が強かった機関が具体的に魔術の道へ傾倒していったのは19世紀。この頃誕生した『魔術結社』によって、多数の魔術結社を生み出したのだ。

それは、世界最古の友愛団体から派生した一組織。

それは、錬金術・天文学・カバラなどの魔術を専門とする魔術結社。

それは、近代の西洋魔術の雛形を創り上げた『黄金』と呼ばれる集団。

――『黄金の夜明け団』。

創始者は西洋にありながら仏教の要素を取り込もうとするなど、宗教や人種には貴賎を持たない人間だった。

その思想と才能ある初期の魔術師たちの手により、『黄金』は急速に広がりを見せることとなる。

機関は『黄金』を調査し探求するうちに、魔術の道に取り込まれた。

この時の実情はまさに常軌を逸したモノであり、『カリスマを研究する組織』が『カリスマに呑み込まれた』ことから、どれほど強大であったのかがうかがえる。

機関は魔術結社として新生を果たし―――『明け色の陽射し』と、そう名付けた。

魔術結社となっても『カリスマ性の研究』は目的として掲げており、故にその少女もカリスマを持つ人間であるように教育された。

支配者に相応しい魔術の実力。

君臨者の資格である傲岸不遜な態度。

それは少女の人格をバラバラにして新しいパーツを加えたあとに、全く柄の違うパズルを組み上げるようなモノ。

口調に声色、出で立ちと振る舞い、容赦ない理詰めの思考から効果的な制裁の方法まで、全てを教え込まれた。

そうして一個の支配者として少女が出来上がり、彼女はある幼女と出会う。

綺麗な艶のある黒髪。

妖精のような可愛らしい容姿。

……だからなのかもしれない。

支配者となるべく育てられた少女にとって、その幼女はとても輝いてみえた。

〝わたしは『アナスタシア=フランキッティ』!!アナタは?〟

〝……レイヴィニア=バードウェイ〟

それは、遠い過去の儚く輝く綺羅星(きおく)

「……悪い夢だ」

掛け布団を跳ね除ける。

無造作に飛び跳ねた髪の毛を直しながら、ベットから降りた。

あくびをしてから扉を開いて、階段を下ったところの居間へと向かう。どうしてかはわからないが、人といたい気分だった。

すると、空腹を増長させるような芳しい香りが漂っている。鼻孔をくすぐるその匂いの出処は、やはり台所。

「……」

白いエプロンに三角巾で髪をおさえたまま料理を行う、上終の姿があった。

レイヴィニアに気づいた上終は、作業を行いつつ話しかける。

「起きたか。もうすぐできるから座っていてくれ」

「オカンか、お前は」

自身でも納得してしまったのだろう。上終はなにやら微妙な表情をしていた。

表情をしっかりと引き締めると、彼はレイヴィニアの目をみて、言う。

「君のことを教えてくれ」

「……は?」

汚らわしいモノをみるような目で睨まれる。彼女の中で上終の階級が一段下がった音がした。

だが。

そこはもう百戦錬磨の上終である。

心に少しの寂しさを覚えながらも、言葉を繰り出すことにする。

「勤務先の仲間もボスのことも知らないようでは、使い物にならないだろう」

「もしかして、全員に訊いたのか……?」

首肯する上終。

訊き終わったあとに皆青褪めた顔をしていたことは伏せておく。

「……保留だ。今度話してやる。お前が生きてたらな」

「そうか。なら楽しみにしておこう」

 

トン、と細い人差し指が机を叩く。

トン、トン、と回数が増えるごとにカップに注がれた紅茶に波紋が生まれる。

それが表すのは苛立ち。

これを眺める赤髪バーコードの神父は、ため息とともに煙を吐いた。

「タバコ、けむいわよ」

「無理ですね。僕はニコチンと生涯を添い遂げ、棺桶も花の代わりにタバコを詰めることが生きがいですから」

「……ニコチンの悪魔に取り憑かれているのではないかしら」

吐き捨てるように呟いた金髪の美女。

身長の倍以上はある、まさしく黄金めいた金髪をそこらに振り乱し、ベージュ色の修道服を着ている。

彼女は端正な顔を忌々しげにしかめて、不良神父に八つ当たりする。

猫のようなパンチを回避しながら、神父は金髪の美女が気にしているであろう話題を口にした。

「『レプリシア=インデックス』……いやはやまったく、どうしてあんなのが出現したのか。黄金の夜明け団も酔狂ですね」

「ステイル、貴方こそがもっとも憤怒しているのではなくて?」

口を閉ざす。

血管が浮き出るほど強く握りしめられた拳は、ステイルの怒りの象徴か。

「ええ。アレはインデックスへの侮辱だ。神父として純情な少女を化け物に変えたことにも憤りを覚えます。……ヤツらを焼き尽くしてやらないと気が済まない」

「ふぅん……さて、レプリシアを探知する術式があるのだけど」

ふふん、と笑みを浮かべて紅茶をたしなむ金髪の美女。

その時、ステイルのなかのナニカが切れた。パレードのように盛大に切れた。

「……計りやがったな、クソ教皇」

「あら。そんなこと言いしものならあげないわよ?」

言い詰まるステイル。

得意げな表情をする教皇に、堪忍袋が大爆発を起こしかけた。全てのニコチンを集約してそれを抑えると、観念して頭を下げる。

「よろしい。出るときに受け取っておきなさい。疾く向かうことよ」

「ち、ちくしょう……!!」

絶対にこの女の思い通りになってたまるか。そう決心したステイルであった。

 

『明け色の陽射し』、アジト付近。

辺りはすっかり暗くなっているが、ロンドンの街は賑やかさを保っている。

そんな夜の街を歩く三人のアウトローじみた集団……レイヴィニア、マーク、上終たちだった。

「……嗅ぎまわってるな」

杖の先で建物の壁を軽く叩く。

少女の呟きにマークも頷いて同意した。

「どうやら、そのようですねえ。それで、どうします?」

「下手に逃げて移動を狙われても面倒だ。待ち構えて正面から叩き潰す」

「俺が来た意味はあるのか?」

不機嫌そうに口を挟む上終。

二人は同時に上終の方を振り向いて、口を揃えて言い放つ。

「肉壁です」

「肉壁以外に何かあるのか」

上終は空虚な目でそれを受け止める。

二人の言った内容を頭の中でゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。

満身創痍から一晩で回復する治癒力。

戦闘能力が無いに等しい下っ端。

レプリシアから狙われる魔術の気配。

これ以上ない最高級の壁だろう。

「た、確かに…」

納得した上終の様子を見届けると、レイヴィニアとマークは再び話し合いに入る。

「となると、見つかるのは時間の問題ですね。連絡しておきましょう」

「……もう言ってある。なぜなら――」

その直後。

爆発とガラスが割れる爆音が、三人の鼓膜を叩いた。

反射的にその方向に視線を投げれば、アパートメントの一室が轟々と黒煙を吹いている。

さらに。

「はッ!ビンゴだったぜ『白の禁書目録』さんよォ!!」

「へぇ!わたしが殺せなかったのはあなたで三人目よ!でも殺す!!」

青色の伊達男と白髪の幼女が、高速で落ちてくる。

青色の伊達男は上終に向き直り、白髪の幼女はレイヴィニアに槍を向ける。

「小僧、すこーしだけ楽になってもらうぞ」

上終を狙うのは群青。

魔神の域に近づいたレプリシアを出し抜き、両腕を潰して逃げ延びた男。

魔術サイドの暗殺者で最高峰といわれた処刑人。

「レイヴィニア!殺し合おうか!!」

突撃する『白の禁書目録』。

聖遺物の真の力を再現した聖槍を振るう、世界有数の聖人。

――黄金の夜明け団が造りし最高傑作の殺戮兵器である。




それでは四話へGO
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