とある魔術の天地繋ぎ   作:なまゆっけ

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戦闘無しの息抜きフェイズ。
頭空っぽにして読んでください。


明け色の陽射しと黄金の夜明け団
共同戦線


あれから一週間。

西洋最大級の魔術結社『黄金の夜明け団』に正式に敵視された『明け色の陽射し』。

ティファレトを人質に交渉などもしたが、ことごとくを話も聞かず突っぱねられていた。

黄金の夜明け団は恐るべき執念で『明け色の陽射し』のアジトを特定し、次々と襲撃をかけてくる。その激しさと頻度は常軌を逸している。

そんなわけで。

イギリスの夜の街を明け色の陽射し……もとい、上終たちは絶賛逃亡中だった。

「上終さん!もっと速く!」

「お、俺は人を抱えてるんだぞ!?」

アナスタシアに急かされて、上終は文句を言いつつ右肩に担いでいるブツを持ち直した。

真紅のドレスの美女、ティファレトは『天地繋ぎ』で止められているため、罵倒することはない。が、とんでもない表情で不満を露わにしていた。

ということは、止められるまえにその表情をする必要があるわけだが、いつそんな技術を覚えたのだろう。

「死ね!」

物騒な言葉とともに、追手から魔術の炎が放たれる。

ティファレトを抱えながらでは回避できない。かといって右手を向けることもできず、上終はアナスタシアに任せることにした。

「『物質変形:武装錬成』!……おかず増やしてね!」

アスファルトから槍を造り出し、炎を薙ぎ払う。仕事をしつつ、ちゃっかりと要求をしてくる。

このせいで上終の仕事が増えたが、丸焼けにされるのを免れただけありがたい。

身体を焼かれる感覚なら、ティファレトにレプリシアと続けて体験したせいで慣れてしまったようなものだが。

「すまない、助かった!」

ついでに追手を追い払ってきたようだ。

アナスタシアの有能さに、上終は荷物運びしかしていないことに気づくが、一瞬で封殺した。

周囲に視線を投げて敵影を探す。

「……よし。移動するだけだ」

妙なことに慣れてしまったものだ、と上終は嘆息する。

これまでの上終の認識では、魔術師は魔術を隠すモノ、という印象が強かったが黄金の夜明け団にはそういう意識は無いらしい。

位置としては、アジトまで歩いて数分もかからない場所にいた。念の為、最短距離では向かわずに、遠回りしたルートを選んで撹乱しておく。

かなりアナログな尾行回避術だが、昔から使われる手法は有効だからこそ淘汰されずに残ってきたのだ。

今回のアジトは高層マンションの……三階にある部屋だった。

「……三階か。こういうのはもっと高いところを取るんじゃないのか?」

上終が訊くと、アナスタシアは得意気な顔で、

「逃げるときに不便でしょ?飛び降りるにしても、地上二十階!なんて高さからだと死んじゃうからね」

「ふむ、確かにそうだな。俺の知識には無かった。覚えておこう」

ブツブツと独り言を呟く上終に、黒髪の少女は何とも言われぬ変人感を覚えつつ、部屋の扉を開ける。

余計な物がなく、決して華美ではない。だが、それがこの部屋が組織のアジトであることを表していた。

鍵をかけてティファレトを降ろすと、上終は居間を突っ切っていって、真っ先に台所を確認する。

(なんという執事力……いや、小間使い?)

疑問に思うアナスタシア。

すると、奥の方から声が飛んでくる。

「上終ぇ!さっさとメシつくれ!辛いのはダメだぞ!」

小間使いであることを確信した。

ボスの側近が荷物持ちで小間使いというのは、明け色の陽射しの歴史でも珍しいどころか存在しなかっただろう。

クツを脱いで居間に向かう。

家庭的な換気扇と食材を焼く音に、心地よさを感じながら進んでいくと、

「紅茶よ!紅茶を淹れなさい!」

椅子に腰かけたティファレトが、捕虜とは思えない傲慢さで指示を飛ばしていた。

意趣返しのように、上終は冷蔵庫からペットボトルの紅茶を取り出して投げつける。真紅の美女はそれを難なく掴み取ると、投げ返して上終の顔面に直撃させる。

「ぶぐぅっ!?」

鼻頭を押さえて涙目になる上終。

やはり不憫な男なのだった。

 

――その場面を眺める人影があった。

はるか地上。

道路を挟んで向かいの高層マンションの屋上から、その女性は上終たちの姿を視認していたのだ。

「当たりです。ステイル」

見目麗しい美人。

長い髪をポニーテールにしてまとめ、巨大な胸が白いTシャツを狭苦しそうに押し上げている。片方の裾を根元まで切り取ったジーンズに腰のウエスタンベルトには二メートルは越えようかという長刀を差していた。

「やはりビンゴか。あの術式は『上終 神理』を探知する術式だったようだな。……しかし、君まで駆り出されるとはな、最大主教サマは相当ご立腹のようだ」

舌打ちをこぼしつつ、タバコに火をつける。

染めた赤髪と目の下にバーコードのようなタトゥーという、どこからどうみても属性過多の不良神父だ。

彼の人差し指と中指の間には、ラミネート加工された魔術的な文字が刻まれているカードが挟まれていた。

「戦うのですか?」

「いいや、念の為だよ。僕の『改良型ルーン』に隙はないのさ」

得意気に語るステイル。彼のポーカーフェイスの下には、先の戦いの大雨で紙に書きつけたインクが消えることを発見。慌ててラミネート加工もできるプリンターを買ったという事実が隠されていた。

ポニーテールの女性は血気盛んなステイルに、心中でため息をつく。

「いきますよ。話し合いで解決してみせましょう!」

レプリシア……今はアナスタシアも加わった明け色の陽射しの戦力は増大した。この二人だけでは敵うとは思っていない。

単に彼女が戦いを嫌う性格であるのも理由のひとつだ。

イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の聖人は跳んだ。

「……置いてけぼりか」

ため息をついて、素直にエレベーターを使ったのだった。

 

しばしば、イギリスは食の暗黒大陸と評される。

食べられるのは朝食だけ。

現地の中華料理屋のほうが美味い。

食材を親の仇のように煮込み、焼き、揚げる。

もちろん、イギリス人の味覚が破壊されているとかいう話ではない。

理由は貴族の質素志向やフランス文化と伝統料理の排除など色々と、なるべくしてなった部分があるのだ。

つまり何が言いたいかというと。

そんな小難しい話は抜きにして、イギリス料理を作らなければいい、という選択肢を上終は選んだのだった。

「イタリア料理か、無難だな。手抜きか?」

いきなり強烈なジャブをもらう。

そう言いつつも食べるレイヴィニアは、黄金の夜明け団との連戦の最中でも絶好調のようだ。

言い返そうと試みた上終だが、突然のインターホンの音に出鼻をくじかれる。

と同時に、全員が警戒態勢に入った。

アジトで郵便や新聞などを取っているわけがない。明け色の陽射しの仲間だとしても、彼らに渡された鍵で自由に出入りできるはずだ。

敵の襲撃とも考えたが、なおさらありえないだろう。インターホンを鳴らす意味がない。

この行為は、目の前で拳銃を見せびらかしながら『撃ちますよ』と言っているようなモノだ。

レイヴィニアに視線を送る。

いつもの仏頂面で数秒だけ考え込むと、ぱん、と手を叩いて提案した。

「出迎えるぞ。ついてこい、上終」

まるで宅配物を取りに行くかのような気軽さで、上終の横を通っていく。

「それでいいのか!?」

「ああ、変質者だったらお前と気が合うだろうし、襲撃者だったら……まぁ、安心しろ。骨は拾ってやる」

「待て、俺が先頭なのか」

不吉な内容の言葉を投げかけてくる少女に問うと、これまた不吉な笑みを浮かべた。それは上終の問いへの回答に他ならない。

この時、上終は確信する。

(体の良い壁にされた!?)

結局、肉壁から抜け出せていないことに愕然とする。

人生で一番長い廊下を歩いていくと、黒塗りの玄関についた。ついてしまった。

「さあ、いけ」

いつの間にか杖を握っていたレイヴィニアの用意周到さに驚きながら、荒事に対応できるように靴を履いておく。

玄関ののぞき穴から向こう側を見る。

そこには、あまりにも胸部戦闘力が高いパンクなお姉さんが立っていた。どこかのバンドのボーカルでもやっていそうな格好で。

「う、うおおっ!」

己を奮い立たせて、扉を開け放つ。

とともに咄嗟の攻撃に反応できるように、右手を目の前にかざしておく。

ポニーテールの女性はうやうやしく頭を下げて、

「こんばんわ。イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会』所属、神裂 火織です。貴方たちに提案があって来ました」

間近で見るとその偉大さに気づく。

女性の胸がこれほどまでに求心力を持っているとは、生後一ヶ月にも満たない上終にとっては非常に良い学習となった。

一方、レイヴィニアは憎悪のこもった目つきで神裂と名乗る女性を睨みつけている。

両者反対の反応を示されて、神裂はどうしていいか判らず戸惑っているようだ。

「貴女がレイヴィニア=バードウェイですか? それなら話は――」

「話しかけるな、淫乱女」

杖の先を突きつけ、冷たく言い放つ。

淫乱と罵られた神裂は顔を真っ赤にしながら、近所迷惑になりそうな大声で反対する。

「い、淫乱!? この服装は術式を扱うための立派な武装です!!」

「ほう。じゃあ言ってやるがな、世間一般の共通認識ではお前みたいなヤツを露出狂とか、売女とか言うんだ。判ったらその無駄な乳を斬り飛ばされる前に帰れ」

いつになく絶好調のレイヴィニア。

神裂はプライドを完全に撃沈され、まるで漫画みたいに体育座りで落ち込み始めた。

入れ替わりでやってくるのは、香水の匂いを漂わせた不良神父……ステイル=マグヌスだ。

「僕たちは真面目な話をしに来たんだけどね」

神裂に触れるのは辞めたらしい。この状況では最善の賢明な判断といえよう。

レイヴィニアもようやく取り合う気になったのか、杖の先を下げる。話を始めようとするステイルを遮り、彼女は言いつける。

「私たちが訊くのが先だ。それは二つ。『どうしてここがわかったのか』、それと『何の目的があるのか』。いいな?」

「………仰せの通りに。まず一つ目の質問から答えよう。簡単なことさ、僕には『上終 神理を探知する術式』があった」

「詳しく話せ」

あくまで高圧的に命令する。

ステイルは堪えつつ、『上終 神理を探知する術式』についての説明を始めた。

「ソイツ自身に何かついているわけじゃない……いや、この場合はついていると言うべきだな。右手の力は何でも止めるのだろう?その右手は無意識のうちに、龍脈や生命力を均一にしているんだよ」

龍脈とは、この地球自体が持つ惑星を循環する力を発露させた土地のことだ。人間が生命力や精神力を以って生産する魔力よりも、何倍も大きく強力な魔力が流れているのだ。そのため、これを利用した魔術も多い。

龍脈にもその土地によって力は異なる。

上終が意識せずに『天地繋ぎ』が、龍脈の力を一定にしてしまっているという。10の力の土地と、20の力の土地を無理やり15と15の力に分けているということだ。

それも、無意識に。

上終は思わず右手に目をやる。

『天地繋ぎ』にはまだ知らない領域があるというのか――?

「ただ。分けているといっても、力の強い龍脈に力は引っ張られるから、自然に修復する。その均一化と修復のサイクルを探知するのが上終 神理の探知術式だ」

「なるほどな。他にも疑問はあるが、それで納得してやる」

一つ目の話題が終了したことになるが、自分が深く関わっている話題だ。

『天地繋ぎ』。これについて知っている情報を上終は頭の中で反芻する。

(あらゆる現象・物体・異能を止める力――半径三メートルまでなら力は弱いが触れずに止められる。生物は触れることでしか止められない。……それに加えて、無意識に均一化?あの妖精からは聴いてないぞ)

だが、実際ステイルがそれを頼りにここまでやってきたのだから、疑う余地はない。

『無意識』の行動というのはどうしても止められない。無意識とは意識できないからこそ無意識なのであり、それを停止するというのは無意識を意識することになるからだ。

故に、ステイルの探知術式に対抗することはできない。もし、黄金の夜明け団が解析したのなら、これからはもっと襲撃が激しくなるだろう。

「待ってくれ、黄金の夜明け団に均一化と修復のサイクルが見抜かれたらどうするんだ」

レイヴィニアに訊く。

そうなれば、この組織に残ることはできない。上終は彼女たちの為ならそれでも良いと思っているが、ハッキリさせないといけないだろう。

答えたのはレイヴィニアではなく、ステイルだった。あたかも、その言葉を待ち望んでいたとでも言うかのような表情だ。

「そうだな。それが二つ目の質問に繋がる。『僕たちは黄金の夜明け団を殲滅するために来た』……詳しく言えば、君たちと共同戦線を組みに」

「……そうか、話が長くなりそうだな。この部屋に入ることを許可してやろう。特にそこの無駄乳女は、私に感謝しながらだぞ」

「こ、この……!」

腰の長刀に手をかけそうになる神裂。直前で理性が働いたのか、手をピタッと止めてお辞儀しつつ玄関から上がっていく。

レイヴィニアを先頭に、どこぞの勇者のパーティみたいに一列で居間を目指す。

途中で誰も一言も喋らないところが、場の真剣な空気を作っていたのだが、

「熱っ!?やめなさい『白の禁書目録』!!」

「わたしはもうそんなんじゃないよ。ほらほら」

「ギャアアアアア!!?ぱ、パスタが鼻の中にいいいい!!」

椅子に雁字搦めにされたまま暴れ狂うティファレトの様子に、勇者パーティ御一行は絶句する。

不良神父が咳払いをひとつすると、アナスタシアは向き直って謝罪したあと、レイヴィニアにシメられた。

「い、色々あったけど本題に入ろうじゃないか」

「そうだな」

猿でもできる簡易拷問で黙らせたアナスタシアを、背後に投げ捨てながら返事した。

「実はあの戦いと平行して、黄金の夜明け団は行動を起こしていた。あろうことか僕たちの本拠に忍び込んで、いくつかの原典と霊装を盗んだのさ。実際には『不明』なんだけどね」

「その報復に?」

上終の質問にステイルは頷く。

「それもある。僕たちはイギリス清教だ。元々の方向性は『悪事を働く魔術師を排除すること』……そのために、君たちの助力を得たい」

「たった二人でか?」

鋭い声でレイヴィニアが言うと、ステイルはおどけたような動作をする。妙に芝居がかった動きでタバコを取り出そうとするが、ここは禁煙だ。

「禁煙だぞ」

上終が注意すると舌打ちをして、代わりに神父服の下から白銀色の缶詰を取り出す。それを開けると黒色の草のようなモノがびっしり詰め込まれていた。

所謂『噛み煙草』というヤツで、煙を出さずに喫煙をする最も古い方法の一つである。

正確には草ではなく葉で、ステイルはそれらを小豆大に丸めると口に放り込んだ。

そして、口をモゴモゴと動かしながらニコ中神父は話を再開する。

「……生憎と人手不足なんだよ、ウチは。自分で言うのも何だが、実力は保障しよう」

仏頂面でステイルを見やるレイヴィニア。

一言も発さない彼女に、上終はある種の不安を覚えて、ひそひそ声で話しかける。

「どうするんだ?」

「……ニコ中と仕事をしたいか? 隣には淫乱露出女もいるんだぞ」

「聴こえてますよ!!」

ドバンッ!!とテーブルが壊れる勢いで手を叩きつける。

「さっさと決めなさい!それと私のことについてゴチャゴチャ言ってると叩き斬るぞド素人がァ!!!」

と、神裂は本性を爆発させると、荒い息で着座した。レイヴィニアは見下したような表情を神裂とステイルに向けた。

「わかった。一時的に手を組んでやろう。ただし、私たちのほうが上に立つことになるがな」

ボス直々の言葉を受けたステイルは、右手で額を押さえて盛大に嘆息しながら、

「どうしてこれだけのことに時間を使ったんだ……?」

なんやかんやで、『必要悪の教会』と『明け色の陽射し』による共同戦線は結ばれたのだった。

 




話ばっかりですみません。
次回から戦闘も入れられると思います。
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