まずは導入なのでスキップできないこの状況。
第一話みたいに時間飛ばし飛ばしでやりたいけど、しばらくは無理かね。
「この子の名前はクロ……そして、私は新しくひなた荘の管理人としてやってきました…………浦島可奈子です。よろしく」
師匠が温泉で、ひなた荘住人に宣戦布告したとです。
◇◇◇
まあ、掻い摘んで言うとですね……まず、ひなた荘にやってきたのはいいけども、俺やることないんで工事業者の人と打ち合わせさせられていまして、その間に師匠はひなた荘の戦力調査(ようはブラコン妹による恋敵の調査)をしていました。それでも時間余ったから和風茶房「日向」で茶飲んでた。懐かしい味でなきそうだった。
で、そろそろかと思って俺が業者引き連れてやってきたら案の定だよ。必要なことを最小限以下しか話さないせいで一触即発ムード。むしろ、師匠は追い出す気満々だろ。
「ひなた荘をぶち壊す気かぁ!?」
「確かにオンボロですけどあんまりです!!」
上から、紺野みつね、前原しのぶ。うーん、みつねじゃなくてキツネって呼ばれるのも納得だ。胡散臭い上にキツネ顔。
ちなみに、師匠は「り……」とか呟いているところを見ると、リフォームするつもりだけということを隠す気はないらしい。
ただし、初対面の人には割と口下手な師匠のことだ。10歳も俺より年上なのに対人スキルが俺より低いとか――
「ぬぽつ!?」
「余計なことを考えましたね……」
「スイマセン師匠」
口下手なせいで誤解されることも多いくせに……というか面倒になったから業者の人に「やっちゃってください」って余計に誤解される。
転生してから初めて踏んだ日本の地。色々やりたいことあるんだけどなぁ……ああ、しょうゆ味の何か食べたい。
「まったく、なんの騒ぎ……げ、可奈子」
「お久しぶりです。はるかおばさん」
「あーそういえば今頃満員の客が待っているころだし、急いで戻らなきゃな。ああ、忙しい忙しい」
「さっき俺が茶飲んでたときには誰もいなかったけど?」
「……さっきの坊主…………チッ」
舌打ちしないでよ。
と、そこでラブひなメインヒロインの成瀬川なるさんがラブひな主人公と師匠の叔母である浦島はるかさんに食いかかる。
「逃げないでくださいよはるかさん! っていうかいつも暇そうにしていませんでしたか!?」
「バレたか……」
「いや、バレバレですよ」
「仕方ないか……あー久しぶりだな可奈子。婆さんは元気か?」
「ええ、手に負えないくらいお元気です」
「そうかそうか……えっと、そっちの坊主は? さっき喫茶店にいたけど」
「ああ、旅の途中で縁あって……まあ、私の弟子のようなものです。それはともかく、今日限りでこの女子寮は閉めますので」
「そ、そうかそれは残念だが仕方ないなー」
オイコラ少しくらいは言い返せよ。
みんな唖然としていらっしゃるではないか。
特に、時期的に新ローニンズのリーダーの素子さんとか伊達メガネずり落ちているよ。ビン底メガネとか初めて見た。
結局その後、ひなた荘の住人は一旦退却して作戦を練ることにしたようだ。
俺? もちろん師匠に引き摺られたよ。哀れと思うなら笑うがいいさ。ラブひな最年少のサラよりも年下なんだぜ、俺。
◇◇◇
「あー茶が美味い……」
「あなたは時々日本人のような雰囲気になりますね」
「師匠たちと2年も一緒に旅していたからじゃないですか?」
「まあ、それもそうですね……ところで、学校には行くつもりはないのですか?」
「ひなた荘の件が一段落したら麻帆良に通うつもりですよ。あそこ知り合いいるんで便宜図ってもらうつもりですし」
「たしか、高畑さんでしたっけ? あのメガネの」
「そう、一部ダンディなおじ様好きに受けそうな感じのあの人です」
ああ、ネギと一緒に会ったことあるんだよ。デスメガネって普段は温厚な人だしね。あの人に言われたけど、俺って完全に魔法戦士タイプなんだよね。
どうも、スプリングフィールド家に生まれたのにこの魔力量とか、自分の幼少期に被ったらしい。あの人って呪文詠唱できないから魔法使いとしては致命的とかあったな。
「可奈ちゃ……管理人さん、ちょっといいかな?」
「なんですか、成瀬川さん」
「えっと、お茶入れてきたんだけど……ほら、東大まんじゅう食べない?」
なるさんがお茶を入れてきたのはいいけど、まずは話し合いということか。まあ、この人普段は温厚(むしろ根はヘタレ)っぽいし、こうなるよねー
っていうか、東大まんじゅうってそんなのあるの?
※実際、それっぽいのあるらしいです。
「甘いもの嫌いです」
「バッサリ切るとはさすが師匠」
なるさんものすごくやり辛そうな顔をしていらっしゃるじゃないですか。
え、むしろ好都合? あ、そうですか。なんだよ、ゆえ吉と同じ声のくせに。
「えっと、君は食べる?」
「貰います。甘いものはジャスティスです」
「じゃ、じゃす?」
「虫歯になりますよ」
「ちゃんと磨いておろう」
いいよ、もう。温泉ガメの温泉たまご(改めて考えると凄い名前だな。俺もだけど)と遊んでいるよ。一度見てみたかったんだ。空飛ぶ亀のたまごちゃん(メスです)。
あー可愛いなぁ……たしか、乙姫むつみさんがつれてきたんだっけ? 一匹分けてもらえないかなぁ……
ちなみに、俺の後ろではなるさんが師匠になんでひなた荘を潰そうとしているのか聞いて、それに対して師匠は兄とはどういう関係なんですか? と反撃。すごいや、分かりやすいぞなるさん。ものすごい動揺だ。これがリアルツンデレか……
ところで師匠、タイムスリップしたから帰ってこれないって言い訳は無理があります。
「うるさい」
「ぎゃもれっ!?」
「えっと、大丈夫なのその子?」
「平気です。やわな鍛え方していませんし。ところで、あの上の穴はなんですか」
そういえば、管理人室の上に大穴が開いているのだ。あれでは上の階の人がこまると思うんだけど……
と、なぜかなるさんは顔を赤らめている。
「え、ああアレね。ごめんねみっともなくて。あれは連絡用というか、何というか……まあ、私とアイツの糸電話のようなもので、あの……まあ、あると便利っていうか」
「ふーん」
みっともないと言いつつ、嬉しそうに話すなるさん。そうですか、それ以上師匠の機嫌が悪くなるととばっちりを受けるのは俺なんだけど、誰かこの流れをかえてくれ。
「な、なる先輩大変です! 住人の皆が工事に反対して座り込みを始めちゃいました!!」
しのぶちゃん助かった。マジで。この空気心臓に悪い!
◇◇◇
『我々は断固工事に反対する。こないに働かんでもダラダラすごせる場所は他にない! あと家賃も安い!! 我々ズボラ人間は身体を張ってでも今回の工事を阻止してみせる!!』
おい、おいダメ人間!! やっぱりキツネか! なんだあの堂々としたダメ人間発言は!? 師匠と呼んでもいいだろうか? え、あ、やだなぁ師匠はあなた様一人だけですよぉ……はい、二度と考えないので地獄極楽カメ縛りは勘弁してください。
実は、リフォームしているだけだからここまで大事にする必要ないけど(笑)
え、止めないのかって? 止めるわけないでしょ、こんな面白そうなこと。
俺は自覚はなかったが、この愉快犯的思考は間違いなく浦島ひなた婆ちゃんの影響だった。
「っていうか私ずぼら人間じゃないですよ!!」
「まあまあ、細かいことはええやろ」
「というかなんで座り込みに温泉なんですか!?」
「素子、こういうのはリラックスが大事なんやで」
「そうですよ。美味しいものを目の前にして尻込みするほうが失礼ですよ」
「お、坊主わかっとるな……って、どっちの味方何や?」
「あえて言うなら、面白いほうです」
「……」
「……」
ガシッ←歳の差性別その他もろもろを越えた友情が芽生えた音。
「というわけで取り壊しはんたーい!!」
「スイマセン師匠、こっちの方が面白そうなんで!!」
「わははいいぞいいぞー!」
「工事のおっちゃんたちもなんでこっちにいるのか疑問だけどべつにいいやー」
あれですね、水着の女の子がいる方がいいんですねわかります。
とまあ、そんな感じでしたが師匠が遂に動いた。
「おーいみんなビッグニュースだぞ! ひなた婆さんが帰ってきたんだ!!」
「え、うそ!? ひなた荘のラスボスが!?」
「チャンスや! あの婆さんなら可奈子に勝てるぞ!!」
「キャー早くおばあちゃんに会いましょう!!」
だがしかし、それは師匠の特技の一つ。
……職業怪盗でもいけるんじゃないのってくらいに、高レベルの変装である。
「それっ!」
「あーなにするんやはるか……って可奈子やとぉ!?」
「工事が終わるまでここで大人しくしていてください。ナベ、あなたもです」
「え、ナベって変な名前やな」
「今言うことですか!? って、そういえば自己紹介していなかった!?」
「今更過ぎますよっ……ああ!? 空から鉄格子が!?」
「そうはいかん……はぁっ! 斬鉄閃!!」
アレが噂に聞く神鳴流の技か……スゲェ、昔見たデスメガネの拳速を上回ってるぞ。
鉄格子がまるでバターのように……ひ、人には使わないよね?
っていうか、目が暗黒面に落ちていないかい?
「ふふふ、この程度で我々を拘束できると思うなよ……」
「も、素子無茶すんな!!」
「大丈夫です、キツネさん。む、そこか! 斬空閃弐の太刀!!」
「キャァアアアアア!?」
「なっ、しのぶ!?」
師匠の特技、変装に加えて変わり身の術。あの人本当は忍者じゃないのか?
流石に分身は出来ないけどね。
その後、師匠はカメが苦手な素子さん相手にカメのきぐるみ着て方を叩き、気絶させる。
即行で素子さんに変装の後、みんなの足を縛り付けて木に吊るす。
ものすごい、早業でした。
「さて、工事はもう最終段階です」
「ぐっ……ん――!!」
そこで、なるさんがひなた荘の前に出て、師匠を止める。
大きく手を広げて、その目には決意が宿っていた。
「ひなた荘は、壊させないわよ! こ、ここには住民みんなの大切な思い出の場所なの! 貴女にだってあるでしょう! 大切な場所が!! 景太郎と約束したんだから! 帰ってきたら、一緒に東大に行こうって!」
「……約束?」
それは、師匠にとってNGワードというか、心の琴線に触れちゃう言葉です。
リフォームしているだけだからここまで大事に戦う……いや、女子寮はどの道やめるつもりの師匠だし、結局戦うことになるよね。うん。
「約束なら、私にもあるわ」
「――え?」
「あーすいませーん、これどうしますー?」
「空気読んでよ工事業者」
「やっちゃって」
「ししょぉぉぉぉぉぉぉ!?」
人めがけて鉄球使うなぁぁぁああああああああああ!?
「やれるもんならやって……キャァあああああ!?」
「よけおったぁあああ!?」
「あんなの避けるしかないでしょ! 無茶言わないでよキツネ!!」
◇◇◇
結局、リフォームしただけだったのが判明し、空気が和気藹々として丸く収まる雰囲気になりました。
しかし、彼女らは知らない……師匠の恐ろしさを。策士系ヤンデレの恐さを。
「なんやなんや、ウチらのはやとちりかいな」
「そうだな、リフォームなら早く言ってくれればいいものを」
「ようこそひなた荘へ! アンタが新管理人やー!」
「……、……新管理人として認めてくれるのですね?」
あー言質とっちゃったよ……
この人の恐ろしさは、あのひなた婆ちゃんの性質をあらゆる意味で受け継いでいることにある。
愛に生き、そのためならあらゆる策を考え、実行する。
言葉を考えて使い、自分に必要な一言を引き出す。
まあ、根は正直で優しい人なのであくどい事はしないし、かなり甘い部分もあるが。
みんな女子寮の存続を祝って宴会するつもりだけどそうは問屋がおろさない。
「女子寮? それは今日を限りで終わりです。今日からここは旅館に戻します。正式名称は……旅館ひなた荘」
「え、?」
「もちろん宿泊費さえ払えれば今の部屋のままでも結構です。しかし、払えないようなら従業員として働いてもらいます。例外は認めません」
「……俺もですか?」
「もちろん。というか裏切ったのは誰ですか?」
「あははは……これが自業自得というやつか」
ちなみに俺の担当は雑務全般と時々厨房でした。
ということで、自業自得スペシャルはいかがでしたか?
未だにひなた荘の住人にちゃんとした自己紹介をしていない主人公です。