永遠の煩悩者   作:煩悩のふむふむ

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第一話 異世界からの招待

 崩壊した町並み。

 跳梁跋扈する悪霊共。

 それらを背景にして、男と女が魔神と相対していた。

 

「恋人を犠牲にするのか!? 寝覚めが悪いぞ!」

 

「どうせ後悔するなら、てめえがくたばってからだ、アシュタロス!!」

 

 男はこれから先の展開は知っていた。

 これは過去の夢だからだ。世界とアイツを天秤にかけたときの夢。

 いい加減にしてほしい、と横島はうんざりしながら思った。

 もう何度も夢に見たためか、これが夢であるのも分かっている。夢のくせに、思い通りにならないのも知っている。

 どうせ夢ならば、こんな場面ではなくルシオラと一緒に暮らした時の夢にしてほしい。そうすれば、幻想の中で男の本懐を成し遂げられると言うのに。

 もしくは――――

 

『ここで魔神をも殺せる力があれば良いのだろう?』

 

 やや甲高いが男の声が聞こえた。妙に偉そうで、お坊ちゃまのような子供の声にも聞こえる。

 聞き覚えの無い声だ。

 

『さあ、世界も女も守れる力が欲しいのなら右手を伸ばせ』

 

 謎の声に言われるままに手を伸ばす。

 すると、金色の光が集まって一本の刀となった。

 

『私を握るのだ。奇跡が始まるぞ』

 

 奇跡。人知の超えた魔王すら打ち倒す奇跡の力が目の前にある。

 それはつまり、女の子とニャンニャンできる奇跡の力だ。

 迷う必要はない。この刀を握らなければ。

 

 ――――待ちなさい、ヨコシマ! それを握ってはダメよ! 握ったら……あなたは……

 

 恋人の声が止める。

 なぜ止めるのか。早く生き返らせて、せめて夢の中で結ばれよう。夢精なんて気にしないぞ。

 

 ――――ダメよ、横島君! そうしたらもう会えなくなるのよ! 

 

 強情なイケイケ女が止める。

 大丈夫っすよ。美神さんみたいなトンでも女、俺以外の誰が一緒に居られるって言うんだ。

 

 そして、刀を取った。

 一太刀で魔王を打ち倒して、世界は平和になり、恋人も蘇る。

 ハッピーエンドだ。刀はふふんと誇らしげな声を出す。

 

『ふっ、これが私の力だ。さあ、横島……いや我が主よ。これから先の話だが』

「よっしゃーー!! 勝ったぞ、さあ、エロイ事するぞ!」

 

 横島の頭は既にピンクに染まっていた。

 語りを邪魔された刀は『ちょっとは人の話を聞け』とかなんとか言っていたが、そんな無視だ。

 さあ、主人公とヒロインが結ばれる時だ!

 

 テンションの上がる横島だが、美神とルシオラの二人はどこか暗い顔で手を伸ばしてくる。

 いや、正確には美神達とルシオラだ。美神の後ろには、おキヌちゃんやシロといった面々がいた。仲間達かルシオラ。どちらの手を取るか。

 答えは簡単だ。両方取る。握った剣を離せば両手が空くのだ

 この刀を、この神剣を手放せばハーレムが作れる。

 だというのに、どうしても刀を手放せない。

 

『ふっ、無理だな。主は知った。どうしようもない運命があると。それを跳ね除けるのは、普通の力では無理であると……また恋人を殺すのは嫌だろう?』

 

『どうせ夢だし、奇跡を与えるって言うならもう少し融通きかせろよ!』

 

『仕方ないだろう、我が主よ……奇跡を成すには代償が必要なものだ。欲張りすぎは良くないぞ』

 

 なんとも融通が利かない神剣だった。

 

 どちらを選ぶべきだろう。

 大切な人達か恋人か。それとも両方を選んで力を失って、惚れた女すら守れない男になるのか。

 答えは出ない。答えたくない。どうしてこんな選択を突きつけてくる?

 お前は一体なんだ?

 圧倒的な力を持つ剣に問いかける。

 

『ふっふっふっ、私の名前は』

「センセーーーーイ!!」

 

 良い所でまた邪魔を、などと言う声が聞こえた気がしたが、全ては夢現に消えていく。

 凄まじい爆音と大きな声が耳を打って横島は目を開けた。

 身構える暇もなく、人影は降ってくる。

 

「ぐぼ!!」

 

 フライングボディプレスにより肺の空気が押し出され、

 

「センセ! センセ!」

 

 と言いながらの顔面ペロペロ攻撃が追加ヒットする。

 

「シロ! やめろ! なめんなー! だからといって噛むなーーーー!!!」

 

 ありえないような目覚め。

 だが、いつもの目覚めだった。

 夢の内容は、既に横島の頭から消え去っていた。

 

「んで、朝っぱらからいったいなんなんだ」

 

 横島はベトベトになった顔をタオルで拭きつつ、目の前に居るシロを睨み付けた。

 シロはしゅんと尻尾を垂らして落ち込んでいる。酷く反省しているようには見えるが、肉でも見せれば一瞬で元気になるので特に気にする必要は無い。

 

「先生がいなくなってしまう夢を見たんでござるよ……」

 

 シロは消え入りそうな声でそういった。

 ただの夢一つで事務所からここまで走ってきて、ドアをぶっ壊す。

 暴走突撃犬もここに極まれりだ。アホか、と言おうとしたが、

 

「先生は拙者の前から消えてしまうなんて事はないでござるよね?」

 

 いつも元気いっぱいのシロとは思えない程の、愁いを含んだ声と潤んだ瞳のギャップに横島が思わず唸る。

 

「後十年……いや、後七年か。うん、俺はロリコンじゃないぞ」

 

 いつもの呪文を唱え終えて、シロの方を見るとまだ不安そう目でこちらを見ていた。

 どうやら本気で横島がどこかに行かないか心配していたらしい。どうしてそこまでと思うのだが、とにかく安心させる為に精一杯の笑顔を浮かべる。

 

「俺はどこにも行かないっつーの。守るべきものがある……美神さんのおっぱいを」

 

 ろくでもない事を力強く宣言する。

 シロはそれでも不安そうな表情を崩さない。

 

「その守るべきものには、拙者は入っているでござるか?」

 

 期待と不安を込めた目を向けてくる。

 後のおっぱい部分は華麗にスルー出来るのが、横島の弟子を続けられる理由の一つだろう。

 

「なにいってんだ、当然だろ!」

 

「センセー!!」

 

 嬉しさ極まったシロが横島に突撃しようした時、突如として横島の頭が燃え上がった。

 

「アッチーーー!!」

 

 シロは慌てて横島の頭を叩いて火を消そうとする。

 幸い、たいした火ではなかったようですぐに消し止められた。

 むしろシロに叩かれた所の方が酷かったりする。

 

「タマモ! いったいなにをするでござる!!」

 

 後ろに振り向きながら、いまにも噛み付きそうな勢いで吼えるように叫ぶ。

 そこにはシロに切断されて壊れたドアの残骸と、息をきらし顔を赤くしたタマモがいた。

 

「妙な胸騒ぎがしたから心配になってきてみれば、いちゃいちゃしてるからよ!!」

 

 顔を真っ赤にしながらタマモが叫ぶ。息をきらしていた事を考えると事務所から走ってきたのだろう。

 まさかあのタマモが、と横島は割りと本気で驚いた。よほど嫌な霊感が走ったとしても、わざわざここまでしてくれるとは。

 

「いや……俺なんかの心配してくれてありがとな」

 

 ついさっき頭を燃やされたのにもかかわらず、横島はタマモに礼を言った。

 セクハラによる自業自得とはいえ、毎日のようにしばかれている横島にとってみれば、これぐらいはコミュニケーションの一部なのかもしれない。

 

「別に……ただ横島がいなくなったら油揚げが食べられる量が減るから……それだけよ!」

 

 顔を赤くし、そっぽを向くタマモ。その様子は大変微笑ましく、良きツンデレの素質十分である。横島が嬉しそうに頷くが、それがシロには面白くない。

 

「タマモ! 先生に向かって無礼なことを!」

 

「なに言ってんの馬鹿犬! あんただって横島に色々と奢ってもらってるみたいじゃない!」

 

「狼でござる!」

 

 いつもの光景、いつもの日常。

 今日も除霊とセクハラと折檻の一日が始まるのだ。

 横島は二人が言い争いをしているのを横目に見ながら着替えを済ませる。

 

「おーい、事務所に行くぞー」

 

「ハイでござる」

 

「わかったわ」

 

 そして、横島達は事務所に向かって歩き始め――――

 

 ―――クスクス。

 

 どこからか笑い声が聞いた。

 

「今なにか言ったか?」

 

「別に……」

 

「いってないでござるよ」

 

 ―――準備ができましたわ。

 

 あどけない声の幼女の声が聞こえる。

 だが、なぜかその声を聞いていると背筋がぞっとした。

 

(逃げないと! 逃げないとまずい!)

 

 横島の霊感が最大限の警告を発した。それは今まで生きてきた中でも最悪クラス。人生の全てが変貌するのではないかというほどの圧迫がある。

 すぐに文珠を手のひらに呼び出し逃亡体制を整える。

 

 ――――フフ、いい感覚をしてますわ。ですが、もう遅いのです。

 

「シロ! タマモ! 俺から離れろ!!」

 

 いきなり離れろと言われて、二人はなにがなんだか分からない顔をする。

 

 ――――契約が果たされた今、もう未来は決まったのですから。

 

 突如として横島の周りに複雑な魔法陣が形成される。

 魔法陣からは霊力がまったく感じられないが、何か危険なものであることには間違いなかった。

 

「先生!!」

 

「横島!!」

 

 二人は横島へと走り、手を伸ばす。

 

「馬鹿! こっちにくるな!!」

 

 そうこうしているうちに、魔法陣が光を放ち始める。

 

 ――――有限世界で会いましょう。

 

 さらに魔法陣が大きな光を放つと、そこに横島の姿はなかった。

 

 

 

 永遠の煩悩者

 

 第一話 異世界からの招待

 

 

 

「ここ……どこだよ?」

 

 横島は周りの木々を見ながらつぶやく。

 気がついた時にはうっそうとした森の中にいた。周りに人工物は見当たらず、いつのまにか夜になっていた。

 

「空間転移か……時間移動か……まったくいつもいつも」

 

 横島はため息交じりでつぶやく。

 というよりもそれ以外考えられない。霊力を感じなかったのは不思議だが、新しい種類の魔法だろうと納得する。

 何気なく上を見上げると星空が見える。都会のネオンの光がないおかげか星が近く感じた。

 以前に同じような状況で中世ヨーロッパに飛ばされた時は、マリアが星を見て一瞬で時代と場所を答えてくれたものだが、横島には到底出来るわけもない。

 

 周囲には人の気配はなかった。シロとタマモの姿もない。

 この事については良いことか、悪いことか判断できなかった。

 転移に巻き込まれなかったと考えれば幸いだが、巻き込まれていたとしたら、はぐれてしまった事になる。

 とにかく、ここでじっとしていても埒が明かない。

 とりあえず歩くことに決める。そのうち何とかなるだろう。

 

 横島は楽観的に考えた。少なくとも命の危険がないのなら慌てることもない。

 同じような状況で海の中、月、過去等、あちらこちらにいったことがある。慣れというのは強くもあり、同時に怖くもあるのだろう。

 日常的に起こる非日常な怪現象。一週間も経てば、また何時もの日常に戻るだけ。

 この時の横島は、まだそう信じていた。

 

 歩き続けて数分後、幻想的な光景をみた。

 白い翼を広げる仮面をつけた女性と、黒い翼を広げた黒髪の女性が対峙していた。

 二人とも刀を持ち殺気を放っている。次の瞬間、黒い翼の女性が白い翼の女性に飛び掛り、刀と刀をぶつけ始めた。

 その速度に横島を目を剥く。人狼であるシロどころか武神小竜姫に匹敵する速さだ。

 五十メートルはあった距離が一瞬でゼロになり、居合いの構えから刀を振る。

 訓練などではない。互いに相手を殺そうとしている。その事実にゾッとした。

 戦いは仮面を付けた女性が有利に推し進めていたが、黒き翼を持つ女性と横島の目が合ってしまう。

 

「ラスト、ラハテ・レナ。ソサレス!」

 

 日本語ではない。いったい何といったのか分からないが、敵対的であるのは確かだ。

 黒髪の女性から無機質な殺気が伝わってくる。また、女の目には感情というものがまったく込められておらず、横島をぞっとさせた。

 女は遠めで見ても顔立ちは整っていて美人だったが、能面のような表情のせいで煩悩がまったく湧いてこない。

 どこか、哀れにすら感じた。

 

(早くここから逃げんと!)

 

 神魔族並の力を持つ相手とまともに戦って勝てる自身はない。

 そもそも痛い目に合うなんてごめんだ。

 ゴキブリの逃げ足を披露すべく逃走体制に入る。

 だが、黒髪の女が何かをつぶやいた瞬間、突如として地面から表れた黒い手のようなものが地面から生えてきた。

 

「なんじゃこりゃー! 気持ちわり~~!!」

 

 黒い手にまとわりつかれ、逃走に失敗して地面を転げまわる。彼が逃げられないのは非常に珍しいことである。

 気分を悪くする黒い手のようなものを振りほどきながら、ちらりと黒髪の女性を見るとこちらに手を向け「何か」の力を発動させているように感じた。

 恐らく、この黒き手はあの女が放った術なのだろう。身動きできない横島の隙を見逃すはずはなく、女は黒の翼を翻しながら疾風のごとく突撃してくる。咄嗟に横島は文珠に『守』の文字を入れ、攻撃に備える。しかし文珠が使われることはなかった。

 

「くっ!」

 

 苦しげな声が聞こえたかと思うと、仮面を着けた女性が横島を庇っていた。

 庇った際に付けられたと思われる腕からは痛々しく血が流れている。

 

 (俺を庇って傷ついたのかよ……冗談じゃないっつーの!)

 

 『守』の文珠を『癒』に変更して白き翼の女性に使い、傷を癒す。

 

「ラスト、クミノル、コルーレ・ユーラス!」

 

 聞いたこともない言葉で驚いているが、とにかく今は逃げることを考える。

 文珠を二個取り出し、『高』『速』の文珠を発動した。

 

「見せてやるぜ! 横島忠夫の逃げ方ってやつを!」

 

 つい先ほど逃げるのに失敗したせいか、いつになく気合が入っている。

 ぶん殴りあうよりも、逃げ足のほうが横島のプライドに関わるのだ。

 

「ぬりゃぁぁーーーーー!!!」

 

 超加速でもしたのか? と言いたくなるほどのスピードで駆け出す横島。

 追ってくる気配は感じたが途中で見失ったのか気配が消えた。

 安全を確認して足を止め、横島は顔をしかめて空を仰ぎ見る。

 

「いったい、なにがどうなっているんだよ」

 

 いきなり変な場所に飛ばされ、さらに中級魔族ほどの力を持つ霊力を持たない美人に庇われ襲われる。

 今までも唐突な摩訶不思議は嫌というほど体験してきたが、ここまで意味の判らない純粋な命の危機はそうそうない。

 

 はあっと溜息を吐くと、手にズキンと痛みを感じた。

 見ると指から血が流れている。どうやら逃げる最中に木の枝にでも刺したらしい。

 やれやれと思っていると、そこで目を疑うものを見た。

 血が、キラキラと金色に輝いて霧のようになっていく。さすがに声も出ない。

 

 意を決して髪の毛を一本引っこ抜いて磨り潰してみる。

 すると、髪の毛はキラキラと金色に輝く粒子となって消えていった。明らかに異常だ。これでは妖怪や神魔族のようではないか。肉体が、肉ではないようだ。

 意識して体を動かす、何だか妙に体が動く。硬そうなクルミらしきものを握って見ると、あっさり砕いてしまった。

 

「か、改造か! いつのまにか俺はショッ○ーにでもとっつかまって、改造されてしまったのか!?

 いやまて、ひょっとしたら美神さんが俺の丁稚ぶりに満足できずカオスと手を握って改造を……いやでもいくら美神さんでも……でも美神さんだしなあ」

 

 人ではなくなったのかもしれないというのに、横島は驚きつつもまだ軽かった。

 また豚になったりカエルになるよりはマシかと考える。圧倒的な人生経験とギャグキャラ補正が、未だに彼をアホにさせる。

 

 とにかく、今の自分は普通の人間ではないらしい。

 こんなにもあっさりと人間を止めさせられるとは思いもしなかった。

 とにかく、情報が欲しい所だ。しかし、さっき会ったのは言葉が通じない女性達だけ。

 

(聞いた事のない言葉だったな……しかもあれだけの戦闘能力を持っているのに霊力をまったく感じなかったぞ……それに翼みたいなもの出てたし……まあ、お約束通り美人だったけど)

 

 一体何が起こっているのか皆目見当が付かない。やはり情報が欲しい。

 次に人にあったら『翻』『訳』の文珠を使うと決める。言葉さえ通じれば何とかなるだろう。

 この非常にポジティブ(考えなし?)なのが横島なのだろう。そして『翻』『訳』の文珠はすぐに使われることになる。

 

「どわーーー!」

 

 横島の頭の上すれすれに直径1メートルはあるかというか火球が飛んでくる。

 まとも当たれば焼かれるというよりも吹き飛ばされるだろう。

 

「ラキオスのエトランジェ……殺す」

 

「だから! 俺はGS見習いの横島ただ…のわーー!!」

 

 あれから、すぐに赤髪の少女を見つけたので、『翻』『訳』の文珠を使い、後ろから話しかけたのだ。だが、振り返った少女を見て横島は後悔した。

 彼女は美人ではあったのだが、棒の両先端が刃になったダブルセイバーを持ち、目にはまったく感情というものが込められていなかったからだ。それでも自己紹介しようとしたのだが、その返答は、

 

「マナよ、火球となりて敵を焼き尽くせ! ファイアボール!」

 

 だったのである。

 

「ちくしょーー俺がなにしたってんだよ!」

 

 迫りくる火球を霊力で作った盾であるサイキックソーサーと天性の反射神経で必死に避ける。

 霊力と、人ではなくなった強力な肉体のお陰で生き延びられているが、それでも到底勝つことは不可能だと、戦闘経験が豊富な横島は判断した。

 やはり相手は中級神魔クラスだ。文珠を上手く使って勝てるかどうかだろう。戦えばまず、殺される。

 残り五つしかない文珠の一つを取り出し、逃げる準備を整え始めた所で、声が聞こえた――――

 

『やれやれ、またにげるのか』

 

(なに?)

 

 頭の中に直接語りかけられる。男の声だ。偉ぶった少年のような声。

 聞き覚えのある声ではないのだが、どこかで聞いた様な気がした。

 

『まったく、あの程度の敵に情けない……まあ、神剣がなければどうしようもないだろうがな』

 

 声は自信と不遜に満ちている。

 いけすかない公務員を思い出したが、こちらはどうも邪気が少なく子供っぽい感じがした。

 

(あの程度って、あんな炎くらったら消し炭になっちまうぞ! つーか、お前だれだ!)

 

『マナをオーラに変えればあんな火球など恐るるに足りん、それと私はお前のパートナーだ』

 

(マナって何だよ! それに俺は謎の声をパートナーにした記憶なんてないぞ!)

 

 頭の中でまったくかみ合わない会話をしていたせいか、集中力を欠いた横島に特大のファイアボールが迫る。

 避けられないと判断した横島は咄嗟にサイキックソーサーを作り出し直撃に備える。しかし、サイキックソーサーの前方に別の障壁が出現した。

 謎の障壁とファイアボールがぶつかるが、障壁はファイアーボールを簡単に防いだ。

 サイキックソーサーとは比べものにならない頑強さだ。

 

『ふむ、無意識のうちにマナ……オーラの扱いを覚え始めているようだな、やはり主は追い込んだほうが良さそうだ』

 

 頭の中からの声は観察者のような響きがあり、酷く横島を不快にさせる。

 

(おい! 言いたい事あるならさっさとせんかい! こっちは必死なんだぞー!」

 

『確かに、いつまでも主の中にいても仕方ないな……それにマナは直接食った方が美味いだろう』

 

 横島の体から黄金色の光があふれ出す。

 いきなりの体が光りだしたことに驚いた横島だったが、すぐに落ち着いた。

 この光は自分に害を与えることはないと、直感的に判断できたからだ。やがて光は収束して一本の日本刀になった。

 何の装飾も無いシンプルな姿だった。鞘も無く、色も刀身を除いて真っ黒。その飾り気ない姿は、必要な機能さえあれば良いと主張しているようだった。

 

「剣……これがお前の正体か」

 

『そうだ、私は永遠神剣第五位、名を『天秤』という。主よ、私を手に取れ、そして赤の妖精のマナを私に食わせるのだ』

 

 言われるままに横島を空中に浮かぶ日本刀の形をした『天秤』を手に取る。

 次の瞬間、すさまじい力が『天秤』から流れ込んできた。だが同時に意識がぼんやりとなる。

 

「マナよ火の雨となりて降り注げ! フレイムシャワー!」

 

 回避不能な正に火の雨が降り注ぐ。サイキックソーサーでは全てを防ぐのは不可能だ。

 だが横島は特に慌てることもなかった。

 

「マナよオーラに変わり、俺を守れ」

 

 ついさっきファイアボールを防いだ障壁とは比べ物にならないほど強固な障壁が形成されフレイムシャワーを防ぐ。

 だが、その声は横島の声とは感じが違い、どこか高圧的だった。

 

『さあ主よ、今度はこちらの番だ。赤の妖精を切り裂き、私にマナを』

 

(そうだ、俺はマナを集めなくてはならない……マナを集めたい)

 

 『天秤』を構え、赤髪の女に突撃する。そのスピードは今までの横島の比ではない。女はダブルセイバーを構え防御の体制をとったが、構わず『天秤』を叩きつけた。パワーに差があったらしく、女は吹き飛び地面に倒れる。

 そのまま『天秤』で切りつけようとした横島だったが、女の目を見て動きを止めた。その目には感情が込められていないように見えるが、ほんのわずかに恐怖の感情が込められていたのだ。急速に横島の意識が覚醒する。

 

(俺はいま何をしようとした? なぜ彼女を殺そうとした?)

 

 普段の横島なら戦いからは逃げることを第一に考える。

 逃げられない状況ならともかく、『天秤』のおかげで身体能力が向上した今なら問題なく逃げられたはずだ。

 まして、何の躊躇もなく美人を殺そうとするなんてありえない。自分が自分で無い様だった。

 

 吐き気がする。頭が痛い。気持ち悪い。マナが欲しい。

 全身を駆け巡る全能感と異物感に横島は悶える。

 

『なにをしている主、早く私にマナを食わせろ』

 

 その声が聞いたとき横島の中である考えが生まれた。

 

(天秤! いま俺の考えを操っただろ!!)

 

『操るとは人聞きが悪いな。私は主の命と渇きを満たす為に少し干渉しただけだぞ』

 

(ふざけんな!! 今の俺なら殺さなくても十分逃げられたはずだ! それにマナを食うって何なん……だよ……)

 

 突如、強力な眠気に襲われる。

 さらに体からは力が抜け、立ち上がることさえ困難になっていく。

 

『どうやら急になれない力を使った反動がきたようだな。先ほどの赤の妖精も姿を消したようだ』

 

 周りを見渡すと先ほどの女性の姿はなくなっていた。

 とはいっても、こんな訳の判らない女達がいる所で倒れたら命に関わる。必死に睡魔と闘い、力を入れる横島だが、限界が来たのかその場に倒れこんだ。

 

(おい……こんなところで寝るのは流石にやばいぞ)

 

『案ずることはない、もうじき白き妖精たちがやってきて主を保護するはずだ』

 

 まるでこれから起こることが分かっているかのような口調だった。

 

(お前はいったい何なんだよ?)

 

 薄れ行く意識の中で疑問を投げかける。

 

『私は主を導くものだ』

 

 自信に満ち溢れた答えを聞きながら、横島の意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

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