永遠の煩悩者   作:煩悩のふむふむ

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第十二話 前編 雨降って地固まる①

 暗闇の世界に一人の幼女と、一本の日本刀が浮かんでいる。

 幼女はその童顔に似合わず、老成された雰囲気を纏い、険しい目で日本刀――――『天秤』を睨んでいた。

 

『―――――――以上が今回の戦いの報告になります』

 

「随分と危険な綱渡りをしたものです。運が良かったですわね」

 

 全身を白い服に包んだ幼女は、ややとげのある口調で『天秤』と話す。その雰囲気は、仕事の結果を上司に報告する部下といったところか。上司である幼女の放つ空気は冷たく、仕事の結果が思わしくなかったことが伺える。

 『天秤』の任務は言うまでも無く、横島を自分達の仲間に引き込む事だ。 当然だが、横島が死んでしまえば全て終わりである。今度の戦いで、横島の身に何度命の危険があったのか、数える気にもならない。しかもその理由が、横島個人の勝手な振る舞いによるものときた物だ。

 横島を導き守る立場である『天秤』の、監督不届きと見られても仕方がないだろう。

 

『私は……何も間違えていません。今回の不手際は私の責任ではありません。

 あの者が私の言うとおりに行動していれば、全てうまくいったはずなのです!』

 

 幼女の放つ冷淡な空気に耐えられなくなった『天秤』が、感情のまま声を上げる。

 出てくる言葉は自己弁護に自己正当化。

 幼女の目がより厳しくなり、『天秤』を射竦める。口答えをしてしまった『天秤』は、怒らせてしまったと不安になった。

 だが、『天秤』の想像に反して、幼女はそれほど怒ってはいなかった。確かに問題が出るのは芳しくないが、現状でトラブルが出ないほうがおかしい。いや、むしろ幼女はトラブルを楽しんでいた。自身が決めたストーリーがどのように歪んでいくのか。

 本来ならば、自分の予定通り物事が進まない事は、幼女にとっては忌むべき事である。だが、幼女は確信していたのだ。最後には自分の望む結果になるだろうと。

 幼女は横島忠夫を愛し、信じているから。

 

(愛する人を信じるのは当然ですわ)

 

 愛する人。心の中でそう呟いた自分に、笑いを堪えるのに必死になった。少なくとも、世間一般の愛といわれる範疇の行動なんてまったく取っていない。むしろその逆の行動ばかりだ。それでも、愛おしい。いや、愛おしいから苦しめたいのか。恋する少女になった自分自身を、幼女は楽しんでいた。

 しばしの間、乙女世界にトリップしていた幼女だったが、ふと気を取り戻す。目の前の神剣が一体何を言われるのかとビクビクして震えていた。コホンと咳払いして『天秤』との会話に意識を戻す。

 

「さて、では一体誰に責任があると思いますか?」

 

『それはやはり主に』

 

「彼を我々の思うとおりに動かせなかった事に対する責任の所在なのですから、その答えは筋違いと言うものですわ」

 

 くそっ、と『天秤』は心の中で毒づいた。そんな言い方をされては、責任があるのは自分しかいないではないかと。

 暗に責められているのだと、あるいはこれから責められるのかと、暗鬱な気持ちになった『天秤』であったが、ここで幼女は意外な答えを返してきた。

 

「責任があるとしたら、この私です」

 

『はっ?』

 

「貴方は私の指示通り行動したのです。その結果、あのような事態になったのですから、責任は私にあるでしょう。申し訳ありませんでした。『天秤』」

 

 深々と頭を下げる己の上司に、『天秤』は非常に情けなく、苦しい気持ちになった。上位の存在が頭を下げている。遥かに下位の自分の為に。

 今更、私が悪かったです、などといえるわけが無い。そんな事を言ったら、頭を下げて謝っている事は無駄になってしまう。

 

(申し訳……ありません……っ!)

 

 『天秤』はただ、己の未熟さを悔いる。そして、次こそは満足な結果を出してやると、決意を新たにしていた。

 一方、幼女は『天秤』に見られないように顔を下げて、舌をペロリと出して笑っていた。『天秤』が何を思っているのか、幼女には全て分かっていたのだ。

 『天秤』は聡明だ。本当は今回の不明が誰にあるかなど分かっている。だからこそ、自分は悪くないなどと強く訴えたのだろう。自尊心の高さゆえ罪を認められないのだ。

 このように頭が良く生真面目で、プライドが高く自分の非を認められないタイプには、こういった手が一番効果的だ。怒ったり否定すると、反発するか、落ち込んでしまうかのどちらかだ。

 『天秤』には色々とやってもらわなければいけないのだ。こんな事でモチベーションを落としてもらっては困る。

 

「『天秤』、私もがんばりますから、他の者に負けないようがんばりましょう」

 

『はい……はい!』

 

 強い声で返事をした『天秤』に幼女は満足げに頷いた。

 責任の所在を明らかにした後は、反省会の時間だ。

 一体何故こんなミスが起きたのか。どうすれば同じミスが防げるのか。原因究明と今後の対策の話し合いは、絶対に必要不可欠なものだ。

 この場合の問題の最大の点は、やはりこの部分だろう。

 

「彼はどうして貴方の言う事に従わなかったのでしょう。彼も正しい事なんて理解していたはずなのに」

 

 それが『天秤』にとって一番の謎だった。

 今回の戦争で一番失敗した点は、敵のスピリットを助けるために龍と戦った所であると、『天秤』は考えている。この考えは別に間違ってはいないが、それ以上の問題についてはまったく踏み出せない。

ネリー達の命令無視については、命令を無視したネリー達の問題であると考えている。

 己の感情を優先させて、命令に背く。組織という共同体、ましてやそれが軍ともなれば、それがどれほど愚かな事か、考えるまでも無い。

 それは正論だ。だが、正論でしかない。

 幼女はここで『天秤』を試すことにした。

 

「貴方は、禁酒法というものを知っていますか?」

 

『いえ……私に与えられた知識には存在しませんが』

 

「禁酒法というのは簡単に説明すると、お酒を売ったり作るのを止めよう言う法律ですわ。これが実施されたらどうなると思います?」

 

『良いことではありませんか。酒は百害あって一利無し……とまでは言いませんが、人体に良い影響を与えるものではありません。ただ、寒冷地においてはその有効性は』

 

「その辺りはどうでもいいですわ。さて、人はそう簡単に正しい事はできません。ましてや酒は快楽に属するもの。貴方は人が欲を抑える事ができると思いますか?」

 

『無理でしょう。恐らくは、裏で酒が作られ売られる事になるでしょう。闇に属する者にはよいビジネスになり、国が荒れる事になると思います』

 

 『天秤』の答えに、幼女は満足した。その通りだったからだ。ちゃんと人間の事を理解して先を見ているのだと、幼女は安心したのだが、それは次の『天秤』の発言までだった。

 

『どうすれば国を荒らさずにこの法を施行できるでしょうか?』

 

 何故、そのような結論に至るのか、幼女には理解できない。

 ただ、単純にそんな法律を施行しなければ済むだけの話ではないだろうか。

 幼女はその事を『天秤』に問いただす。

 

『法を守らぬほうが悪いのでしょう。悪法ではないと思いますし……他に悪いとしたら、法を乱した者を処罰できない脆弱な国でしょうか』

 

 あんぐりと、幼女は大きく口を開けた。

 『天秤』の言う事は間違ってはいない。正しいと言っていいのかもしれない。だが、何かが決定的に違う。考え方の善悪や物事の是非ではなく、着眼点がずれている。

 そもそも、何が問題なのかを理解していない。最悪の場合、どうして自分がこのような質問を受けているのかを理解していないのではないか。

 幼女の危惧は、的中していた。『天秤』は、自分がどうしてこのような質問をされているのか考えず、ただ質問の答えだけしか考えていなかった。

 相手の意図を読めない、いや、読もうともしない。相手の事を考えていないわけではないのだが、それは自分だったらこう考えるだろうという、自分本位のものでしかなかった。

 幼女は『天秤』が人の感情面について疎くなるのは知っていた。何の経験も無く、ただ知識だけ詰め込まれてしまえば、精神的に未発達なのは当然だ。また、そうでならなくてはいけない理由もある。

 だが、流石にこれは想像を超えていた。このままでは不都合が出る可能性がある。

 

「貴方は知識があっても知恵がない。その知識も私が与えたもの以外には存在しない。私の与えていない知識や、知識を生かす知恵に関しては貴方自身が獲得してくれると思ったのですが」

 

 酒は依存性が高く、基本的に体に有害なものだとは誰もが知っている。大多数の人は欲望に討ち負けることもしっている。至る結末も分かっている。それにも関わらず、『天秤』の答えはまるっきり見当違いの方向を見ていた、

 そう、知ってはいる。だが、解ってはいないのだ。頭が良くても、馬鹿なのだ。

 頭がいいから計画や策略が立てるのが得意で、でも馬鹿だから計画そのものが成功しても最終的に失敗する。計略を用いる策士は、常人とは違う視点を持っているものだが、『天秤』は常人にすら劣っている。それでいて、頭は良く、理屈を通らせるから始末が悪い。

 なにより問題なのは、こういう性格は人に好かれないという事だ。人を導く上で、これほど致命的な欠陥はない。

 

「貴方はもう少し、人の心を知ったほうがいいですわ。

心というものが、どれほど歪で、儚くて、そして……壊しやすいか。それを、理屈ではなく、感情で知りなさい。それが、今後確実に貴方の助けになるでしょう。」

 

『しかし、感情など無用な物では……』

 

「無用とか、必要とか、そういった問題ではありません。私が言った事が理解できたとき、貴方は間違いなく強くなるでしょう」

 幼女が笑みを浮かべる。その笑みは決して子供が浮かべることはない、邪悪に満ちた笑みだった。

 

『わ、分かりました! 勉強します、何か良き教材があれば教えて欲しいのですが』

 

 大真面目にそんなことを言ってくる『天秤』に幼女は苦笑する。何と可愛い神剣なのかと。

 

「そう焦る必要はありませんわ。あと一年はあるのですから。あの贄であるスピリットとでも喋ってもう少し勉強しなさい」

 

『エニ……ですか。しかし……』

 

 『天秤』の役目の一つに、横島とエニを接近させるという内容が含まれている。現状、それは成功しているとは言いがたい。何故かは知らないが、自分のほうがエニに好かれてしまっている。

 これ以上エニと関わると、横島とエニを懇意にさせるのが難しくなると、『天秤』は危惧していた。

 

「あのエニというスピリットについては、次の段階に入る前に事を起こせばいいのです。今はまだ考えなくていいですわ」

 

『しかし……』

 

「私は貴方に成長してもらいたいのです。いつか私の傍らに立ってもらうためにも」

 

 その言葉に、『天秤』は震えた。敬愛する上司に、遥か上位の存在に、自分は気にかけられ期待されているのだ。正の感情が『天秤』に押し寄せる。

 

『ありがとうございます。決して期待を裏切る事はいたしません!』

 万感の想いを込めて、『天秤』は感謝の言葉を口にした。

 

 幼女もニッコリと笑う。その笑顔の裏にどのような感情が隠れているのか、『天秤』は考えようともしなかった。

 

「では、これで報告は終わりですか?」

 

 幼女にそう言われ、『天秤』はある出来事の報告を忘れていた事に気づいた。

 

『主の中にいる『あの女』が、主に接触して会話をしました』

 

 『天秤』のその言葉に、幼女は初めて動揺したように目を大きく見開く。

 今まで何があってもその表情に余裕を感じさせていた幼女だったが、今回は余裕の仮面が崩れ落ちた。

 

「まったく死に損ないが……いえ、死んでいるというのに……忌々しい限りですわ」

 

 不快感。憎悪。険悪。

 いくつもの負の感情が吹き出した顔。

 幼女にとって、『あの女』――――ルシオラは最大の恋敵なのだ。

 

『恐らくは、私が主にしている行為の影響かと』

 

 ならば仕方ないと幼女は思った。

 ルシオラの存在は、幼女の計画にとって最大の鍵になる。

 ルシオラなくして、横島を自分達の陣営に引っ張り込むなどできないのだ。

 

「それで、死に損ないは何と言ったのですか?」

 

「色々と話していたようですが、最後に赦すと。」

 

「赦す……ですか」

 

 その言葉を聞き、幼女の顔が恐ろしく歪む。

 子供の童顔が般若になる様を見て、『天秤』は説教されているわけでもないのに悲鳴を上げたくなった。

 

「消しなさい」

 

『記憶を、ですか?』

 

「そうです。赦すなど、あってはいけない言葉です」

 

『しかし、主はかなり心の奥底にルシオラの言葉を刻んでいます。いじくると主の精神に負担が……それに私が干渉していると気づかれる恐れも……記憶も改ざんしていますが、薄々は気づいているような気も……』

 

 先の戦いで得た教訓。

 不用意に精神を弄くると、手痛いしっぺ返しを受けることに、『天秤』は気づいていた。精神や記憶を操るのは実に楽で簡単だが、絶対にどこかで歪みが生じる。必要最低限を除き、無理に記憶や感情の操作したくないと言うのが『天秤』の本音だった。

 自分の役割は、痛みや不快感を与えないように、じっくりと確実に横島の精神を蝕んでいく事。人体の内部で成長する寄生虫のように。理想の形は、『天秤』の思考を、横島が自分の思考だと誤認させるのがベストだ。

 まあ、『天秤』としては蝕んでいくというよりも、横島を成長させるという感じなのだが。

 目の前にいる上司もそれを望んでいるはずだ。

 

「時間をかけてゆっくりと消しなさい。それぐらい出来ないようでは、貴方に存在価値はありませんわ」

 

 存在価値が無い。

 そう言われ、『天秤』の心胆は氷のように冷えた。役に立たないという言葉は、『天秤』にとって何より恐ろしい事なのだ。

 

『分かりました! 全力で主の記憶を消して見せます!』

 

 その言葉に幼女は満足そうに頷く。

 

『しかし、『法皇』様でもこの事態は予測できないのでしょうか』

 

「仕方ないでしょう。私たちは霊力というもの知りません。あの世界は、我らにとって本当の意味での異世界なのです」

 

 ―――だからこそ、我らの中で最高の切り札になるのですから。

 胸の内で幼女は呟く。あの時の、二人の最高指導者とやらに感謝しながら。

 

「まあ、それはさておき」

 

 にっこりと幼女は笑う。

 今度の笑みは邪悪ではなく、軽い悪戯をしかけたような無邪気な笑み。あるいは子猫に遊び道具を与えたような笑みだ。

 

「貴方に新しい力を与えようと思いましてね……」

 

 永遠の煩悩者 第十二話

 

 雨降って地固まる

 

 ――――――ラキオス王国。

 バーンライトとの戦いが終わり、四日が経過していた。戦争の事後処理や、利益配分なので、人間たちは忙しい権力闘争の日々を送っている。もっとも、それは悠人達にはまるで関係ないことだった。毎日毎日、訓練の日々である。それも日を追う毎に厳しくなっていく。

 理由は酷く単純で、バーンライトを潰してすぐ、ダーツィ大公国が宣戦布告してきたのだ。いきなり攻めてくる事は無かったが、ラキオスの国境沿いにスピリットを配置していることから、何時かは攻めてくるだろう。

 戦いの日々は、まだ続くのだ。

 さて、あれから横島がどうなったかと言うと……

 

 そこは、何とも殺風景な部屋であった。

 なんの装飾もほどこされていない部屋に、古めかしいベッド。それに棚と机。あとは服を入れておくためのタンス。それだけしかない、何とも質素な部屋。いや、一つ忘れていた。ベッドの裏には、この部屋の主の宝物が隠されていたりする。この部屋の主が、スケベな青少年である事を知れば、宝物がなんなのかを知る事はさほど難しくない。

 その部屋の主の名は横島と言う。横島はベッドに包まり身動き一つしていない。隣では看護の者が本を読んでいた。

 龍との激闘で傷ついた体に、さらに致命傷を負った横島は本当に危険な状態にまでいったのだが、エスペリアとハリオン、それにエニの懸命の治療によって何とか一命はとり止めた。蘇生魔法を使う寸前までいったのだから、相当なダメージだったのだろう。

 なんとか助かった横島はラキオスに運ばれ、それから自室で延々と眠り続けていた――――つい先ほどまでは。

 

(うーむ、どうしたものか)

 

 特に感動的な場面も無く、なんとなく目が覚めた横島は、ベッドの中で考え事の真最中。何を考えているかと言うと、どうやっておっぱいを触るか、である

 数日間も眠り続けたため、おっぱい分が足りず、横島は非常に飢えていた。だから、看護してくれている者のおっぱいを触りたかったのである。

 こう書くと非常に馬鹿そうに聞こえるが、事実、馬鹿なことであるが、本人にとっては重要なのだ。相手が子供である可能性があることは、まったく考えていないらしい。

 

(ここは寝返りを打つふりをして……)

 

 どんなときでも煩悩を忘れない。

 横島のエロ心は、永久に不滅なのだ。

 

(ここだ!!)

 

 おっぱいの気配を感じた場所に、目を閉じて、寝返りを装いつつ手を伸ばす。

 そこにあるだろう、魅惑のマシュマロに向けて。

 がつん。

 魅惑のマシュマロは、あまりに硬く険しかった。

 

(馬鹿な! 硬すぎだろ。まさかガキの胸か……もしくはヒミカか?)

 

 ありえない感触に横島は驚愕した。まるで鉄板を叩いたような感触。

 もし、これが本当に女性の胸だとしたら、おっぱいの印象がガラリと変わってしまう。

 一体誰なのか、恐る恐る目を開ける。

 

「横島……目が覚めたのか!」

 

 そこにいたのは、昨今の訓練で鋼の大胸筋を持ち始めた高嶺悠人。

 彼の胸は悪魔将軍も驚く硬度10……かもしれない。

 

「撃滅!!」

 

「ぐはっ!!」

 

 よこしまの こうげき!

 ゆうとに 6000の ダメージを与えた!

 ゆうとを たおした!

 ゆうとを やっつけた!

 よこしまは 1ポイントの けいけんちを かくとく!

 ゆうとは たからばこを おとしていった!

 よこしまは たからばこを あけた!

 なんと よんさいじでもわかる聖ヨト語の本を みつけた!

 よこしまは よんさいじでもわかる聖ヨト語の本を てにいれた!

 1ルシルを てにいれた!

 

「まったく悠人の奴め、こんなトラップを仕掛けているとは」

 

 起きていきなりむさい男の顔を見せられたのだ。しかも、触れたのは男の胸。精神のダメージはかなり大きい。慰謝料でもふんだくりたい所だ。

 普通こういう場合は、看病してくれるのは女性だろう。いったいこの男は何を考えているのか。嫌がらせか、ガチホモか、そのどちらかしか考えられない。絶対に近づきたくない男だ。後者なら特に。

 ぶつぶつと横島が文句を言っていると、倒れていた悠人がむくっと起き上がり、仲間になりたそうな目でこちらを――――見るわけが無い。

 顔には青筋が浮かび、目は怒りで血走っている。

 

「人が看病してやってたのに、いきなり何をしやがる!!」

 

「ふざけんな! 男の看病などいるか!!」

 

 本気で怒った悠人だったが、それをも超える横島の怒気に押される。

 だが、正義はこちらだと反論を試みる悠人だったが……

 

「看病していた奴を殴るなんて!」

「お前は看病にしてくれるのが、美人のお姉さんより、むさい男のほうが良いとでも言うのか!!」

「い、いや、そんなことは……」

「だったら謝れ! 看病したことに!!」

 

 信じられないくらい理不尽なことを言われているのではないかと思ったが、横島が本気で怒っているのを悠人は感じた。

 

「悪かった……な?」

 

「分かりゃあいいんだよ。同じ失敗は二度とするなよ」

 

(どうして俺が謝るんだ?)

 

 なんだか釈然としない悠人だったが、完全に横島の勢いとノリに押し負かされた。

 

(まあいいか。とりあえずは元気そうだし)

 

 妹が関わらなければそれなりに懐が大きい悠人は、まあいいかと自分を納得させる。

 

「……体に痛い所は無いか? みんな心配していたからな」

 

「みんなって言うと、やっぱりハリオン達か!? 看病とかしてくれちゃったりしてたのか!?」

 

「あ、ああ」

 

「くっそーー!! 女の子が看病しているときに起きれば、18禁に突入できたかもしれないのに~~!!」

 

 地団太を踏んで悔しがる横島に、悠人はひたすら呆れる。

 お前は死に掛けていたんだぞ、分かっているのか、と思いっきり突っ込みたくなった。

 横島相手にそんな突っ込みは無駄だと、まだ理解していないらしい。

 しかし、ちょっとの休憩時間を利用し、様子を見に来てぶん殴られる悠人も不幸であった。

 高嶺悠人という人物は、基本的に不幸属性である。

 

「そうだ、俺が倒れてから一体どうなったんだ?」

 

「まったく、話題をコロコロと変えるなよ……あれから幾つかあったんだけど」

 

 目頭を押さえながら、悠人は説明を始める。

 ダーツィとの戦争が始まった事。

 ルルーは処刑されず、神剣を取り上げられ牢屋に入れられた事。

 これは悠人が、これ以上血が流れるのは良くないと、そして横島が処刑など望むわけが無いと説得したお陰だったりする。もし説得しなかったら、ルルーは怒り狂ったネリー達に殺されていた事だろう。

 ファーレーンは別な任務でラキオスを離れた事。横島は泣いた。

 そして……

 

「なあ横島、ネリー、シアー、ヘリオンのことで言いたいことがあるんだが……」

 

「……話してくれ」

 

 悠人は話した。

 バーンライト戦の時に、彼女達がどのような想いで戦いに向かったか。その想いのためにどのような行動を取ったのか。

 話を聞き終えた横島は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「なあ横島。俺は「分かってる!」

 

 これ以上、悠人の口から何も聞きたくなかった横島は、大声で声をさえぎった。

 

「分かってから……」

 

 横島は分かっていた。

 成長だの、強くなるなど、色々な理由はあったが、結局は自分の事しか考えていなかったのだと。本当に馬鹿だったと、頭を抱えて凹みそうになる横島だったが、すぐに頭を上げて前を見た。後悔するなんてやはり自分の事だ。後でいくらでも出来る。今やらねばいけない事は、そんな事ではない。

 

「悠人、皆を第二詰め所の居間に集めてくれ」

 

「……分かった。あんまりふざけんなよ」

 

 横島に背を向けて、部屋から出ようとする悠人。

 

「ちょっと待った」

 

 その悠人を横島が引き止める。

 

「ん……何だよ?」

 

「あ~~なんだ? その……やっぱり、何かのために何かを犠牲にするのは難しいよな」

 

 何かを成すのに犠牲が必要なら、躊躇わず犠牲にするべきだ。

 以前、横島は悠人にそう言った。そして、自分にはそれが出来るとも言った。目的を果たすためなら、恋人すら殺せる男だ。出来ないわけがないと思っていた。

 だが、自分は存外優しい男らしい。少しだけ、横島は自分を卑下するのをやめたのである。卑屈で、臆病で、恋人すら殺したが、それでも自分には価値がある。可愛い女の子達が、自分の役に立ちたい為に無茶をするぐらいには。十分すぎるくらいの価値だ。

 しかし、横島は難しいとは言ったものの、出来ないとは言わなかった。それだけは当然だった。犠牲にした事実はあるのだから。犠牲によって世界は救われたのだから。

 何故、横島が悠人にこんな事を言ったのか、言った当人にも分からなかった。ただ、何となく言いたくなった。それだけの事だ。

 悠人は横島の変化を好ましく思った。以前よりは自然な感じがしたからだ。何か横島に声を掛けようとした悠人だったが、何を言ったらいいのか分からず、「そうか」と、一声だけ掛けて、悠人は訓練をしているスピリット達を呼びに行った。

 

 程なくして、ラキオスのスピリット全員が第二詰め所の居間に集まった。

 悠人・アセリア・エスペリア・オルファリル・セリア・ネリー・シアー・ハリオン・エニ・ヒミカ・ナナルゥ・ヘリオン・横島。

 戦争に行く前と変わらない顔ぶれだ。しかし、子供たちの表情は複雑だ。横島が目を覚ましたと聞いたとき誰よりも喜んだと言うのに。どう話をすればいいのか、何を話したらいいのか分からないのだ。

 大人たちは、体調はもうよろしいのですか、などと当たり障りの無い会話をしたが、どうにもぎこちなさは感じていた。

 見えない壁のような物が存在しているのは誰の目にも明らかだった。

 

「それで、私達に話とはなんでしょうか?」

 

 冷たく、感情が感じられない声でセリアが一歩前に出る。

 

「それは勿論、愛の告白を――――」

 

「訓練があるので帰ります」

 

「冗談です! 冗談でございます。セリア様!!」

 

 ぺこぺこと頭を下げて謝る横島。

 第二詰め所内ではお馴染みの光景だ。

 エスペリアはその光景に軽く頭痛を感じたが、不思議と自然な光景であるとも感じられた。

 

「訓練が途中なので、早めにお願いします。くだらない話をするくらいなら、早々にベッドにお戻りください」

 

 丁寧な話し方で、顔に機械的な笑顔を浮かべるセリアだが、目は笑っていなかった。しかし、言葉の端々には横島の体の気遣いが見て取れる。セリアの不器用な優しさと、同時にまだ信用していないという疑念の視線が、横島はこれからの行動を強く後押しする事になる。

 

 横島には話したい事が二つあった。まず何より言わねばならない事と、説明せねばならない事。本当なら言わねばならない事を最初にしたいところなのだが、今此処には第一詰め所のスピリットと悠人がいる。横島としては第二詰め所のメンバーだけに話したいので、まずは説明からにした。

 

「説明しなきゃいけないことと、言いたいことがあるんだけど……まずは説明のほうからだな。俺の持っている力のことなんだけど……」

 

「教えてくださるんですか! その……隠していた力のことを」

 

 エスペリアの声が詰め所内に響く。

 そもそも、今回の戦いで横島が別行動を取った一因として、その隠された力が原因と言える。

 セリアが怒った理由の一つも、戦争という全員の命をかけた局面を、横島と悠人しか知らない謎の力に託したからだ。

 

「隠していた力ってなにー」

 

「なに~」

 

 ネリーとシアーが双子らしく息のあった疑問の声を上げる。それに驚いたのは横島だった。

 

「セリア……話さなかったのか?」

 

 相当怒っていたから、皆に話したのだと横島は思っていた。最悪、悪い噂でも起っているかと思っていたのだが。

 

「秘密にしておきたかったのでしょう。だから話しませんでした」

 

 相も変わらずツンとしたセリアだったが、彼女なりの気遣いを感じた。

 飛びつきたくなる気持ちを抑え、サンキューとセリアに礼を言って(セリアは意味が分からず首をかしげていたが)、右手に霊力を集中する。掌からキラキラと霊力が溢れ出す。目的は文珠の作成だ。

 起きてから大急ぎで文珠を作ろうと集中して、あと少しで作れそうな感触が横島にはあった。文珠を作るのには約一週間の製作期間が必要だ。煩悩如何によって製作時間の変動はあるものの、いくらなんでも先ほどまで気絶していた横島に文珠の作成は不可能なはずだった。

 しかし、現実に文珠は生まれようとしている。

 

 突然、横島の文珠作成能力が上がった、などということではない。物事には、結果があれば原因がある。この場合の原因とは『天秤』の事だ。

 『天秤』に与えられた新しい力。その一つが文珠作成能力なのである。

 ここで勘違いしないでほしい事は、あくまでも文珠を作るのは横島の体である、という所だ。

 『天秤』だけでは文珠を作る事はできないし、また横島が文珠を作ろうとして、『天秤』も作ろうとしても、製作時間が短くなる事もない。横島の意識がなく、霊力が満ち溢れているときに、こっそりと文珠を作る程度の能力である

 

 『天秤』は、横島が寝ている最中に失われる事になるはずだった煩悩の塊である……良い子の皆のために露骨な表現を避けるが、とりあえず『ルシオラの元』とだけ言っておこう。それを使って文珠を作成したのである。正確に言えば、『ルシオラの元』を体外に排出しようとしたときに生まれた霊力を使って、であるが。

 年頃の性少年の業の深さは半端ではないということだろう。寝ても覚めても、横島はスケベだった。

 

 この世界において、唯一、横島が『天秤』の力を頼らずスピリットに対抗できる力である文珠。それを、霊力とはまったく無関係である異世界の神剣、『天秤』も作ることが出来る。それが何を意味するのか。それがどれほど恐ろしい事なのか。

 横島はここで文珠を作れたことを疑問に思うべきだったのかもしれない。そうすれば自分の身に起こっている異常事態に気づき、何かしらの対策が取れたかもしれない。もし疑問を抱いていれば、後の苦労や後悔をしなくてすんだかもしれない。

 いや、もし気づいても無駄だっただろう。気づいたとしても、気づかなかった自分に『させられる』だけなのだから。

 

 横島の手の光が収束を始めた。数秒後、綺麗な琥珀色の球体が掌に現れる。

 スピリット達は突如出現したその玉に注目した。

 さて、どう説明したものか。

 口だけで説明するのもいい。悠人にも説明してもらえれば、多分信じてもらえるはず。

 だが、やはり実際に見てもらったほうがいいだろう。百聞は一見にしかず。どう使って見せようかと考え、周りを見渡す。どうせなら楽しくて嬉しいほうが良いだろうと、横島は考えた。

 そして、誰もが幸せになる使い方を見つけた。横島はにっこりと不気味に笑いながらヒミカに近づいていく。

 

「な、なんですか、ヨコシマ様?」

 

 ヒミカは嫌な予感を感じていた。

 にやりと笑いながら近づいてくる横島は、ネリーがいたずらをするときの顔に良く似ていたからだ。

 そして、その嫌な予感は的中する。

 むにゅ。

 48の煩悩技の一つ。

 おっぱいタッチ!

 なんでもアイドルを育成する者は、等しくこの技を極めているらしい。

 

「い、いきなり何するんですか!」

 

「どわっ!」

 

 ヒミカはぜーぜーと荒い息をしながら、突き飛ばした横島をじろりと睨みつける。

 もう少し真面目にして欲しい。

 横島を立派な隊長として立て様とするヒミカにとって、横島の評価が落ちたら困るのだ。

 今回の事で、また評価が下がったらどうしようかと心配したヒミカだったが、セリアたちの視線が横島ではなくヒミカに集まっていた。正確に言えば、ヒミカの胸に。

 

「ヒ、ヒミカ……あなた、その胸……」

 

 震える声でセリアがヒミカの胸を指差す。

 一体胸が何だというのか。小さい胸に文句があるのか。

 少し不機嫌になりながら、ヒミカは自分の胸を見てみる。

 そして、ヒミカは気づいた。

 

(あれ……つま先が見えない?)

 

 下を向けば、悲しいことにつま先が見えるはずなのに、何故か見えない。

 大きな山が二つ、つま先を覆い隠している。

 つい先ほどまでは、ヒミカの胸には名も無き小さな山が二つあるだけだった。

 しかし、それが今は……

 

「え、ええ……えええええ!?」

 

 ヒミカの叫びは、その場にいる全員の心の声だった。

 だが、それも当然。名も無き小さな山にすぎなかった自分の胸が、世界遺産に指名されそうな巨乳になっているのだから。

 

「本……物!!」

 

 ぐにぐにと自分の胸を動かし、本物かどうか確かめる。

 この重さ、この感触、本物に間違いない。

 マナ100パーセントの乳。それも巨乳。

 

「まさか、ヨコシマ様の力って……」

「貧乳を巨乳に変える力なんですか!?」

「これが、エトランジェの力なの!?」

「ヒミカが巨乳になっちゃいました~!!」

「ヒミカが消えました」

 

 決して起こりえない、ありえない、あってはいけない、許されない、巨乳は許さん、そんな驚天動地の超大奇跡が起きたことで場が騒然となる。

 某レッドスピリットなんて胸でヒミカを決めていたようだ。

 驚愕が場を満たしていく中、悠人は頭を抱えていた。

 

「横島、お前って奴は……」

 

 どれだけ文珠が万能なのかを示すために、文珠を使用する。

 それはまあいい。

 かなり勿体無い気がするが、これが横島の下した決断なのだろう。

 しかし、まさかこんなことに使うとは。

 悠人は呆れを通り越し、もはや感心までしていた。馬鹿もここまで来れば立派な物だと。

 ちなみに、『天秤』は言葉すら発する事ができないくらい放心していた。今後のため、四日間も必死に頑張って文珠を作り、その結果がこれだ。流石に少々可哀想である。

 ヒミカはしばらく自分の胸をぼけーっと眺めていたが、ようやく我に返ったようで、顔を真っ赤にして横島に詰め寄った。

 

「な、なんて事をするんですか! こんなに胸が大きくなったら戦いのときに邪魔になるだけです。こんな……胸なんか……」

 

 胸が大きいと戦いの邪魔になる。

 生粋の戦士であるヒミカは、まずそこに考えがいったのだが……

 

「ヒミカさん……あの」

 

「何よ、ヘリオン」

 

「顔……笑っていますよ」

 

 戦士とはいえ、それ以前に女性であるヒミカは、巨乳になったことを喜んでいるらしい。

 それに、ヒミカはなんとなく思っていた。

 これで親友にして、巨乳のハリオンと並んだときに比較されなくなる。

 足して2で割ったらちょうどいいなんて、誰にも言われない。なにより、これで女性らしくなれたのではないか、と。

 だが、奇跡は一瞬だった。

 プシュンという空気が抜けるような音がヒミカの胸から響く。

 するとヒミカの胸は見る見る小さくなっていった。

 

「あ……」

 

「あ~やっぱり急いで作った文珠だから、長続きしないみたいだな」

 

 まるで風船が萎むように、小さくなっていく元巨乳。そしてミニマムサイズ……元に戻ってしまう。

 

「良かった。大きい胸なんて戦いの邪魔だもの……う、嬉しいわ。悲しくなんてないのよ……本当に!」

 

 そう言って胸を押さえるヒミカの姿に人々は涙した。

 このシーンだけでも映画が作れるかもしれない。

 全ファンタズマゴリアが泣いた!

 巨乳と貧乳が織り成す、奇跡のストーリー。

 君は、貧乳の涙を見る。

 

「横島……話を先に続けろ」

 

 額に青筋を立てた悠人の声。声もかなりキテル。

 真面目で、オチャラケが不得意な悠人はこういう雰囲気は苦手だった。苦手であって、嫌いではないのだが、基本的に悠人がギャグやユーモア溢れる発言をする事はない。

 逆に横島はこういうオチャラケ雰囲気が好きなのだが、流石にこれ以上はふざけられないと表情を改める。

 

「言っとくけど、俺の力は胸を巨乳にする力じゃないからな」

 

 その声に全員が横島に注目する。

 

「どういったらいいかな……簡単に言うと、イメージを実現する力って感じかな」

 

「イメージを実現?」

 

「例えば、さっき見たく胸を大きくしたり」

 

 全員の視線がヒミカの胸に注がれ、ヒミカは顔を赤くして胸を隠す。その仕草が可愛らしく、悠人は誰にも分からない程度に鼻の下を伸ばしていた。横島は盛大に伸ばしていたが……

 

「相手の心を読んだり……」

 

 何人かが渋面を作る。

 心を読まれるなんて常人では耐えられない。

 

「あとは天候を操ったりとか」

 

「天候……をですか?」

 

「晴れとか雪とかだって、できるっすよ」

 

「うわーいい力だね。好きなときにお外で遊べるんだ!!」

 

「お洗濯物も~乾かすことができますね~」

 

 ネリーとハリオンが何ともお気楽なことを言うが、エスペリアを始めとする年上組みはそれどころではない

 天候を操る。

 それがどういうことか理解すれば、顔色を変えない者はいないだろう。

 農作物の収穫期に豪雨にでもすれば、それだけで国に大ダメージを与えられる。

 晴れだけでも雨だけでも作物は育たない。しかも、ばれることが無い。

 戦闘する際でも、天候という要素は重要だ。

 これでも文珠でできる効果の一端に過ぎない。やれる事よりも、やれない事を探すほうが難しいぐらいだ。

 

「国一つ揺るがせることもできますね……」

 

 エスペリアが僅かに声を震わせて言う。

 他のスピリットも顔を青くさせていた。

 人の心も、戦いも、国さえ動かしかねない文珠の力。

 余りにもでたらめなので、セリアが疑問の声を上げる。

 

「本当の話なのですか。嘘を言っているとかじゃあ……」

 

「いくら俺でもこんな時に嘘は言わんって。それに以前、悠人のやつに文珠を使ったことがあるからな。」

 

 その言葉に全員が悠人に注目する。

 悠人は真面目な顔で頷いた。

 スピリットの信頼を悠人は勝ち取り始めていたし、なにより真面目だという評価を貰っている悠人が頷いたことで、全員が文珠のことを信じることができた。

 

「後、一個だけなら皆にも使えると思うぞ。二個同時に使うとかじゃなければ誰でも使用できるんで」

 

 言葉も無いとはこの事か。

 この文珠を持てば、力も何も無い一般人が、万能の力を得ることに等しい。

 

「他にもとにかく応用が利くんで、説明するのは難しいけど、俺の秘密にしていた力ってのはこんなもんです。ただ、1週間に1~2個ぐらいしか作れないっすけど」

 

 そこで横島の説明が終わる。

 ようやくセリアは理解した。

 一体何を危惧して横島が文珠の力を秘密にしていたのかを。

 文珠は危険すぎる。

 人が持つには大きすぎる力。

 この力を無秩序に使えば、何もかもが混乱する。

 対抗手段も何も無い。この世界の人間にとっては、神剣を除きさえすれば、最も危険な力。それも自分達が扱える力だ。

 

「もし人間たちがこの力を知ったら……」

 

 人間を悪党と言うつもりは、セリアには無い。

 人間たちはスピリットを奴隷扱いしているため、セリア自身は人間を毛嫌いしているが、それは常識であって人間の善悪に関係はしていないのだ。

 文珠を平和や発展の為に使う者だって出てくるだろう。だが、基本的に人間の欲望は負の方向に向かうのが基本だ。もし良き方向に使おうとしても、不用意に力を得れば国が混乱する可能性が高いのは間違いない。

 セリアはこのような危惧をしたが、横島としてはそこまで考えた事ではなかった。

 別に横島はこの世界の人間が、文珠をどのように使おうと興味が無い。ただ、文珠を取り上げられる事だけが嫌だった。だからこそ、横島は文珠の事を皆に説明しなかったのだ。

 もしも人間たちが文珠を奪いに来ても、横島なら100人来ようが1000人来ようが問題ない。例え、世界中の人間が襲いかかろうと、神剣使いである横島なら逃げる事は造作も無い。

 だが、人間達もそれは分かっているのだ。ならば、弱点を狙ってくるのは当然の事。

 横島にとっての弱点とは、スピリットに他ならない。セリア達を人質に取られているようなものなのだ。

 もし、人間達が文珠の引渡しを要求して、拒否したらどうなるか。

 考えるまでも無い。

 

「俺はここにいる皆以外に、文珠の事は絶対に言わない」

 

 きっぱりと、横島は宣言するように言い切った。

 その言葉に、セリア達は顔を下げて、苦しそうな表情になる。

 文珠の事を人間に伝えないでくれ。そう言われていると思ったのだ。

 

「私達はスピリットです。もし問われれば、答えなければいけません……答えて、しまうのです」

 

 日が東から昇り西に沈むように、生あるものが必ず滅ぶように、男がおっぱいを愛するように、どうしようもない法則。摂理。真理。

 世界が、そう出来ているのだ。そこにスピリット個人の意識など、介入できない。

 

「そんな事関係ない。もし、皆が人間に話して、文珠の事が知られたら……」

 

 その横島の言葉に、セリアは目つきを鋭くして睨み、幾人かのスピリットは顔を青くした。

 セリア達だって人間に話したくなど無い。だが、本当にどうしようもないのだ。

 不安、不満の二つの感情が横島に向かう――――

 

「どうもせん」

 

 ―――ことは無かった。

 横島はあっけからんとそんな事を言い放った。

 今までの文珠に関する前振りは何だったのか。非常に大切で、危険なものではないのか?

 

「ちょっと待ってください。それじゃあ、文珠の話がラキオスに……いえ、大陸中に広まってしまうかもしれないじゃないですか!」

 

「まあ、そうだな」

 

 何とも軽く言う横島に、焦りと不安を感じたのはスピリット達の方だった。

 信じられないと、スピリット達は横島を見つめる。こんな重要なことも対して、何の対策も取っていないのかと。

 

「しょ、しょうがないだろうがーー!! 話さないとセリアフラグもハーレムフラグも立ちそうにねえし! ネリー達とは妙な空気が漂うし! 俺は皆と仲良くなりたいんだよ!! ハーレム王になりたいんだよ!! 悪いかこんちくしょーー!!」

 

 なんという事か。

 ただ自分達と仲良くなりたいがために、自らが不利になる最大の秘密を暴露し、しかも何の対策も練っていないのだ。

 命を掛ける戦士としての呆れもあったし、ハーレムハーレムと叫ぶ横島に女性としての軽蔑もあった。だが、これほどまでに自分達の事を考えている横島の優しさと欲望に、各人は程度の差はあれ、ある種の感動を覚えた。

 概ね良い印象を与える横島の告白だったが、ただ一人、悪印象だけを持った者もいた。『天秤』である。

 

『主よ……お前は自分がどれほど愚かなのか分かっているのか』

 

 『天秤』から深い失望と呆れが伝わってきた。

 怒りではなく、呆れである。呆れるという感情は、ある意味、怒りよりも悪い意味を持つ事がある。怒っても無駄な、あるいは怒る価値すらない。そんな意味が込められた言葉だ。

 『天秤』の問いを、横島は無視した。言われるまでも無く、自分がやっている事が合理的ではないと知っている。自らが望んでいた成長とは正反対の行動だ。

 言い訳するつもりはない。ただ、これが自分の望んでいた行動だったのだ。

 

(文珠のことを話すのはデメリットを知りながらこの行動……これが感情の力か)

 

 相手から負の感情を送られたくなく、仲良くなってママゴトをしたい。

 そのような感情から、何のメリットも無い行動を選択する事になってしまう。

 感情を知れと言われた『天秤』だったが、こういう場面を見ていると勘弁してくれと愚痴の一つも言いたくなる。『天秤』の感情に対する険悪感は増えていくばかりであった。

 

(まあ、確かに馬鹿なことよね。でも、合理と不合理、正しいと間違い、貧乳と巨乳、本能と理性、全部が正反対って事はないわ。貴方が求めているものと、排除しようとしているものは、結構近いものしれないわよ)

 

 内側から響いてくる女性の声。ルシオラだ。その声に敵意は無く、優しさすら感じ取れる声。

 当然のように『天秤』はその声を無視する。

 ざわ……ざわ……

 という感じで全員が驚いている間に、横島はこっそりとエスペリアに近づき、耳元で囁いた。

 

「レスティーナ様になら話してもいいですから……つーか、話してください」

 

 そう囁かれ、エスペリアは体を硬直させ、横島という人物の評価を少し改めた。

 意外と洞察力がある。自分とレスティーナ王女の関係を見抜くとは。

 いや、もしかしたら文珠ですでに自分達の心を覗かれているのかも。

 だとすれば自分の汚れた部分も知られているのか。一体何を考えているのか。

 エスペリアは横島から一歩離れる。

 力を持つものに対する、恐怖と言う感情がそこにあった。

 

「横島、話ってのはそれだけじゃないよな」

 

 厳しい顔をして、悠人は横島を睨みつける。

 確かに重要な事ではあるが、本来の問題の本質ではない。その事を、横島は理解していないのかと不安になった。

 

「お前に言われるまでもねえよ。これからの話は第二詰め所のメンバーだけでやるからな」

 

 そう答えた横島に、悠人は安心したような顔をしてアセリア達を引き連れ帰っていった。

 第二詰め所のスピリットと横島だけになると、心地悪い静寂が訪れた。横島が一人でバーンライトに行くと言ったときのような空気だ。隠し事を打ち明けたにもかかわらず、未だに壁は取り払われてはいない。

 もはや、互いに嫌いあっているなどという事は無いと分かりきっている。だが、今回の問題の起点はそもそもそういう部分にはない。

 

 ネリーは思っていた。

 こんなに凄い力があるのだから、ネリーなんて必要ないのだろうと。

 秘密にしていた力を、自分達に嫌われたくないからという理由で教えてくれた事は凄く嬉しい。しかし、それはネリー達が欲しかった言葉ではなかった。

 ネリー達は、ただ横島に頼りにしてもらいたかったのだ。痛みや苦しみを分かち合える仲間だと認めて欲しかったのだ。文珠という存在は、より自分たちが認めてもらうための障害にしかならなかった。

 

 どうしたらいいのだろう?

 どうしたらヨコシマ様の役に立って、頭を撫でて貰えるのだろう?

 どうすれば文珠よりも役に立てる存在になれるのだろう?

 ――――――もう、無理なのか。

 

 考えて考えて、思考がマイナスに落ちていく。涙が浮かんでくる。

 悲しみと諦めが子供たちの心を埋め尽くそうとした瞬間、

 

 ガツン!!

 

 大きな音が耳に届いた。

 何事かと前を見ると、そこには第二詰所の隊長である横島が、床に額をこすりつけていた。あの大きな音は、額と床をぶつけて出た音らしい。

 

「本当に俺が悪かったです! すいません!!」

 

 土下座。

 額に地面を付けて、まるで潰れた蛙のようにその身を地面に擦り付ける。

 突然の謝罪に、ハリオンを除く全員が目を丸くした。

 

「ヨ、ヨコシマ様どうしたの!?」

 

「そうですねえ~。ヨコシマ様は悪い事なんてしていないんですから、謝る必要なんてないですよね~」

 

 いつも通りニコニコと笑っているハリオンだが、何かがいつもと違う。

 いつもより楽しそうで、そして嬉しそうである。

 思わず顔を赤くした横島だったが、すぐに引き締めて、ゆっくりと喋り始めた。

 

「少し……いや、めちゃくちゃ危なくなって、もうだめだって時にファーレーンさんに助けられたんです。その時に聞いたんです。皆がファーレーンさんに俺の事を頼んでたって」

 

「む~それだけですか~」

 

「いやいや、これからですって」

 

 横島の言葉にハリオンは満面の笑みを浮かべる。それはただひたすらに慈愛に満ちている。

 俺は本当に恵まれている。全てを許容してくれるような笑顔と、全てを包み込んでくれるようなおっぱいに、彼は勇気付けられる。

 横島は真顔でネリー達に向き直ると片膝を折り、視線を子供たちと合わせた。

 

「ファーレーンさんの事もそうだけど……ネリー、シアー、ヘリオン、ありがとな。一緒について行くって言われたときは、本当に嬉しかった。あの時の俺はマジでビビッてたしな。ヒミカにハリオンさんもありがとうございます。お菓子はとっても美味かったです。セリアにナナルゥも心配かけて悪かった。エニもサンキュな、『天秤』の奴も泣いて喜んでたぞ」

 

 一人一人の手を握り、頭を下げて礼を言う。手を握ったからといっても、そこで煩悩男に変身しない。懇切丁寧に、真摯に、横島を心から感謝した。

 またもや、ハリオンを除く全員が、その感謝の言葉を、声もなく受け取る。どう反応したらいいのか分からない。別に感謝されようと思ってファーレーンに頼んだわけではない。わけではないが、胸の奥がぐっと温まったような気がした。

 

 ありがとう。

 この言葉こそ、横島が最初に言わなくてはいけない言葉だっただろう。

 一緒に行くと言ったネリー達に、横島は戦術的にどうだとか、合理的だとかそんな説明で彼女たちの言葉を聞かなかった。一人で戦う決めた横島は不安で一杯で、それに気づいたネリー達は横島を心配して共に戦おうと言ったのだ。

 不安を抱えてた中でのネリー達の言葉に、横島の心は泣きたいほどの感激と喜びで一杯になった。それにも関わらず、感謝の言葉など一言も言わなかった。

 弱気で不安げな隊長など役に立つものか。強く、不敵で、格好良く、それを目指して横島は振舞った。その考えが間違っているかは分からない。ただ、それは横島にとって心を隠す演技であって、しかもネリー達はそれが演技だと見破ってしまった。痩せ我慢の『大丈夫』ほど、人を不安にさせるものはない。

 

 だいたい、横島が言う成長というのは何だったのか。

 冷静な判断能力を得る事? 広い視野を持つ事? 

 それは確かに成長だろう。だが、そもそもあの努力嫌いの横島が何故、成長したいと考えたのか。それは言うまでも無く、女の子達のためである。

 女の子達の為に強くなりたいと考えたのに、彼女らの心も何も考えず、ただ自身の成長だけを望んで行動した。目的と手段がいつのまにか入れ替わっていたのである

 

 それに、成長するといっても、人間はそう簡単に成長できるわけではない。

 三つ子の魂百まで、という諺にもあるとおり、人はそう簡単に変わることなど出来はしない。

 横島は自身の弱さを隠して、強くなくては出来ない行動を無理に取ろうとした。どこかで歪みが出るのは当然である。強くなると決めて、決めただけで横島は強くなった気がしていたのかもしれない。

 もっとも、弱さを捨てるのはさして難しい事ではなかった。『天秤』の言うとおり、洗脳の通り動けばよかった。だが、それすらも横島は拒否した。いったい何をしたかったのか。周りをただ振り回しただけだった。

 

「今回の事で少し分かったんです。俺は一人じゃ弱くて、周りに女の子がいないとだめなんだ!! 俺ががんばれんのは一も二もなく女の子の為……美人あっての俺! 苦しい選択したからって、強くなれるわきゃないんです」

 

 茨の道を望んで進む。つまり、自分らしくない行動を取ったわけだ。それが成長であり、正しいはずだと、横島は誰にも相談せずに勝手に決めた。

 いや、もし誰かにそれが成長じゃないと言われても横島は納得しなかっただろう。言葉程度で簡単に考えを改められるほど、横島の想いは弱くなかった。

 その身で痛い思いをしたからこそ、そして自分のエゴで仲間にも辛い思いをさせたからこそ、間違っていたことに気づいたのだ。

 

「俺は皆が好きだ。だから守りたい。その為に強くなりたいと思う……いや、そうじゃなきゃ強くなれない! それを絶対に忘れちゃいけない。

 あと、守るってのは戦いだけじゃなくて、悩みとかもどんどん相談してほしい。俺も、つらい時は皆に頼って……え、ええと、妹とか姉さんとか……家族みたいに我儘言ったり……ぐああ! 恥ずかしい! 俺何言ってんだ!? めちゃめちゃ臭いぞ! 顔から火が! 火が~!」

 

「恥ずかしがらないでください~ヨコシマ様~後少しですよ~」

 

 臭い台詞のオンパレードに横島は死にたくなった。余りの臭さに、風の妖精さんでも出てきてくれないかと思ったほどだ。

 もう少し砕けた感じでフランクに喋りたいところなのだが、今この時だけは誠実に言葉を重ねていく必要があると、必死に恥ずかしさに耐えつつ、言葉を重ねていく。

 

「えーと……皆、こんな頼りない隊長だけど、力を貸して欲しい。俺を精一杯がんばりますので。よろしくお願いします!」

 

 最後にそう締めくくり、もう一度深く頭を下げた。

 横島の話を聞き終えたセリア達は一つ理解した、いや、再確認した。

 この人は馬鹿で、本当に馬鹿で……まったくもって馬鹿なのだと。

 そのことが分かっただけで、セリアたちには十分だった。

 大人たちはこれが自分達の隊長なのだと、呆れやら苦笑やらで、溜息を漏らす。口元を緩めて嬉しそうに。

 子供たちは自分達が戦力として、また一人の友人として……いや、家族として接してくれるというのが分かり、ただただ喜んだ。

 そして、スピリット全員が共有して理解した事は、この隊長は本当に自分達の事を考え、悩み、苦しみ、女性が大好きなのだという事だった。

 

「……今後は何があっても、まず私たちに相談してください。それが真剣である限りどれほど馬鹿な相談でも、馬鹿にしたりはしません。私たちは……仲間なのですから」

 

 ぶっきらぼうにセリアが言った。表情は厳しいが、目だけは優しかった。先ほどとは逆の表情。言葉と顔と感情と、それぞれが全て一致する事が無いセリアであった。

 

「へへー! ありがとうございます。それで、今回のお詫びとして、可能な限り全員の願いを一つ叶えさせて貰います!」

 

 子供達が歓声を上げて、場が騒がしくなる。

 万能に近い力を持つ横島が、願いを叶えると言っているから―――ではない。

 戻ってきたのが実感できたからだ。

 あの、騒がしく楽しい日常が、いや、前以上に楽しくなる日常が戻ってきたのだ。

 

「あっ、そうだ。おい『天秤』、エニの願いはお前が叶えてやるんだぞ」

 

『何故、私がエ二の願いを叶えねばならぬ』

 

「エニはお前の安全をファーレーンさんにお願いしていたんだぞ」

 

 だからどうしたと、『天秤』は言いたかったが、その言葉は飲み込んだ。

 エニを利用して心を学習する。己の上司にも言われたし、今の自分の課題の為にも、エニとのコミュニケーションは必要だ。それにエニの事を良く知れば、エニを上手くコントロールして横島との仲を進展させやすくなるかもしれない。

 

「えーと……テンくん」

 

 いいの?

 エニは少し不安そうにしながら、そう目で訴える。

 

『まあいい。とりあえず願いを言ってみろ。しかし、見ての通り私は剣だ。そのことを頭に入れて願うことだな』

 

『天秤』にそう言われ、エニは可愛らしく小首を右左と曲げながら考え込む。

 少しして、エニは笑顔を浮かべてこう言った。

 

「結婚して欲しいよ」

『却下だ!!』

 

「何で!? 酷いよテンくん!」

 

『当然だろう! 私は神剣で、お前はスピリットだ。それにお前はまだ子供だ!!』

 

「この作品の登場人物は全員18歳以上だよ」

 

『ええい、妙な電波を受信するな! だいたいお前は生まれて一ヶ月程度だろうが!!』

 

「愛は時空を超えるんだよ」

 

『くっ! 主みたいな事を口走りおって!!』

 

「生まれる前から愛してたよ」

 

「おい、エニ。それは俺の台詞だろうが!」

 

「……オマージュ?」

 

「パクリだ!」

 

 エニの『天秤』に対する攻勢は凄まじいものだった。

 迂闊にエニとの問答で肯定的な返事でもしようものなら、次の瞬間には婚姻届にサインを押されて役所に突撃するぐらいに。

 暫しの問答の内に、エニは『天秤』を持ってどこかに行ってしまった。

 連れて行かれるとき『助けろぉ~あるじぃ~!』と、少しだけ泣きそうな声の天秤に、横島はドナドナを歌って祝福してやった。とても楽しかった。

 

「決まりました!!」

 

 一際大きい声をヘリオンが上げる。

 そして、横島の目の前にトコトコとやってきた。

 キョロキョロとあちらこちらに目をやり、決まったと言った割には、何かを迷っているのだとわかる。

 

「あの……こんな願い事していいのか分からないんですけど……」

 

「願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう」

 

 7つ集めると出てくる龍のように言う横島。

 そんな横島に、ヘリオンは意を決したように願い事を言った。

 

「私の願い事を3つにしてください!!」

 

 活気付いていた部屋が一気に静まり返る。

 あり?

 そんなのあり?

 その願いは誰もが考え、決して実現しない禁断の願い事だ。

 全員の視線が横島に集中していく。

 まさかそんな願い事を叶えるわけが……

 

「ああ、いいぞ」

 

「ええ~~~!!」

 

 まさかそんな願いがOKだとは。

 年少のスピリット達はいっせいに横島のほうに向かって走り出す。

 

「ずるい~! ネリーも願い事増やすー!」

「シア~も! シア~も!!」

「駄目です。最初の願いは私からです!」

「分かってるって、ヘリオン」

 

 ぽんぽんと横島はヘリオンの頭を優しく叩く。その顔に怪しげな笑いを湛えながら。

 純粋なヘリオンは、その怪しい笑みにまったく気づかない。

 

「今考えるからちょっと待ってください!!」

 

 一体どんなお願い事をするか、その小さい胸いっぱいに夢と希望を膨らます。

 あれもいいか、これもいいか。夢と妄想は無限に広がる。

 キラキラと光り輝くヘリオンの瞳を見て、横島はニヤリと笑った。

 

「よし、これで全ての願いは叶えたぞ!」

 

 突然そんなことを言い出した横島に、ヘリオンはポカンとした。

 

「……はい? あの、私はまだ何の願いも言ってないんですけど……」

 

 いまだ状況がつかめていないヘリオンに、横島はにやけながら答える。

 

「何言ってんだ。全部叶えただろうが。もう一度よく考えてみろって」

 

 ヘリオンは混乱した頭で必死に考える。一体自分が何を言ってしまったのかを。

 駄目です――――――――――――――1つ目の願い。

 私の願いを最初に――――――――――2つ目の願い。

 考えるからちょっと待って――――――3つ目の願い。

 

「はううっ!」

 

 ここにきて、ヘリオンは全ての願い事? を叶えてしまっていることに気づいた。

 

「ふえ……ふえ~ん! バカー! 私の大バカー!!」

 

 目から滝のような涙を流し、崩れ落ちる。

 横島の所為にするのではなく、自分を責めるのがなんともヘリオンらしい。

 普通に考えればおかしいと考えるだろうに。

 

「へへーん! 欲張るからこうなるんだよ!!」

「だよ~」

 

 ネリーとシアーがヘリオンを冷やかす。

 

「あのヨコシマ様。ちょっと今のは……」

 

 ヒミカがいくらなんでもあんまりだと横島にやんわりというが……

 

「別に嘘はついてないぞ」

 

 確かに嘘はついてない。だが、はっきり言ってこれは詐欺同然ではないだろうか。

 一応横島は、言われた願いは叶えられる範囲で全て叶えようと思っていた。

 だが、瞳をキラキラ輝かせて願い事を増やして欲しいと言われ、不思議なぐらい悪戯心がわき上がってしまったのだ。

 これはヘリオンという少女の力なのかもしれない。

 守ってあげたいオーラと、いじめてオーラを同時に出しているような少女なのだ。

 実を言うと、ヘリオンは第二詰め所の中でもからかわれる事が多い。

 そのとき、横島は自分を見つめる緑の視線に気づく。ハリオンだ。

 別に不満がましい目で見ているわけではない。睨まれているわけも、呆れたような目で見られているわけでもない。ハリオンの瞳はいつもと変わらず、優しげで日向のような輝きを放っている。

 ハリオンは横島を見つめている。

 ハリオンは横島を見つめている。

 ハリオンは横島を見つめている。

 

「どわー!! 分かりましたよハリオンさん!!」

 

「あらあら~私は何も言ってませんよ~」

 

 ニコニコ笑うハリオンに、両手を上げて降伏する。

 確か横島がこの中で一番偉いはずなのだが、丁稚期間が長すぎたためか、権力をうまく使えないようだ。何より、このような立ち位置が横島に一番似合っていた。

 やはり願い事を増やすのだけは禁止ということになり、ヘリオンも一回だけならお願いして良いことになった。ありがとうございます、と目に涙を溜めて頭を下げるヘリオンに、将来騙されるのではないかと、皆が不安になったのは無理もあるまい。

 願い事が一回だという事で、子供たちはまた真剣に考え始める。

 そのとき、今度はナナルゥが横島の前までやってきた。

 

「ん、ナナルゥは願い事が決まったのか?」

 

「私には、何を願えばいいのか分かりません。私が何を願えばいいのか、ご命令をお願いします」

 

 クソ真面目にそんな事を言ってくるナナルゥに、横島は思わず吹きそうになった。

 ナナルゥは、このメンバーの中で一番神剣に心を奪われている。だが、先に戦ったバーンライトのスピリットよりは遥かに人間味溢れていた。

 

「あの……ヨコシマ様。このお願い事は今この時間でなくてはいけないのですか?」

 

 真剣な目をして言ってくるヒミカに、横島は苦笑しながら首を横に振った。

 ヒミカは本当にナナルゥの事を気にしているらしい。命令ではなく、ナナルゥ自身の考えで願い事を言ってほしいと考えているようだ。

 願い事を叶える期限は無期限となった。何時、どんなときでも、一つだけ横島に好きな事をいえるのだ。

 

(みんな生き生きしてるなあ~)

 

 久しく見ていなかったみんなの笑顔。

 チチシリフトモモの芸術鑑賞もいいが、女の子が和気藹々としている所を見るのもまた格別なものだ。

 文珠のことを知られるという代償を払って手に入れた笑顔。

 もし、あのまま自分らしさを捨てていたらこの笑顔は得られなかっただろう。

 文珠のことを知られるのは合理的ではない、なんて言っていたらこの笑顔は手に入らなかった。

 しかし、この判断が本当に正しいと言えるのか、それは分からない。

 そこまで考え、横島は自分が甘えている事に気づいた。

 

 ―――この考えが正しかった事にすればいいんだ。

 

 結局、全ては結果である。文珠の事を明らかにしたが、それで何か不都合な事は起こらなかった。そのような結果に持っていけばいいのだ。

 この考えは、結果論的考えであり、一つの逃げであると言えた。

 自分が本来選択したかった道を、色々な理屈を付けて選択する。悪い部分に目を瞑って。この考えの所為で、失われる物もあるかもしれないのに。

 だが、確かに未来は分からないのである。ここであーだこーだ言ってもしょうがないのだ。

 もし、文珠を知られた事で不利益が起こってしまったら、あの時、文珠の事を教えるべきではなかったと思うだろう。

 逆に、文珠を教えて不都合がなかったなら、教えておいて良かった、と言うことになる。

 まだ未来は決まっていない。求める未来のために、最善の手を打ち、今度こそ捨てるモノと捨ててはいけないモノを選り分けなければいけないのだ。

 クイクイ。

 手の袖を引かれて、思考の海から引き戻される。

 今は難しいことを感じる必要はない。

 ただ、女の子達と戯れよう。

 そう考え、横島は袖を引っ張った人物を見た。

 

「よーし、決まったよー。ネリーの願いは一日ヨコシマ様を好き放題……って! ヨコシマ様がいない!!」

 

「ヨコシマ様なら~シアーに手を引かれて二階にいきましたよ~」

 

「ずる~い! シアー抜け駆け~!!」

 

 騒ぎながらネリーは、どたどたと二階に上がっていく。その後をまってくださ~いと、ヘリオンが追いかけていった。

 騒ぎの大元である横島と子供たちがいなくなったことにより、広間は閑散となる。

 

「もう訓練どころじゃないみたいなので~私たちは家事でもはじめましょうかぁ~」

 

 ハリオンの言葉に、大人たちは頷きあった。

 

 ゴシゴシ。

 ゴシゴシ。

 二階の廊下を二人の美女が雑巾がけをしている。

 セリアとヒミカだ。

 

「文珠って凄い力よね。あれって、何でもありみたいなものでしょう?」

 

「そうね……性格も変なら、能力まで変になるのかしら」

 

 横島をフォローする形で話すヒミカに、貶す形で話すセリア。二人のポジションがこの辺りに表れている。

 談笑しながら手を手を動かしていたヒミカだが、その動きが止まった。顔付も鋭くなる。

 

「ねえ、セリア……貴女は気づいてるでしょう。ヨコシマ様の可笑しさに」

 

「……私はあの人ぐらい可笑しい人間に会った事はないわ」

 

「そういう意味じゃなくて!」

 

 思わず頷きそうになったヒミカだったが、なんとか否定する。いくら本当の事でも、部下でありスピリットである自分が隊長を侮辱するわけにはいかない。

 そんなことより、今は聞かなくてはいけないことがある。

 

「ヨコシマ様は試したのかしら?」

 

 ピタリと、セリアの動きが止まる。だがそれは一瞬で、すぐにセリアは窓拭きを再開した。

 

「何の事かしら?」

 

「何の事って……」

 

 主語は言わなかったものの、大人たち全員が気づいているはずだ。

 異世界から拉致同然にやってきたのだ。まず言う言葉、試す行動があるはずだ。諦めているのかと思ったが、文珠の出現でそれはありえないと分かってしまった。

 

「なんで聞かないのよ」

 

「だったらヒミカが聞けばいいじゃない」

 

 そう言われてヒミカは納得した。なるほど、これは確かに聞きづらい。いや、考えたくない。

 この話題は今後しない方がいいだろう。万が一、ヨコシマ様に聞かれて、そういえばそうだった、などと言われて実行する可能性もあるからだ。いつかその時が来るにしても、少しでも後に来てほしい。

 

「セリア、貴女には何かヨコシマ様に願いたいことはないの?」

 

 話題を変える。

 ヒミカの問いに、セリアは面白くなさそうに答えた。

 

「彼が言うには、ファーレーンに彼を助けてと頼んだ者の願いを叶えるといったわ。私は別にヨコシマ様を助けてなんて、ファーレーンにお願いしてないもの」

 

 だから、私には願いを叶えてもらえる資格なんて無い、セリアはきっぱりとそう言った。

 その顔には深い苛立ちと、声には不機嫌さが隠れもせずにじみ出ていた。

 セリアは横島のことを話題にすると大抵こうなる。

 ここまで横島のことを嫌うセリアを、ヒミカは不思議に思った。

 確かにセリアは厳しいことを言うことがある。

 しかし、それは仲間を思うがゆえ。

 仲良くなれば普通に笑うし、女の子っぽい所も多い。

 不器用な所も、それはそれで可愛い。

 間違いなくセリアは横島を嫌っている。

 でも、決して無視しているわけではない。

 むしろ、横島を目で追っている事さえある。好意的な目では無いにしろ、だ。

 目を離したら何をするか分からないとも言うが、目を離すことができないのかもしれない。

 

「そうね、そのほうがいいかもね」

 

「何が、そのほうがいいのよ」

 

「貴女のヨコシマ様に接する態度よ」

 

 そのヒミカの言葉に、セリアは怪訝な顔をした。

 ヒミカが、横島と自分達の中を少しでも縮めようとしていることを、セリアは知っていたからだ。

 

「無理に仲良くなる必要なんてないって事。それに……」

 

「それに?」

 

「もし貴女がヨコシマ様と仲良くなっちゃったら……私が困るもの」

 

 ヒミカの言葉にセリアは体を硬直させる。

 言葉の真意がまったくわからない。

 

「もし、貴女がヨコシマ様に好意を抱いたら……私一人でヨコシマ様に突っ込まなくちゃいけないし」

 

 セリアはこけた。

 

「何やってるのセリア」

 

「なんでもないわ。ただ貴女が正気でよかったと思ってね」

 

 そこまで言うかと、突っ込みたくなるほどセリアは横島を嫌っているようだった。

 少々過敏になりすぎているような気さえする。

 ヒミカはそんなセリアが不思議と可愛く見え、笑みを浮かべながら掃除を再開しようとしたのだが―――

 

 その時、それは聞こえて来た。

 

「ヨコシマ様~大きくて入らないよ」

 

「穴のほうが狭いんだ」

 

 ネリーとシアーの部屋から妙な声が聞こえてくる。

 神剣反応はシアーの『孤独』、ネリーの『静寂』、ヘリオンの『失望』まである。

 また、声から判断すると横島もいるようだった。

 

「シアーって結構不器用だね。ネリーのほうがきっとうまくできるよ!」

 

「だって……こんなことするの初めてなんだもん」

 

 いつの間にか、セリアとヒミカはドアに耳を当てて部屋の中の様子に聞き入っていた。

 一体何をやっているのか気になったのだ。

 

「うっ……くぅ……はあ。大きすぎて、うまく入らないの」

 

「俺も経験が無いからどうしたもんか……無理やり入れるか?」

 

「シアーの壊れちゃうよ」

 

 どうやら狭い穴の中に、太い何かを入れようとしているらしい。

 

「じゅあ、俺も手伝うから……」

 

「うん……」

 

「動くな、シアー。うまく入れられないだろ」

 

「う~~だって……痛い!」

 

「悪い! 血が出ちまったな」

 

「ヨコシマ様の大きいんだね」

 

「シアーの穴のほうが小さすぎるんだと思います」

 

 入れようとするものが大きくてうまく入れられない。

 不器用で初めてだと血が出るようだ。

 

「ああじれったい! やっぱりネリーがやる!」

 

「駄目……シアーが最初なの!」

 

「悪いな、ネリー。それにこれは二本も三本も無いんだ」

 

「う~~!!」

 

「あの舐めてみたらどうでしょう? 以前見た本にそうすると挿入しやすくなるって書いてありましたよ」

 

「うん……やってみるの……んん」

 

 ぴちゃぴちゃと粘着的な音が聞こえてくる。

 一体、シアーが何を舐めているのか、二人には分からない。

 だからその『何か』をヒミカとセリアは想像することになった。

 

「あ、あぅぅぅ!?」

 

「ヒ、ヒミカ……おち、落ち着いて!」

 

 扉一枚を挟んで行われている何らかの『行為』を想像した二人は顔を真っ赤にした。

 もし、『行為』が強引に行われていたら止めようとしたのだろうが、どうやらシアーのほうから望んだようだ。それに、この状況で乱入できるほど、セリアもヒミカも勇者ではなかった。

 

「て、撤退しましょう! 私たちだけじゃ、戦力不足よ!」」

 

「ええ、そうね!! とにかくここから一刻も早く離れないと!」

 

 何をどうしたら分からなくなった二人は、戦略的撤退を開始する。

 逃げてどうなるとも思ったが、ここに居てどうなるものでもない。

 もし、喘ぎ声でも聞こえてきたらもうパニックだ。

 扉から離れて立ち上がろうとした二人だが、ここで緊急事態に襲われる。

『腰が抜けて動けない!』

 扉に体を押し付けながら動けなくなるというあんまりな事態に、セリアは泣きたくなった。同時に横島を心の中で侮辱する。

 自分達がこうなるのも全てヨコシマ様のせいだと。流石にこれは言いがかりと思える。

 

「シアーも腰を使うからこうなるのかしら」

 

「ヒミカ! お願いだから混乱しないで! ああもう!!」

 

 頼れる相棒の緊急時の弱さに、セリアは舌打ちした。自分だってこんな事態に強くないのに。

 次に一体どんな声が聞こえてくるのか。

 二人はドアに寄りかかったまま、何も聞こえないよう耳を塞ぎ、しかし、どんな声も聞き漏らさないように精神を集中した―――その時、

 

「二人とも~こんな所で何をやってるんですか~」

 

 緊迫した状況に似合わない、のんびりとした声が聞こえてきた。

 お姉さんなスピリット、ハリオンだ。

 状況がつかめていないのか、つかもうとしないのか、ハリオンはニコニコしながらドアにへばりついている二人を見て笑っている。

 

「ヨコシマ様は~このなかですかぁ~」

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

「ヨコシマ様~入りますよ~~」

 

 ハリオンがドアノブを回し、扉を開けようとする。

 そんなハリオンを見て、セリアとヒミカは顔をぶんぶんと横に振り、必死に止めようとした。

 だが、そんな必死な二人をハリオンは「元気ですね~」などと天然パワーで黙殺する。そして、ドアノブをゆっくりとまわした。

 

「きゃああ!」

 

 扉に体重をかけていたセリアとヒミカは、雪崩のように部屋に倒れこむ。

 こんなときどんな顔をすればいいのか。

 何処からか、笑えばいいと思うよ、何て幻聴が聞こえてきたような気がしたが、丁寧に無視する。

 目を開けるのが恐い。もしも、ヨコシマ様とシアーが繋がっていたらどうしよう。

 目を閉じて戦々恐々している二人だったが、その間にハリオンは普通に横島達と話を始める。

 

「あらあら~何を作ってるんですか~」

 

「ヨコシマ様に、ハイペリアのおもちゃの作り方を教えてもらってるの」

 

「へえ~そうなんですか~。良かったですね~」

 

 シアーが持っているのは小さな縫い針だった。横島はシアーと向かい合いながら糸を持っている。辺りにあるのは、布と豆。

 何を作ろうとしているのか簡単に説明すると、布の中に豆を入れて鞠のようにしようとしていた。

 つまり、お手玉だ。非常に簡単な作りの遊び道具だが、極めるとなると意外に奥が深い遊びである。

 先の横島とシアーの話は、シアーが持っている針の穴に、横島が糸を通そうとしていた会話らしい。

 

 そこには、ただひたすらのどかな光景が広がっていた。

 こんなのどかな風景のどこに、彼女たちが顔を赤くする要素があるというのだろうか。

 やっぱりそれは分からない。横島は倒れこんでいる二人を見て驚いた、

 

「セリアにヒミカ、どうしたんだ……めちゃくちゃ顔真っ赤だぞ!!」

 

 二人は可哀想なほど顔を真っ赤にして、目尻に僅かに涙まで溜めている。

 強い女性が涙目で上目使いという反則技の前に、横島の煩悩がフル回転する。

 

「風邪か? 風邪なんだな!? よっしゃ、熱があるか計ってやる!」

 

 得意のルパンダイブを発動させる。

 熱を計るのにルパンダイブ。何故? 何て考えてはいけない。横島だからだ。

 手を大きく広げ、パンツ一丁で飛んでくる変態。

 いつものことなのだが、妙な想像をした二人にとって、その姿は刺激すぎた。

 

「いっやあああああああ!!!!」

 

 セリアとヒミカのツインアッパーが横島の顎に炸裂する。完全に予定調和の一撃だ。

 

「やっぱりこうなるかーー!!」

 

 横島はこうなる事を予想していたらしい。勢い良くぶっ飛ばされる。

 ネリーもこうなる事を予想していたのか、咄嗟に窓を開ける。横島は屋根を壊さないよう、器用に開いた窓から出て行き、星になった。

 

「ま、また隊長であるヨコシマ様を……うう、どうしてこうなるの!?」

「私達は悪くないわ! どう考えても悪いのはヨコシマ様よ! あ、あれ、脱ぎ捨てた服が……」

「おみやげよろしくー!!」

「しく~♪」

「ヨコシマ様~私のお願いはどうなるんですか~!?」

「ご飯までには~帰ってきてくださいね~」

 

 女達の姦しい声が、雲ひとつ無い青空に吸い込まれていった。

 

 


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