永遠の煩悩者   作:煩悩のふむふむ

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第十六話 ダーツィ攻略戦 前編

 

『どういう事か、説明をお願いします。『法皇』様』

 

「そうですわね」

 

 『天秤』と幼女は黒い空間で、いつもの怪しげな密談を始める。ただ、いつもの、と言うと少し語弊があるかもしれない。いつもは幼女主導で始まる会話が、今回は『天秤』がメインで話が進んでいるからだ。

 

『疑問点がいくつかあります。タキオス様は、私を候補者の中で最弱と呼びました。候補者とはどういう意味でしょう?

 私で決定だったはずです。だからこそ、私は『あの』力を授かり、ルシオラと彼女らは……

 それに不可思議な点があります。横島がタキオス様の事を覚えています。これはありえないことです。記憶を操作しようにも、正直インパクトがありすぎたようで、考えないようにするのが精一杯で、削除は不可能でしょう。計画に何らかの支障を来たす恐れもあります。

 一体何故タキオス様はあのような場所にいたのか、またどうして記憶があるのか。駒の身ではありますが、差支えが無ければ教えていただけないでしょうか』

 

 危機感を煽るように語調を強め、怒涛の勢いで話す『天秤』だったが、幼女は表情を微笑から動かさない。事態を理解していないのかと、『天秤』は不安になった。それとも、タキオスと横島の接触は予定されたものなのかもしれない。だから慌てていないのか。

 そう考えた『天秤』だったが、すぐにその考えを打ち消す。あれは間違いなく、本当に偶然だった。あの世界の予定された偶然ではなく、真の意味での偶然だ。頑強な要塞が針の一刺しから崩れる事もある。その危険を『天秤』は伝えたかった。

 

「申し訳ありません。訳あって、全てを話す事はできませんの。ただ、このことだけは忘れないでください。私は、何があっても貴方の味方です」

 

 微笑をといて、すまなさそうに頭を下げる己の上司に、『天秤』は肝を冷やした。上位の存在に頭を下げさせるなどあってはいけないことだ。

 

『も、申し訳ありません! 少々興奮してしまったようで……』

 

「部下の懸案を聞くのも上司の務めですわ。言いたいことは何でも言ってください。可能な限り、貴方の意見を聞き入れますわ」

 

『あ、ありがとうございます!!』

 

 感激したように礼を言う『天秤』に、それをにこやかに受ける幼女。緊張していた空気が和らいだ。

 実際のところ、不満も不安も何一つ具体的に解決していない。なのに、少し褒められただけで彼は満足してしまっていた。はっきり言ってしまえば、『天秤』の扱いは非常に楽である。鞭は感謝して受けて、ほんの少しの飴だけでコロッと機嫌を良くしてしまうのだから。

 だがそれは、ここ最近の『天秤』の扱いの所為もある。

 ろくに力を引き出してくれない契約者。なんだかんだと小言を四六時中言ってくるルシオラ。中々思い通りに行かない計画。『天秤』は基本的に自信家だ。与えられた知識と、裏の事情を知っていることから、どうしても周りを見下して高圧的になってしまう。はっきり言って嫌な奴なのだが、横島もルシオラも意外と大目に見ている節がある。

 それは、『天秤』がまだ幼い子供だと理解しているからだ。子供の背伸びを微笑ましく見ている兄や姉のような心境なのだろう。それが『天秤』には許せない。だからこそ大人ぶろうとして、より子供として見られる。悪循環だった。

 

「フフ」

 

 唐突に幼女が笑みを浮かべる。

 

『何か可笑しい所でもありましたか』

 

「いえ、貴方の百面相ぶりが面白くて」

 

『私に顔はありませんが……』

 

 その憮然とした声に、幼女は抑えきれないように笑みを零した。

 ふと、『天秤』は既視感を覚えた。以前、確かに同じような事があったような気がした。記憶を辿り、すぐに思い出す。エニと似たような会話をした事があった。

 まさか二人は似ているのかと考え、慌てて打ち消す。力も知性も、腸炎ビブリオとモモンガぐらいに違う。こんな事を考えたら、それだけで不敬罪だ。

 

「では、今回はこれで終了です。引き続き彼の事をお願いしますわ……テン君」

 

 声を失った『天秤』の姿に、幼女は楽しげな笑い声を暗黒の空間に響かせた。

 

 

 永遠の煩悩者 

 

 第十六話 ダーツィ攻略戦 前編

 

 

 その地は、破壊と生命で満ちていた。

 不自然にめくり上がった大地に、溶けた岩の跡。焦げ付いた地面に、凍りついた大樹。そのすぐ傍にはいろとりどりの花が咲き誇り、蝶やバッタ等の虫が飛び回っている。

 およそ自然現象ではありえないその異型な土地の中を、白、青、赤、緑、黒のカラフルな服を着た武装した集団がいて、白い羽織を着たツンツン頭の青年が難しそうな顔をして唸っていた。悠人だ。

 

「この辺りがいいと思うんだけど……どうだ?」

 

 悠人がメイド服の美女に問いかける。メイド―――エスペリアは後方に存在する町との距離と、周囲の地形を見渡し、ゆっくりと頷いた。

 

「はい。問題ありません。高台で周囲が見渡しやすく、なによりここは緑マナが満ちています。グリーンスピリット中心とした堅実な戦いを行うのなら、周辺でこれ以上適した地はありません。それにどうやら、こういった場面で使う地形と想定されていたようです」

 

 エスペリアから及第点が貰えたことで、悠人はほっと息を吐いた。日々の勉強が無駄になっていない。それが、仲間を守ることにつながっていく。それがとても嬉しかった。しかし、すぐに顔を引き締める。が、すぐに顰めた。

 

「横島! お前も早く神剣出して準備しろ!! 

「はいほいへ~い」

「はい、は一回……って一回か」

「ふっ、悠人敗れたり!!」

「ふざけてないで真面目にしなさい!」

「ういっす!!」

「やれやれ、これじゃあセリアが隊長見たいなものね」

 

 漫才のようなやり取りに、怒り、苦笑、笑み、を幾人が浮かべた。しかし、止めようとする者はいなかった。

 何故か。それは、全員がそのやり取りを完全に不快とは思っておらず、また悠人と横島の心中を察していたからだ。

 これから罪の無い美少女達を殺す事への心労を少しでも和らげようという思惑があった。言っても無駄だと、諦めているとも言う。

 

 バーンライト攻略戦から一ヶ月後。横島とエニがダーツィの(と思われる)スピリットと交戦した(とされている)二週間後。

 遂にダーツィ大公国がスピリットを出撃させ、旧バーンライト首都に進軍を始めた。宣戦布告から一ヶ月、ようやくその重い腰を上げたのである。

 それに伴い、ラキオスも第一詰所、第二詰所、そして第三詰所の一部のスピリットを迎撃に向かわせる事になった。第三詰め所のスピリットは後方の拠点を守ることが主な役割で、前線には出ないがこれも重要な役割である。

 幸いにも敵の動きは遅く、待ち受けることが容易だった。マナもエーテルに変換が終了して、一ヶ月の時間はラキオスを大きく有利にしていた。

 

「それじゃあ迎撃用の陣形だけど、何か意見は……」

 

 悠人が皆に意見を求める。一人で何もかも決めることもできるが、自分はまだまだ戦いに関して素人だということを理解していた。隊長として広く意見を求め、決断し、結果がどうなろうと責任は取る。それが今の自分にできる精一杯だと悠人は分かっていたのだ。

 手が挙がった。セリアだ。

 

「今度の戦いでは、ヨコシマ様を前面に配置しないよう提案します」

 

 平坦な、しかし確かな意思を感じさせる声でセリアが発言する。横島は頭に疑問符を浮かべた。

 

「何でだ」

 

「簡単です。貴方が信用できないからです」

 

 横島の顔が引き攣った。一つ屋根の下で暮らしてきて、もう三ヶ月にもなる。意見の違いから衝突することもあるが、それでも信頼を勝ち取り始めていると思っていた。しかし、面と向かってこうもきっぱり言われては、それは幻想だったという事か。

 

「もう~なんでそんな勘違いされそうな言い方するんですか~つまりセリアさんが言いたいのは~ヨコシマ様がスピリットさん達を殺して泣く姿を見たくないって~ことなんですよ~」

 

「ちょっと! そんな事一言も言ってないわよ!!」

 

 顔を赤くして否定したセリアだったが、ハリオンが言った事が当たっていると全員が分かった。というよりも、それは第二詰所のメンバー全員が多かれ少なかれ目標としていることなのだ。

 そんなセリア達の想いに、横島は微妙な表情をした。

 

「……なんつーか、それって隊長としてかなり情けないような……」

 

『ような……では無く、情けないだ』

 

 憮然とした声が横島の頭の中で響く。『天秤』としても、己の主が軽く見られていることが不満であった。そして、言い返すことができない事にさらに大きな不満があった。

 横島は腕を組んで、うーむ、と唸る。

 仲間を戦わせて、自分は影から応援する。これは望むところである。だが、副隊長である自分がそんな事でいいのか。一応、これでも戦闘の訓練は毎日つんできているし、刃で肉を切り裂く作業も日課のようなものだ……主に悠人相手にだが。

 

「後ろでどっしりと構えるのも隊長の仕事です。ヨコシマ様がこの中で一番強いのは分かっているので、そう卑屈にならないでください」

 

「報告では、相手の戦力は極少数です。ヨコシマ様が出なくも問題は無いと思われます」

 

「ヨコシマ様は~秘密兵器なんですよ~。一番強い人を~秘密にするのは当然じゃないですか~」

 

 悩む横島に、ヒミカ、ナナルゥ、ハリオンが畳み掛けるように訴える。理由はそれぞれ違うが、横島が戦う必要ないと訴えた。その中でも特に横島の琴線に触れたのはハリオンの発言だ。

 秘密兵器。何とも心地良い響きである。

 

「秘密兵器……悪くない、悪くないぞー!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる横島に、セリア達は安堵した。とりあえず、自分達の考えどおりになったと。

 第二詰め所年長のスピリット組は、事前にある打ち合わせをしていた。

 それは、横島の運用方法についてだ。

 全員が横島の心の脆さについて大体のところで悟っていた。彼は女性が殺せない。いや、厳密に言えば殺せる事は殺せる。だが、それは本当にぎりぎりまで追い込んで、ようやくといったところだ。

 ただでさえ精神力を消耗する高位永遠神剣を使うのに、そう何度も精神を瀬戸際まで追い詰めていたら壊れてしまう。しかし、単騎で龍すら打ち滅ぼすことが可能な、最強の戦力である横島を遊ばせておくのは余りにも惜しい。

 

 ハリオン達は真面目に横島をどう使うか考えた。結果的に、いざという時の切り札という形になったのである。逆に言えば、それ以外に使い方が無かったのだ。

 このような形になったのは、横島に対する評価が原因だった。

 いざという時でなければ使い物にならない。逆の言い方をすれば、本当に自分達が危険なときは絶対に助けてくれる。

 信頼しているのだか、信頼していないのだか、セリア達自身もよくわかっていない横島の評価。短所と長所がどちらも大きい人なのだと、割り切って共に戦うのが吉。そうセリア達は考えていた。隊員が隊長の運用を考えるなど、まったくもってどちらが隊長なのか分からない。逆に言えば、横島のカリスマ――――もとい、弱さが隊員の士気と自発性を高めているとも言えるが、これは結果論であって褒められたものではなく、褒めてはいけない。

 また、横島を使いたくない理由の一つに、同じエトランジェである悠人の存在も影響している。

 現時点で、悠人は弱い。攻撃、防御、神剣魔法と力だけは凄まじいのだが、それを生かす術に乏しい。毎日の訓練で技術は確かに上がっているが、実践で訓練の成果を出せなければ意味が無い。エスペリア達は数多くの実践に悠人を引っ張りたかった。

 だが、もし横島が前面に出て戦えば、悠人が戦う機会が減ってしまう。あの、かわす隙間の無いオーラの雨を降らされたら、それだけで勝負が決まってしまいかねない。間違いなくラキオス最強は横島なのだ。それも群を抜いている。

 これからの戦争を考えるのなら、横島ではなく悠人を鍛え上げたいのだ。

 

 このような計算に乗せられているとは微塵も気づかない横島は、未だに笑っている。

 何だか情けない横島だが、実は言うと決してリーダーとしての資質が低いわけではない。

 リーダーに必要な要素は、数限りなくある。信頼、カリスマ、判断能力、財力、権力。なんにしても必要なのは、リーダーと部下の関係が一方通行になってはいけない事だ。

 横島の魅力には、この人を放っておけない、というものがある。良い意味でも悪い意味でもだ。

 セリアやヒミカは、自分がいなければ常識はずれな横島が何をするか心配なので見ておかなければいけない、なんていう妙な使命感すら持っている。子供達にとっては大切で頼れる兄貴分だ。認めてもらいたい相手でもある。ナナルゥ辺りは表情が無いので微妙だが、恐ろしく影響を受けまくっている事は疑問を挟む余地が無い。

 個人個人の思惑は微妙に違うが、横島の所為で、あるいは横島の為に、と彼女らの士気は非常に高い。

 もちろん横島にとってスピリット達は美人の集団で、いつかはハーレムにしてやると煩悩を燃やしていた。

 絶対的な信頼や好意、あるいは能力を持っていなくても横島は十分リーダーとしてやっていけると言えた。少なくとも、横島なりのリーダーにはなっているだろう。あくまで副隊長であるというのもセリアたちが安心できる要素でもある。

 なにはともあれ、バーンライトとの決戦時よりは精神的に安定した状態で戦えるのは間違いない。

 

「どうやら来たようです」

 

 近づいてくる神剣の反応。

 全員が神剣の力を引き出して、スピリット達の頭上にハイロゥが輝き、エトランジェの足元には魔方陣が形成される。

 彼らは万全の態勢で敵が来るのを待った。

 

 

 やってきた敵スピリットと対峙して、横島が始めにこう思った。 

 ふざけている。

 それは隣にいる悠人も同じで、敵を哀れに思ったくらいだ。少数とは聞いてはいたが、まさかこれほどとは。

 ダーツィのスピリット達は皆若く、最年長でも十五歳程度でしかない。しかもその人数は僅か七人。どれも大した力を持っているとは到底思えなかった。

 さらにその陣容は、レッドスピリットとブラックスピリットだけという歪なもの。人間の指揮官も居ないから融通も利かない。

 一体敵は何を考えてこんなスピリットを送り込んできたのか。悠人と横島は頭を捻った。

 

「なるほど」

 

 エスペリアは敵のスピリット達を見て、あらかたの事は察したようだ。

 

「エスペリア、これは罠か? 何か相手に策があるとか」

 

「罠ではありません。ただ……」

 

 悠人の問いに、エスペリアは自分の考えを言うか迷った。

 言ってしまえば、間違いなく優しい我らの隊長達は戦意が鈍ることであろう。

 隊長達が迷えば、その迷いは自分達、特に子供達には大きく降りかかる事となる。それだけは避けたい所だが、隊長に問われて答えないわけにはいかない。

 どうしたものかと、エスペリアが思案していると、

 

「敵の事情など、どうでもいいことです」

 

 横から、セリアが毅然とした声で発言した。

 次いで、ヒミカが発言する。

 

「ユート様がやらなければいけない事は、私達を指揮して、勝利を得て、少しでも実践の経験を積むこと。ヨコシマ様がやらなければいけない事は、敵を倒したネリー達を褒めてあげることです……理由は言わなくても存じているはずです」

 

 睨み付けるとまでは行かなくても、厳しい視線をヒミカは横島に送る。

 以前と同じ失敗は許さない。そうヒミカの目は告げていた。

 横島は少し離れた所にいるネリー達に目をやってみる。彼女たちは元気百倍殺る気千倍といったぐらいに燃えていた。もしここで彼女らの戦意を萎えさせるような事をしたら、隊長失格どころか、もはや敵ではないかと疑われても仕方ないだろう。

 ようやく、横島の心が定まった。ここは彼女らの心を汲んでやらねばならない。

 

「ネリー、シアー、ヘリオン! しっかり見ててやるから、頑張って……殺して来い! 皆も怪我無い様にな。悠人はどうでもいいけど」

 

「おおー!!」

 

「おい」

 

 横島の軽口に悠人が突っ込み、ネリ―達は歓声を上げる。まったくと肩を落とした悠人だったが、自身の緊張が抜けたことに気づいて苦笑いを浮かべた。

 自分に出来ない事が横島にはできる。ならば、俺は横島に出来ない事をやれるようになろうと心に決める。

 

「アタックはネリー、シアー、ヘリオンだ!! アセリア、セリアは確実にレッドスピリットの魔法を阻止、エスペリアとハリオン及びエニは回復と防御を臨機応変に! 他は危なくなったらすぐにサポートを!! ブラックスピリットは素早いから、囲まれないように注意だ」

 

 悠人の指令に全員が頷く。基本に則った教本通りの指示だが、戦力差があるならこれ以上正しい指揮は無かった。

 それに、下手に奇をてらった指示を実行できるほど、スピリット達は柔軟に出来てはいない。普段の訓練を生かせるようにした方がいいのだ。ノリと悪知恵でその場を切り抜ける事ができる、どこぞのGS達とは違うのだから。

 

「それじゃあ見ててね! 行こう、シアー」

 

「うん。えーい!」

 

「私も行きます!!」

 

 アタッカーの三人は勢い良く敵に向かっていく。

 

「援護いくよー」

 

 飛び出した三人に、エニが防御魔法を掛け始める。緑色のマナがネリー達を包みこんでいった。

 その光景にエスペリアが目を見張る。

 

「あれは……ガイアブレスですね。驚きました。あの歳、あの経験量でこれほどのことを……天賦の才としかいいようがありません。オルファが言った事は、あながち……」

 

 高位の防御補助魔法をあっさりと使うエニに、エスペリアは期待に胸を膨らませていた。生まれてまだ二ヶ月程度。それだけの時間で神剣の力を十二分に引き出す事に成功している。しかも、神剣に心奪われずに。

 確かに体は小さく、経験も絶対的に足りないが、才能だけは誰にも負けていない。このまま成長していけば、アセリアや自分よりも強くなる。それどころか、スピリット最強と呼ばれている漆黒の翼にも手が届くかもしれない。

 幼き天才に、エスペリアは思わず拳を強く握っていた。

 

 ネリー達の活躍も十分だった。

 前回の反省を踏まえてか、無為に突っ込んだりはしない。最低でも一対一で戦える位置取りで、味方の援護も受けやすい位置で戦いを開始する。

 一番の危惧は良いところ見せようとして無茶な行動を取らないかだったが、それは杞憂だった。

 ハリオンがネリー達に言った事はちゃんと効いていたらしい。

 彼女は戦闘が始まる前にこう言ったのだ。

 

「敵を倒しても~無茶をして傷ついたら怪我の心配で、ユート様もヨコシマ様も褒めてくれませんよ~」

 

 それは、確かに事実だろう。

 だからこそ、ネリー達は無理せずに仲間との連携を大事にしながら戦いを続けた。

 首が飛んで、一人。

 胸に穴が開いて、二人。

 両手足が切断されて、三人。

 頭から左右均等に分かれて、四人。

 確実に敵の戦力を削いでいく。数も地力も違う。それはさながら詰め将棋のようで、適切な手を打っていけば決して負ける事のない戦いであった。

 

「うおー! ガンバレー! 負けんなー! 力の限り、生きてーやれー!!」

 

 後ろでは横島が旗を振って応援している。これはこれで本領発揮だ。何だかとっても自然である。後方から情けなく応援しているだけに見えるが、ちゃんと『天秤』を握っているところから、いざという時の為に飛び出す準備だけはしているのだろう。

 ベストな戦いではないが、ベターな戦い方。そんな感じだった。

 

 ヘリオンの居合いが敵ブラックスピリットの全身を赤く染め上げる。薄く体中を切り刻まれて、痛みで顔を歪ませながらも、必死で間合いを取ろうとするブラックスピリット。

 ネリーは全力で追いすがり、『静寂』を振り下ろす。

 それをぎりぎりで受け流すブラックスピリット。しかし、自身の体勢も崩れてしまう。

 最後にシアーがとどめを刺す形で空から翼をはためかせ、相手の脳天に神剣『孤独』を突きいれた。五人。

 

 ネリー達は強くなっていた。少なくとも、セリア達でも油断はできないぐらいに。

 シアーが五人目のスピリットを倒した時、辺りから敵の神剣反応が無くなった。まだ二人残っていたはずだが、周囲に姿は見えない。

 悠人は警戒を緩めないように指示を出しながら全員に集合の命令を出した。

 ぞろぞろと皆が集まる。

 

「見てた見てた! ネリー達のだぁいかつや~く!!」 

 

「シアーもがんばったの」

 

「私だってがんばりました!」

 

「ああ、俺の命令で、俺の為に、精一杯がんばってくれたんだ。よくやったぞ!」

 

 横島はそう言って三人の頭を撫でる。ネリー達はそれを気持ちよさそうに目を細めて受けた。

 よくやった。格好良かった。強かった。何度も何度も褒めながら頭を撫でる。

 

「なで~なで~」

 

「あの……ハリオンさん。どうして俺の頭を撫でるんすか?」

 

 子供たちを撫でていたら、何故かハリオンがニコニコしながら横島の頭を撫でていた。

 

「がんばった人を褒めるのは当然じゃないですかぁ~本当にありがとございます~」

 

 横島の頭を撫でていたハリオンの手が頬に当てられた。そして、いつも以上に優しく、横島に笑みを向ける。

 青ざめていた横島の顔に赤みが差した。

 可愛い女の子達が断末魔の悲鳴を上げながら消えていく。それを見て笑い喜び、ネリー達を褒めてやる。

 これは非常に心を疲れさせる作業であった。異世界の常識がある横島にとって、この世界のスピリット達は同情の対象にしかならない。

 もっといい方法がネリー達にも、敵のスピリットにも、あったのではないか。どうしても後悔の念が消えることはない。

 ハリオンはそんな横島の思いを分かっていたのだろう。

 

 横島はハリオンに感謝した。ものすご~く感謝した。

 だから、彼の思考はこう動く。

 こんなに優しく接されたら、こちらも何かお返ししなければいけない!

 主に体で!!

 

 どうしてそう思考が邪に向かうのか。それは言うまでも無く、横島だからだろう。

 横島の手がそろ~りとハリオンに背に回されて、さらにゆっくりと下に向けて……

 

「エッチな事をしたら~ここでナデナデ終了ですよ~」

 

「そ、そんな殺生なー! くそっ、俺は一体どうすれば……」

 

「大人しくお姉さんのナデナデに身を任せてください~」

 

 心底楽しそうに横島の頭を撫でるハリオンと、ハリオンの体に手を伸ばしては引っ込める横島。

 そんな二人に赤い影が近づいた。

 

「こんな時に何をやっているのですか! ヨコシマ様! ハリオンも!」

 

 戦闘が終わったとはいえ、緩みに緩みまくっている二人に生真面目なヒミカが注意する。いくら神剣反応のお陰で奇襲がほぼ無いとはいえ、あまり気を抜くのは良いとは言えない。熟練のスピリットなら反応を極限まで消してギリギリまで忍び寄ってくる、なんて事だって不可能では無いのだ。

 ヒミカの注意に、ハリオンは横島を放して、納得行かないように唇を尖らせた。

 

「別にいいじゃないですか~私がやらなかったら~ヒミカが同じことしてくれたんでしょ~」

 

「そこまでするつもりはないわよ!」

 

「じゃあ、どこまでならするつもりだったんですか~」

 

 しまった、とヒミカは顔を顰めた。

 ヒミカはただ、横島の事を褒めて感謝するつもりなだけだった。ネリー達を褒めてくれた事、そしてなにより、ネリー達、いや自分たちの業を背負うと言外に語ってくれた事に対して。

 この後、横島がどういう行動を取るか、ヒミカには容易に想像がついた。

「そんなに俺の事を愛してくれてたなんて! 横島感激ーーー!!」とでも言って飛び掛ってくるのだろう。

 身を固くしてヒミカは横島の来襲に備えるのだが……

 

「ありがとな、ヒミカ。俺のこと気にしててくれて!」

 

「え? あ、はい……」

 

 好青年のように明るく素直な笑みで礼を言う横島に、ヒミカは驚き、頬が少しだけ赤く染まる。真面目にちゃんとしていれば、それなりに整った顔立ちなのだ。

 『もう少し真面目ならほにゃららら』というのはヒミカの談である。このほにゃらららの部分に尊敬が入るのか愛情が入るのかは彼女自身も良く分かってはいない。

 ヒミカはそっぽを向いた。横島に赤くなった頬を見られたくなかったのだ。

 当然横島はそんな可愛い仕草をされて、黙っていられる男では無いわけで。

 

「あんな事や、こんな事! さらにはそんなことまでしてくれるなんて! 横島感激ーー!!」

 

「キャア! 時間差で来るなんて、貴方はどうしてオチをつけずにいられない……ひん! どこ触ってるの!? このお!」

 

「こらー! もっと頭撫でろ~!」

 

「な~で~ろ~」

 

「頭を押し付けるなー! いや~そこはだめ~!!」

 

「わ、私は頬とか肩とか撫でて……うう~言えないです~」

 

「まったく、緊張感の欠片もないんだから」

 

「興味深いです」

 

「…………」

 

(まあ、暗くなるよりはいいんだろうな)

 

 慌てる横島。胃の辺りを押さえるヒミカ。じっと観察するナナルゥ。嫌がる横島が面白いのか、股間に頭突きするネリーとシアー。どこかを見ながら顔を赤くするヘリオン。エニだけはどうしてかすまし顔をしていたが。悠人はその光景を一歩離れた所から見守る。

 その時だった。

 少し離れた所にある林から爆発音が上がったのは。そこから神剣反応も一つ存在している

 

「ユート様、不意を突かれぬように陣形を変え……いえ、点呼を!」

 

「わ、分かった!!」

 

 エスペリアに言われて急いで全員の点呼を取る。すると、

 

「オルファがいません!」

 

「ヨ、ヨコシマ様もいないよ!!」

 

 驚愕する全員の耳に、またしても爆発音が聞こえてきた。

 悠人の目に、遠くで炎上する林と、豆粒のぐらいにまで小さくなった横島の背が写った。

 

 そこは彼女の遊技場。

 何の悪意も無い、そして善意も無い、ただ楽しむ為だけの遊技場。

 響く笑い声。きゃはははははははと、楽しそうな声だけが、延々と響き続ける。

 その笑い声に時折混じるのは、怒りも絶望も存在しない、くぐもれたうめき声。

 

 この遊技場の登場人物はたった三人。

 幼く甲高い笑い声を響かせている主役―――『理念』のオルファリル。

 ただ呻くことしか出来なくなった遊具――――名も知らぬスピリット。

 それを、ただ眺めることになった観客――――横島。

 

 既に敵のスピリットは神剣を取り上げられていて、戦闘能力は皆無。

 もはや玩具となったスピリットを、オルファは喜々としながら、突き、刺し、切る。それも急所は外して。遊び道具をゆっくりと、大切に、丁寧に壊していく。それはまるで愛撫の様な優しさすら含んでいた。

 これは戦いなんてものではない。ただの虐殺、いや、それよりも遥かにたちが悪い、残虐非道な『悪魔』の遊び。

 

「えへへ、今度はこれで行こう。死んじゃうかな~」

 

 永遠神剣『理念』を敵スピリットの胸に沈めて行く。じっくりと、肉を切り開く感触を楽しむように。

 意図的に肺や心臓に触れなかったその一撃は、スピリットの命を絶つものではなかった。スピリットはただ痛みに体を震わせて、苦痛の悲鳴を上げる。

 

「きゃはは!! ヨコシマ様ー凄いよ! まだ生きてる!! オルファだったら死んじゃうな~。それ、ぐ~りぐ~り、ご~りご~り! 」

 

 オルファは楽しそうに、ただ楽しそうに無邪気に笑う。永遠神剣『理念』を相手に突き刺して、中でかき回す。骨を削り取るのが楽しいらしい。

 

 考えられるだろうか。

 十歳ほどの子供が、敵とはいえ無抵抗の女性の臓腑を抉り、無邪気に笑うのだ。

 幼い無邪気な子供には特有の残酷さがある。だがこれはそんなレベルではない。これにはもっとおぞましい悪意があった。オルファからその悪意は出ていない。しかし、出所不明な腐臭とも言える悪意は、確かに存在した。

 

「ぐっちゃ~ぐっちゃ~の~ぬちゃぬちゃ……こら~寝ちゃだめでしょー!」

 

 激痛のあまり気絶したスピリット。その顔を蹴り飛ばして意識を無理やり戻させる。目を覚ましたスピリット相手に、オルファは「おはよ♪」と手を振りながら体に突き刺さったままの神剣を動かす。また痛みの絶叫が森に響き渡る。

 現実感が伴わない光景に、また悪い夢でも見ているのかと、横島は思いっきり頬を引っ張った。

 

「あは! ヨコシマ様の顔おもしろ~い!!」

 

 頬を引っ張った横島の顔が面白かったようで、オルファは楽しそうに笑った。その笑みはスピリットをいたぶっている時と何ら変わりがない。オルファからすれば、スピリットを殺す事と顔芸は面白い遊びだからだ。その差は無い。

 目を覆いたくなるような光景が続く。横島は思考を停止させてその様子を見つめる。おもちゃになったスピリットの口が僅かに動いた。

 

『どうして』

 

 その言葉は、一体何に掛かっているのだろうか。

 今こうして己の身に降りかかっている暴虐に対してか。それとも、スピリットに生まれてしまったことに対してか。はたまた、如何して助けてくれないのかと、横島に対して言った言葉だったのか。

 その真意は、誰にも分かる事は無かった。

 

「おーい! オルファに横島、なにやってるんだー」

 

 森の奥から悠人の声が聞こえてきた。オルファの顔色が変わる。

 

「パパが来たら遊べないよ~」

 

 残念そうにそう言うと、オルファは『理念』の力を引き出していく。

 

「仕方ないな~バイバイ、敵さん。楽しかった! また後で遊ぼうね!」

 

 遊び終えた玩具に律儀にお礼を言う。その様子を見る限り、しっかりと躾けられた良い子にしか見えない。その玩具が、スピリットでなければだが。

 オルファは少しの助走をつけて、容赦なく全力の蹴りをスピリットの頭に叩き込む。頭はざくろのように砕け散った。凄惨すぎるその光景に、横島は呼吸すら出来なかったが、オルファは「これで2人!」と自分が今まで殺した人数に満足しているだけだった。

 

「あ~楽しかった! えへへ、『理念』も美味しいそうだね!」

 

 砕け散ったスピリットと神剣が金色のマナの霧に変わっていく。それを『理念』が喰らっていった。

 横島は確かに聞いた。『理念』が歓喜の声を上げているのを。狂気と食欲の入り混じった殺人を目の前で見せ付けられ、横島は意識を失いたいほどの恐怖に襲われる。

 だが、恐怖する心とは別に、どこかで納得して、満足感があった。これは正しいことなのだと、羨ましいとすら思った。

 ジグソーパズルのピースが一つ埋まった。そういった類の満足感が押し寄せる。

 恐怖と満足、相反する自分の心に、横島は顔を奇妙に歪ませた。

 

「どうしたの? 大丈夫!?」

 

 様子が可笑しい横島を心配してオルファが駆け寄る。心配以外の感情は見えない。だが、このスピリットはこんな表情でも誰かを殺す事が出来るのだ。それを理解して、横島はオルファが怖くなった。

 

「だ、だだいじょうぶだぞ!」

 

「でも、顔色良くないよ」

 

「大丈夫だ!」

 

 心配そうに手を伸ばしてきたオルファの手を振り払い、恐怖の篭った大声を叩きつける。

 理解できないもの。分からないもの。恐ろしいもの。

 今の横島にとって、オルファリル・レッドスピリットはそういう存在だった。

 オルファはそんな横島に困惑したようだったが、何かを思い出したようで懐から包みを取り出す。そしてそれを横島に差し出した。

 

「これは、ハリオンとヒミカの」

 

 差し出されたのは、ハリオン&ヒミカの特製クッキーだった。

 

「何で……」

 

「ヨコシマ様が元気なさそうだから」

 

 子供たちがどれだけこのお菓子が好きか、良く知っている。もし人数と菓子の量が合わなければ、それこそ取っ組み合いの喧嘩にすらなる。

 その大切な菓子を、オルファは躊躇いもせずに差し出したのだ。横島を元気にさせたいという理由で。

 

「悪い……」

 

「ううん! 気にしないで!! とっても美味しいから、すぐに元気出るよ!!」

 

 全てを照らす太陽のような笑み。本当に優しくて明るい良い子だ。ネリーに似ているが、ネリーよりも気配りができる。優しさという言葉より、慈悲という言葉がしっくりと来た。

 こんな良い子を怖がり、伸ばした手を払いのけてしまった事を後悔した。何故という疑問もより大きくなったが。

 

「それじゃあヨコシマ様、みんなの所にもどろ」

 

「……う……先に戻ってていいぞ」

 

「え? でも……」

 

「いいから」

 

 横島に促され、オルファは少し納得いかないような顔になったが、あまり深く考えない性格なので、正直に従った。

 

「パパが喜んでくれたらいいな。オルファが殺すと、パパ悲しそうな顔しちゃうから」

 

 「なんでだろうね」と、不思議そうに言って、オルファは皆のところに戻っていく。

 森に静けさが戻る。オルファが魔法を放った後だからか、未だに砂が燃えていたり溶けていたりするが、それでもここで虐殺があったように見えない。死体は無いし、なにより現実感に乏しかった。

 

「はあっ、ふうー」

 

 横島の口から大きな音が漏れる。それは大きく息を吐く音と吸う音だった。どうやら目の前の光景に息をするのも忘れていたらしい。大きく深呼吸する。そして、その場にペタンと座り込んだ。腰が抜けてしまっていたのだ。

 

 今のは何だったのだろう。今だ混乱抜けきらぬ頭で考える。

 ネリーも、シアーも、ヘリオンも、殺すことに何の躊躇いも感じていないのは分かった。これは可笑しくない。幼くとも戦士として教育をされてきた、言うなればスペシャリストなのだ。罪悪感に押しつぶされたりする事はないのだろう。そうならないように育てられているのだ。

 だが、オルファの戦いぶりはまるで違う。殺しを明らかに楽しんでいた。何の抵抗も出来ない相手の四肢を捥いで、裂いて、悲鳴を堪える姿を見ながら喜悦に浸る。ネリー達の戦いとは、まるで質が違う。

 横島は恐怖と疑問で頭を悩ませた。がさりと、後ろの草むらが鳴った。ひゅい、と横島の喉から変な声が出る。

 

「おい、横島! 勝手に何やってんだ。オルファはもう戻った。俺達も早く戻るぞ。さっさと反省会と今後の話し合いだ。まったく、一人で駆け出しやがって。オルファに気づいて慌てて追いかけたんだろうが、それでもちゃんと声をかけて……どうした?」

 

 後ろから無遠慮な男の声が掛けられた。

 悠人だ。座り込んで叫んだ横島に不審そうな顔を向けている。

 

「あ、いや、オルファちゃんが……その、なんて言うか……」

 

 今の出来事を言うか言わないか、横島は迷った。

 言っても信じてもらえるかどうか分からないし、なにより横島自身も先の出来事が夢のように感じられたからである。

 そんな横島に、悠人は何かを察したようで、眉を顰めてぎりりと奥歯を噛み締めた。

 

「……オルファが『遊んで』いたのか?」

 

 悠人の言葉のニュアンスの違いに横島は気づいた。

 苦々しく歪む悠人の表情に横島は確信する。悠人も見たのだと。敵を玩具にして遊ぶオルファの姿を。

 

「あれは、どういうことだよ!」

 

 つかみ掛かるように悠人に食いかかる。

 一体、何が、どうして、ああなったのか。

 

「……教育らしい」

 

「はっ?」

 

 渋い顔をしながら答えた悠人の回答は、横島にはさっぱり理解できなかった。いや、うすうす気がついているのだが、口に出して言いたい事ではなかった。

 

「だから教育だ! オルファは、敵を殺す事が遊びだと思っているんだ。そんな風にさせられたんだよ!!」

 

 怒りを隠さず、悠人は怒鳴るように言った。

 そう、オルファリル・レッドスピリットは戦いを遊びとして教育させられたのだ。幼く未成熟な子供に、悪魔を植え付ける。それは洗脳とも言えるだろう。悪意の発生源はオルファに殺しを教えたその調教者だったのだ。

 もし、オルファに殺しを遊びと教えた人間が目の前にいたら、悠人はそいつを殴らない自信はなかった。

 やはりと、横島は顔を顰めて舌打ちをする。そうだろうと予想は付いていた。純粋で人の事を疑わないからこそ、ああまでなれるのだろうと。

 

「このままで良いと思ってんのか?」

 

 さっきのオルファの様子からするに、どうやら残虐な殺し方を咎めていないようだ。何故そのままにしておくのかと、悠人に詰め寄る。

 横島の質問に、悠人はまた怒りをあらわにした。

 

「俺は、お前よりもずっとオルファの優しさを知ってる! だから分かるんだよ。もし、オルファが命とか倫理とか覚えたら、絶対に戦えなくなる。戦えなくなったら、終わりなんだよ!!」

 

 怒りと悲しみと、何より自分の無力を嘆くその声に、横島は何も言えなくなった。一緒に暮らしていて、パパとまで呼んで慕ってくる子供の、あんな姿を見るしかない悠人の苦悩は横島よりも遥かに大きいのだろう。

 それに、悠人は恐怖していた。

 いつか、オルファは命というものを理解する。命を理解したとき、あの優しいオルファは自分が何をしてきたのかを考えるだろう。そうなったら、オルファはどうなってしまうのか。あんなに優しくて明るい良い子が、自分がしてきた残虐な行為に何を思うのだろう。

 何がどうなろうと、持っているのは暗い未来だ。だが、その暗い未来が訪れないということは、オルファが命の尊さを理解できないという事。そこにジレンマがあった。

 

「……何か協力できなそう事があったら俺に言えよ。将来有望な女の子の為だからな」

 

 横島が力強く言った。いつものふざけた声ではない。

 真面目な横島が悠人にはありがたかった。俺は一人では無い。状況は絶望的だが、頼れる仲間が側にいる。同じ志を持ち、自分に無い力を持った仲間が。

 

 スピリット、永遠神剣、マナ。

 まだまだ分からないことは多い。

 だが、一つの確信は得た。以前より知ってはいたが、今回のことでより深く理解できた。

 

「この世界はマジで狂ってるな」

 

 横島の呟きに悠人が頷く。

 この狂った世界は一体いつ生まれたものなのか。どうして生まれたのか。

 それに答える声は無い。

 ただ、何処からか幼い笑い声が聞こえてくるような気がした。

 

 

「ダーツィがヒエムナからスピリットを引き上げたそうです、事実上の放棄ですね」

 

 戦闘が終わり、次の戦いに備えての打ち合わせを始めようとした所に、そんな報告が入ってきた。

 ヒエムナとは、ダーツィの拠点の一つで、ダーツィ首都であるキロノキロに最も近い重要な拠点である。ラキオスとしては是が非でも抑えたい拠点の一つだ。それを、ダーツィは外交の一つもせずに放棄したのだ。

 悠人も横島も首を捻った。

 

「どうしてだ?」

 

「恐らくは、戦力を首都に集中させて、ただ純粋に守りを固めているのです。

 前にも言いましたが、ダーツィ大公国はサーギオス帝国の傀儡に過ぎません。

 今回攻めてきたのも帝国の圧力を受けてのことだと思われます。ラキオスを攻めろと命じられて、仕方なく攻めた。そんなところでしょう。

 防衛能力の高い都市に、全スピリットを集結させて、あらゆるエーテル機器でスピリットの力を高める……徹底した防戦ですね」

 

 そう考えなければ今回の戦いを説明する事はできない。

 先の戦いは名目戦だったのだ。サーギオス帝国の要望に逆らえず、体面のために切り捨てられたスピリット達。死ぬ事を前提に、撤退すら許されず、死地に送り込まれたうら若き乙女達。

 あんまりな事実に悠人と横島の心が痛む。もはや同情心しか湧いてこない。

 エスペリアが詳細な説明をしなかったのは正解と言えた。もし、この事実をその場で知ってしまっていたら、殺して来いと命令を下せたか怪しいものだ。

 

「それで、ラキオスとダーツィの戦力についてなんですが……正直に申し上げれば、この戦いに負ける事は考えられません。それだけの戦力差がラキオスとダーツィにはあります。彼らはそれを判っているからヒエムナを放棄したのでしょう」

 

 戦力差が付いた原因はいくつも挙げられる。

 第一に、バーンライトを降して領地を拡大したことによる、マナ保有量の増大だ。

 急激にマナが増えたので、それをエーテルに変換するための装置があちらこちらに建造されることになり、技術者たちは寝る間も惜しんで作業をしている。横島が龍を撃破したことも要因の一つだろう。

 しかも、得たマナのほとんどがスピリット隊に使われることになったので、スピリット達の力は大きく跳ね上がることになったのだ。それは同時に、民にマナが供給されなくなる事を意味しているのだが、幸い戦勝気分に浮かれていて、大きな問題には至っていない。また、レスティーナは可能な限りマナを使わずに、生活安定の為の策を講じているようだ。

 

 第二に、やはりエトランジェの存在が大きい。

 スピリットを超える力を持つエトランジェが二人。悠人も横島も龍殺しの力を持つ。それに悠人はここ最近、『求め』の強大な力を少しずつだが使いこなし始めている。さらに横島は文珠なんてとんでもない力を持っていた。こちらだけにあるアドバンテージもやはり大きい。

 

 第三に、バーンライトのスピリット十九名を組み込んだ事。

 それほど戦闘能力が高いとは言えないが、これだけいれば守りには十分。いざという時の遊撃に使うことができるので、精鋭である自分達が背後を気にせず戦うことが出来るようになったし、前線を交代して休息を取る事も容易になった。

 

 第四に、勢いの差である。

 エトランジェを二人も獲得し、龍すら打ち倒し、長年の宿敵を征服したラキオスは非常に勢いがある。逆にダーツィはイースペリア相手に長きに渡り侵略し続けているが、いまだ成果は出ず厭戦気分が蔓延していた。

 

 敵地で戦うといっても、負ける要素は極めて低い。

 そこまで聞いて安堵の表情を浮かべた横島と悠人だが、セリアは厳しい表情を崩さない。

 

「でもエスペリア、サーギオスがダーツィに援助をしてくる可能性があるわ」

 

 セリアが一番危惧しているのはその点だ。単純な力の差ならば、ラキオスとダーツィはもはや勝負にはなるまい。

 だが、ダーツィ大公国を従属させているサーギオス帝国が援助してくれば、戦いは壮絶なものとなるだろう。

 そのセリアの質問にエスペリアは難しい顔をする。

 横島も悠人も、セリアの言う事が正しくて返答に窮しているのだろうと考えた。

 しかし、ここでエスペリアは予想を裏切る答えを返してきた。

 

「情報が錯綜しているので何ともいえないのですが……ええと、サーギオス帝国は滅びている可能性もあります」

 

 セリアはポカンと口を開けて、年齢よりも幼く見えるマヌケ面を全員に晒した。

 

 サーギオス帝国。

 マナの限界量にいち早く気づき、領土を広げてマナの獲得を目的としている軍事国家。

 大陸一の広い領土とマナの豊富な肥沃な土地を持ち、スピリットも多く保持している。さらにはマナの大部分をスピリット達に当てているため、スピリットの力は半端ではない。間違いなくファンタズマゴリア内で一番強き国だ。エーテル技術においても抜きんでていて、「秩序の壁」と呼ばれる特別な要塞も備えている。

 また、サーギオスに所属する漆黒の翼と呼ばれるスピリットは他のスピリットは比べ物にならない力を有し、スピリット最強とすら言われていた。過去からの因縁も多くあり、ラキオスにとっては正しく大敵と呼べる国である。

 それが、滅んだかも知れないと言うのだ。驚くのも当然だろう。

 

「ちょっと待って! どういうことなの、それは!!」

 

「あくまでも風の噂ですが、何でも『何か』との戦いでサーギオスの居城が崩壊したらしいのです。さらには皇帝セヅナス・サーギオスもその際に死んだと……信憑性に関しては定かではありませんが……

 ただ今回ダーツィが実践布告から一ヶ月もしてから無謀な侵攻をしたのも、サーギオスとの足並みが揃わなかったからではないか、という話もあります。辻褄は合う……気はするのですが……」

 

 驚くセリアに説明するエスペリアだが、彼女自身も今のところ半信半疑である。様々なエーテル技術とスピリットを多く保有するサーギオス帝国が負けるなどありえない。

 たとえ、龍に襲われたとしても、一般市民や町はなすすべなく潰されようがスピリット達に守られている城まで崩壊するなどありえるだろうか。

 ありえないとは言い切れない。相手が強力な龍なら、対抗するために星でも落せるぐらいのスピリットを数人以上送り込まねばならない。そうなれば城でも壊れるだろう。

 

 次に考えられるのは内乱の可能性だ。

 サーギオス王が崩御して、王位継承権を持つもの同士がそれぞれスピリットを保持して争えば、確かに国が分裂して崩壊してもおかしくはない。遥か昔から良くあることだ。

 エスペリアとしては内乱の可能性が一番高いと思っていた。それなら、先ほどダーツィがサーギオスの要請で戦いを挑んできた理由が分かる。内乱が終わるまでラキオスに介入されたくないからだ。

 

 だが、どれも推測の域を出ない。

 あくまでも、こう考えたら城が崩壊してもありえなくもない、というだけの話だ。可能性としてはどれも高くない。

 単純に自然災害や、エーテル実験の暴走という可能性もある。本当にただの噂かもしれない。

 

「あの国は閉鎖的で情報が入ってこないのです。秩序の壁と言う城塞もあり、難民が流れてくることもありませんし、放っている間者からは何の連絡もありません。噂の元も定かでは無く、この報がどれほど信頼できるか分かりません。しかし、何らかの事態が起こって、かなり混乱しているのだけは確かなようです。少なくとも、この戦争に介入してくる可能性は低いかと……何があったにせよ、命令が下された以上、ダーツィは落さねばなりません」

 

 ラキオスとしては朗報だろう。だが、何か不気味だった。

 エスペリアは黙っていたが、実は凄まじい情報はそれだけではなかった。他の大国でも信じられない事件がどうやら起こっているらしいのだ。南西部にある大国、マロリガン共和国についても、同盟国であるサルドバルドについても、キナ臭い情報が幾つも寄せられている。

 この大陸に何かが起こっている。それはこの大陸全てを飲み込み、ありとあらゆる存在に害をなすのではないか。そんな危惧がエスペリアにはあった。

 

「まあ、良い情報なんだから素直に喜べばいいだろ」

 

 緊迫した空気が走る中、楽観的に横島が意見を述べる。

 三人は少し呆れたような目で横島を見つめたが、確かにその通りだと頷いた。

 ここで深刻な顔で唸っていても、何も変わらないのだから。今考えなくてはいけない事は目先の戦いだ。後の事はお偉いさんが考える事だろう。

 

「では次にどうやってダーツィ首都を攻略するかです。敵の詳細な動向はファーレーンや諜報部が探ってくれています。今ある情報によれば、エーテル技術者や機材を大量に首都に運び込んで、首都の緑マナが増加しているとの事です。

 この事から、敵は間違いなく守りの陣形を敷いてくるでしょう。防御能力に優れたグリーンスピリットを前面に出してきます。ブルースピリットも攻撃ではなく、補助で運用してくるでしょう。野戦で戦うならともかく、これを打ち崩す事は容易ではありません」

 

 戦力を一点に集中させて篭城。それも、他の領地を切り捨て、援軍も期待できない状態で。もはや敗戦は避けられない、滅亡を引き伸ばしているだけだ。

 しかし、こうなれると攻めるほうだって簡単ではない。いたずらに攻めては大きな被害を出すことになってしまう。それだけは避けなければいけない。領土が広がればそれだけスピリットの数は必要であるし、まだ帝国という最大の敵がいるのだから。

 

「では、我々がいかにダーツィ本城を落すかですが」

 

「待って」

 

 本題に入ろうとしたところでセリアが待ったをかける。彼女は目つき鋭くして、横島をじっと見つめた。

 

「ヨコシマ様。言いたい事があるのなら、早めに仰ってください。決して馬鹿にする事はありません」

 

 凛とした声でセリアは言って、横島を見つめる。青色の瞳が横島の姿を映す。

 吸い込まれるような青の瞳に、横島は吸い寄せられた。

 

「唇を突き出して、顔を近づけるなぁ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 横島の顔面に肘鉄が突き刺さった。痛みで床をゴロゴロ転がる横島を、セリアはそれこそ汚物を見るような眼で見下ろす。

 「人間に対してなんて事をするのですか!!」と言いたくなったエスペリアだが、もう何だか関わるのも億劫(おっくう)なので、華麗にスルーを決める。

 

「……それでは話を進め―――」

 

「ちょっと待ったぁぁーー!!」

 

 ピョコンと何事も無かったのように立ち上がり、手を空へと突き出した横島。エスペリアはコメカミをトントンと叩きながら、なんとか平静に対応することに成功した。

 

「……どうぞ、ヨコシマ様」

 

「どうやったら、被害を少なく出来ると思う?」

 

「……それは此方側のことですか? それとも相手側の事を言っているのですか?」

 

「両方だ」

 

 やはり。

 可能な限り犠牲を出したくない横島の気持ちを、セリアは分かっていた。

 エトランジェとスピリットの間には、戦いの意識において明らかな差異がある。前回の戦いでは、その差異のせいでしなくてもいい苦労を背負い込んだ。今回はお互い腹を割って、互いに納得できる落とし所を、妥協点をしっかり見出さなければならないのだ。

 

「俺もそのほうがいいな」

 

 悠人も横島の意見に同意する。

 戦闘狂でも何でもない悠人が同意するのは当然の事だ。偽善とかそんなものではなく、単純に殺さなくて済むのなら殺したくないという一般市民の考え。それに、戦えば戦うほど自分の心を消えていく事も理解している。

 戦わないで、殺さないで済むのが一番いいのだ。

 

 そんな二人の様子に、エスペリアとセリアは顔を見合わせて溜息を吐くのをなんとかこらえていた。

 正直やめて欲しい。

 それがエスペリアとセリアの共通の思いだった。スピリットに優しいのは嬉しい事だし、双方の被害が少ないのは結構な事だ。だが、それは当然難易度が跳ね上がる。

 そもそも、何故殺し合いに行くというのに、相手を殺さない算段をしなければいけないのか。頭痛が痛いとでも言いたくなってくる。

 しかし、どこか嬉しさもあることはエスペリアもセリアも認めていた。哀れな同胞を殺さなくて済むのならそれにこした事はない。このように思えるぐらいには、二人は柔らかくなっていた。

 

「そうですね。もし、殺さなくても戦いが終えられるなら、それに越した事はないでしょう……勿論、前提として我らの安全と勝利が確保できればの話です。また、ちゃんと全員が戦闘行動を取らなければネリー達は納得しないでしょう。これからの事を考えれば経験も積まねばなりません」

 

 ここまでが妥協できるラインだ。今エスペリアが提示した条件をクリアできるなら、全員が目的に向かって一致団結して作戦に当たれる。横島とて、バーンライトの戦いのときネリー達がどのような思いで戦ったか知っている。

 敵よりも味方。あまりにも当たり前すぎることなのだが、横島も悠人もその敵という存在が何の罪もない、むしろ被害者である女性達なのだから割り切るのが難しい。無論、横島達とていざとなったら割り切る。つまり、いざとならなければいい訳だ。

 

「よっしゃ! それでいこう。決定だ」

 

「それではヨコシマ様、そのような考えがあるからには当然何か策があると思いますが」

 

 これで何も考えは無いと言ったら、セリアは横島の息子の相棒であるお金玉嬢を握り潰すだろう。

 

「ああ、この方法が間違いなく被害が一番少ない方法だな」

 

「それで、今回は私たちにその方法とやらを教えてくださるので?」

 

 懐疑的な視線をセリアは横島に向ける。

 もし、これで秘密にするようなら、この会議は前回と同じようなものになる。

 厳しい口調で言ってくるセリアに、横島は内心ビクビクしながら、それでも表情に出さないようにして自信ありげに己の案を語った。

 

「人を狙う。それも、一番上を」

 

 それから語られた作戦に、エスペリアは反対、セリアは無言、悠人は賛成とくっきり意見が別れる事となったが、隊長格二人の賛成により横島の策が実行されることになる。作戦を煮詰めていくと、またしても横島は個人で行動する事が余儀なくされ、スピリット達、特に子供たちに反感を持たれることとなったが、危険性に関してはネリー達の方が大きいと説得されどうにか落ち着くことになった。

 自分の意見ではどうしようもないと悟ったエスペリアは、レスティーナ王女に作戦の中止を呼びかけた。

 人を狙う。その内容にレスティーナは表情を険しくしたが、どういった作戦か詳細に説明していくと、目を瞑りなにやら考え込んだ。そして、結局レスティーナは今回の作戦を支持して、決してこの作戦が漏れないようにかん口令を敷くよう命じたのである。レスティーナは横島の考えに賛同したのだ。

 

 前代未聞となる作戦。

 それはこの世界の常識に立ち向かうものであり、これまで紡いできた歴史も意思も、全てを無視して否定したものであった。

 それが正しいものとされるのか、暴挙とみなされるのか。それはまだ分からない。

 

 

『……まったく、何だというのだ』

 

 元バーンライト首都、サモドアのスピリット宿舎で『天秤』は不満げに声を荒げる。現在、『天秤』は横島と引き離され、壁に立てかけられていた。

 何故こうなったかというと、突然エニが横島に用があると言ってやってきて、テン君は来ちゃダメと言ったからだ。

 

『エニめ、横島と二人で何を……私がいると迷惑なことでもしているのか』

 

 ぶつぶつと独り言を繰り返す。いつもなら、ここでルシオラが色々とちょっかいを出してくる所だが、彼女はただ今お昼寝タイム。精神だけの存在だというのに、妙に人間的に規則正しい生活を送っている。

 厄介な小言が無くて清々すると、『天秤』は息を巻くが、その声にはどこか苛立ちのようなものが含まれていた。

 

『……あ。そ、そうだった! 私は離れていても横島の様子が見れたではないか!!』

 

 うっかりしていたと、少し恥ずかしくなる。

 

『私は別にエニと横島の事が気にかかるから覗くわけではないからな! ただ任務のため必要なことなのだ』

 

 『天秤』は独り言を繰り返す。

 ルシオラが起きていれば「はいはいツンデレツンデレ」と突っ込みを入れてくれた事だろう。

 

 ―――――もし、その突っ込みがあったなら、運命は変わったのだろうか?

 

 『天秤』は遠見の力を発動させる。

 そうして飛び込んできた映像は、横島がエニに箱のようなものを渡している所だった。

 エニはその箱を開けて中身を確認すると、花が咲いたような笑顔を横島に向ける。

 一体何を渡したのか気になった『天秤』だったが、何故か怖気づいてそれを見る勇気が出なかった。

 

「ねえ、この事はテンくんには……」

 

「ああ、分かってる。あいつにだけは言わねえよ」

 

 ペコリと頭を下げて、エニは笑顔で礼を言った。横島もどこか悪戯っぽく笑う。朗らかな空気が流れていた。

 そんな二人の様子に、『天秤』は得体の知れない何かに襲われていた。それは吐きたくなるような、泣きたくなるような、胸を突き刺すような、そんな激情とも言える衝動である。だが、『天秤』は神剣であるから、吐く口は存在せず、泣くための瞳も存在せず、痛くなる胸も存在しなかった。

 だから『天秤』は探した。その激情から自己を守るための理由を。その衝動から逃げるための方法を。

 

(あのエニが、私に秘密にすると言う事は、それだけ横島の事が大切なのだろう。つまり、エニと横島は既に懇意の仲なのだ。これで我らの計画が上手くいく)

 

 生きていれば、秘密にしたくなるような事も出来てくる。好きな人だから知られたくない事だってある。

 そんな当たり前の事を、『天秤』は知らなかった。彼は幼すぎたのだ。また、一体何の会話なのかと確認する勇気も無かった。そしてなにより、意地っ張りすぎた。

 

『は、ははっ……ははははあはははははあははああああははあ!!!!』

 

 『天秤』は大声で狂ったような笑い声を上げた。いや、それは笑い声といえるような物ではない。湧き上がってくる何かを、無理やり喜びの感情に変え、ただ喚いているだけだった。それは誰にも聞こえない。

 

「綿はもうちょっと待ってくれ。質が良いやつを揃えてやっから」

 

「うん。一番良いやつでお願いだよ!」

 

「分かってるって! まったく、あんな奴の何処が……」

 

 『天秤』は視覚を、聴覚を閉じる。全ての感覚を消した。見たくなかった。聞きたくなかった。エニも、横島も、何も。彼の意識は闇に落ちて、押し寄せる黒き感情の中を彷徨い続けた。

 

 裏切り者め!! 裏切り者め!! 裏切り者め!! 裏切りも者め!! 裏切り者め!!

 

 ただそれだけを念じて、呪いの言葉を横島とエニに掛け続ける。

 もし、何に対して裏切られたのかと問われても、答える事はできないのに。

 

 ルシオラがここにいたら、後の展開が何か変わったのかも知れない。

 だが、ルシオラは都合の悪い事に眠っており、この事態に気づけない。

 もし、この現場を見て全てを把握している神がいたら、きっとこう呟くだろう。

 なんて運が悪いのでしょう。かわいそうに、と。

 そう言って、神は嘲笑うのだ。

 

 エニが『天秤』に内緒で横島に頼みごとをした。『天秤』はその一部だけを目撃した。

 ただそれだけの事だった。本当に些細な事だった。それで、運命は決まった。

 

 ダーツィ本国に向かって行軍している最中、エニは失踪した。

 本当に何の前触れもなく、突然に。まるで、元々そこに居なかったかのように。

 

 悠人と横島は急いで探そうと、作戦の中止を訴えた。しかし、スピリット一人が消えただけで作戦行動を中止できるわけもなく。また、エニはダーツィに囚われた可能性があると言われれば、作戦の中止など出来るはずもない。動き始めた歯車を止める術は無かった。

 

 

 その広間には大きな円卓があって、老人たちが卓を囲んでいた。

 その中でも、豪華なイスに腰掛ける老人が一人。

 目に輝きは無く、肌は死人のような土気色で、体は痩せ細っている。

 病人に見えるこの老人こそ、ダーツィ大公国最高権力者、ダーツィ大公その人であった。現状の報告を聞きながら、女子の手でも捻れそうな細首で、コクコクと力無く頷いている。

 

「そうか、友好国であるサーギオスは、我らに何の支援もしてくれんか……先の戦いは何のために……」

 

 ダーツィ大公は小さくしわがれた声でぽつりと漏らす。その声には怒りなどの感情は含まれておらず、ただ事実だけを受け止める響きがあった。同時に諦めにも似た響きでもある。

 その声に反応する者はいなかった。諸公である老人らは一様に顔を下に向けている。

 サーギオスはこの戦いに干渉しない。この報告は、正に国の行く末を決める重要なものだったはず。しかし、特に強い関心は持っていないらしい。国家の大事を決める会議は、砂のように乾ききっていた。誰も強い野心を持つ者、愛国心を持ち危機感を持つ者はいないようで、老人たちは皆疲れきった表情をしている。誰もが理解していた。この国の先行きは暗い。いや、暗いというより、無い。それを、皆分かっていた。

 

「戦況は……」

 

「戦況は完全に膠着しています。ラキオスは我らの守りに手を焼き、攻めあぐねいています。ただ無理押しに攻めてきているわけでは無いので、ラキオスにもまったく被害は出ていません」

 

「奴らも無理はできんか。しかし、もし力攻めで来た場合は?」

 

 その問いかけに重苦しい甲冑を身に着けた武官は目を伏せて、重々しく首を横に振った。もし多少の被害を覚悟して波状攻撃を掛けられたら、それを防ぐことは出来ない。

 その事実を老人たちも分かっていたのか、特に反応もせずに「そうか」と小さく呟くのみだった。

 

「いっそのこと、ラキオスに降伏したほうが良いのではないですか。このまま守り続けても落城は必死です。少しでも戦力が残っている現状で降伏して、少しでも我らに有利な条件で開城したほうが……」

 

 そう意見を述べた壮年の男が、この会議で一番、強い目をした重臣だった。

 ざわざわと、場が少しだけ騒がしくなる。壮年の男は立身出世を諦めてはいなかった。

 降伏という判断がどのような目で見られるのかは分からない。国を売った売国奴として見られるのか。もしくは被害を最小限に止めた賢者と見られるのか。

 だが、これはチャンスだった。完全に停滞しているこの国では早々の出世は望めない。ならば、早々に見切りをつけたほうが良いはずだ。ラキオスはこれから勢力を広げるために戦火を拡大していくと、男は予想していた。

 噂に聞くラキオスの王は、野心多く俗物だと聞いている。懐はそれほど広くないようだが、目先に美味い餌でもやれば取り立ててくれるかもしれない。この国と心中などごめんだと、男は必死だった。

 男の申し出に、大公が口を開く。

 

「だめじゃ」

 

「何故ですか?」

 

 大公は一体何と答えるのだろうか。

 この期に及んでラキオスと戦って勝てるとは思っていないだろう。今更サーギオスが救援してくれると期待しているのだろうか。まさかただ自分の命が惜しくて言っているのか。

 不用意な発言をしてくれれば糾弾しやすくなると、男は期待した。

 

「サーギオスには悪魔がいる。もしラキオスに属すれば地理的にサーギオスに面している我らが一番の標的になるだろう」

 

 大公の声は震えていた。それは紛れも無く、恐怖という感情によって。

 

「その辺りは私にお任せください。我が弁舌によってラキオスを動かし、必ずや最善の結果を叩き出してご覧にいれましょう」

 

「くどい。現状維持。これ以外に方法はあるまい……粘り続けていれば、あるいは」

 

「しかし!!」

 

 壮年の男は声を荒げたが、決定は覆らなかった。周りの老人達も、ただ溜息をついて目を下に向けるだけ。

 誰もが滅びは遠からず訪れる事を予感していながら、それでもただイスに座している。

 戦力が無い。マナが無い。そしてなにより、人がいない。この国に先は無かった。

 

 意味の無い評定も終わり、ダーツィ大公は城の最上階にある自室に戻ると、糸の切れたマリオネットのようにイスに座り込んだ。余りにも消極的であると、自身も分かってはいるのだが、何か新しい行動を起こす気概がもうないのだ。ふと目の前の鏡に写る自分の姿を眺めると、そこにいたのは骨と皮で作られた一人の老人がいるだけ。

 老齢である自分はもう長くはない。せめて大公のままで死んでいきたい。国を潰したと、名を残したくない。

 それだけがこの老人の願いであった。守りを固めれば、その可能性は幾ばくか生まれるのだから。口惜しさは、ある。長年の悲願であったイースペリアの地を獲得することも出来そうになく、サーギオス帝国に従属するしかない。だが、それは致し方ないと王は思う。如何にラキオスのエトランジェが強くても、あれには勝てないだろう。四神剣の持ち主であろうと、あの悪魔達に勝てるはずがないのだから。

 

「私には……運が無かったのだ」

 

 言い訳だと思いつつ、それが正当な理由だと心の中で繰り返す。

 

「確かに、運はないみたいだなあー」

 

 若い男の声がすぐ後ろで聞こえた。一体誰だと、振り返る暇も声を出す暇もなく、口元に布のようなものを押し付けられて声を塞がれる。そして首筋に冷たいものが当てられた。

 それがナイフだと分かって、彼は硬直した。

 

 一体何が? どうして? なぜ?

 

 大公には現在の状況がまるで分らなかった。どういった理由で刃物を当てられたのか、その意味を見いだせない。

 

「暗殺される可能性とか、マジで考えねーんだな」

 

 若い男の声に、大公はようやく現状を掴めた。

 暗殺者が寝所に侵入して、ナイフを突き付けているのだ。

 事態を理解した大公は、頭が真っ白になっていくのを感じた。

 

「今から口をあけるけど、大声出したら……どうなるかわかってんな」

 

 必死にブンブンと大きく首を縦に振る。

 布が口から外される。

 次の瞬間、大声を出して助けを呼べば、と考えたのだが、咽と舌は自分の物ではなくなったように動かなかった。

 それでも目は動いて、忍び込んで来た暗殺者を見れた。そこにあったのは、なんて事のない普通の顔。赤いバンダナが特徴で、緩い感じの平凡凡庸に見える青年だった。

 これなら助かるかもしれない。威圧感の欠片もない暗殺者に、大公は安堵する。これなら何とか隙を見て助けを呼べるかもしれない。

 暗殺者―――――横島はその空気を敏感に感じ取り、にやりと笑みを浮かべた。

 

「何か変なこと考えてるな。くっくっくっ! さて、どんなふうに殺そうかな?」

 

 は~どぼいるど風に横島は笑う。正直笑いが出るほど滑稽なのだが、鉄のナイフは鈍重に光って、大公の気を削いだ。

 

「死ぬってのは痛いぞ~血がどぱ~って出るしな……試してみっか」

 

 横島は唇を三日月形にして薄く笑い、ナイフを軽く前に突き出した。眼球に向けて近づく刃物。

 刃物を突きつけられる。それがどれほど恐ろしいことなのか、体験したものにしか分からない。

 大公はあっさりと降参した。

 

「た、たす……たすけ」

 

「んじゃ、さっさと降伏すると宣言しろ」

 

 とんでもない事をあっさりと口にした横島に、大公はさらに目を丸くした。

 

「ほっ?」

 

「だから降伏だ。無条件で降伏。白旗を振ってくれ」

 

「なあ! まっ、待ってくれ! いくら私でも、一声で戦争をやめられるはずが……」

 

「最高権力者がスピリットに戦闘を中止しろって言えば、それで戦いは終わりだ。どんな派閥があっても、例えお前に敵対する奴が居ても、国中の人間が反対してもどうしようもない。スピリットは戦いを止める。この世界はそういうもんなんだろ」

 

 皮肉っぽく、貶すように横島は言い切った。そこにはこの世界に対する険悪がありありと浮かんでいる。

 ダーツィ大公には何をそれほど嫌っているのか理解できなかったが、自分を殺すことが出来る相手の機嫌が悪くなっていることにぞっとした。

 

「さっさと降伏すれば、命だけは助けてやるぞ。俺はこれでもエトランジェで、結構権限があるからな」

 

 横島は嫌らしそうに顔を歪めて、ナイフを首筋に強く押し当てる。皮一枚が切れるのを、大公は確かに感じた。目の前の男が少し力を入れるだけで、赤い鮮血が吹き出すのだ。

 国のトップとしての誇りや、名誉欲が無いといえば嘘になる。しかし、そんなものは生命の危機の前では一瞬で吹き飛んだ。

 

「分かった。言うとおりにしよう」

 

 大公は両手を上げて、降参した。ここに至ってはどうしようもないと。

 まさかエトランジェが単独で忍び込んでくるなんて、元来考えられることではない。これはありえないことだ。考えられない事だ。

 だから、私は無能なのではない。ただ、運が悪かっただけなのだ。

 先ほど心の中で訴えていた事に、更に要因が加わった事により、大公の精神は崩れた。

 ここで横島はさらに念を押すことにした。

 

「怪しい素振りはするなよ。もし、妙な動きをしたら……」

 

 横島はナイフを懐にしまう。そして右手から栄光の手を出した。

 突如出現した栄光の手に、大公の目が点になる。

 

「この世界の命は、死ぬとハイペリア(悠人の世界)に魂が運ばれる。そこまでは知っているだろうけど、ハイペリア人に殺された場合は、バルガーロアー(地獄)に落されるんだぜ」

 

 ムカデの足のように変質させた栄光の手が、大公の顔をなぞった。病気のような土気色の肌はさらに黄色く変質して、背はがくがくと震え、目は一切の色を失う。

 彼の心は折れた。

 

 程なくして重臣一同は赤絨毯が敷き詰められた大広間に集まった。大公は10壇ほど高い所で、集まった者たちを見下ろす。げっそりと10歳ほど老けこんだように見える大公の姿に、何人かはこれから話す内容に察しがついた。

 横島はクモのように天井にへばりつき、気配を殺して大公の様子を窺った。大丈夫だとは思うが、もし妙な動きを見せたらすぐに対処しなければならないからだ。まあ、この大公の様子なら杞憂に終わりそうだが。

 

 大公は鉛のように重たい口を動かして、掠れた声でしゃべり始めた。

 栄光あるダーツィ云々と、過去の歴史をしゃべり始め、それから今現在の置かれた国の状況を話し、これは仕方ない事であり、どうしようもなかった事なのだと言い訳じみた事をくどくどと言って、そして、

 

「我がダーツィは、ラキオス王国に」

 

 ――――本当にそれでいいのですか?

 

 大公は言葉を発する事が出来なくなった。

 突然、降伏に納得できなくなったのだ。一体何故、降伏したくなくなったのかは分からない。

 透明なはずの水から、突如生まれたシーモンキーのように、『それ』は生まれていた。

 どうして降伏したくなくなったのか。大公は己の心に、『それ』に問いかける。

 

 ――――理由は、彼が嘘をついている可能性があるからですわ。

 

 そうだ。

 あのエトランジェは、命だけは助けるといったが、そんな保障はどこにある?

 

 ――――保障なんてないじゃありませんか。

 

 そうだ。命の保障なんてありはしない。

 自室に乗り込んできて、脅迫して国を落そうなどという常識外れの言った事だ。それに、エトランジェにそこまでの権限が与えられているのも可笑しい。

 

 その『意思』が、どこからやって来たのかは分からない。

 だが、それは確かにあって、耳元で甘く囁く。

 どうしようもなく優しくて、慈悲に溢れた死の言葉を。

 

 ――――貴方はもう終わりですわ。どうせ砕け散るのならば、華々しく散りましょう。そうして自身の証を立てるのです。名を残すのです。

 

 そうだ、どうせ自分はもう終わりだ。どう足掻いても滅亡は止められない。

 ならば、最後は華々しく、大公として、一人でも多くの殉死を、道連れを――――

 

 ぎらりと、ダーツィ大公の目に光が灯る。

 メラメラと燃え盛るどす黒い光は、もはや正常な人間の目では無い。時間にして一秒も無かっただろう。その間に、ダーツィ大公の精神は完全に変容してしまった。ただ保身を求める者から、己の身を燃やしてでも相手を滅ぼそうとする悪鬼へと。

 その事に、すぐ側にいる横島は気づけなかった。気づけるはずも無い。彼は気づけないようにされているのだから。

 

 そして、ダーツィ大公は宣言する。

 

「ダーツィ大公国はこれより……ラキオス王国に総攻撃を掛ける!! 全てのスピリットは現時点で防戦を止め、ラキオス軍に向かって突撃せよ! 良いか、全てのスピリットだ! 降伏は許さん!! 最後の一兵まで剣を振るい、敵を滅ぼせ!!」

 

 沈黙が広がった。誰もが目を丸くして、息をするのも忘れたようで、息遣い一つ聞こえてこない。全員が、ただ呆然と大公を見ていた。目の前にいる老人が、本当に自分たちの君主なのか自信が持てないでいたのだ。それほどの変貌だ。

 動いたのは二人。スピリット隊の隊長である人間と、その隣にいる一人のスピリットだけだった。総攻撃という命令を、前線で戦っているスピリットに伝えに行ったのだ。気味が悪いほど、迅速に、冷静に。

 確かに横島の言った事は正しかった。スピリットは一番上の立場の者に従う。この命令を覆すには、ダーツィ大公の命令以外にはありえないだろう。

 刻一刻と悪い方向に向かう中、ようやく横島も今がどういった事態になりつつあるか理解した。

 

(マジか!? 狂ったのかよ!!)

 

 騙されて、嵌められたとは考えなかった。もし、大公がその目に理性の光を灯していたのならそう考えただろうが、とてもそうは見えない。目の前にいるのは狂ったように大声を出し、大げさな身振り手振りで喚いている狂人だ。弱気で疲れきった老人は、もうどこにもいなかった。

 計画は失敗のように見えるが横島は慌てない。こういった万が一に備えるのがプロというものだ。こんなこともあろうかと、とっておきの文珠を用意していた。入れる字は『操』だ。二週間で二つの文珠を作ったが、一つは侵入の際に『天秤』の存在を隠すために既に使用していて、これが最後の一つである。

 もしも脅しが効かなかったらこれで大公を操る手筈だったのだ。こんな事なら最初から使っていれば良かったと後悔する。何故さっさと文珠を使わなかったのか。その方が楽に出来たはずなのに。いくら文珠を貴重品でも、この場面で惜しむなど妙ではないか?

 今までの自分の行動に若干の疑問が生まれたが、すぐにそれを打ち消す。今すぐに大公を操り、先の発言を撤回させればまだ間に合う。

 すぐに文珠に『操』を込めて投げようとした横島だが、その動きがピタリと止まった。

 

「ぐうっ……ゲガガ!! かっ……ふ……オオ!!」

 

 大公は胸を押さえて蹲り、口から野獣のような唸り声を上げていた。さらに口からは涎を流し、全身を細かく痙攣させて、床に倒れ伏す。陸に上げられた魚のように口をパクパクと大きく開けて、体をエビのように反らす。声帯は仕事を放棄したようで、声はもはや声ではなくなる。

 ここまで僅か数秒の事。ようやく周りにいる重臣たちが大公に駆け寄ろうとした時には、既に最後の時を迎えていた。

 空気を求めたのか胸をひと際大きくそらして、喉から大きい呼吸音がして、そこで胸の動きが止まる。いや、弓なりに体を仰け反らせたまま、胸だけではなく全身を止めた。

 そして、彼の肉体で何十年と脈打っていた一つの臓器は、その動きを止めた。

 

 

 


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