永遠の煩悩者   作:煩悩のふむふむ

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第三十一話 GS横島 極楽大作戦!!

 最近、ヨコシマ様の様子がおかしい。

 

 眉間に皺を寄せたヒミカが言った。

 その言葉に一緒にお茶を飲んでいたファーレーンは首をひねり、ハリオンはやはりいつも通りニコニコと笑う。

 

 視線が胸やお尻にこない。

 着替えの時もちょっかいをかけてこない。

 手を握ることも抱き着いてくることもない。

 正直言って、爽やか過ぎて気味が悪い!

 

 メドーサにマロリガンの捕虜達が半数近く殺されてからはや数週間。

 横島はジェントルマンと言うに相応しい男と成り果てていた。賑やかで騒々しいのはいつも通りなのだが、むやみやたらに女性の体に触れなくなってしまっている。

 ヒミカの訴えにファーレーンは呆れたような目を彼女に向けた。

 

「何を馬鹿なことを言ってるんですか。ヨコシマ様は元から優しくて頼りになる紳士然とした素敵な人じゃないですか」

 

 ファーレーンはきっぱり言い切る。彼女にとっては、それは間違っていない。ファーレーンの視点では横島は何一つ変わっていなかった。

 迷いのない口調にヒミカはイラッとした。

 

 貴女に言われなくとも分かっている。

 貴女は何も分かっていない。

 

 相反する気持ちが競りあがってくる。

 優しいのは分かる。

 優しさを示す事柄は沢山あるが、最近だと病院と呼ばれる施設に収容されているスピリット達の為に、癒し効果のある音楽を自動で奏でる装置を持ち込んだらしい。無論、ハイペリアからの持込品だ。病人や子供には本当に優しい人である。

 

 頼りになるのも当然。

 仕事も戦闘も高いレベルでこなして、他の雑務も適度にこなす。仕事の出来る男だ。

 

 しかし、紳士然というのはありえない。

 あの人は紳士の対極にいる変態だ。あの変態チックな行動の数々に一体どれだけ苦労してきたことか。いきなり改心するなど不自然すぎる。

 惨殺されたスピリット達に同情したから、という理由も考えた。しかしヒミカも横島と一年を過ごして優しさと変態は両立する事を理解している。これは違うだろう。

 

 素敵かどうかは――――人それぞれだとは思うので否定も肯定もしないが。

 

「それよりも、私はニム……子供達の様子が可笑しいと思うんですが」

 

 朝起きたら鏡で寝癖を整えて少しポーズを決めたりする。

 お洒落に興味があるようで、スースーして嫌だといっていたスカートをお小遣いで購入する。

 どこか物憂げな表情をしたかと思えば、何かを想像したように顔を赤くする。

 横島とのボディランゲージも頻度を減らし、お風呂も一緒に入ろうとしなくなった。

 

 大人になりはじめた。女らしくなった。

 簡単に言えばそういう事だが、それにしても急すぎる。一体何があったのか。

 ファーレーンは妹が急に女の子らしくなったのが心配だった。

 

 ヒミカは答えに窮した。

 そうなった理由を知っているのだが説明するのは少し恥ずかしい。上手く説明しないと騒動になってしまうだろう。

 ヒミカは言葉を慎重に選んでいたが、隣にいたのは無敵のお姉さんだった。

 

「ああ、それはですね~子供達は、もう子供じゃなくなったからですよ~」

 

「え?」

 

「もう大人の女って奴ですね~」

 

「お、おおおおお、大人の女ってどういう事ですかまさかヨコシマ様が禁断の白無垢を突き破って赤くしちゃったりとかなんとかってそういうどういうにゃあああああああ!!」

 

「もぅ~違いますよ~。大人の女にしたのは、この私です~」

 

「はああああ!? つまりハリオンが義理の妹になっちゃってこれからは私がお姉ちゃん!?」

 

「夜にきちんと自習もしているみたいですよ~」

 

「いけない一人遊びまで!?」

 

「お姉ちゃんが何をしていたか分かったって言ってましたよ~」

 

「それって見られてたって事じゃないですかー!! いやーーーーーー!?」

 

 ファーレーンは頭を抱えて絶叫して部屋の中をギュンギュンと飛び回る。

 予想通りの混乱振りにヒミカは親友をにらみ付けた。

 

「まったく! ハリオンも言葉を選んでよ。こうなるのは目に見えてたじゃない」

 

「でも本当の事じゃないですか~それにニムさん達もいつまでも子供じゃないって、ファーレーンさんには分かってもらわないと~」 

 

「それはそうだけど……まあファーレーンの事はもういいわ、今更だけど子供達の教育については、もう少し時間をかけてソフトに教えてもよかったんじゃ」

 

「ヨコシマ様がいるんですよ~短期間でしっかりと子供達に教えなかったら大変な事になったと思います~」

 

 その言葉にヒミカは渋面を作る。その通りだったからだ。

 子供達は肉体と精神の成長から来る情動を処理しきれていなかった。

 ハリオンが発散方法を実地で教え、ヒミカは羞恥心と性知識を仕込んで事なきを得たのだ。

 

 特に行動的なネリーとシアーは危険だった。ヒミカもそれは理解している。

 あのまま放置していたら横島に衝動のまま夜這いをかけていただろう。知識が無いからこそ本能のまま動いたはずだ。下手をすると横島が朝目覚めると二身合体や三身合体をはたしていたかも知れない。まるで予知夢の如く、その未来がリアルに思い浮かんだのだ。

 

「はあ~私はこういう生々しい話って苦手なのに」

 

「苦手なんて言ってられないですよ~これから楽しく暮らしていくためにも、人間様と猥談できるぐらいになりませんと~」

 

「はい!? 何でよ!」

 

「それは私達、スピリットの事を人間様に理解してもらうためです~スピリットはご飯を食べたりトイレにも行かないって人間様は考えていたみたいですし~」

 

「う、嘘でしょ?」

 

「本当ですよ。偏見をなくす為にも~スピリットはご飯を食べて~出すものは出して~寝坊もして~エッチな気分にもなっちゃうって、きちんと伝えていきませんと」

 

「それって凄く恥ずかしいんだけど」

 

「レスティーナ様が頑張ってスピリットの事を伝えているのに~私達が隠そうとしちゃダメです」

 

 広い視野で周りを見ているハリオンにヒミカは驚く。

 非常にのんびりしているが、彼女の行動に間違いがあった事はない。

 皆のお姉ちゃんを自称しているのは伊達ではないのだ。

 

 ヒミカは親友を見直していると、そこに不機嫌そうな足音が近づいてくる。

 

「何を騒いでいるの」

 

「あ、セリア。ちょっとね……ってどうしたの? 怖い顔して」

 

「マロリガンが動いたわ。私達は国境もよりの都市で待機。ヨコシマ様は極秘の単独任務だって」

 

 部屋の空気が一気に冷えた。飛んでたファーレーンもコテンと地に落ちてくる。

 マロリガンが攻め入ってくる。それに関しては想定していた。

 あれだけ叩かれても未だに講和どころか停戦協定すら結ばれていないのだ。また攻めてくるのは考えられた。だがそれでもラキオスの力を結集すれば打ち払うのは可能と考えていたのだが。

 

「まさか、またあの人は単独で戦おうとしているわけじゃないでしょうね」

 

 ヒミカの口から発せられた声には深く静かな怒りが込められていた。

 その可能性もあるとセリアも考える。横島の様子が不可解なのはセリアも気づいていた。異常に紳士的になっている。女性としては安心できるが、セリアはむしろ恐怖を覚えていた。

 まるで無理やり抑え付けられた獣が眼前にいるような圧迫感を常に横島から感じたからだ。

 

「嫌な予感がするわ」

 

 何か信じられないような事件が起こりそうな気がする。背筋が妙にざわついて仕方が無い。

 不吉な予感に、スピリット達は表情を厳しくして神剣を握りしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 空が白み始めた頃、砂漠という熱砂の中を20名余りの集団が進んでいた。

 悠人の同級生である碧光陰が率いるマロリガンの最精鋭スピリット部隊だ。

 

 通称、稲妻部隊。

 構成メンバーは碧光陰、岬今日子、犬塚シロ、タマモの計四人のエトランジェと、心を失っていないスピリット十数人。目的は勿論、ラキオスの攻略である。

 

 これがラストチャンスでありラストアタック。

 シロ達はそれを理解していた。この攻勢に失敗したらマロリガンは諸手を挙げて降伏するだろう。

 状況は劣勢。退却は許されない。間違いなく双方とも死者が続出する激戦になる。

 それを理解していたスピリット達だが、誰一人として弱音を吐くものおらず、戦意を強く維持していた。光陰とシロの統率と士気の高さが伺える。

 

 しばらく進み、ラキオスの都市まで数百キロ地点まで来た。このぐらい離れていれば神剣反応も察知されないし、四半刻もあれば都市に襲撃をかけられる。といっても、ここで焦る必要は無い。

 訓練で慣れているとはいえ無の砂漠を行軍して体力は減っていた。

 以前に都市を占領した際この辺りはマナ溜まりと呼ばれるホットスポットになっている事は調査済みである。スピリットの体力回復に持って来いの癒し空間だ。

 ここで休息を取り都市に夜襲をかける。それが光陰達の計画だった。

 

「よし、太陽が昇る前に穴を掘って日除け陣地を作るぞ」

 

 光陰が指示してスピリット達は動き出そうとした、その時だ。

 

「待つでござる! この匂いは……まさか」

 

 シロは鼻をクンクンとうごめかした後、『銀狼』をある方向に向けた。

 神剣の向いた先には、大きなが穴があった。

 穴の中から、本を手にしたバンダナ男がひょっこり顔をのぞかせる。

 

「お、来たな。時間ぴったりって所か」

 

 驚く光陰達に横島は穴から這い出しながら、にこやかに笑って言った。

 横島は右手を掲げると、遠くから金色のマナが飛んできて刀の形となる。

 

 完全な待ち伏せだ。それも侵攻の道筋から時間まで全て読まれている。

 光陰とシロは自分達の行動が完全に読まれていたと理解し、そうなった経緯を想像してげんなりとする。

 

 ――――どうやら自分達はマロリガンに売られたらしい。

 

 二人の考えは的中していた。

 マロリガンの和平派はシロ達の情報を全てラキオスに売っていたのだ。

 

 

 ラキオスとマロリガンは戦争の落とし所を探っていた。

 レスティーナは元々マロリガンのマナや領地を狙ったわけではない。むしろ支配など頼まれても嫌だった。

 

 完全にマロリガンを潰せば、当然だが統治しなければならない。

 長きに渡って情報統制を敷かれ、民主制に馴れ親しんだマロリガンの民は王政や貴族に対して忌避感が強く、人心を慰撫するのは非常に困難だ。さらに砂漠の所為で地理的にも遠い。下手な代官を置くのも躊躇われた。無理やり統治しようとして強く反発されたら、レスティーナ最大の武器であるカリスマにも傷がつく。

 適度に勝利して、ラキオスの民が納得できる程度に賠償金を支払わせて後腐れなく戦いを終わらせたいのがベターであると結論が出た。

 

 マロリガンも既に勝利は難しいのは理解していた。

 賠償金で終わらせられるのなら、それに越したことは無い。

 

 賠償で今回の戦争を終わらせようと、既に両者の間で結論は出ていたのだ。

 ここからマロリガンの、というよりもマロリガンを牛耳る議会の思惑が出てくる。

 

 彼らの考えは一つ。

 誰に、どう、この敗戦の責任を押し付けるかだ。

 

 何といっても大統領であるキェド・ギンはラキオスとの戦争は時期尚早と反対していたのだ。それを議会は多数決を取って会戦を決定したのである。

 これで戦いが終わってしまうと民からの批判は全て戦争をごり押しした議会に向かい、戦争に反対した大統領とその一派に支持が集まるだろう。しかも、マロリガンに残された戦力は大統領に忠誠を誓っている。

 長年、マロリガンで権勢を振るい、既得権益を欲しいままにしていた議会にとって、自分達の力を削ぎ落とされる事態を許せるわけが無い。

 

 そんな時だ。

 横島と悠人の姿がラキオスから忽然と消え、しかもサーギオスに国境周辺の都市が襲撃されたという情報が入る。

 大統領は攻勢に転じるべきだと主張した。この勝機を逃すべきではないと。

 老人たちは反対した。偽情報の可能性もある。もう少し様子を見ようではないかと。

 ここで反対した理由は一つ。もしこの攻勢に成功してしまったら、大統領の基盤が強くなってしまうからだ。

 

 ほどなくして横島達がラキオスに帰還して、ようやく議会は攻勢に賛成した。此度の攻勢を指示したのは、大統領であると民に流布して。

 これで大統領派が攻勢を指示して負けたと言いのけて、全ての責任を負わせることが出来る。

 議会を牛耳る老人達にとって、マロリガンという国の栄光はどうでも良かった。ただ自分達に権勢を振るえる場所があれば良かったのだ。

 

「議会の連中ここまでやるかよ。おい横島、どれぐらい俺達の情報が貰ったんだ?」

 

「ああ。お前がアゴヒゲを生やすかどうか悩み中ってのも書いてあったぞ」

 

「個人のお悩みまでかよ! やりすぎだろおい」

 

 まるで旧知の友のように横島と光陰の会話は馴染んでいた。

 光陰はともかく横島は男と楽しい会話をするなんてまっぴらごめんなのだが、どうやら相性は良いらしい。

 だがそれだけ仲良くなれそうでも、今この場では何の意味もなかった。

 

「それで、いくら情報を貰ったからといって、まさかたった一人で俺らとやるつもりか。流石にそれは無謀ってもんだと思うぜ」

 

 軽口を叩く光陰だが、その目は猛禽のように光って横島を観察していた。

 今の横島には何かただならぬものを感じるのだ。横島はにこやかに笑ってはいるものの、噴火寸前の火口を覗き込むような圧迫感を前にして、油断も余裕も出来たものではない。

 横島は光陰の鋭い眼光を気にも止めていない様子だった。

 

「この一戦さえ凌げば、マロリガンは降伏するんだろ? そっちの情報は漏れてるんだ。もう諦めて逃げた方が良いんじゃないか」

 

「そのような事、とうに知っております。拙者達に引く気はござらん。もはや生きるか死ぬかしか決着はありません。まさか、まだどちらも死ななくて良い等と考えているのでござるか?」

 

「ああ、考えてるぞ」

 

 甘っちょろいことを、などと考える余裕はシロにも光陰にもない。

 横島忠夫という男を調査していない国など無い。今までの戦いでも、向こうから挑んでくる時は策に策を練って勝利を掴んでいる。

 横島は勝利を確信しているが如く、余裕の表情で手に持った本をチラチラ見続けていた。

 自分達は間違いなく罠の渦中にある。シロ達は最大限に警戒した。

 

「一体、何を企んでいるでござる!」

 

「俺の企みか? ふっふふふ。それはな……これだ!!」

 

 横島は見ていた本を光陰にぶん投げる。

 本は光陰の手前に落ちて彼の目に入った。光陰は驚愕に目を見張る。

 

「ば、馬鹿な! これは!?」

 

「何でござるか!?」

 

 あの光陰がここまで動揺するとは。

 シロは興味を引かれて本を覗き込む。

 

『痴漢タクシー ~最逝き黙示録~』

 

 どぎついピンク色の本の表紙と常識を疑うようなタイトル。題名の周りには美女に電車にチーズにと、妙なものが色々と描かれていた。何が何だか分からないが、どういった種類の本なのかは雰囲気で分かる。

 エロ本だ。

 

 アホでござるか!?

 

 シロはエロ本を読みふける光陰の頭に突っ込みを叩き込もうとしたが、何とか我慢する。

 これは先生の作戦だ。それが理解出来た。先生のペースに飲まれてはいけない。

 

「はっ! こんな本に俺が動揺すると思ってんのかよ」

 

 ――――流石は光陰殿でござる!

 

 シロは内心で喝采を上げた。

 動揺していたように見えたのは目の錯覚だったらしい。

 バラバラとページを開く光陰は賢者のように悟った目で女体を見つめ、本を閉じた。

 

「だって小さい娘いないじゃねえか」

 

「結局それでござるか!!」

 

 ハリセンを取り出して光陰の坊主頭をひっぱたく。光陰の恋人である今日子が持ってきたという、由緒正しきハリセンだ。

 

 光陰は所謂、ロリコンである。

 小さければ小さいほど良いと言うような本物だ。とはいえ、小さい女の子は好きだが恋愛対象ではないらしい。

 女は今日子ただ一人と明言してる。一本筋が通った理想のロリコンだ。それに、これで優しく楽しく優秀である。

 

 結果的に子供達からは嫌われて、大人達には好かれるというのが光陰のキャラクターだった。

 どこかで聞いたような話だ。

 シロが光陰を尊敬している理由に、どこか横島に似ているというのがあるが、悪い所まで似ているのは勘弁して欲しいと思っている。

 横島はハリセンを振り上げるシロを見て得意満面の笑みを浮かべていた。

 

「シロ、分かったな。こういうことだ」

 

「さっぱり分からんでござる。ふざけるのなら一人で極楽に逝ってもらいます……拙者も後で逝きますゆえ」

 

「色々とごちゃごちゃ考えてんな。本気の殺気を出しやがって。子供らしくなくなったなー」

 

「当然でござる。現実が、状況が、拙者を子供にしてくれなかったからでござる」

 

「ああ、ギリギリだけど認めるさ。心は成熟して、一年で体も一回り大きくなった。今のお前は……大人だ!」

 

 横島から放たれた殺気とも違う何かが放たれて、ゾクリとシロの全身が総毛だった。

 今まで感じたことのない感覚。恐怖ではない。おぞましい感覚が胸や尻に纏わりつく。

 

「もう後悔しても遅いぞ! さあ――――――極楽に逝かせてやるぜ!!」

 

 横島の足元に巨大な魔方陣が生まれ、漆黒の何かがせり上がっていく。

 

 ――――どんな方法を用いても絶対に殺しはしない。

 

 横島の想いから生まれた希望の淫虫が今、世界に放たれた。

 

 

 

 永遠の煩悩者 第三十一話

 

 GS横島 極楽大作戦!!

 

 

 

 稲妻部隊の全員が首を80度ほど傾けて『それ』を見た。

 非常に大きい。いや、大きいというレベルではない。その全長は雲にまで届いている。数千メートルは確実にあるだろう。胴回りも数百メートルはあるか。近くに居たら、ただの壁が出現したとしか思えないほど巨大だ。

 映画に出てくるような怪獣――――を一飲みするほどの強大な蛇のようなもの。その表皮は黒く粘性を纏い、無数の突起があり、凄まじい威圧を与えてくる。

 

「な……く……こ、後退して戦闘態勢!」

 

 光陰が声を上ずらせながらも指示する。

 どんな状況でも焦らない強い心を持っている光陰だが、流石にこれには冷静を保ってはいられなかったらしい。

 こんなのが倒れてきたら、それだけで地形が変わってしまう。

 

「うぇぇ気持ち悪い」

「こんなの大きすぎるよぅ」

「黒くてヌラヌラしてる」

「……コウイン様のアレに似てるね」

「ありえないでしょ!!」

 

 スピリット達も唖然としていた。

 とにかく大きすぎたのだ。倒すとか倒さないとかのレベルではない。

 光陰もシロも指示どころではない。高さだけなら日本最高の標高を持つ富士山を越えている。地図に書き込まなければいけない領域の存在を前にして、何をどうしたら良いのか分からない。

 

「なあ『金狐』、これは幻術なのか……幻術だよな」

 

「残念だが……本物だ。まさかこれほどの力が……これが『本命』の力か、クソ!」

 

 光陰からの問い掛けにタマモの体を乗っ取った『金狐』が悔しそうに呻く。

 こんな化け物とどう戦えば良いのか。そもそも戦えるのか。

 思案するシロ達だが、超弩級触手は作戦会議の時間など与えないよう素早く動いた。

 

 ドビュルビュルビュルビュルルル!!

 

 不快を感じるような爽快音と共に、触手の膨れ上がった頂上付近から白濁の液体が大量に放出される。青空に汚い雲が浮かんだ。後はボダボダと垂れるように降ってくる。

 

「さあ、ミドオルガズムよ! 全てを溶かしつくせ!!」

 

 どこからともなく横島の声が響いてきてシロは戦慄する。

 もしやこれは溶解液の類か。触れるわけにはいかない。

 光陰がハンドサインを出す。サインを読み取ったスピリット達は一箇所に集まる。

 

 レッドスピリットとタマモと今日子が集まって、上空に強力な火の壁を作り出して、その下にスピリット達は退避した。幸いにも、白濁色の液体は火の障壁を突破できず燃やし尽くされる。

 

 防ぎ切った。

 ほっと一息を付く。

 その緩みを狙って触手が地面からにょっきり顔を出すと、レッドスピリット達の足首に絡みついた。足首から太股に触手は上り始める。

 レッドスピリット達は上に注意を向けていて、さらに防御に力を使ったから対応できない。

 

「ひぃ」

 

 醜悪な外見に、ぬるりとした感触。

 生理的なおぞましさから悲鳴が喉から漏れる。

 触手は太股からさらに際どい所に触れようと鎌首をもたげながら突き進んだ。

 

「甘いな」

「この程度」

 

 今日子とタマモの、正確には『空虚』と『金狐』の神剣が触手をなぎ払う。

 レイピアで串刺しにされ、扇で叩かれた触手は燃え落ちる。

 流石に高位神剣の守護を受けたエトランジェは強かった。

 

 にぃと唇を吊り上げた二人だが、はたと気づく

 足元に珠が落ちている。六つの文珠がタマモと今日子。それにレッドスピリット達の周りを囲んでいた。

 

「しまった! 防御を――――」

「もう遅いっーの」

 

 いつの間にか横島が頭上にいた。自分達の作り上げた炎の壁で見えなかったらしい。

 上に注意を向かせて、次に下から奇襲。そして、また上から奇襲。いやらしい事、この上ない。

 いち早く狙いに気づいた『金狐』は慌ててオーラを防御に転用しようしたが間に合わない。

 

 『範』『囲』『内』『完』『全』『睡』『眠』

 

 タマモ達を取り囲んだ文珠が光の線で結ばれて、次にドームのようになり囲われる。

 シロ達が気づいた時にはもう遅かった。

 光のドームが消えると、そこには今日子とタマモ、そしてレッドスピリット達が地面に倒れていた。

 

「タマモ!」

「今日子!」

 

 シロと光陰が慌てて二人を抱き起こすと、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 ただ寝ているだけらしい。だが、気付けをしても起きない。回復魔法も効果がなかった。

 

「まさか文珠を七文字も使うとは」

 

 シロの驚愕には二つの意味が込められていた。

 文珠を連結させるには超人的な霊力と技量が必要とされる。あの僅かの間に七文字の連結を苦もなく完成させるというのは人間業ではなかった。

 もう一つ重要なのは文珠を七つも使ったという事。これで文珠は打ち止めだろう。

 

 文珠を使い終わった横島は、いつのまにか巨大触手から突き出た小さい触手を足場にしてニヤニヤと笑っていた。

 

「数日はまず起きないぞ。これで勝負ありだ」

 

 邪悪な笑みを浮かべたまま勝利を宣言する。

 確かにレッドスピリット全員とエトランジェ二人が無力化されてしまい、戦力は大幅ダウンだ。

 だが、それだけで勝負ありの宣言は早い。他は全員無傷で残っている。それに文珠は使い切っただろう。もう反則の塊である文珠は警戒しなくてすむ。

 

「しょ、勝負は。ま、まだまだこれからです!!

 

 一人のブルースピリットが巨大触手に怯えながらも勇気を出して剣を構える。

 美少女戦士の気丈な振る舞いに興奮したのか、巨大触手から突き出ていた突起が白濁液が発射した。

 

「きゃ!」

 

 謎の白い液体がまき散らされ、スピリットに降りかかる。必死に避けるが幾人かの手や服に付着した。そこで気づく。手はなんとも無いが服が溶けている。不運にも胸に付着したスピリットなどは下着まで見えていた。

 

「嘘……これって」

 

「わはははははは! 見ての通りだ。見えちゃうぞ~大事な所が見えちまうぞ~~!!」

 

「や、やああ」

 

 何ともいやらしい白濁液の効果にスピリット達はもう涙目だ。

 光陰達は配下のスピリット達にしっかりと倫理観等の教育を施していた。羞恥心は人並みかそれ以上にある。

 巨大触手と変態のタッグにスピリット達の士気は見る見る下がっていく。

 

 それでも隊長であるシロと光陰は目ざとく触手の異常性に気づいた。

 あの巨体を持っておきながら、服を溶かす特殊能力まである。これはありえない。

 すべては有限だ。これだけの質量を構築するマナなど、国家が保有するレベルのマナが必要なはず。それに特殊能力の付加など、一体どれだけのマナがあれば可能だというのか。いくら何でもこれは異常すぎる。

 

「シロちゃん、正体を確かめるぞ。弓であの触手を撃ってくれ」

 

「承知!」

 

 『銀狼』を刀から弓に変化させる。

 全長二メートルを超える大きめな弓だ。形状は和弓に酷似している。

 矢を番える動作をしながら意識を集中すると、オーラが矢の形となって弓引くこと出来るようになるのだ。

 シロは光の矢を放つ。矢は触手に当たると、何の抵抗も無く触手を貫いていった。

 

「やはりそういう事でござるか! やられたでござる!!」

 

 この超弩級触手は完全に見掛け倒しだ。とにかく装甲が薄い。そして軽い。中身は空気同然だ。押しつぶしなども出来ないだろう。簡単に言えば、この触手は風船みたいなものだ。

 少し考えれば当然だった。こんな大きすぎる巨体が見かけ通りの質量だったなら、自重でとっくに潰れているはずなのだ。触手の先端部分が大きいのは、男性のアレを模したというよりも大気圧の差で膨れ上がっていると考えたほうが良い。

 

 移動能力も無い。攻撃能力も無い。

 おおよそ全てのマナを巨体と服を溶かす液体にだけ注ぎ込んで作られたのだ。

 

 はったりとエロ。

 

 この巨大触手はそれだけしかできない。

 それだけにリソースを注ぎ込んだからこその、この巨体。張子の虎ならぬ張子の触手。

 敵の実態は知れた。知れたからこそ、理解した、

 

 これは倒しようがない。あまりにも巨大すぎるのだ。

 これを吹き飛ばすのはレッドスピリットの広範囲攻撃が必要不可欠。横島もそれを理解していたからこそ、文珠を大盤振る舞いしてでも広範囲攻撃持ちを根こそぎ無力化したのだ。

 剣で切り殺すなんて、それこそ山をスコップで平らにするような労力が必要となる。

 

 となると残された手は術者である横島を倒すしかないのだが。

 

「わははは! どうしたどうした、こっちにこないのかー」

 

 横島は巨大触手の上で跳ね回っている。

 粘液のジャングルジムといえる触手タワーで横島を捕まえるのは困難を極めるだろう。

 

「どうする、シロちゃん。いっそ、横島を無視して進軍する手もあるが」

 

「これを後方に置いておきたくないでござるな。それにタマモ達がいつ目覚めるかも分からぬし」

 

 最良の戦術は一旦後退すること。

 この触手をずっと維持することはできないだろうし、数日もすればレッドスピリットも目覚める。そうすれば弱点の分かりきった触手は簡単に焼き払えるだろう。

 それに文珠を使い切らせたのも大きい。

 

 だが、それは出来ない。今回がラストチャンスなのだ。

 シロ達が後退すればマロリガンは完全に降伏するだろう。ゲームオーバーだ。横島もそれが分かっているからこそ、追い返そうとしているだから。

 ここで横島を殺す以外に道は残されていない。

 

「皆の者、聞くでござる! 拙者達は女である前に戦士でござる。手弱女の如く恥辱で剣を捨てるなど、それこそ恥と思わんか!

 どうしても恥が許せないのであれば、横島の死を持って恥をそそげば良いでござろう!」

 

 シロの激励にスピリット達ははっとした。

 

 恥など一時の事。

 女のプライドで敗北するような事があったら、それこそ戦士としての恥だ。

 

 裸は一時の恥。

 殺さぬは、一生の恥。

 隊長であるシロの意思は伝播していく。

 

 そうだ。この程度の辱めをいくら受けようと、死ぬことは無い。

 それにいくら見られようと、見た当人はここで殺すのだ。恥など殺してそそげば良い。

 

 スピリット達は戦意を取り戻して剣を構えなおす。

 手で隠していた素肌が、横島の眼前に晒された。

 偶然か、あるいは横島の意思か。発育が良いスピリットほど衣服が溶けている割合が多い。

 

 ――――横島を殺して、この恥辱に塗れた記憶を永遠に消してやる。

 

 全員が覚悟を決めて触手タワーに挑もうとする。

 だが、横島はシロが考えてたよりも悪辣で、そして容赦がなかった。

 

 パシャパシャパシャ!

 

 乾いた音が砂漠に響いた。

 いつのまにか、横島は小さい機械を持っていて。ボタンをせわしなく押している。

 機械から薄っぺらい正方形の紙切れが出てきた。

 

 出てきた紙を見てにやりと笑って、紙をスピリット達に投げつける。

 スピリット達は紙に描かれた絵を見て悲鳴を上げた。

 

「君たちの姿はここに永遠に残るだろう! 世界初、スピリットの春画として!!」

 

「いやあああ!!」

 

 一時の恥だから我慢しようとしたのだ。

 記録に残り、しかも全国にばら撒かれるかもしれないとあっては、とても平静を保ってはいられなかった。

 まあ、流石の横島もばら撒くのは酷すぎるのでブラフであったのだが、それはスピリット達には分からない。

 

 またもやスピリット達は手で体を隠し始める。

 駆け引きでは横島のほうが一歩も二歩も上だった。

 

 戦士の決意を羞恥で打ち壊され、シロは歯を食いしばりながら横島を睨んだ。

 確かに横島はエロい。それはシロも知っていたが、ここまでするとは思ってもいなかった。

 

「横島殿! 一体なにがあったでござる! 確かに変態な所は沢山あったけど、ここまで酷い変態ではなかったはずですでござる!」

 

「ふん、甘いわ馬鹿弟子が! 男はみんな変態なんだよ!」

 

「それが少年誌主人公がやる事でござるか!!」

 

「俺がいつまでも同じところにいると思ってんのか。んな少年誌マインドは忘れたさ」

 

 口角を思い切り上げて横島は笑う。それはただのエロ少年が作れる笑みではない凄絶なものだった。

 彼は理不尽に殺されていくスピリット達の絶望にどうやって抗うかを模索し、自分の最高の力を発揮するしかないと考えたのだ。

 

 横島忠夫が発揮できる最高の力とは何か。

 それは悪知恵でも霊力でもない。その程度なら元の世界にいくらでも上はいた。

 横島忠夫が世界にも誇れるもの。

 

 それはエロだ。エロしかない。

 

 エロの力を高めるべく、横島はマロリガン侵攻の情報がもたらされてからの三週間。一度も自分を慰めなかった。可愛いお姉さんが胸を揺らそうと、決して触れも見もしない。

 夜はハイペリアから持ってきたエロ本を読んで、何もしないで眠る。悶々としたまま朝を向え、美人の集団と団欒する。どれだけセリア達をむしゃぶりつくしたいのを我慢した事か。

 その溜めに溜めた煩悩。その全てを放出して理不尽な世界に相対しようというのだ。

 

「馬鹿弟子。お前の殺意も絶望も、俺が打ち壊してやる」

 

「せん……横島殿……」

 

 横島の絶望に抗う意思に強さにシロは戦慄する。

 それは正に運命に立ち向かおうとするヒーローのそのものの姿といえた。

 

 ―――――――――――――――その表情が、だらしなく緩んでさえいなければ。

 

「だから、スケベしようやあ!!」

 

「結局はセクハラでござるか~!」

 

 どれだけ大層な事をのたまおうと、その為にやる行動はセクハラでしかない。

 スピリット達の絶叫と共に横島の魔手が動き出す。横島の手に握られた触手マシンガンが白濁を噴いて、スピリット達の体に命中する。ダメージは皆無だが、しかし服はドロドロと溶けていく。

 

「横島殿の力は煩悩でござる! 皆、大事な所は隠すでござる」

 

 シロの呼び掛けで衣服を溶かされたスピリット達が局部を隠した。例え全裸になろうとも、手と足でガードすれば最低限は隠せる。

 煩悩さえ消せれば横島の力は落ちる。その隙を突けばよい。シロはそう考えた。

 しかし、横島の煩悩は止まらない。ええぞええぞ、とテンションがますます上がって煩悩と霊力が上昇していく。

 

「霊力が回復してる? 一体どういう事でござるか!?」

 

「ふん、愚かなり馬鹿弟子が! ただチチシリフトモモが見えただけではエッチィではないのだ。そこに女の子の羞恥があって、初めてエロスは生まれる」

 

 横島は力説するが、シロもスピリット達も意味が分からずポカンとするだけだ。

 唯一、光陰だけはうんうんと頷いていたが。

 

「くっ! ならば皆、大事な所をおっぴろげるでござる!!」

 

「絶対に嫌です!!」

 

 当然、却下される。

 触手の巨大さとエロさで士気は壊滅的だ

 困り果てたシロは横にいる坊主頭を揺さぶった。

 

「光陰殿、呆けてないで何か対策してくだされ! このような状況で一番頼りになるのは光陰殿でござる!」

 

「そりゃ分かるんだけど……どうしたもんか」

 

 これでシロよりもずっと戦況を考え、冷静に触手を観察していた光陰はもう理解していた。

 横島の打倒は理屈の上では可能だが、現実的には不可能であると。

 

 強力な範囲遠距離攻撃を備えたタマモやレッドスピリット達が眠った今、巨大触手を破壊するのは不可能。だとすれば横島を直接討ち果たすしかないのだが、それには蠢く触手タワーの中で横島と追いかけっこする羽目になる。

 自分では間違いなく横島に追いすがることはできない。ゴキブリの如き逃げ足に捉えるのは困難であるし、なんとこの巨大触手は姿を少しずつ変えているのだ。地の利は完全にあちらにある。

 それでも、全員で追い続ければ時間は掛かるが横島を捕まえられるだろう。何せ敵は攻撃してこないのだ。

 追い続けることが出来れば、であるが。

 

「なあ、シロちゃん、それに皆。あの触手タワーで追いかけっこできるか」

 

 スピリット達は改めて超弩級触手を見た。

 巨大触手の表皮からはでろんと怪しげな突起が突き出ている。しかも、微妙にピクピク動いていたりもする。突起はぬらぬらとした液体に覆われているように見えた。

 飛び回れば、間違いなく素っ裸になる。万が一にも転んだら、繊細な触手ブラシで全身を洗われるだろう。

 さらにその光景をカメラで撮られてしまうのだ。

 

「無理です!」

 

「だよな」

 

 当然の答えだった。

 命令で無理やり言うことを聞かせることも出来るが、それでは間違いなく力を発揮できないし、羞恥に塗れたスピリット達の動きは横島のご馳走だ。

 

 こんな事なら稲妻部隊以外のスピリットも少しでいいから連れてくるべきだった。

 もしも一般的な心を失ったスピリット達だったら、こうはならなかっただろう。

 心が無ければ裸でも問題ないし、横島はただ綺麗なだけの肉人形には興味は無い。むしろ、同情して力が弱まったかもしれない。

 まあ、それをしたのなら横島も別な対策を考えただろうが。

 

 根本的にシロ達は全ての情報を握られているというのが痛すぎた。砂漠の行軍により疲れがピークに達していたのも大きい。

 そうこうしている間にも触手は白濁液を振りまき続け、小さい触手がスピリットに飛び掛る。

 もうスピリットの大半が下着まで見えていて、一部は大切なところまでピンチな者もいる。いよいよ15禁の領域に突入し始めていた。

 

「や、やぁ! ダメですコウイン隊長……見ないで」

 

 とうとう、光陰の副官であるクォーリン・グリーンスピリットも白濁液を身に浴びてしまった。

 服がドロドロと溶け始めて豊かな胸が露わになり始める。

 光陰はさっと上着を脱ぐとクォーリンに羽織らせる。その紳士的な振る舞いに、クォーリンの頬が赤く染まった。

 

「安心しろ、クォーリン! 俺は小っちゃいのが好きで、巨乳には興味なブボボゥ!!」

 

 表情を消したクォーリンの拳が光陰の鼻の下に突き刺さる。

 ばったりと倒れる光陰。最高戦力が仲間の突っ込みで脱落だ。シロは思わず空を仰ぐ。

 悲壮な世界観がギャグで塗りつぶされていく。

 

「わはははははは!! チチ、シリ、フトモモの楽園だーー!!」

 

「や、や、やめてええ! 胸が見えちゃうって!!」

 

「ひゃあ! ヌルヌルの触手が絡みついてくるよーー!!」

 

「うわぁ~ん! もう嫌~~!!」

 

 大空からは白濁の雨。

 地上には淫欲の触手。

 

 鍛え上げた剣術も、磨き上げた魔法も、何ら意味を成さない。戦士の心意気を、全ていやらしさで封殺しようとしてくる。

 外道かと、シロは横島を本気で軽蔑したが、そこで横になって眠り続けているタマモの姿がシロの目に映った。タマモ達は無事だ。衣服も完全で触手もすり寄っていかない。寝ている相手をどうこうしようとはしていなかった。

 

 最悪の変態でも外道にはなり切っていなかった。当然だ。この変態行為は間違いなく横島の趣味というか本能だが、それでも自分やタマモのためにやっているのだから。

 本当に自分達を大切に思ってくれている。だからこそ、シロは恐ろしい。

 もしも、やるだけやって助けられなかったら、先生はどうなってしまうのかが。

 

 理不尽な世界を、理不尽なエロで乗り越える。

 

 それが今の横島の思いであり信念。

 その信念が常軌を逸した強さを持つことが分かって、それでもなおシロは確信している。

 タマモを助けるには誰かの命が必要だ。ギャグとエロだけでは世界は変えられない。

 シロには横島がタマモを助けられず、あるいは助けたとしても誰かの命を使用してしまって泣き崩れる未来が見えてしまう。

 

 ――――拙者がどうにかしなくては。

 

 シロの永遠神剣『銀狼』が光を放つ。

 突きの構えのまま、横島に向って無謀ともいえる突撃をする。

 相打ち覚悟の、というよりも相打ちで良いとシロは覚悟していた。

 

「拙者の殺意、受け取れえ!」

 

「だが、おっぱい!」

 

 しかし、おっぱいなのである。

 横島は両手を前に突き出すと手から丸い珠のようなオーラが広がる。

 オーラはプクプクと膨れ上がって『銀狼』を挟み込んだ。これがほんとの神剣白刃取りである。

 

「な、なんで拙者の剣がこんな……どこからこんな力が!?」

 

「どこからだぁ? そんなん……ここからに決まってんだろうが!!」

 

「ひぃあん! 尻尾の付け根はやめるでござるぅ~~!!」

 

「わははは! やはり犬よのう」

 

「犬じゃないでござるーー! 先生のエロ馬鹿--!!」

 

 必殺の一撃を止められ、敏感な部分を容赦無く触られたシロが半べそをかく。

 横島はエロと優しさを足して2で割ったようなエロ優しい顔になる。

 

 この単純な馬鹿弟子が殺意と絶望に染まるなど許せない。

 絶対に助けてやると、セクハラへの決意を新たにする。

 それにせっかく体も心も成長したのだ。成長具合を確かめるのも師匠の務めだろう。

 

「ぐふふふ! あちこちと色々と成長したのぅ」

 

「ぎゃーセクハラーー! セクハラ先生でござるーー! いくら何でも酷すぎるでござる! こんな事をしていたら人気も評価もガタ落ちで、酷評が山ほど来てしまうでござるよ!!」

 

「ふっ! それがどうした。俺はやる! 例え評価が地に落ちようとも、どんな感想がこようとも、俺はヤる!!」

 

「作者が泣くからやめるでござるーー!!」

 

 シロの抗議を受けて、横島はニタリと笑う。

 とうとう、こちら側に墜ちた。

 

 作者に対する自虐ネタにメタフィクション。

 いずれもが彼の極楽世界で起こりうる特徴だ。シリアスであってもボケる。どれだけの悪党でもコケにする。これが出来てこそGS美神大作戦である。

 さらに横島殿から先生へと呼び名が変化した。久しぶりに呼ばれてとても嬉しい。

 

 もはや血と惨劇を引き起こす殺意は消えうせた。

 後に残るは、ギャグとエロの世界のみ。

 

「さあ、15禁の果てに挑戦するぞーー!!」

 

「ひぃぃぃでござる~~!!」

 

 横島の魔の手がシロ達に襲い掛かる。

 もはや横島の暴虐とエロギャグを止めることはできない――――と思われたその時だった。

 

「青のマナよ、荒れ狂う変態を地の淵に沈めよ! エーテルシンク!!」

 

 青き一条の光が横島の足元に突き刺さって、彼の動きを止めた。

 光が来た方向に目を向ける。風にたなびくポニーテールの姿がそこにあった。

 

「ヨコシマ様……これはどういう事です」

 

 信じられないほど冷たい顔をしたセリアが、横島をまるで養豚場にある糞を見るような目で見つめていた。

 周りには第二詰所のメンバーが勢ぞろいしている。殆どが横島を睨みつけていて、ファーレーンは茫然としていた。

 

「何で来たんだよ」

 

 待機命令が出ていたはずだ。

 

「緊急時には市民を守るため、独自の判断を許されていますから。その巨大な黒い棒……のようなものが町からでも確認できました。お陰で市民はパニック。第一詰め所は都市の防備に、私達は市民のため諸悪の根源を潰しに来ました」

 

 あくまでも命令を無視したわけでないと、セリア達は主張する。

 

「何で来たんだよ」

 

「だからそれは説明したとおり」

 

「何で来たんだよ」

 

 同じ言葉を繰り返す横島。

 凄まじい威圧感が、圧倒的な感情の渦が、セリア達に放たれる。

 何かが可笑しいとセリア達は神剣を握り締めて、横島に対して身構えた。

 

 どうして横島がこの戦場にスピリット達を連れずに一人で戦ったのか。

 理由は大きく分けて二つだ。

 

 まずそもそも横島はまともに戦闘する意思は無かったから、第二詰め所を連れて来る必要性が無かった事。

 もう一つが、第二詰め所が傍にいたら我慢できそうになかったからだ。

 

 何といっても第二詰所は横島の本命なのだ。

 欲望を全て解放した横島にとっては、躾のなっていない犬にお預けを命じるようなもの。

 

 ――――もう我慢できない。食べちゃおう。

 

 ゴクリと生唾を飲み込みながら、ゆらりゆらりとセリア達に手を伸ばす。

 

 やばいやばいやばやばいやばいやばい!

 セリア達は横島を糾弾するのも忘れて、思わず後ずさる。まるで熊に遭遇した人間のように、刺激しないようにそろりそろりと後退した。

 だが、ここに愚かなスピリットが一人いた。

 ファーレーン・ブラックスピリットだ。誰よりも横島を勘違いしていた彼女は、未だに現実を認めていなかった。

 

「よ、ヨコシマ様? これは何かの冗談ですよね? 何かの間違いなんですよね?」

 

 半裸に剥かれて、恥辱に染まった稲妻部隊の面々の光景を嘘だとファーレーンは思った。

 ヨコシマ様は優しくて、強くて、格好良くて、まるで絵本の中から飛び出してきた王子様。

 

 それがファーレーンにとっての横島像。

 ヒミカ等にエッチな悪戯をするのを目撃はしていたが、その光景にはエロティシズムの欠片も無く漫談にしか見えなかった。

 

 こんなエッチな事を、私のヨコシマ様がするわけない。

 そんなファーレーンの信頼は、

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ! ファーレーンさんーー!!!!」

 

 涎を流し、思い切り胸を揉みしだいてきた横島によって完全に粉砕された。

 

「きゃああ! ダメです……こんな、ぁぁ、んんんああ!」

 

「おお、何かすげえ敏感だな! エロ可愛いぞファーレーーーーーーン!!」

 

「い、ぃ、い、いやあああああああああああ!!」

 

 全身をこねくり回されて、ファーレンは絶叫する。

 憧れの横島像はここに粉砕されてしまった。

 

 普段の横島ならセクハラをしても悲鳴を上げれば流石にそれ以上はしない。殴りかかられれば、抵抗もせずに殴られる。だが、今は違う。

 有害図書に指定されかねないヤングなパワーを横島は獲得してしまったのだ。

 気を失うか本気で泣かれない限り、横島はセクハラを止める事は無いだろう。

 

「お姉ちゃんに手を出すなーー!!」

 

 ファーレーンの悲鳴に、妹であるニムントールが立ち上がった。

 ハルバート型の永遠神剣第八位『曙光』を振り回して横島に立ち向かう。

 

「うう、ネリー達もニムに続くよ」

「えー」

「私もですか~」

 

 友の助けになるべく子供達が横島に挑む。

 横島は荒くエロイ呼吸をしているファーレーンを名残惜しそうに地面に横たえ、身構える。

 

「ええい、ちょこざいな! 食らうがよい、サイキックオーラロープだ!!」

 

 霊力とオーラを合わせた強靭無比なロープが子供達を襲う。

 ネリー達は必死に抵抗したが、あえなく四人纏めてグルグルに巻きつかれて動きを止められてしまった。

 

「クックックッ、動けまい! さあ、お前らは――――」

 

 横島の手が拘束された子供達に伸びる。

 ビクリと子供達の体が反応した。

 

「わ、わ、わ! ヨコシマ様!? ちょっとタイムタイム!!」

 

「う~シアーはまだ心の準備が」

 

「ふえ~ん! ヨコシマ様、正気に戻ってください~!」

 

「へ、変なとこ触っちゃダメ!」

 

 子供達は顔を真っ赤にして騒ぎ出す。それは紛れもなく恥じらいの表情だ。

 ハリオン達から手ほどきを受けた彼女達は、若き妄想で体を火照らせくねらせる。

 僅かながらに色気を感じた横島は驚いて手を引っ込めたが、彼女達の体をじろじろ見てほっとしたような溜息をついた。

 

「ガキはいらんのじゃああーー!!」

 

「ぎゃあああああああああーー!!」

 

 思いっきり空へ投げ飛ばした。

 子供達は色気もクソもない悲鳴を上げながら、昔のアニメのように空でキランとお星様になる。

 これで子供達は完全に退場だ。

 

 ガキ共は置いてきた。

 修行(性教育)はしたが、ハッキリ言ってこの戦い(15禁)にはついてこれない。

 

 まあ、そういうわけだ。

 

 今度こそセリア達とイチャイチャしようと横島が大人達に目を戻すと、彼女達は神剣を振りかざし戦っていた。

 

「な、なんなのこの気持ち悪い生物はーー!!」

 

「ぬとぬとですね~」

 

 ミニ触手達がセリア達に飛び掛っている。

 その勢いは先ほどのマロリガン部隊の比ではない。

 横島の顔が怒りに染まる。

 

「お前らはモブと戯れてやがれ!!」

 

 ハリオンに襲い掛かろうとしていた触手を稲妻部隊の方に蹴り飛ばす。

 触手はギュビーと不満そうな声を何処からか出した。

 

「うっさい! 触手如きが俺のヒロイン達に手を出すんじゃねえ! お前達はモブキャラの稲妻部隊と戯れてろよ……なに、お前らも脇役じゃなくてヒロインが良いだと!? 気持ちは分かるけど贅沢言ってんじゃねえ!!」

 

 触手達と意見をぶつけあう。

 現実離れした光景にセリア達は頭痛で倒れこみそうだった。

 

 それ所ではないのが、稲妻部隊のスピリット達だ。 

 今まで散々楽しそうにエロい悪戯を仕掛けておきながら、脇役はいらんと袖にされたわけだ。しかも触手にまで。女としてのプライドはもうボロボロだ。

 未だかつて無い怒りが稲妻部隊を襲った。

 この男をボコボコにするためなら何だってやってやると心に決める。

 

「ラキオスのスピリット達ー! 聞いて、この触手を倒すにはレッドスピリットの――――」

 

「えーい、じゃかあしいわ! やれ、ミドオルガズム!!」

 

「きゃあああ!!」

 

 まずは超巨大触手を倒すべく、協力すべきと一人のマロリガンスピリットが弱点を教えようとしたが、それは横島が白濁液を触手に出させて阻止する。

 

 だが、それだけで十分だった。

 ヒミカとナナルゥは魔法の詠唱を開始する。

 これはやばいと、血相を変えた横島が触手に大量の白濁液をヒミカ達にぶっかけるよう命令する。

 ドビュルルル、と滝のような白濁液がヒミカ達に襲い掛かった。二人は魔法の詠唱で避けようがない。しかし、二人の詠唱を守ろうとマロリガンスピリット達は動く。

 

「させません……あ、んんあ!」

 

 白濁液からヒミカとナナルゥを庇ったマロリガンのスピリットが身もだえながら裸になっていく。

 身を挺して守ってくれたのだ。その意思には応えなければならない。

 

「永遠神剣の主が命じる。マナよ、炎のつぶてとなり、全てを焼き払え!」

「フレイムシャワー!」

 

 ヒミカとナナルゥが赤の魔法を唱えた。

 空に巨大な魔方陣がいくつも生まれ、そこから火のつぶてが落ちてくる。

 フレイムシャワーは効果範囲こそ非常に広いが、威力は非常に低い神剣魔法だ。

 ランク的は習得しやすい下級魔法に属する。だから使用できる回数も非常に多い。

 その下級魔法が、エトランジェを含む精鋭スピリット隊を圧倒した触手を焼いていく。

 

 巨大な山のような触手だったが、しかしその防御力は貧弱そのもの。

 炎の雨に打たれて、触手は見る見る溶けていく。

 

 スピリット達をあれだけ苦しめた弩級触手は、下級魔法の数発で粉砕された。それだけ触手の能力は歪だったのだ。

 触手はドロドロと溶けて、とうとう一軒家程度の大きさの粘液となって動かなくなる。

 横島も炎と粘液の中に消え去っていった。

 

「勝った! 私達は勝ったのよ!!」

 

「二人は私達の英雄ね!」

 

 ラキオスのスピリットもマロリガンのスピリットも手を叩いて喜び合った。

 一番の功労者であるヒミカとナナルゥは賞賛を浴びる。

 エロの暴虐を討ち果たし貞操を守れた。まあ、元々15禁が限度なので貞操が破られる心配は皆無であったのだが。

 

「さあ、これでようやく戦闘開始でござる! ラキオスを屠るでござる!!」

 

 下着のみとなったシロが、神剣を天に突き出して宣言した。

 しれっとした空気がその場に流れる。この状況で殺し合いを始めようというのか。ラキオスのスピリット達は極悪エロ触手を共に倒した戦友なのである。それに雌雄を決する戦いを白濁でベトベトになった半裸と全裸が入り乱れて戦うなんて最悪の絵だ。

 

「シロ隊長……もう少し空気を読んだ方が」

 

 スピリットの一人が言った。他のスピリットも頷きあう。

 横島が作り出したエロギャグの空間に染まったスピリット達。

 その光景にシロは苦虫を噛み潰したような顔となった。

 

 シロだけは、まだギャグの海に沈んではいなかった。シロは考える。

 先生を殺す覚悟も、殺される覚悟もそんな簡単に出来たものではない。

 そう簡単にギャグで脳味噌を侵食されて堪るものか。

 こうなったら仕方がない。一人殺せば皆の目は覚めるだろう。

 シロは『銀狼』を構えなおした。

 

 流石にラキオススピリット隊の顔色が変わる。シロが本気と分かったらしい。

 慌てて神剣を構えようとしたが、遅い。

 

「さあ、死んでもらうでござ……るうぅぅぅぅぅぅーーー!?」

 

 るうぅぅぅぅぅぅ、とドップラー効果を起こしながらシロは空中に巻き上げられた。

 シロの足にゼリー状の、スライムのようなものが伸びて足首を捉えていた。シロは慌てて宙吊りの元凶となった足首に巻きつくスライムを切りつけるが、いくら切っても瞬時に再生して振りほどくことが出来ない。

 目を白黒させるシロだったが、彼女の目にあるものが飛び込んでくる。

 

 巨大なスライムが眼下にあった。

 

 溶けた触手の残骸と思われた白濁の粘液が、まるでスライムのように躍動してた。

 スライムの中にはすっぽんぽんの横島がいた。上半身だけがスライムから飛び出ていて、下半身は埋まっている。

 シロを見る横島の表情には苦々しく、悲しげなものが僅かに浮かんでいた。

 だがそれは一瞬のこと。すぐにエロエロしい表情に切り替わる。シロの額には大粒の汗が浮かんだ。

 

「先生……一ついいでござるか」

 

「ん、なんだ」

 

「拙者、飛べないのでござる」

 

 横島は笑った。

 シロも笑った。

 するりとシロの足首を捉えていたスライムが外れる。シロは半泣きでスライムに落下する。

 

 ドプンという粘着的な音ともに、シロはスライムの体内に取り込まれた。

 瞬く間に残されていたシロの服は溶けていく。あっさりと全裸になるが、それだけではすまない。

 

「あぅ……ッッ! し、振動が!? きゃん……ぅぅぅっああ! う、動かないでぇぇ」

 

 スライムの体液には服を溶かすだけでなく、媚薬効果もある。誰もが知る当然の常識だ。

 無論、スライムらしくブルブルと振動する事でマッサージ効果もあり、ゲル状なのを利用して普通は揉めない所も揉める。

 スライム風呂とは最高のマッサージチェアそのものであった。

 

 砂漠にシロの嬌声が響き渡る。

 殆どのスピリットは顔を青くして、またあるものは普段凛々しいシロの淫らな声に鼻血を流す。

 

 少しして、ぺっと唾を吐き出すようにシロがスライムから吐き出された。

 

「あふぇえ……」

 

 この戦場で誰よりも戦意と殺意に満ちていた犬塚シロのあふぇえ顔であった。

 

 横島も流石にやりすぎたかという顔をしたが、まあいいかと軽く頭を切り替える。

 

「さて、それじゃあ……始めるか!!」

 

「ひいいぃぃ!」

 

「これが第二形態だ。ここからが本番だぞ!」

 

「そんな……まだ本気じゃなかったなんて」

 

 ずりずりとスライムが迫ってくる。頼りになるエトランジェはもう居なかった。

 かつて無い危機が身に迫っているのを感じたスピリット達は、生き残るために友情もプライドも放棄した。

 

「ほ、ほら! 本命は第二詰め所なんでしょ! 私達なんて所詮モブですから~」

 

「貴女達!? 一緒に戦ってくれるんじゃなかったの!?」

 

「自分達の隊長なら責任持って処理しなさいよ!!」

 

「うるさい! そもそも貴女達が攻めてこなければこんな惨事にはならなかったのよ!!」

 

 まるで貧乏神の擦り付け合いである。

 必死なスピリット達を前にして、横島は大仏のような笑顔を浮かべる

 

「皆、安心してくれ」

 

「え?」

 

「俺は両手に花が好みなのだ! さあ、スピリット達よ、俺のスライム風呂に招待してやるぜ!」

 

「う~ん、大変な事になってしまいましたね~」

 

「うわーーん! 魔法も剣も効かないよーーーー!!」

 

「ラキオスのエトランジェは化け物だーー!!」

 

「ラキオスは変態国家だーー!!」

 

「あの人が特別なだけよーー!! いやああああ!!」

 

 砂漠に女達の嬌声が響き渡る。

 

 

 一時間後。

 エロスライムはスピリット達にエロスを振りまき続けた。ついにパンツの一つすら残さない不毛の荒野に、いや色取り取りの草は生い茂っていたりもするのだが、それはともかく。

 苦し紛れに唱えたブラックスピリットの弱体化魔法を受けて、スライムはあっさりと四散した。やはり弱点はあったらしい。

 力を使い果たした横島はラキオス、マロリガンの双方のスピリットからぼこぼこされ、地中深く埋められて封印された。

 

 こうして第三次マロリガン戦は終わった。

 

 ラキオス、マロリガン双方において、この戦についての詳細情報は後世に伝わっていない。

 関係者各位が、一様に口を閉ざしたからだ。

 ほぼ全員が素っ裸で帰国したという事で想像を超える激戦があったと推測されるが、誰一人として死亡者どころか怪我すらしていないという奇怪な事態に、真実を知ろうとしたものは悩まされる事となる。

 

 まあ、それでも、誰もが分かった。

 ああ、また横島が馬鹿をやったんだなと。

 

 




 いやあ、女戦士を触手やスライムで辱めて無力化するのはダークファンタジーのお約束ですよね。え、違う?

 今回は読者さん達にどう思われるか中々怖いです。投稿するのも躊躇しました。手ぬるいと思われるか、やりすぎと思われるか。ゲームやりながらだとこの程度のエロで世界観を壊せないかもと手ぬるく感じるし、GS美神を読みながらだと横島がやりすぎな気もするし……クロスオーバーは本当にバランスが難しい。忌憚のない評価や感想お願いします。

 もう全部エロパワーでいけるやん、と思われそうですが、本編でも言っている通りよほど状況に恵まれない限り煩悩パワーだけで勝利はできません。
 今回のギャグ勝利は、シロ達の情報が筒抜けであり、大量の文珠と数週間の準備期間でオナ禁できたからこその勝利。ここまでやれば世界観をひっくり返せたりします。
 決して無常な世界観や理不尽神剣パワーに横島は無力じゃないのです。

 この流れから次話でヒロイン決定。まずはIFルートから。

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