インフィニット・ストラトス TS少女の過ごし方 作:kaitolian
これからは多分不定期更新になると思います。
アリーナの地上付近。
ガンッ
巨大な青竜刀と同じく巨大な腕がぶつかり合う音が響き渡る。
十分に威力と速さが乗りある程度精密性も兼ね備えた上段からの振り下ろしと巨大ながらも精密性を備えた下方からのアッパーが衝突する。
数瞬の均衡の後、青竜刀が押し負け鈴が上に弾かれる。
「くっ、どんな力してんのよ!?」
スラスターを使い吹き飛ばされるのは回避し、衝撃砲を放つことにより追撃を防ぐ。
「うおおおお!」
交代するように一夏が黒いISに攻撃の暇を与えずに突撃を仕掛ける。
しかし攻撃に集中しきれていない踏み込みの甘い一撃は無人機に紙一重で避けられる。
そうして互いに決定打を与えられないまま時間のみが過ぎてゆく。
♦ ♦♦♦
第二アリーナの状況がモニターに映し出されている。
そこにあるのは………沈黙。
勿論、選抜された生徒と教師がシステムへの介入を試みるが先程までと次元が違うシステムに一向に手出しができずにいる。
また、他のISを投入するとなると装備の入れ替え、エネルギーの補給、その他調整など一応作業は行ってはいるがどんなに最速でも15分が必要となり遅すぎる。
それに加えてアリーナと観客席を隔てるシールドがなくなったのに対して他のシールドは変わらず張られ続ている。
端的に言って絶望的であった。
「………織村先生、わたくしに出撃許可を下さいまし。」
セシリアが
「先程言っただろう、出来ん。集団戦闘の訓練を積んでないものは邪魔だ。」
千冬の言っていることは正しい。
この状況で集団戦闘の訓練を積んでいないものを投入するなどいつ、どこから、なにが起こるかわからなくなり敵が1人増えることに等しくそんなことをすれば今この時も成立している均衡が崩れ、守りが破られ、少なくない犠牲者が出るだろう。
そうなのだが……
「わたくしに出来なくても他に集団戦闘の訓練を積んだものがいれば問題ないです。」
「なに? どういう意味だ?」
「昨日本国から試験的に送られてきたこの を装着すれば有効範囲が短距離でISの補助なしで計算しないといけませんがブルー・ティアーズのビットを介入操作できます。
これを集団戦闘の訓練を積んだものが使えば本来の稼働率よりは落ちますがわたくしでも集団戦闘を行うことが出来ます。」
それはクラス代表決定戦の際にISと共に行った演算の補助によるBTシステム内のコンビネーションという事例に注目し製造されたものだ。
BTシステム特有の重みと言える量が多い計算やらなんやらを他人が行うことにより性能を発揮するという代物だ。
試作品第1号ゆえに様々な制限が付き、また2日前に届いたばかりなので簡単な動作確認のみしか行っておらず、拡張領域にそのまましまっていたものだ。
「ふむ、当てはあるのか?」
「うっ。そ、それは…… さ、探します。」
「では前回のように倒れない保証は?
それにクラス代表戦時の動き、今この状況で行えるのか?
加えて遮断シールドはレベル3でも専用機でさえ1割残るか否かだ、ましてやレベル4だぞ?」
「……」
セシリアはなにも言わなかった、いや言えなかった。
千冬が指摘した点は全て起こり得ることであり懸念すべきことであり事実であった。
あれから訓練を行ったけれども以前よりは良くなったがあの時のような一体感は無い。
あの時の再現ができても前回を振り返り今の状況でシュミレーションしてどんなに頑張ろうと3分が限度。
戦闘を行うことを考慮すると、残り1割のエネルギーなんて2度シールドバリアーが発動したらおそらくその場で即座に敗北だ。
「それ、でも…。それでもっ」
「………」
「………」
無言でセシリアと千冬が睨み合う。
千冬が考え込むように目をつぶる。
―どちらにしろジリ貧 なら
そう、このままではどちらにしろ確実に大きな被害が出るのだ。
ならば、たとえほとんどの確率で状況が悪くなろうとも可能性がある選択肢があるなら答えは決まっている。
―それにいざとなったら―――
「はぁ……。 わかった、許可する。
だが、そこまで言ったのだから勝て、誰も墜とすな、お前も墜ちるな!」
「織村先生!」
「返事はどうした?」
「は、はい!」
そして待っていたと言わんばかりに教師の1人が声を上げる。
「検索終了しました。IS戦を考慮した集団訓練を修了した者、該当4名。その中でアリーナ内にいる者、該当3名。シャッターが開いている付近にいる者、該当1名。1年1組所属アメリカ代表候補生イリナ・ロペス。
また他の全ての作業を無視すれば1瞬に限りレベル3にすることが可能です。」
その報告と共に今まで停滞しかけていた室内が一斉に動き出す。
「ああ、ままならないなあ」
セシリアが出て行きもう見守ることしかできない中、千冬の呟きがむなしく響いた。
♦ ♦♦♦
俺には能力がある。
転生前に獲得したと思われる能力がある。
広い眼で見れば誰でも本来持っている能力がある。
人は普段、心臓の鼓動は調節出来ない
―心臓はしゃべるときも、食べるときも、寝ているときも、どんなときでも、一定のペースで動かなければならないから
人は普段、出せる力を制限している
―人の体は案外脆く、その体で出せる全力の機能を使用すると器が1時間と耐え切れずに自壊してしまうから
人は普段、驚くほど五感が鈍い
―情報が多すぎたら人の脳はパンクしてしまうから
その能力は1言で言ってしまえば限界突破。
さらに言えば身体操作と身体強化。
よく聞くように割と一般的な能力だ。
不動の頂点と言われる又は言われた人たちがほとんどの割合で持っているように、
火事場の馬鹿力として一時的に使えるように、
狂気にのまれて個人の性能が格段にいきなり上昇するように、
人生に1度、発現するかしない能力。
つまり、大抵の人々が何の努力もせずに1部分は発現できる程度の能力だ。
そうは言っても使える人々が多い=弱いという訳では全くなく、寧ろ使いこなせると持っているだけで理不尽なほど強くなれる。
加えて俺の場合は(他に使える人々がどうであるかは知らないが)限界の解放の他に身体機能の細かい部分の調整ができ、限界突破という名の自壊とは汎用性が圧倒的に異なるのだが…。
ここまで長々と説明したが、なぜいきなり解説し始めたのかだって?
そりゃ、目の前のシャッターが開いて派手にドンパチやってるのが特等席から観られるんだぜ?
自分の手札を確認するのは基本だろう、などと中二病っぽく言ってみる。
戦うか?
………。
無理だ、逃げよう。
などと現実逃避していると、
「時間がないので手短にお聞きしますわ。
嫌なら断ってくれても構いません。決して責めたりなど致しません。
イリナさん、わたくしにあなたの命、預けて下さいまし。」
まあよくわからないが、俺に力を貸してほしいらしい。ついでに命もだ。
ここで断り、これから後悔し続ける未来が欲しいのか?
―勝てるかどうかわからない、もしかしたら無駄に死ぬかもしれない
ここで踏み止まり、全てが終わるまで後ろから見て終わっていいのかよ?
―俺が何もしなくても勝利するかもしれないし、むしろ邪魔になるかもしれない
ここで力を出し惜しみ、恐怖という名の鎖に押さえつけられる力であるべきなのかよ?
―おそらく逃げに徹したらたとえ味方のISが墜ちてもやり過ごすことができる
そうして思考が堂々巡りに入った時―――
古ぼけた映画のようなモノクロの映像が浮かび上がった。
親子であろう3人がリビングに集まっている。
『――――、―――――。』
懐かしい声が聞こえた。
『―――――。――――!』
ほとんどの音がかすれて聞こえない中で、その声だけが聞こえた。
『海斗、泣いている子がいたら助けなきゃダメじゃない。』
なんと自分は答えたのだろうか、全く覚えていない。
しかしなんと答えたかはすぐにわかった。
相変わらず聞こえないが父さんと母さんが嬉しそうにしていたから。
『勿論泣きそうな子もだぞ。』
最後の返答だけははっきりと耳に届いた。
『うん、わかったよ!』
もう忘れていた記憶を思い出した。
大切な、今の俺にはもう届かない、俺を形作ったとも言える大切な思い出を。
もう1度しっかりとセシリアをちゃんと見る。
遮断シールドを無理に突破したのであろう―――
―――機体が既にボロボロだ
断られるのが不安なのであろう―――
―――瞳がせわしなく動いている
これからの戦いが怖いのであろう―――
―――体が少し震えている
皆を救いたいがために多少の無茶をしたのだろう。
そんな女の子が俺に助けを求めている。
未来に怯えて、希望から逃げて、力を隠し、友達を見捨て、この場をやり過ごす。
それで本当にいいのか?
気持ちを静め、周りの雰囲気や雑念を切り離し、ただ己の意志にのみ問いかける。
―いいわけねえよ
ここで逃げたら総てが終わる、そう直観した。
そして俺は終わるためにIS学園に来た訳ではない。
ならば、やることは決まっている。
心臓の鼓動を壊れないぎりぎり限界まで加速させる。
カムフラージュのため、米軍が開発した一時的に身体機能を底上げする液体の薬『E―TSD27γ』を腕に注射する。
体内を血液が素早く巡ることにより褐色肌が赤くなる。体温が上がる。汗が気化する。
体内に集中するために閉じていた瞳を開け、セシリアを見つめ、強引に手をつかむ。
「じゃあ行こうか、戦場へ。」
♦ ♦♦♦
「山田先生、援護に参りましたわ。
ここはわたくしとイリナさんに任せて他の援護に行って下さいまし。」
「はいわかりって、ええぇ゛!?1人ではダメですよ。それよりどうやって入って来れたんですか!?
それになんでイリヤさんまd「山田先生! 時間がありませんわ。さっさと他のISを倒しに行って下さいまし。」」
真耶にだって効率性だけを考えればなにが最善かなんてはっきりとわかっていた。
今まで真耶とフランシィの2人で防いでいたのだ。
真耶が使用している狙撃銃とフランシィが使用しているサブマシンガンでだ。
2つの砲門だけで防いでいたのだ。
セシリアはと言えばレーザーだけでも5つの砲門。ミサイルも加えれば7つ。
どちらが適任かと問われれば100人中100人がセシリアだと答えるだろう。
クラス代表決定戦の映像も鑑みれば十分過ぎる適役だ。
たとえ試合後半で見せたBT兵器のコンビネーションが行わなくとも、試合前半で見せた実力さえ発揮できればミサイルを全弾観客席に届かないようにすることも見込める。
観客席だけには。
だが操縦者は別だ。ISによる様々な機能は微量だが勿論エネルギーを用いる。
ブルー・ティアーズの損傷具合を鑑みるに自身の位置取りでさえ爆風やらミサイルの破片やらに気をつけなければならない。それも生身の人間もいる中でだ。
技量的には不可能という訳ではないだろうが初の実戦であることを踏まえるとやや心もとない。
つまり安全性を考えれば誰かを補助に入れたいところだ。
だが戦闘時間を延ばせば当然、危険性も増してくる。
彼方立てれば此方が立たず
されど一方が正しくて他方が間違いということはない。
戦闘時間の短縮を目指すのならばセシリアとミサイル特化型をぶつけ、そのあいだに他2機を墜とすのが最適だ。
しかしなにが起こるかわからない戦場で偶発的に1、2回でも攻撃を食らったら即座に墜ちてしまうであろう者に無人機1機を1対1でぶつけるのは得策ではない。もし、セシリアが墜ちてこちらが不意を突かれて対応出来ない場合を考えると1瞬でも敵にフリーの時間を与えるのはなんとしても避けたい所だ。
戦闘事態の安定化を目指すのならばセシリアと真耶が交代し、真耶がガトリング装備のISの対処に加わるのが最適だ。
しかし敵ISのシールドエネルギーの総量が不明であり、こちら側のシールドエネルギーは皆3割を下回っている。なるべくなら1分1秒でも速くに終わらせたい所だ。
両方とも同じく危険があり、それも可能性としては現実に起こってもおかしくないもの。
そういう状況になっていた。
けれどどちらの策を取るか、言い換えればどちらの危険性を選ぶか決意できずに決定を引き延ばすのは1番の愚策であり、決断は即座に行うべきだ。
「私は……」
ここまでダラダラと理屈を並べてきたが結局は何を信じるかになる。
セシリアを信じるか、この場にいる全員の底力を信じるか、はたまた別ななにかを信じるか。
そうして真耶の下した決断は―――
「セシリアさん! では今から――――」
♦ ♦♦♦
「はぁ、はぁ。……っ!」
緊張で汗が浮かぶ。
重圧で腕が震える。
恐怖で体が強張る。
限界であった。疲労が限界までたまっていた。
それは榊原が他の6人より何か劣っている点があるという訳ではなく至極当然な結果だ。
IS学園の教員、榊原は戦闘中の7人の中では他の誰よりも負担が掛かる役割にいるだけだ。
一つ一つの弾丸でさえ生徒に当たったら確実に致命傷なのだ。
それが4門。
勿論なるべくそれぞれの砲門が重なるようにして同時に撃てる砲門の数は減らしている。
しかしそれでも3門が限界。
そしてそこから掃き出される全ての弾丸を自身が装備している大盾、打ちがね付属の小盾、ダリルとフォルテの即時対応可能領域、この3つの内のどれかに落とさなければいけない。
さらに言うなら盾は跳弾のことも考えなければならず、小盾は自動再生機能があるとはいえ機関銃4門に対して大きさは心もとなく、ダリルとフォルテは第三世代という性質上何時までもミスが出なく完璧にこなすというのは第二世代より安定性が無い。
そしてなにより自分の代わりがいない。
自分が墜ちた時点で弾丸が処理しきれなくなる。
誰か生徒に当たり、四肢欠損は免れないだろう。
戦闘中の大半の者が動揺し、さらに被害が広がる。
それにより加速度的に被害が増える。
いつかは持ち直すだろうがその理由が必死な決意か守るものの減少による守りやすさのどちらであるか。
最後には誰一人として生き残れないかもしれない。
そんな救いのない最悪な十分あり得る未来を想像してしまう。
さらに言えば犠牲になるんは自分の教え子達である。
「くっ!!」
そんな誰もが心が折れるような状況で教師としての意地と誇りと愛情で奮闘してきたが次第に被弾率が増しダリルとフォルテにこぼれる割合も増えていく。
そうして、焦ってしまった。
保険のない危険な賭けはしてはならないこの状況で。
「破っ!」
瞬時加速を行い、無人機との距離がゼロになり
―あっ
されど無人機は1瞬で詰められた距離に一切動揺せずに正確無比に4門が榊原に向けられる。
榊原が避けようとしたときには既に避けられない距離になっており、
「やばっ」
ダンッ!
終わりに向かうのを拒否するかのように銃弾が鳴り響く。
「よっと」
ひるんだ瞬間を見逃さずに1つのISが無人機に突っ込む。
榊原は自分を助けた人物を確認し、驚きのあまり声をあげてしまう。
「って、なんで真耶とフランシィがいるのよ!」
「時間がないので説明は後にしますが、セシリアさん達がミサイル型は抑えているので取り敢えずは安心して下さい。
ではサクッとこのISを倒してしまいましょう♪」
「おーけ」
「ふ、勿論」
「了解ッス」
「言われるまでもねえ」
平然と無茶を言ってのける真耶にされどそんなものは当たり前だと言うかのように全員が返事を返す。
先程までと違いそこには不安も緊張も絶望もそんなものはなにもない。
セシリア達に負けてられないと全員の気概が沸いているから。
さあ、選択はなされた。
もう匙は投げられ、舞台は止まらない。
行きつく先が救いか破滅か。
それは誰にもわからない。