蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第138話


【コラボ】どこにいたって、太陽の下で生きている。

 

 

 

【前回までのあらすじィィィ!!】

 

 オッス、俺の名は、高校生ポケ○ントレーナー石田コウ! 毎日、相棒のシャンデラと戯れて、毎日幸せな日々を送っていた普通の男子学生だ!

 

 そんな俺は、母校である音ノ木坂学院が廃校の危機に瀕してて大大大ピーンチ! どうしよういろり! このままじゃ、学校がッ!!?

 その時、俺の幼馴染である穂乃果とことりと海未が初めたスクールアイドルμ’sで廃校を阻止しようと立ち上がったんだ! よし、俺も共に混ぜてくれ…的な感じでみんなのサポート役になる俺。 みるみるうちにメンバーは9人になっていた! すっごーい! フレンズがたっくさんできたよ!!

 

 9人になったμ’sは、次のオープンスクールに向けて準備していたんだ。 その時、俺は気が付かなかったんだ……背後に忍び寄ってきた黒い影に……! 俺は服を着替える間もなくベッドに寝かせられて、そのまま安眠スターイル。 気持ちのいい眠りについていたが、目が覚めたら………

 

 

 

 

 かわいいかわいい、ちび真姫ちゃんのおにいちゃんになりまs…「いや、ちげぇよ!!」スパーン!!

 

 

 

「はんぶらびっ!!?」

 

「なにいきなり冒頭部からネタをブッ込んでるんだよ。 劇場版のコ○ンの冒頭部をアレンジさせまくって、訴えられないか心配になるんだけど?」

「む、宗方さん……! だ、大丈夫ですって、ちゃんと話は戻りますから安心して下さいよぉ~……多分……」

「一気に不安定なことになりそうなんだが……はぁ、やれやれだぜ……」

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

「んで、真姫ちゃんです」

『はーい♪』

「さっきまでいろいろとボケまくっていたけど、冷静になってみれば、これって大事件じゃありませんか?」

「まあ、事件だな。 だが、そんなのを気にしたら負けなんだ。 小説を200話くらいも連載し続けると、この程度のことはとるに足らないことなんだぞ、コウ君」

「どうしていきなりそんなメタな話をするんですか……と言うより、宗方さんはその長い間いったいどんな体験を……?」

「ん~……臨死体験した時から話そうかい?」

「すんません、すでにお腹いっぱいなので結構です………」

 

 保健室で目覚めた俺は、何故か俺がいた世界とは少し違う別世界に来てしまったみたいだ。 どうしてこうなってしまったまったくわかんねぇが、とりあえず話を聞かねばな。

 

「――と、話が脱線し過ぎたな。 それじゃあ、真姫、もう一度説明をしてくれないか?」

『うん、わかったわ、おにいちゃん!』

 

 真姫(?)は小さく笑うと、くるりとその場で回って見せた―――かわいい。 そして、そのまま話始めた。

 

『えっとね、私がコウおにいちゃんを見つけることができたのはね、コウおにいちゃんが元々いた世界でお願いをしたからなの。 それも、ここの桜さんと同じのに向かってね! そしたら、この桜さんがそのお願いを叶えようとして私に連れてくるようにしたのよ!』

「……ん? つ、つまり……俺はその願いを叶えるためにここに来たってことか?」

『うん、そういうことだよ♪ それに……』

「それに……?」

『私……コウおにいちゃんに逢いたかっただもん♪』

「がはっ!!?」

 

 な、なんてことを言うんじゃあぁぁこの子はぁぁぁ!!? おかげで俺の体内からぁ~ありったけのぉ~血が出りゅぅぅ!!!

 

 

「こら真姫、あまり彼をからかうな」

『むぅ……は~い』

「それで、だ。 コウ君、キミは一体どんな願いをこの桜に向かってしたんだい?」

「それは……う~ん、どうだったかなぁ……というか、そもそも俺は桜に向かって願い事なんてしたっけな?」

『え~!? コウおにいちゃん忘れたの? ほらぁ、「オープンキャンパスが成功できますように」って!』

「えっ? それって………」

 

 確かに、俺はそう願ったのは事実だ。 だが、それは心の中であって、口にはしていないはず……?

 

 

「――願いとはな、口にして懇願することだけがすべてじゃない」

「っ―――!?」

「願いとは、言葉よりも強い想いを抱いたものだ。 キミの心の中でそう想ったのなら、それがキミの願いとなるんだ」

 

 

……一瞬、言葉を失った……。

 宗方さんの口から聞こえた言葉が、何故か俺の中に沁み込んでくるような――迫ってくるような感じがしたんだ。 難しい言葉なはずなのに、どうしてか、うん、と頷いてしまう。 そんな不思議な感覚が身体の中で循環したんだ。

 

 

「――そういえば、キミがいた世界では、まだ5月あたりだったな……」

「あっ、は、ハイ。 そうです」

「オープンスクールか……。 この世界では、オープンキャンパスって言う名称だったが、見て呉れなんて今は関係ない。 重要なのは、中身だ」

 

 そう言うと、宗方さんは真姫と一緒にこの部屋から出ていこうとした。

 

「ど、どこに行くんです?!」

「どこ? そりゃあ決まってるじゃないか―――」

 

 開かれた扉から眩しい光が差し込んで、宗方さんの身体を包み込んでいた。 それが、なんだかこの世のモノじゃないみたいな、神秘的な何かを感じた。

 

 そんな彼は―――

 

 

「―――キミの願いを叶えるために、だ」

 

 

 本当に頼もしいばかりの、やさしい表情を浮かばせていた――――

 

 

 

 あっ、そう言えばこの世界は夏だったんですね……どおりで暑いと思った。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「――そんで、今日だけ練習を手伝ってくれる俺の親戚の石田コウ君だ。 すまんが、よろしくな」

「石田コウです。 よろしくお願いします!」

『ジトォ~~~~~…………』

 

 

 なんやかんやあって、結局別世界からの訪問者・石田コウ君を練習に招くことにしたのだが、早速怪しそうな目線を送っているなぁ……

 

 

「……ど、どうするんですか、宗方さん!! なんか俺、変な目で見られてますよ!?」

「……そりゃあ当たり前だろ? いきなり登場してきたら驚くだろうし、ここは女子校、俺たち以外の男子がいること自体がおかしいのだから仕方ない」

「……そ、そんなもんですかねぇ……?」

 

 さすがにこの状況に慣れていないであろうコウ君は、心配そうに小声で聞いてくるのだが、特に心配することはないだろうと思っていた。 と言うのも―――

 

 

「ね、ねえ、蒼くん? その…コウ君って、本当に蒼くんの親戚さんなの?」

「ああ、そうだ。 とは言っても、コウ君の口から聞かされて気が付いただけなんだけどな」

「で、ですが、つい先程、私たちとは初対面なはずでしたのに、どうして穂乃果とことりの名前を知っているのです?」

「それはだな、コウ君の知り合いにちょうど同じ名前の子がいたそうなんだと、それで寝起きボケでつい間違えて呼んでしまっただけなのさ」

「……そうなの?」

「そ、そうなんですよぉ~! いやぁ~まさか同じ名前で雰囲気も似ている人がいるとは思いませんでしたよ~! 間違えてすみません、あはは……」

 

 同じ、と言うよりコウ君からしてみれば、自分の知る穂乃果たちのことを呼んでいたんだろうな。 でも、運命の悪戯が彼を惑わせてしまった。 彼の正体とこの異変の真相を知るのは、俺ただ1人だけ……ならば、やれるだけのことをしてやるしかない。 支える者として先を歩む者の使命なのだろうと考えている。 それに、気掛かりなこともあるしな……

 

 

「―――と言うわけで、だ。 コウ君にはみんなの練習風景を見学させてもらうよ。 それで、何か気になったところがあったら指摘させることも伝えているから、みんな気合入れろよ?」

 

『はいっ!!』

 

「そういうわけで、コウ君、頑張ってくれたまえ」

「が、がんばるって……俺、何すりゃあいいんですかぁ!?」

「キミがあっちの世界で習得している知識を持って、アイツらに指摘できることがあれば言ってほしい」

「指摘って……そんな、俺なんかが……」

「とりあえずやるんだ。 それはキミが元の世界に戻れる近道にもなるはずだ。 コウ君も気を引き締めてやれよ?」

「……は、はい………」

 

 

 コウ君は少し俯き様に自信の無い小さな返事した。 見るからにいい反応ではない。 むしろ、今すぐに逃げ出したい、そんな雰囲気があるように感じた。 多分、俺が危惧していることと言うのは、こう言うところなのだと確信を抱き始めてきた。

 

 

「よし、みんな! 今日は新曲の振り付けをメインにやっていくからな! 軽くウォーミングアップをしたら各自で振り付けと立ち位置を確認。 その後に実際に踊って確かめるからな!」

 

『はいっ!!』

 

 

 こっちもやらねばならない課題もある。 ここを突破できなくちゃ、俺たちに希望は見出せない。 気合を入れなくちゃならんのは、むしろ俺の方なのかもしれないな……

 

 

 

「コウ君もウォーミングアップがてらに誰かとストレッチしてみるか、そうだな……エリチカ!」

「……ゲッ……!」

「あら、どうしたの?」

「すまんが、コウ君と一緒にストレッチをしてもらってもいいか?」

「ええ、私は構わないわ。 それじゃあ、よろしくね、えっとぉ……コウ、くん…でいいのかしら?」

「……は、はいぃ……よ、よろひくおなしゃっす!!」

「あ、あはは……そんなに硬くならなくてもいいのよ? ほ、ほらぁ、リラックスリラックス~♪」

「あ、あぁ……り、リラックス、ですね……リラ~ックス…リラ~ックス……」

 

「……ほぉぅ……まさか、な………」

 

 

 

 この選択が、コウ君に対しする違和感を抱き始めだすのだった。

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「蒼一さぁ~ん、どぉ~して取材させてくれないんですぅ~? こんな取材のしがいのある人がいるというのにぃ~……」

「洋子は行き過ぎたことばかりするからだよ。 いくら俺の親戚だからって、そういうのはさせねぇぞ」

「そ、そんなぁ~……」

 

 はぁ……まったく、やれやれだぜ。

 コウ君との練習が始まってからというもの、洋子が執拗にねだってくるので溜息が出てしまう。 彼女の取材と言っても、要は粗探しみたいなもので、知られたくない情報までも出てしまうことがある。 特に、別世界から来た、という事実を吐かされてしまってはいろいろと面倒だ。

 

「しかし、親戚と言ってもあまり似てませんね。 見た目とか性格とか」

「そりゃあ、言いかえれば他人な訳なんだから似ているはずもないだろ? 俺の兄貴だって、俺と比べたら全然違うって親から言われるくらいなんだからさ」

「そんなものですかねぇ? ですが……さすがに、アレはどうにかしたほうが……」

 

 怪訝そうに洋子が眼を向ける方に、先程から練習を行っている彼女たちの様子があった。 が、その傍らでは、エリチカと組ませていたコウ君の様子に変化があったのだ。

 

 

「う、うおわあぁぁぁ!!?」

「あっ! だ、大丈夫?!」

「だ、大丈夫です……絵里せ…さん……」

「そう…? 無理しなくてもいいのよ?」

「ほ、ほんとに、大丈夫ですから……ほんとに……」

 

 練習、というよりストレッチを始めた時から思っていたが、どうしてかぎこちない動きを見せるのだ。 運動神経は悪くない方だと見ていたが、思うように動けてない?

 

「むぅ、ダメだよコウ君! 難しい時は難しいって言わなくっちゃ、身体を壊すにゃぁ!」

「り、凛!…ちゃん……」

「そうだよぉ、コウくん。 今日は暑いから無理に身体を動かしたら余計ひどくなるからね? 水分補給をしよっか」

「ことり!…さん……ありがとうございます」

 

 ふむ、なるほど…少しわかってきたかもしれないな。

 コウ君の様子を見ていると、どうやらエリチカに対する反応だけがおかしいようだ。 さっきの穂乃果たちへの反応と彼の世界での様子を比べると、穂乃果たち幼馴染と1年生に対しては好意的のようだ。 むしろ、逆にエリチカや希、にこは…どうか怪しいが、3年生に対してはあまりって感じだ。 特に、エリチカへの反応が不自然だ……

 コウ君の中で、あっちの世界でのエリチカへの扱いというのはどうなっているのだろうか? 気になるところだ。 だがその前に、彼を呼ばなければいけないな……

 

 

「コウ君。 さすがに日差しでやられそうだろう。 こっちに来て休むといい」

「だ、だから……! ……わかりました……」

 

 少し不満気な様子を見せつつも、俺の言う通りに木陰に入り休息を取り出す。 汗をかいているが息は上がってはいないのを見ると、体力面の異常ではないことが分かる。

 

「どうだ? 東京の夏はキツイか?」

「いやぁ……どうということはありませんよ……このくらいへっちゃらですって」

「その割には、調子が悪そうだな?」

「い、いや……別に……」

「こう言うのもなんだが……単刀直入に聞く。 キミは、エリチカが苦手だろ?」

「………ッ!!」

「なるほど、そういうことか……」

 

 ビクッ、と身体を震わせて動揺させているのを見るとそのようだ。 しかも、それをひた隠そうと顔を逸らす様子から見ても明らかだ。

 

「しかしまあ、エリチカのことが苦手とはな……」

「……苦手っていうより、好きじゃないんですよ……絵里先輩のこと……」

「まあ、コウ君が今生きている時系列では仕方の無いことだろうけどな。 どうせ、あっちのエリチカもツンツンしててとっつきにくいのだろうよ」

「……そんな感じです……それに、穂乃果たちのことをバカにするのが嫌で……穂乃果たちは気にしてないようですけど、俺は嫌なんですよ、ああいうの……」

 

 なるほど、そう言う理由でエリチカのことが苦手だというのか。 頭の固かった頃のアイツを考えれば、コウ君が言うのももっともだな。

 だが、そんなエリチカもあっちの世界ではμ’sのメンバーとして活動しているという。 なら、もう少し友好的に過ごさせるべきなのだが………って、まさか、それがコウ君の……?

 

「なあ、コウ君はエリチカと仲良くしようとは考えないのか?」

「仲良くって……考えたことないですね。 一応、先輩として見てはいますが、穂乃果たちのように仲良くだなんて出来っこないですよ」

「やりもしないで諦めるのは感心しないな。 それに、少なくともこの世界でのエリチカはキミが思っているほど悪いヤツじゃないはずだ」

「それは宗方さんがそう思ってるだけじゃないですか? 俺はそうは思いませんから……」

 

 う~ん、一筋縄ではいかないかぁ……。 コウ君のエリチカ嫌いと言うのは筋金入りかもしれないな。 もっとも、この話題をするだけで嫌悪感を身体から発している。 これじゃあ、うまくいくわけもないよなぁ……

 

 俺がコウ君とエリチカのことに気を揉ませているのは、彼の願いにある。 彼は、ライブが成功するようにと願っていた。 だから俺は、当初は今のμ’sの状態を見せれば自ずと答えが見えるはずだと思っていた。 だが、それは違っていて、本当はコウ君とエリチカとの悪い関係をどうにかしなくちゃいけないことだと思い始めている。

 ライブの成功はいかにチームワークがとれるかが肝要。 それは誰1人として互いに心を通わせることを怠ってはいけないということ。 そう、たとえバックアッパーであったとしてもだ。 むしろ、バックが仲間を信じてあげなくてはいけない――それを、彼はできていないことに懸念を抱いている。 どうにかしてそうさせなくちゃ……この少ない期間の中で、な。

 

 

「まあ、そういうな。 肩の力を抜いて、もっと広い目で見てあげなさい。 そしたら、キミにもいい刺激が――」

「だから、いらないんですよ、そんなの!! 俺は俺なりに頑張ってるんですよ! あなたにはできるかもしれないですけど、できないんだから仕方ないじゃないですか! 俺のことが分からないのに口出さないでください!!」

 

 彼は俯いたまま怒鳴り感情を爆発させてしまう。 俺も思わず、それにビビってしまい身体を逸らす。 ハッ、と我に帰ったのか、コウ君は申し訳なさそうな表情を見せつつ俺から遠ざかってしまう。 あー…こりゃあ、怒らせちまったかな? さすがに、俺と同じ土台に上がらせて考えさせるのには無理があったかもしれない。 焦ってるな、俺も……

 

 しかし、これでコウ君へのアドバイスがし辛くなってしまった。 このままじゃあ、平行線で終わってしまうどころか、彼が元の世界へ戻ることができないままになってしまう。 さて、どうしたものか……

 

 悪い方向性へと変化してしまった状況に考えあぐねてしまっていると、彼の前に立つのが1人いた。

 

 

「コウ君、って言ったっけな? ちょいと、俺の手伝いをしてくれや」

「た、滝さん……!?」

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 ガコンッ―――――!

 

「ほれ、もう一本」

「あっ、はい……」

 

 自販機から購入したボトルを何度も手渡され続け、俺の腕には抱えきれないほどの飲み物に埋め尽くされている。 さ、さすがに、これじゃあ前が見えなくなるから止めてもらいたいんだけどなぁ……でも、まだ滝さんとは話したことが無いから無暗に話しかけられないぞ、これ……。

 

 不本意ながらも木陰で休んでいた俺に、急に話しかけられたと思いきやこんなことをやらされている。 ちょっとしたパシリじゃないっすかね、これ? やっぱ俺って、こういう役回りが多いよなぁ……はぁ……

 

 

「どうした? 元気がなさそうじゃんか。 さしずめ、こんなパシリみたいなことはやりたくねぇって感じだなぁ」

「い、いえ……! そ、そんなことは……!!」

「はははっ、いいんだよ、言いたい時に言わなくっちゃ気分が悪くなる。 こう言う時だからこそ、包み隠さず話すことが重要なんだぜ?」

「え、あっ……す、すみません……」

「んで、思ってたんじゃないの、そういうことを?」

「……ええ、まあ……思って、ました……」

「たはははっ! そうかそうかぁ~! やっぱそう思うだろうなぁって思ってたんだわ!」

 

 大口開いて屈託の無い高笑いする様子を、ただぽかぁんとした気分で眺めていた。 こんなにも笑われているのに、何と言うか……気分悪いとか感じないんだよな。 それに、不思議と引かれていくものがあるから好印象に捉えてしまうそうだ。

 

 

「あ、あのっ……滝、さ―――」

「滝じゃねぇよ、明弘で構わねぇ」

「あっ……! あ、明弘さん……?」

「ん~何だぁ?」

「どうして、俺を連れ出したんです? まあ、俺がそう言う役回りになるのは当然だと思っていましたけどね、あはは……」

 

 何の脈絡もなくネガティブ発言を漏らし、さっきから聞きたかったことを聞いてみていた。 明弘さんは、少し唸りながら考えると、さっきと変わらず背を向けながら言ってくる。

 

 

「なぁ~んか、お前さんを見てると心配でなぁ。 ついつい声をかけちまっただけ、ってのは理由にならないか?」

「心配……? 俺って、そんなに頼りないように見えます?」

「ん~……正直に言えば、頼りないね。 お前さんに付いて行こうとするヤツがいたら、お前んもろとも心中しちまいそうなくらいに、な?」

「あぁ……やっぱりそうですか……。 自分でもわかってるんですよ、俺が頼りないヤツなんだってことくらい……。 何とかしたいって気持ちはあるんですよ、これでも。 でも、全然で……」

 

 自分で話してて、自分が嫌になってくる……。 俺は弱い。 誰かを守れる力があるというのに、その器量と言うモノが欠けていると自覚している。 わかってる……わかってるさ……。 自分でも変わりたいと思っているけど、やっぱりうまくいかないんだよ。 どうせ俺なんか………

 

 

「―――くっくっく………」

 

 そんな時だ。 塞ぎ込みかけていた俺の傍らで明弘さんが含み笑いをしていたんだ。 それがなんだか癇に障ってきて、むしゃくしゃした気分になってくるのだ。

 

「あぁ、わりぃわりぃ……いやぁ、お前さんを見ていたら、ふとあるヤツのことを思い出して、つい笑っちまってたわな」

「……なんなんです、そのあるヤツって……?」

 

 怒りついでだ、何のことか聞いてやろうじゃないか、と明弘さんに眼を注いだ。

 

「前に、お前さんのようにだらしなくって、不甲斐無いヤツがいてなぁ、前に進むことをずっと恐れていたヤツがいたんだわ。 そりゃあもう、周りに迷惑はかけるわ、大騒動になるわとてんやわんやしていたわけよ。 ソイツの姿とお前さんがそっくり映って見えたわけよ」

「そんなヤツが……何でしょう、聞いてる分では本当にどうしようもないヤツに聞こえてきますね。 ただ、それが俺と似ているって思うと、なんだか嫌になっていくるなぁ……」

「まあ、そう言うなって。 お前さんがそうなるだなんてわかんねぇだろうよ。 それでだ。 お前さんから見て、蒼一はどう見える?」

「宗方さんですか……? 俺が見ている限りでは、すごい人ですよ。 個性が激しい9人をうまく束ねているし、みんなあの人のことを尊敬の念を持って見ているようにも思えました。 完璧ですよ、あの人。 そんなあの人が言ってくれたことだって、正しいことだってわかっていますよ……でも、どうも素直に受け入れなくって……」

 

 不意に問いかけられるあの人のことに、えっ、となる。 多分、明弘さんが話して下さったその人との比較のために言ったのだと理解した俺は、思ったまでのことをそのまま話した。

 

「フフッ、そう捉えるのも悪くないな。 “いま”の蒼一を見れば誰だって同じことを言うかもしれないな。 “以前”と比べなければな……」

「えっ……それっていったい………」

「お前さん、さっき俺が言ってたどうしようもないヤツが、蒼一だって言ったらどう思うよ?」

「はあぁ!? いやいやいや、ありえないでしょ!? さっきの話とイメージが全然違うじゃないですか!?」

 

 それを聞いた時、何を言っているんだ!? って口走りそうになった。 あの宗方さんからは、そんな雰囲気すら感じなかったからだ。

 驚きを隠せない俺を見て、ニヤけている明弘さんは、緩んだ口元を開かせた。

 

「言ったろ? “以前”のと比べたら、って。 蒼一はまさにお前さんと同じ立場にいた。 俺や穂乃果たち全員を巻き込むくらいの騒動を起こしてさ。 まったく、自分のことを省みないとんでもない大バカだったさ……。 でもな、アイツは変わった。 地を這いつくばり、泥水を啜るような思いを経て、“いま”の自分を手にしたんだ」

「そう、だったんすか……」

 

 正直驚いた。 俺から見えた宗方さんってのは、本当に短い間だけど、それでもすごいと言わせる気迫のようなモノがあった。 俺が別の世界から来たことや、ありえない姿をした真姫のことに関しても動揺を示すことなく受け入れていることに逆にこっちが動揺してしまったくらいだ。

 

「お前さんから見て、蒼一がどう見えるのかわからねぇが、人間誰しも最初っから完璧なヤツなんざいねぇよ。 もし、お前さんが変わりたいっていう気持ちがあるんなら、少しずつでもいいから挑戦してみたらどうだ?」

「……はい、考えてみます……」

 

 また、そう言ってしまう……。 口だけでは何度も言える――けど、今回はその気持ちが強くなってきたように思える。 お手本、って言うのもなんだけど、あの人と同じだったんだと思っていたら何だかやる気が起きてきたように思えるのだ。 今度こそ……いや、今回だけでもいい。 変われるチャンスが欲しいんだ……!

 手をギュッと握りしめながら強く意識するのだった。

 

 

 

 

「時に、コウ君―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おっぱいは好きかね?」

「……………は?」

「もう一度聞こうか――おっぱいは好きかね?」

「え……ええぇ………」

 

 まるで意味が分からんぞ?! 何の脈絡もなく突如にそんな話を振ってきたことに、それこそ動揺を隠せない!!? そして、顔怖ッ?! イケメン顔が一気にゲスく見えてきたぞ?!

 

「おっきいおっぱい、ちっちゃいおっぱい、ちょうどいいおっぱい……さあ、選べ少年。 願うのだ……」

「うわぁ……どこぞの聖杯を司る麻婆神父みてぇな様相してんのに、内容がいかがわしい!」

「何を恥ずかしがるのだ少年? 己の欲望を解放して見せるのだ……男は誰しも、乙女の宝物に憧れるモノだ。 さあ、選べ。 そして、叫べ! おっぱい! ……と」

「ハッキリ言っちゃったよ、この人! 羞恥なんてゴミ箱に捨てちまったような勢いを感じるぞ?!」

「おっぱいは偉大だ、おっぱいは正義だ、おっぱいは人知を超える、おっぱいは人を笑顔にさせる、おっぱいは世界を幸せにする……! さあ、共に叫ぶんだ……おっぱいと!!」

 

 あ、あれ……? な、なんだ、この感じ……? 胸の中でモヤモヤとしてくるこの感じはいったい……? うっ……! い、いま、何かが口から出てきそうな……

 

「お…お、おぱ、おぱぱ……い……」

「さあ、もう少しだ……キミならいける。 今のキミなら最高のおっぱいを叫べるだろう……!」

「お……ぱい……お、ぱい……おぱい……おっぱい……おっぱい…! おっぱい! おっぱい!!」

「そうだ! おっぱい!! さあ、もっとだ…もっと叫ぶのだ!!」

「おっぱい! おっぱい!! おっぱぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

「Yeeeees!! Let’s おっぱぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 

 おっぱい……あぁ、なんて言い響きなんだろう……。 胸の奥でモヤモヤしていたモノが、スッと抜けていったような気分になってきたぞ……! すごい……まるで、魔法のような言葉だ!

 

「明弘さん……! 俺、いますっごく気分がいいです!」

「そうだろう! 己の欲望を曝け出すことこそ、真の快感を得ることができるのだ! キミの抱えていた不安もこれでなくなっただろう?」

「そ、そういえば……! 全然感じません!!」

「ふははは!! そうだろう、そうだろう! これなら、キミが変わることへの不安は取り除かれた! さあ、変われ! 未来の自分を手に入れるために!」

「はいっ!!」

 

 なんて気分がいいんだ……! こんなに清々しい気持ちになれたのは久しぶりな感じがする……! もっと早く知っていれば、苦労せずに済んだのに……。 俺、自分を変えられるかもしれない……! やってみるさ……!

 

「それじゃあ、最後に一緒にやるぞ、少年!」

「はいっ!!」

「では、いくぞ! せぇ~のっ!!」

 

「「おっぱぁぁぁ―――」」

 

 

 

 

「なにをしているのですか……?」

 

「「おひゃあぁぁっ?!?!!」」

 

 

 気分がハイな状態にあって、そのまま気持ち良く叫ぼうとした瞬間、背後から威圧ある雰囲気を出しているお人が……!

 

 

「う、海未……! い、いやぁ~どうしてここに……?」

「明弘たちが飲み物を買いに出て時間が経っていたので見に来ていたのですが……どうやら、このようなことが起きていたとは………」

 

 まずいまずいまずい……!! 何かとんでもないくらいに海未ちゃんがお怒りなんですけど!? このままじゃあ、確実に完膚無きままにヤられる!!

 

「ま、待ってくれ……! 俺はただ、明弘さんに連られて――」

「いやぁ~、コウ君が急に、おっぱいって言いだしてなぁ~」

「――おい、ちょっと待てやァァァァ!!!!? それを先に言いだして強要させたのはアンタじゃん!! それを責任転嫁するだなんて、アンタそれでも大人かよ?!」

「はっはっは!! 残念だったな、俺はまだ未成年だ!!」

「そっかぁ! それじゃあ、仕方な――んなわけあるかァァァ!!!」

 

 いくら未成年だからと言って、結局俺より年上なんだからある意味で大人なんだよ! それこそ大人気ない話じゃないか!!

 

 

「……お話はすみましたでしょうか………? たとえ、どちらに責任があったとしても、この場所で破廉恥なことを言ったことに変わりないのですから……お覚悟を……!」

「「ひぃっ?!」」

 

 い、いやあぁぁぁ!!? な、なんで俺までェェェ!! やめて! 海未の折檻だけはァァァ!! この世界に来てまで海未にヤられるだなんて、そんなの残酷すぎr「「ぎにゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

 

 

……父さん……空って、どこにいても青いんだね………

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 ふむ、遅いなぁ……

 

 明弘がコウ君を連れていってからしばらく時間が経ったし、海未もその後を追いかけるように出ていったが、それでもこの時間だ。 明弘が一緒ってことは、何かしらの意図があったりするんだろう。 アイツは変態だが、言う時はちゃんと言えるヤツだからな、そんなアイツにどれだけ助かったことか……

 

 アイツとの回顧録を辿りつつ、アイツらの帰りを待つのだった。

 

 

「おっ、やっと帰ってきたか。 よぉ、遅かっ……た……な……?」

 

 屋上の扉が開いたので、出迎えようとしたのだが、2人揃ってかなりボロボロの状態になっていたので眼を真ん丸にさせてしまう。 何があったのやらと思い巡らせていると、2人の横を通り過ぎ去るように海未が足取り早く入ってくる。 眉間にしわを寄せ、むっすりとかなり怒っているのを見ると、また何かやらかしたなと、すぐに察しが付く。

 

「お、おい……お前ら、何をした……?」

「ちょっとばかし、男のロマンを語り合っていただけさ……」

「顔にあざを付け、鼻血を垂らしているようなヤツに、ロマンはないって聞いたことがあるんだが?」

 

「すげー痛い……さすが海未だ、ここら辺は向こうと全然変わんねぇ……」

「お、おう……本当に、何をしでかしたんだよ、お前ら……」

 

 

 明弘に関してはいつも通りとして、コウ君の眼が虚ろ状態になっているって、海未のヤツいったいどんな折檻をしたのやら……。 しかも、初対面の相手にもやるとか容赦ねぇわ……。

 

 

「あ、あのっ……! 宗方さん!!」

「んっ、どうしたコウ君?」

「……さっきは、失礼なことを言ってすみませんでした!」

「え……あぁ、いいさ、そんなに気に病むことはない」

「で、でも! 俺、思ったことを突発的に口にするから、無意識に相手を傷つけちゃったりするから……!」

「なに、それって言いかえれば、包み隠さない素直なヤツってことだろ? 生の感情を安々と表に出すことには慎重だが、その素直さってのはいいものだ。 その気持ちを忘れないことだ」

 

 そう言ってやると、彼は意外そうな表情をして眼を向けていた。 驚いたような、どうしてそんなことを言うのかと訴えかけるような眼差しをしていた。

そんな彼に、俺は言葉を繋げる。

 

「俺たちが生きているこの世界では、自分の気持ちに素直なヤツってのは限られてくるモノだ。 俺自身も素直な気持ちになれないでいろんな人に迷惑をかけちまったこともあった。 そう言う意味では、キミが羨ましい。 俺ももう少し素直にできたのなら、違った世界を見れただろう、と思ってるのさ」

「後悔……とかはしないんですか?」

「しない、と言ったら嘘になる。 だが、それがあったから今の俺はいるって、そう思っている。 イイことも悪いこともひっくるめて、次の自分のためにする、そうやってきているんだ」

 

――と、まあ、俺自身の経験談を語るわけだ。 今でも振り返ってみて、どうしたらよかったかと考えてしまうことがある。 その中で、やはり素直になれるかそうでないかと言うのは大きかった。 そうであれば、あんなことには………

 

 だが、そんな失敗がなければ、今の俺は存在しない。 間違っていた、失敗したことをよくわかっている時ほど、次の失敗は少なくて済むからだ。 コウ君が今、どんな気持ちでいるかはわからない。 だが、もし、自分の叶えたいモノがあるというのなら、様々な経験を持ってもらいたい。 そして、もっと自分に自信を持ってほしい。 そんな思いを込めてこの言葉を送るのだった。

 

 

「宗方さん……俺、やってみようと思う。 どこまでできるかわからないけど、やれるだけのことはしたい!」

「あぁ、その意気だ。 必要なのは、やろうとする心構えだ」

「はい! それじゃあ、俺も練習に参加させてください!」

「いいとも。 けど、さっきと同じエリチカとだぞ?」

「大丈夫……多分、大丈夫です……! 俺なりに、頑張ってみますよ!」

 

 そう言って駆けていく彼の眼は、活き活きと光り輝いて見えた。 同時に、今の彼なら大丈夫かもしれないと確信を抱くことができた。

 

 

「そういやぁ、お前はコウ君にいったい何を吹きこんだんだ?」

「ふっふっふ……ソイツは兄弟でも教えられねェなぁ~♪」

 

 悪そうに歯に噛んだ笑みを浮かばせるコイツの表情から、良からぬ事をしたのだろうということがお見通しだ。 だが、彼に大きな一歩を踏ませる役割を与えたのは確かなのだということも感じてとれるのだった。

 

 

 ただ――――

 

 

「……お……ぱ……おぱ……い……」

 

 

 コウ君がエリチカをガン見して、異様に何かを呟いているように見えるのだが……気のせいだろうか……?

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 夕刻になり、空も真っ赤に染まりあがってくる中、俺とコウ君はあの桜の木の下にいた。

 今日の練習も無事に成果をあげて終えることができ、この後に控える本選に向けての足がかりになれたと感じている。 一方、今回の焦点に上がっていたコウ君についてだが、彼なりの努力が見られた。 苦手意識を持っていたエリチカとの距離が思った以上に縮まり、最初に見せていた嫌悪感などは感じることはなかった。

 

 

 

「どうだ、一日アイツらと練習してて、何か得るモノがあったか?」

「はい、そりゃあもうたくさん見つけることができましたよ。 結束力と言い、全体のクオリティと言い、こっちの世界では比べものにならないくらいですよ」

「そりゃあな、こっちも伊達な練習とかしていないしな。 それに、ラブライブもあともう少しなんだ、生半可な実力で挑むわけにもいかないさ」

「ラブライブ?! もうそんなところなんですか!?」

「ああ、そっちの世界もこの世界と同じ時期に開催されるはずだ。 それまで、キミとあっちの世界の穂乃果たちがどう頑張れるかが今後の焦点になるだろうよ」

「う、うっす……じゅ、重責がぁぁぁ………」

 

 おいおい、大丈夫かよ……。 いくら高校一年で穂乃果たちをバックアップする立場にいるからって、運営側はハンデなんてくれないんだ。 どう足掻こうが実力次第、ってわけ。 そう言う意味では、俺たちだって危ういところがいくつもある。 けど、そうしたところを見繕うような対策もしてきたつもりだ。

 問題は、穂乃果たちがどこまで人を惹き付けられるような力を発揮できるかによるんだがな……。

 

 

「しかし、今回の目的であるキミの願いと言うモノは、叶えられそうにあるかな?」

「さあ……そこはやってみないと分からないですよ」

「だろうな。 すべては結果だからな」

「けど―――」

「ん?」

「やってみせますよ。 この世界でもその危機を乗り越えられているんです、俺に出来なくってどうするんです!」

 

 キュッと引き締まった表情をする彼に、何の迷いも感じられなかった。 ただ、眼の前のことに集中していく、そんな自信に満ち溢れているようだった。

 

「なら、あとは俺が言うことはないだろう。 コウ君が思うことを全力でやるんだ」

「はい! ありがとうございます、宗方さん!!」

「―――それと、だ。 もう、宗方さんと呼ばなくていい」

「え―――?」

「蒼一で構わん。 正直、俺も性で呼ばれるのがあまり好きではないのだ」

「―――! はい、蒼一さん!」

「あぁ、それでいい」

 

 

 無垢な瞳を輝かせて、俺を見続けている様子が、なんだか花陽が俺のことを兄と慕うのに通ずるものを感じた。 となると、コウ君は弟……? ふふっ、それはそれで賑やかなモノになりそうだ♪

 Ifな話を頭に思い浮かべつつ、失礼ながらも彼を見て頬が緩んでしまう。 猪突猛進な弟に、究極の兄思いの妹、素っ気ない兄貴に挟まれる俺という構図を思い浮かばせると、どうも笑いが止まらないのだ。

 

 

 

 

『やっほー! おにいちゃんたち、戻ってきたんだね!』

 

 不意に、俺とコウ君の間に、にょきっと現れる真姫――昔のままの小さな彼女は、冬の眠りから覚めた新芽のように現れた。

 

『それでそれで! コウおにいちゃんのお願いは叶ったの?』

「あぁ、それはまだ元の場所に戻らないと分からないけどさ。 でも、どうしなくちゃいけないのかはわかってるつもりさ!」

『うんうん! そう言ってくれて、私も嬉しい! やっぱり、連れてきてよかった♪』

 

 るん♪ と嬉しそうに駆け回るもので、ついついつられて頬を緩ませてしまう。 彼女独特の雰囲気だからなのか、それともこんな時だからなのか……それでも、嬉しいという気持ちに変わりはなかったのだ。

 

「夢を叶えるためだと言って、コウ君には俺たちの練習風景を見させたが、あれだけで十分だったかな?」

「十分ですよ。 と言うより、これ以上見てしまったらいけない気がして……それに―――」

「ん?」

「―――みんないい表情でした」

「ふっ――当たり前だろう。 俺が支えているんだ、悲しませるようなことはさせねぇさ」

 

 もう、俺の手で彼女たちを悲しませるようなことはしたくない。 みんなが笑い合えるような時間を過ごせるようにと、俺は誓ったんだから。

 

 

 

『―――あっ! きたきた!!』

 

 嬉々とした声で木を見上げているので、俺たちもそのまま仰ぐと、言葉にならないような光景が広がっていた。

 

 

「緑の葉が……!」

「白桃色の花びらに……!」

 

 夏の衣装に身を包ませていた桜が、少しずつ色を変え、春の衣装へと衣替えを果たしたのだ! その幻想的な光景ときたら、蕾から芽吹く時よりも美しく、それまで描いてきた自らの美意識を変えてしまいそうになるほどだ。 こんなにも綺麗な桜を見たのは初めてかもしれなかったからだ。

 

 

『ねえねえ! こっちこっち!』

 

 桜の下で真姫が手招きをかけると、自然と足が向いて行く。 彼女と同じ位置に立つと、くりっとした眼をコウ君に向け出してこう言った。

 

 

『そろそろコウおにいちゃんにお迎えが来るよ。 何かやり残したことはある?』

「そうか、もう……やりのこしたことかぁ……う~ん、なんだろう……?」

 

 あともう少しで、彼ともお別れか……。 今日1日だけと言う本当に短い間だったが、とても濃い1日だったと振り返る。 そんな彼に何かできることはないだろうかと、思い巡らせる。

 そして、考えついたことは、これから道を歩もうとする彼に向けた贈る言葉―――

 

 

「コウ君、キミはこれからどうするつもりかな?」

「どうするって……なんです急に?」

「いや、ただの興味本位だ。 キミはこれから元の世界に戻って、いつもの日常に戻るだろう。 だけど、いずれキミも直面することになるだろう、抗うことのできない運命に―――」

「運命……? 種死ですか?」

「違う、そうじゃない。 キミはいずれ大きな壁にブチ当たるということだよ」

「大きな……壁……?」

「キミはそれにぶつかり挫折するかもしれない。 そんな時、キミはどう立ち回るのか、選択次第でキミの、キミたちの未来は変わってしまうだろう」

「……それは、蒼一さんの経験からですか……?」

「確かに。 だからこそキミに伝えられるのだ。 受ける代償と得られる報酬と言うモノを……」

 

 俺が彼女たちと関わり始めたことで、俺自身に差し向けられた運命は過酷なものだった。 何度も挫折し続けた。 だが、その度に這い上がり、報酬を得てきた。 もし彼が、コウ君がそうしたモノに触れることになるとしたら、多分………

 

 そんな懸念が薄らと思い浮かんでしまうので、俺なりのやり方でコウ君に伝えたかったのだ―――運命の乗り越え方を

 

 

「だが、キミは1人じゃないはずだ。 俺と同じように、穂乃果がいて、μ’sがいて、仲間がいる。 そんな仲間たちと共に乗り越えて行くことが、キミにはピッタリかもしれない」

「う~ん……あんまりイメージが湧きませんが、みんながいれば大丈夫だって思っているんです」

「そうか……だが、これだけは覚えてほしい。 たとえ、仲間がいたとしても、己が仲間を信じようとしなければ運命は変わることはない、と」

「それは……どういう意味です?」

「……いずれわかる時が来る………」

 

 深く落とすつもりだった意味を軽い言葉で切り離す。 俺がどうこう言おうと、最終的に決めるのはコウ君自身なのだ。 これを先人の世迷言として捉えるか、それとも心に留めるのか……すべては彼の内にある。

 俺としては、世迷言として終わってくれればよいのだがな……。

 

 

「それはそうと、本当にもらっていいんですか、このジャージ?」

「あぁ、それはもうキミのモノだ。 要らないのならこの場で脱いで渡しても構わないぞ?」

「さすがにここじゃあ脱ぎませんから……。 それに、この世界に来れた記念になるかもしれませんので、ありがたくもらっていきますよ」

「それでいいさ、それで」

 

 布に余裕があり過ぎて、だぶだぶな状態にあるモノの、いつかはそれを着こなすことができるのだろうかと思いながら、かつての愛用着に別れを告げる。 替えはいくらでも利くし、今すぐに必要なモノでもない。 それに、彼が来たという証しにもなるだろう。

 

 

『そろそろだよ。 さあ、コウおにいちゃん、元の世界のことをイメージして。 今からコウおにいちゃんが思い描いている場所に戻すからね!』

「うん、ありがと! それじゃあ……」

 

 スッと眼を閉じてイメージさせているのだろう、元いた場所を……。 もし俺が同じような目に合うとしたらどんなことを考えるだろうか? 多分、十中八九穂乃果たちのことを考えてしまうのだろうな。 そこが俺の帰るべき場所なんだと、感じたばかりだしな。

 

 コウ君が目を閉じてからしばらくのことだ。 彼の身体が黄白色に光り出し、小さな光の粒子が身体を離れて桜に向かって飛んで行き始め出した。

 以前にも、同じような光景を見たような……と以前のことを回顧するのだった。

 

 

「もう、お別れですね……短い間でしたが、いろいろとお世話になりました」

「こっちも礼を言いたい。 おもしろい話も聞けたし、アイツらの練習も見てくれて助かった」

「いえ、そんなことは………」

「キミはいい支援者になれる、そう信じてるぞ」

「いやぁ……蒼一さんには敵いませんよ。 でも、あなたを越えられるような人になりたいです」

「あぁ、そうなることを祈ってる。 それと、何か困ったことがあったらまた来てもいいぞ。 茶菓子くらいは用意しておくからな」

「茶菓子……! そういうのもあるのか……!」

 

 

……いま、一瞬だけどっかで見たことがあるような顔に……いや、気のせいだな………

 

 

「……っと、どうやらこれでおさらばのようです……」

 

 コウ君の全身を包んでいた光が強い輝きを放ち出すと、足先から順々に光の粒子へと変わっていくのだった。 消えていく彼の姿を惜しみつつ、最後の言葉をかける――――

 

 

「もしキミが自分の歩む道を踏み外すことがあったとしても、決して足を止めるな! その足は必ずキミがいきたい場所に連れて行ってくれるはずだ!」

 

「また、何か困ったことがあったら俺のことを思い出せ! なんなら、そっちの世界にいるだろう俺に頼っても構わねぇ。 そうやって、人を使ってキミの道を整えるんだ!!」

 

 

「それじゃあ、また逢おう、少年―――――

 

 

 

 

 

 

 

―――いや、石田コウ!!!」

 

 

「……ッ、はい!! またいつか逢いましょう、蒼一さん―――!!」

 

 

 身体が粒子となって天に昇っていく――まるで、魂が空に戻っていくような、元に戻っていくような感じだ。 そして、幻を見ていたかのような想いに囚われそうになる。

 

 だが、彼の語った言葉だけはちゃんと生きている。 今も俺の中で共鳴し、心底にて鳴り響いているのだ。 嘘偽りの無い証拠として、ここに……!

 

 

 桜の花びらが消えかかろうとしていた。 役目を終えようとしていたのだろう――ただ誰かの願いを叶えるためだけに咲くこの桜は、ゆっくりと光を呑みこんでいき萎んでいくのだった。

 

 

 

 

「なあ、真姫―――」

『なぁに、おにいちゃん?』

「コウ君がここで過ごした記憶ってのは、残るモノなのだろうか…?」

『……ううん、残らない。 “あの人”は“世界線”を壊さないためにもそうするしかない、って言ったよ』

「“あの人”……?」

 

 薄々感じていた記憶操作については案の定とも呼べる結末を示された。 ただ、その中に隠された不可解な単語に、無意識に眉間にしわを寄せる。 やはり、“アイツ”が噛んでいたのだということに何かしらの作意を感じるのだった。

 

 

 

 

「なあ――もし、俺がこの桜に願いを託すとしたら、どうしたらいい?」

 

 その問いに、一瞬真姫はキョトンとした顔を見せると、やんわりとした笑みを浮かばせてこう告げた。

 

 

『それは簡単だよ。 あの桜に触れて、お願いすればいいの―――おにいちゃんが言ったように、ね♪』

「そうか―――わかった」

 

 

 そして俺は、まだ光放つ桜の幹を手で触れると、目を閉じて心の中で願った――――

 

 

 

 

 キミがそっちの世界に戻ったら、ここで見たこと、聞いたこと、感じたことすべてが無かったことになるかもしれない。 だが、キミが忘れていようが、ここで得たものは永遠とキミの身体の中に沁み込んでいる。 いつか思い出すことができるように――――

 

 

 

 

 “この想いを、キミに―――――”

 

 

 

 その想いは小さな光となって身体から排出され、桜の中にへと吸い込まれていくのだった――――

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

ジジジジジジジ―――――!!!

 

 

「……ぅああっ!! うるさあああぁぁぁい!!!」

 

 頭にガンガン響いてくるベルの音が、ぐっすり安眠を味わっていた俺を攻撃してくる! ああぁもう! いい加減にしてくれ! 俺はまだ寝たい!!

 

 ガンッ、と私怨も込めての断罪チョップでヤツの息の根を止め、ようやく安寧の時が訪れたぁ……。 ふっふっふ……俺の眠りを覚ましたんだ罰だと思えぇ………って、ん? あれっ……いま時計の針が指しているところって………。

 

 

 

「あああああ!!!! は、8時じゃあねぇーかぁぁぁ!!! ウッソだろ!? やっべぇぞ、遅刻だ遅刻!!」

 

 ヤバイヤバイヤバイ!! 短い針が8のところに来ていたから、思わず眼を引ん剥いて2度見しちまったじゃんか! しかも、それからもう数分も経ってるし、このままじゃあ、また海未にこっぴどく叱られるの間違い無しだ!!

 い、いやだ……う、海未のあの鉄の制裁にはもうこりごりだぁ……! こんなら、さっきまで見ていた夢の中に戻りたいお!!

 

 

……って、俺、どんな夢を見ていたんだっけな……? 思い出せん……思い出せんが、いい夢だったって身体が覚えてるんだ。

 

「ま、夢ってそんなもんだもんな、しっかり覚えている方がすげーし……って、そんなことより準備準備っと――ん? あれ、俺ってジャージを着たまま寝ちまってたっけ? つうか、これ俺のかぁ?」

 

 身体にフィットしないことに違和感を抱いていたから、あらためて見てみると、なんだこれ? と思わず口に出た。 何故なら、俺はこんなジャージ持ってないからだ。 そもそも、俺の身体に合わないくらい大きいし、ダボダボでちゃんと着れたもんじゃないや。

 

 

 なのに、何とも言えぬ安心感と懐かしさを感じるのはどうしてだろうか……?

 

 

 おっ、ジャージ裏を見たら名前が書いてあるじゃん! どれどれ……ん? (しゅう)……(ほう)……? いやぁ、知らねぇ名字だなぁ……もしかして、これ常用漢字? だとしたら、俺は日本語が危うい検定があったら真っ先に1級が獲れそうだなぁ、オイ。

名前の方は、っと………

 

 

 

 

「……えっと、むなかたそういち………あれ、さっきまで読めなかったはずのなのに、どうして読めるんだ……?」

 

 知らないはずなのに、口に出した途端、すらすらと出ていきたんだ。 しかも、名前さえもだ。 なんでだ、聞いたことも読んだこともない名前なのに、どうして………

 

 

 

 

 

 

 

“―――俺は、キミと共にいる―――”

 

 

「えっ……?」

 

 

 一瞬、何かが耳の中を通ったような気がした。 なんだろう、この感じ……安心、してるのか……?

 わからない。 でも、焦る心が一瞬にして落ち着きを取り戻したことに変わりなかった。

 

 

 

 

「―――って、そんなことをしてる場合じゃなかった。 早く制服に着替えて……っと。 そんじゃあ、言ってきます―――!!」

 

 着ていたジャージを折りたたんでから学校へと向かう。 何やかんやで時間がかかっちまったが、今から全力で走っていけば、十分間に合うぞ! いける!! 見慣れた道を駆け抜けて、行き交う人を横目に、そのまま学校へまっしぐらだ!

 

 

 

 

 その時だった――――――

 

 

 

「―――――ッ!!」

 

 

 

 いま……俺の横を誰かが通り過ぎて行ったような……? それに、懐かしい感じが………気の、せいか……うん、先を急ごう。

 

 一瞬、身体が反応した。 それが何に対してなのかわからないが、何か、忘れてきたような……そんな感じだ。

 

 ただ、気のせいかもしれないが―――

 

 

 

―――桜が舞っていたような……

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

―――ふと、その男は立ち止まった。

 

 何かを察したかのように、後ろを振り返ってみるが目的とするものは見えなかった。 気のせい、か? と思わず口を零してしまうのだが、少し後を引くモノがあったようだ。

 

 

「おい、早く行かねぇと遅れるぞ?」

 

 連れの男が彼に向かって発すると、彼はそれに答えてすぐに歩みを再開させる。

 

 

 

「なあ、いったい、何があったって言うんだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“兄弟”?」

 

 

「ふっ―――ちょっと、桜の花びらが舞っていたみたいで―――」

 

 

 

 決して長くはない髪の毛を掻き上げて、澄んだその瞳を空に向けるのだった。

 

 

 その男の名は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)




どうも、うp主です。

と言うわけで、2回にわたってのコラボ回ありがとうございました!

初めてのコラボと言うことで、かなり気張ってやらせていただきました。このコラボでは、かなりのギャグで攻めていこうかと思いまして、早速前半回ではフルスロットルで駆け抜けさせていただきました!まあ、やり過ぎた感は否めませんが…(笑)

しかし、他の作家さんのオリキャラを扱うと言うことは、とても貴重な体験で、クロスオーバーのような気持ちと絶対にキャラの本質を歪めないという点では大いに勉強になりました。もし、今回のようなコラボがまた出来るとしたら、是非とも挑戦してみたいと思う次第でありました。


コラボを了承してくださった、うぉいど先生にはありがとうの一言に尽きます。
そして、あとでメッセをバンバン贈りまくって困らせたいと思います(笑)


と言うわけで、ありがとうございました!

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