蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第161話





アナタの顔を紅くさせたいっ!

[ 矢澤家 ]

 

 

「さて、どうしようかしらね……」

 

 私、矢澤にこは悩んでいた。この後、何をしようかと……。

 

 というのも、今日はめずらしくママが家に帰って来た。夏休み最後だから、という理由でこころたちを連れてどこかへ出かけてしまったわ。

 一方で、私は留守番最中。本当なら私もいきたかったのだけど、ちょうど夏休みの課題が残っていて……べっ、別に忘れてたわけじゃないのよ! た、ただ今年はラブライブとかで忙しかっただけで、面倒だから後回しにしてたらいつの間にか最終日近くになっていたわけじゃないんだからね!

 ちょっと口惜しいけど、これをやらないと私の進路にも関わるし、いつも手伝ってもらってる希に何されるかわからない。ここは必死になってやりきるしかないと、今までにないくらい勉強に集中させたんだから。それでやっとの想いで終わらせて見れば、いつの間にか、お昼近くを回っていたわ。朝から必死こいてやってみれば案外簡単に出来るものね。

 

「けど、この後どうしようかしらね……。ご飯作るにも勉強のしすぎで頭が回らないし、身体を動かすのも億劫に感じちゃうわ。インスタントで済ませるってのもなんかね……」

 

 いくら身体がだるいからと言って添加物が多く含まれたものを食べるのはよくない。それで余計に身体を悪くさせてしまったらそれこそ不味いわ。アイドルにとって健康を第一にするのは当然のこと、少し無理してでも外食で済ませるのがいいかもしれないわね……。

 

「あっ、そうだわ……!」

 

 そしたら、ぽんっ頭の中で思い付いたことがあった。そう言えばことりが、衣装の材料が残りわずかだって嘆いていたわね。そろそろ買い貯めしなくちゃいけない時期だったわね。

 

「そうだ! 確か、アキバの衣類雑貨店が月末セールをやってるんだったわ! それなら今から買いに行って、そのついでにお昼も済ませちゃいましょう」

 

 うん、それがいいと思い至ると、早速身支度を整えてから出発した。衣装代でかなり出費しちゃうだろうから先に買い物かしらね。それで余った分で食事をすればいいかしら? と少し手の平からはみ出る程の財布の口を開いて中を確認した。

 

「……す、少しは、余ると思うわ……うん……」

 

 ちゃんとご飯が食べられるのか心配になってきたわ……

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 家からアキバまでは徒歩十秒もない。と言うのも、私の家はアキバの電気街のすぐ脇の路地にある古びたアパートだ。華やかそうな表通りとは違って寂れている。けど、一歩外を踏み出せば、こうした街に繰り出せるのだから正直ありがたいと思っている。

……っと、そう言ってる間に着いてしまったわね。

 

 

[ アキバ・雑貨店 ]

 

 

 地上7階もあるビルの一部に構えるこの店は私のお気に入りなの。品揃えもいいし、品質もかなり高めよ。それに、一度ここでバイトしたこともあるから、店長さんとも仲が良いからお得な情報やサービスもしちゃってくれる。μ’sの活動が始まって以来、ほとんどのものはここで取り揃えてもらっているの。ちょっとしたμ’sお抱え店ってわけ♪

 

「さてと、ことりから頼まれたものを確認しなくっちゃね」

 

 スマホを取り出してことりに送ったメッセージの返信を確認したわ。ことりもまさか私が買いに行くとは思ってなかったみたいで、嬉しそうな文調で返って来た。あのふんわりとした声がすぐに頭の中で再生できたわ。

 

「えっと、布の種類は……サイズはどのくらいで……色は………」

 

 買う物の詳細を確認して、と。これだけ見るだけでもことりが何を作ろうとしているのか大体わかるわね。ニコも大方なイメージとかはできるけど、実際にどのくらいの大きさで、どんな仕様に仕上げるのかまではできそうもない。それも手作りでやってしまうのだから相当の技量よ。ニコにはできない芸当ね。

 そんな後輩の能力に羨ましがっていると、一瞬目の前を通り過ぎた人に目が奪われた。あっ、と声を出して急いでその人の前に立つと、彼は驚いた様子で言うのだ。

 

 

「おっ、ニコじゃないか! なんだ、お前も買い物に来ていたのか?」

「そうよ。ことりが衣装の材料が足りないからって、その買い出しよ」

「そいつはごくろうさん。言ってくれれば俺がやってやったのに」

「いいのよ。私は部長なんだから後輩のために頑張るのも先輩の役目なんだから」

「頼もしいな。ことりも喜んでくれそうだ」

「ところで、今日は何を買いに来たのかしら、蒼一?」

「あぁ、そうだな。俺も衣装関連の材料をな」

 

 朗らかな笑みを浮かばせた蒼一は、そう答えてきてくれた。

 

「蒼一が衣装のことで来るだなんてね。そもそも蒼一が裁縫とかできるのかしら?」

「あはは、まあとりあえずはってとこかな? ことりに指南してもらって様にはなってきているさ」

「ふ~ん、そうなのね。ところで、衣装って何のことかしら? μ’sの?」

「いいや、そうじゃなくって……()()()()、だよ」

「……! あぁ、そういうことね!」

 

 急に小声で話をするのだから何かと思ったけど、なるほど理解したわ。つまり蒼一は、RISERとして使用する衣装のことを言っているんだ。確かに、RISERは未だに謎のグループとされている存在。下手に大きな声で言えるわけにもいかないし、ましてここに当の本人がいるってことも言えるはずもない。だからニコも、それ以上のことは言わないで済ませたのだ。

 

「俺たちはもう一度みんなの、すべてのスクールアイドルたちの先頭に立つんだ。多くの脚光を浴びることになるだろう。そうなれば格好だってよくしなくちゃいけない。衣装の解れとかそういうのがあっちゃ笑われちまう。業者に頼むのが一番かもだが、実際に着るのは俺だ。俺がちゃんとコイツのことを理解して衣装を着こなす、そうやって俺たちはやってきた。それに、自分が着るモノくらいはちゃんと直しておかないとカッコ悪いだろ?」

 

 小さく口を開いて白い歯を見せ、ニカッと微笑む蒼一。

 その屈託のない笑顔の裏には、執念に似たものを感じさせられる。まさにプロのような心構えだ。それだから蒼一たちRISERはここまで大きな存在となれたのだと、あらためて感じさせられた。ニコも見習わなくちゃ、とさえ思い立たされるほどに。

 

「ふふっ、さっすがニコの恋人だわ。蒼一のそういうところ大好きよ♪」

「なんだよ、いきなりさ」

「べっつにぃ~、ちょっと嬉しくなっただけよ♪」

 

 蒼一の話を聞いていたら自然と笑みがこぼれていた。彼がRISERだから? その秘密を知っているわずかな人の中に私が含まれているから? ううん、それもそうだけどね、違うの。私の遠い憧れの存在だったRISERが私の恋人なんだって。他のファンの子じゃ絶対になれないところに私がいることを誇らしく感じちゃったの。

 そんなアナタの、私に見せてくれる姿が愛おしく思えた。

 

 

「あっ、そうだわ。蒼一はもうお昼を済ませたのかしら?」

「いや、まだだけど……ニコもか?」

「そうなのよぉ~、それじゃあ買い物が終わったら一緒に食事に行きましょ!」

「いいぜ、それなら早めに済ませないとだな。この近くの店は昼に混むらしいし」

 

 やった! ラッキー♪

 ちょうどいいタイミングで一緒に食事をすることができるだなんて、今日はいい日ね♪ そうと決まればちゃっちゃと終わらせましょ。ここで時間を費やすより有意義な方に費やさないとね!

 

……あと、できれば奢ってもらいたいなぁ~……なんてっ♪

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

[ カフェ ]

 

 

 必要なモノを袋一杯に買い詰めた私たちは、同じビル内に店舗を構える小さなカフェに入ったわ。蒼一の言う通り、お昼時だったから少し待たされちゃったけどお腹が鳴る前に料理にありつけられたわ。ちなみに私はナポリタンを選び、蒼一はサンドイッチを頼んだわ。ちょっと量が少なくないか、と私の皿を見て聞いてきたけど、平気よ、と即答した。確かにお腹はすいていたけど、そんなに多く食べなくても私は平気。

 それよりも私は、蒼一にしてもらいたいことがあって……

 

 

「ねぇ~そ~いち~。ニコに食べさせてくれな~い?」

 

 と、上目遣いでかわいらしくおねだりしてみるの♪

 

「食べさせる? それってもしかして……」

「もしかしなくてもよ~。はやくぅ~このフォークを使ってぇ~ニコのお腹を満たして欲しいニコ♪」

「えっとぉ……つまり、あ~んをさせろと……?」

「ほら、つべこべ言わないの。ニコ、お腹ぺこぺこなのぉ~」

「ふっ、しゃーないな」

 

 そう言うと蒼一は、私が渡そうと手にしていたフォークを取ると、持ち方を整え直してナポリタンに刺した。それを指でくるくると器用に回転させて、程良い量を巻き付けていた。ほら、口開けて――、と少し朗らかな表情で言うから、なによ、そう言う割には乗ってくるじゃないの――、と内心微笑んだ。

 ぱくり、私は飛び込むようにそれを口にした。同時に、蒼一はフォークを私の口から抜き取ってくれる。ナイスタイミングよ、と褒めてあげたいわね。そう思いながら口の中のモノをよく噛んで喉を通した。

 

「ん~~♪ おいしい~♪」

 

 そのあまりのおいしさについ声が出ちゃう。ちょっぴり香ばしいケチャップの味が濃厚でニコの好みにバッチリ! 家で作ったのとはまた違った味わいで、こういうのも悪くないかも♪

 

「はい、次だよ」

「うふふっ、わかってるじゃない♪」

 

 私の食べているのを見計らってくれたのか、またフォークに絡ませて持って来てくれる。それが嬉しくって、また口を開いて、ぱくりと食べてしまう。それもまたおいしい。蒼一と顔を見せあって食事をして、わがままをさせてもらってるだなんて、まるで……

 

 

 

「――本当に付き合ってるんだなぁ」

「えっ―――」

 

 ふと、急にそう口にしたから目を真ん丸くさせちゃう。ちょうど、私が考えていたのと同じだったから私の考えを読みとったのかしら!? と驚いた。すると、こんな私を見てなのか、頬を緩ませて言うのだ。

 

「いやさ、にこと付き合い始めてこうしたデートみたいなのをしたのは初めてだなぁって思ってさ。それまで恋人らしいことってしてこなかったから、ちょっと新鮮味があるなってね」

 

 そう言われちゃうと、ちょっとこそばゆい気持ちになってしまう。でも、そう言われればそうなのよね。私たち、ちゃんとした付き合いってしたことがなかったわ。2人っきりになるってことを望んでいなかったわけじゃなく、ただこれまでの生活に満足しちゃってたところがあったの。こんなにもニコのことを肯定してくれて、理解もしてくれる。首をあなたの肩にもたれ掛けても、きっとあなたはやさしく私を支えてくれると信じられる。それだけで十分だった。

 でもやっぱり……私は蒼一と2人っきりになれる時間が欲しい。蒼一のことをもっと深くまで知りたいし、私のことももっと知ってほしいと感じてるわ。

だから、ついあなたを求めたくなっちゃう。

 

 

「なら、もっとしましょ。恋人らしく、ね?」

 

 多分、私の顔は紅くなってるのかもね。少し熱っぽく感じてきちゃった。ちょっぴり恥ずかしいって言うのもあるけど、あなたとこうした時間を増やせると期待しちゃうと嬉しくって胸が高鳴っちゃう。熱が出ちゃうのはそのせい……

 

「そうだな。ちょっとずつ時間を見つけて、2人だけで出掛けちゃおうか? もちろん、みんなには内緒でな?」

「えぇ……! 約束よ?」

 

 あぁ約束だ、と蒼一は首を少しばかり傾けて満面の笑みを送ってくる。それを見ちゃうと、高まる気持ちがまた一層強まって私を嬉しくさせてくれる。また楽しみが増えちゃった、嬉々とした喜びを抱えて頬を緩ませちゃうのだ。

 

「それじゃあ、今度はニコが蒼一にあ~んさせてあげるわ♪」

 

 私も急にしたくなってみたので、蒼一に渡したフォークをとると私も同じように絡ませる。蒼一は、いいよしなくても、と言うけれど、私はあなたの嬉しそうにする顔が見たかったからついしちゃいたくなるの。具がこぼれないように左手を添えて蒼一のもとへ近付けるの。

 

「はい、ニコニーの愛情たっぷりのナポリタンを召し上がれ♪」

「………!」

 

 ふふっ、蒼一ったら戸惑ってるわ。ちょっとかわいいじゃない♪ いつもは余裕ぶった顔しか見せないようだけど、時々垣間見ることのできるあどけない様子も好きなのよ。だからもう少しだけ意地悪しちゃおうかしら♪

 

「いや、今はいいって……」

「ほぉ~らぁ~、あなたのニコニーが、あ~んしてあげるのよ? 素直になっちゃいなさいよ~?」

 

 いいわねいいわねぇ~思ってた以上におもしろい反応が見れそうだわ。ついこの前からかなりたくましい様子になったようだけど、まだこういうところが残っているモノなのね。かっこいい蒼一は好きよ。でも、弄りたくなる蒼一も好きなのよ。もしかしたら、割とこっちの方が気に入ってたりかもだけど♪

 

 口を固く閉ざす蒼一に迫る私。他にどんな反応を示してくれるのかしらと様子を伺っていると、

 

 

 

「……ふっ、しょうがないヤツだ」

「えっ?」

 

 突然、蒼一が不敵な笑みを浮かばせたと思ったら身体を、ぐっと前のめりになりだした。それに少しばかり動揺した私は、ハッとさせられた。次の瞬間、蒼一は飛び込むようにしてそれを口にしたの! それも躊躇うことなくよ!

 

「えっ? えっ???」

 

 不意を突かれたみたいで驚きを隠せない私は、その場でジッと眺めてしまう。そんな蒼一は口元を動かしよく味わっている様子。

 

「うん、確かにこれはおいしいな。濃厚な味付けにほんの少しの甘さが決め手かな?」

「甘さ? しょっぱいの間違いじゃないの?」

「いいや、これは甘い。ほんのりとした甘さが最後に口の中に広がって行ったのを感じたよ」

 

 そう、なのかしら……? と蒼一の言葉に首をかしげていると、蒼一は眼を細めて人差し指を自分の唇に添えて、

 

「にこの愛情、今度はちゃんとくれるのかな?」

 

 と恍惚と紅色に染めた顔で伝えてくる。

 

「……~~~~っ!!」

 

 一瞬、それが何のことかわからなかったのだけど、自分の手元を見て理解した。

 

 

 

―――関節キッス

 

 

 頭の中にそれが、ふっと思い浮かび顔を熱くさせちゃった。

 そ、そそそそ蒼一ってばっ!! ど、どどどどうしてそんなことを、いいい言っちゃうのかしらぁあっ?!! お、おかげでニコの胸がバクバク激しく動いちゃって大変なことになっちゃったじゃないのっ!!

 まだ“キス”という行為に慣れていない私は、それを想像しただけでこんなに動揺しちゃってるの。蒼一はそれをわかって言ってるの?! もしわかってて言ってるのなら怒りたくなっちゃうわ! わかってなかったら……いや、それはそれで恐い……。天然でニコのことをここまで翻弄するのだ、もっと恥ずかしくなるようなことをしてくるに違いない。

 けど、何もしないでいるって言うのも何だかもどかしくって……ああっ! もうどうしたらいいのよぉ~~~!!

 

 

「ふふっ、焦ってる様子もかわいいぞ」

「も、もう……ばかぁ……///」

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

[ ファッションショップ ]

 

 

 食事を済ませた私たちは、その足で同じビルにあるファッションショップに足を運ばせた。蒼一が秋用の服を今の内に買いたいって言うから私も蒼一の服選びに付き添ったの。ここまで来るのに2人仲良く連れ添って………と言うようにはいかなくって、蒼一の腕を掴んで引っ張られるように歩いていたわ。

 だって仕方ないじゃない! さっきのカフェではあんなことされちゃって、落ち着いてなんかいられなかったのよ! それに、私たちに向けられる視線も気になって……本当なら私たちのアツアツな様子を見せつけようとしていたはずなのに、余裕が無くなると逆に恥ずかしく感じられて……んもぉ~~~!

 それなのに、蒼一なんてそんな私を見て嬉しそうにしてるし……べっ、別に蒼一が嬉しそうに笑ってくれるのはいいのよ……あの顔が見れるだけで、う、嬉しいし…………って、そうじゃなくって! ニコだけ恥ずかしい思いをしたって言うのに、蒼一だけは平気そうにしているのが気に入らないの! だからここで、あっと言わせてあげるんだから!

 そう自分に気合を込めていると、隣にいる蒼一が声をかけてきて、

 

「ここから服を探しに行くんだが、ニコもくるか?」

「えっ? えっとぉ……そう、ねぇ……ニコもちょっと買い物がしたいかなぁ~って思うの」

「そうか、それじゃあ一旦ここで別行動かな? 何かあったら電話してくれ」

「は~いっ♪」

 

 ちょっと明るめの声で返して、ニコはそのまま別の売り場に向かって行ったの。本当は買い物する予定もないけどね。

 さぁ~て、蒼一はどんなのを気に入ってくれるのかしら♪ 宇宙ナンバーワンのプリティーガールのニコニーをもぉ~~っとかわいくしてくれるのはどれかしら~?

 

 私の姿を見てどんな反応をしてくれるのかしら? ふふっ、今から楽しみニコ♪

 

 

 

 

 

 

― 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

「……よしっ、と。これでいいかしらね?」

 

 店内にあるとってもキュートなものを選んで試着室に入ったニコは、早速それを着てみることにしたの。そしたらすごいのよ! サイズはピッタリでニコが想像していた以上にキュートでセクシーなの! 鏡に映ったニコを見て、ニコってば、こんなにかわいいのも着れちゃうのね♪ それにちょっぴり大人びて見えるから、ニコが言うのもなんだけど恥ずかしくなっちゃう。蒼一もこんなセクシーなニコニーを一目見たらメロメロになっちゃうはずよ!

 これなら大丈夫と確信を持てたところで、蒼一に連絡を入れないと……。カバンに仕舞ったスマホを取り出して、蒼一の番号に連絡を入れ始めた。

3回コールが鳴った後、電話を受け取った音が鳴って、

 

 

『どうしたニコ?』

 

 ふふっ、掛かったわね♪ と笑みを浮かばせた。

 

「そぉ~いちぃ~♡ ちょっと見てほしいのがあるんだけどぉ~いいかしらぁ~♪」

『見てほしいもの? 何か買うモノができたってことか?』

「うん、そうなのよぉ~。だからぁ、蒼一にも見てほしいのよぉ~♪」

『あぁ、わかった。こっちは用事を済ませたからすぐに行くからな。ちなみに、場所は?』

「試着室よ~もう着て準備できてるから早く来てぇ~♡」

 

 通話してるニコニーってば、とってもセクシーね。我ながらかなり色っぽくできた気がするニコ♪

 でもぉ、肝心の蒼一がまったくの無反応なのには残念だわ。通話の最後も、了解、の淡白な一言で終わっちゃうし、どういうことかしら? 魅力がなかった……? いやいや、ニコニーに限ってそんなことあるはずないじゃないの! 言葉だけじゃダメだわ、やっぱり見せなくちゃダメね!

 それしかないわ! と自分に意気込んで気持ちを切り替えて来るのを待ったわ。それから間もなく急ぎ足で近付いてくるのが聞こえてきて、蒼一だわ、とニコの勘がそう言うの。そしたら思ってた通り、ニコのことを呼ぶ蒼一の声が聞こえたの。それでつい、こっちよ、とカーテンの隙間から手を出して誘ったの。そんな蒼一は安心したような声で言ってきた。

 

「ここだったか。それで、どんなのを着たんだ?」

 

 きたきたっ! 込み上がる笑いを抑えた。

 

「いいモノよ♪ でもぉ~蒼一以外には見せたくないからぁ、この中に入ってきてぇ~♡」

「中に? いいのか?」

「いいのよ。ほら、来て頂戴♪」

 

 ちょっぴり胸をドキドキさせながら言うの。そしたら、わかった、って返ってくるとゆっくり中に入ってきてくれたわ。そして、ニコのこの姿を見て動きを止めたの! ふふんっ、ニコの姿をご覧あれ♪

 

 

「に、ニコ……! その格好は……!?」

「どう? 似合うかしら?」

 

 目を丸くさせる蒼一を前に、腰に手を添えたセクシーポーズをとったわ。

 と言うのも、ニコの今の格好はね、かなり刺激的なのよ?

 

 蒼一を前にして、ニコは、ブラとパンツの下着しか身に付けてないんですもの!

花柄模様の黒色のレースが付いたワイヤーブラとショーツ。大人な様相を見せつける肌の露出が多くて、大事なところだけを隠した際どいモノよ。胸をちょっと寄せてるからいつもより、ぷっくらとした胸を強調させてるの。

 どうかしら? ニコの完璧なボディーラインがハッキリ見えるし、いつもより艶っぽく見えるはず……! こんなに魅力が増したニコを間近で見ちゃってるんだから、蒼一もメロメロになること間違いないわ!

 

「ほぉ……これはすごいなぁ………!」

「でっしょー? もぉ~~~っと、ニコを見て? この魅惑のカラダを隅々まで見てほしいわ♡」

 

 感嘆してる声を漏らしながらニコのことをたっぷり見ちゃってる。ふふっ、驚いてる驚いてる♪ 蒼一ってば、そんなにまじまじと見ちゃって、ニコの魅力に魅せられちゃったかしら? いいわ、もっと見て、アナタが恥ずかしそうにするところを見ちゃうんだから♪

 蒼一だけのシークレットなお披露目会♪ 大好きなアナタにだけにしか赦されないことなのよ? ファンに見せる時のニコニーはみんなのもの――でもね、今のニコは蒼一だけのものなの♡ だ・か・ら、何をされちゃっても構わないんだから♪

 

 

 

 そう思っていたんだけど……

 

 

 

「いやぁ……ニコがこんなに綺麗な姿をしていたなんて気付かなかったなぁ……。水着を着ていた時とは違う魅力が増し加わってるような気がするぞ。さすがニコだ、センスがいい!」

「………へ?」

 

 嬉々した声を耳にした時、思わず唖然としちゃった。

 え? どうして? 蒼一は恥ずかしそうにするどころか、逆に微笑ましいくらいに喜んでいるじゃない。違う……違わないけど……違うの……! ニコはそう言うのが見たかったわけじゃなくって、もっとこう……羞恥して狼狽する様子が見たかったのよ! なのにこれじゃあ、またニコだけが恥ずかしくなっちゃうじゃない! どうしてうまくいかないのっ!!

 

 思ってたようにうまくいかないことに、さすがの私も限界に来ちゃった。ムスッと頬っぺたを膨らませ、ジト目で睨みつけちゃうの!

 ニコからの視線に気付いたのかしら? 蒼一は顔をあげて目線を合わせると、どうしたんだ? と言わんがばかりの表情で見てくるので、痺れを切らして思わず抱きついた!

 

「に、にこっ?!」

 

 不意の出来事に驚いた蒼一。でも私はそれを知らずに言い迫っていた。

 

「ニコがこんなに猛烈アピールしてるって言うのに、なんで恥ずかしがろうとしないのよ?! お昼の時もそうだけど、なんであんなにサラッとしちゃうわけ!? もっと恥ずかしがりなさいよ!! 今のニコも見て! 下着よ? 肌がかなり露出してるのよ? 裸同然なのよ!? それなのに、顔色1つ変えないで受け流さないでもらえないかしら!! それは、ニコには全然魅力がないっていうことなのかしら!!?」

 

 つい、思わず大声で怒鳴ってしまったわ……。言いきった後は、大人げないような気持ちになっちゃうのだけど……でも、言わずにはいられなかった。

 悔しかった……どうしてニコの思うようにいかないのか……蒼一の、もっとたくさんの表情が見たいのに、笑ってるところしか見せてくれない。もっとニコに魅力があればそうなってくれるのかしら? とつい考えてしまう。今まで、こうしたデートをしなかったのはそう言うことなのか、と思い詰めてしまう。

 何だか……こうなってからは自分が恥ずかしいし、無性に悲しくなってくる……。バカなニコ……あんまり多くを求めようとしなければよかったのに……今ので蒼一に嫌われちゃったかしら……? もう、冷たい溜息しか出てこないわ……

 

 ガクッと肩の力が抜けて、気だるさがやってくる。目元もジワリと滲んできて、熱くなってきて、泣いちゃいそう……。もうどうしたらいいのか、自分でもわからなくなっちゃった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時だった―――

 

 

 

「―――んなことあるかよっ!!」

「――――っ!!」

 

 突然、大きな声に震えた私の身体は、蒼一の腕の中に包まれた。真っ直ぐ伸びた背中を、ぐっと持ち上げられて少し足が浮き立ち、身体の自由は蒼一に奪われていた。自分でも何がどうなっているのかわからなかった。でも、ハッキリと聞こえたの――蒼一の、強く打ち立てる、胸の鼓動を。

 

 

「恥ずかしくないだって? バカ言うなよ、恥ずかしいに決まってるじゃないか……! ニコに食べさせてもらった時だってどれだけ恥ずかしかったことか……今なんか、さっきとは比べものにならないくらい恥ずかしいんだぞ? こんなにさ、健気で、あどけなくって、それで俺のことを求めて来るんだからさ、抱きしめたくなる気持ちをずっと押し殺していたんだぞ……! 誰かに目を付けられたらヤバイからって、2人っきりになるのを待ち続けていたのにさ……まったく、お前と言うヤツは……!」

 

 そう言うとまた私を強く抱きしめてくれた。

 ふと、顔を上げさせると、顔を紅くさせている蒼一が見えた。さっきとは違って何だか余裕がなさそうで、少し切なそうにも思えた。

 なんだ、ちゃんと伝わっていたんじゃない……ただのニコの勘違いだったのね……。よかった……うん、よかった……。

 さっきまでのことを振り返ると、また恥ずかしい気持ちになっちゃう。でも、寂しい気持ちはなくって、胸が熱くなるような嬉しい気持ち。安心しちゃって、つい笑みがこぼれちゃう。それに、イジワルしたくなっちゃう……♪

 

 

「ねぇ、蒼一……今、ちょうど2人だけなのよ……? だから……ね?」

「………!」

 

 耳元でそっと囁いてみると、紅くなった顔が恥ずかしそうに取り乱していた。

 うふふっ、なによ、かわいい顔するじゃないの♪

 

 最後の最後でやっと見れた、アナタの恥ずかしがってる顔♪ 私もまだ、捨てたものじゃないわね!

 

 嬉しさで気持ちが溢れそうになりながら、私は蒼一と――――♡

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

寒くなりましたね。
最近はこの寒さにやられて頭痛に悩まされる日々が続いております。
執筆の方も週一ペースになってきていますね。
徐々にペースを戻していきたいのですが、うまくいかないものです。

次回も来週になるのかな…?


それでは、次回もよろしくお願いいたします。


今回の曲は、
堀江由衣/『Sweet&Sweet CHERRY』

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