蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第165話


残念だったな、トリックだよ

 明弘の脱落の知らせは俺たちに衝撃を与えた。かく言う俺自身がそのことに一番動揺していた。

 バカな……アイツが簡単にやられたって言うのか? ありえない……

 あのサル顔がやられたすぐ後に戦闘不能(リタイア)宣告が告げられた。大方、アイツはちゃんと倒すことができたに違いない。しかしだ、アイツの能力を持ってすれば回避だってできたのではないか? あっさりやられてしまっただなんて到底思えない。アイツを凌ぐ相手がいた、と言うことなのだろうか……? やはり腑に落ちないところだ。

 それは置いといてだ、まだ戦闘は続いている。明弘もあの男もリーダーに選出されなかったからか、ルールに引っかかることは無かったらしい。となると、残った俺たちの誰かがリーダーと言うことなのか……? 守るにしても攻めるにしても苦しい立場にあることは変わりなかった。

 

 

「……まずい。このままだとまずい……」

「相手の動きはどうでござるか?」

「……2手に分かれてる。こっちに直接来るのと、迂回してくるのだ……」

「二度目の総攻撃でしょうな。今度は容赦しないかもしれません……」

 

 新八さんが小さな足場に乗り、壁のわずかな隙間から戦況を見た様子だと戦局は悪いようだ。相手は1人失ったが、こっちも1人失い、尚且つ気絶した藤香さんを抱えている。相手の情報もまったく分からない。明弘をやったヤツがいることも考えれば、苦しい展開になることは必須だろう。

 

「……どうするバジーナ。もう時間が無い……!」

「わかっています……しかし、あるのはたったひとつだけ……」

「……正面から迎え撃つ、それしかないですね」

「蒼一氏……!」

「実際そうするしかないでしょうね。相手は確実に倒しに来る、なら守りに徹するよりか迎撃した方がよっぽど勝機が見えるのではないですか?」

「……違いない。守ってばかりでは負けないが、勝つこともできないからな……」

「相手が2手に分かれたのがよかった、沙織さんは新八さんと佐野さんがいる方に回ってください。俺は別方向から来る相手を何とかします」

「大丈夫でござるか? 誰が相手かわかりませぬが、清一郎氏の仲間ですから手強いはずでござる」

「手強い相手ほど燃えるってヤツじゃないですか。大丈夫です、俺は1人でもいけますよ」

「蒼一氏……」

「……どうやらその方がいいかもしれない。2手に分かれた一方が、佐野と鈴子ペアだ。そしてもう一方がたった1人――」

「――植木か……食えない相手だと思いますが、なんとかしてみましょうかね」

「……あいつの情報は何もない。どんな手を使ってくるのか、十分気を付けるべき……」

「承知してます。学内でも見たことはありますが不思議なヤツです。気を引き締めますよ」

「……と言うわけだ。どうするバジーナ……?」

「……フッフッフッフ……まさか、ここまで追い詰められるとは思ってもみませんでした……ですが、ここまで保ったのは初めてですよ……。攻撃は最大の防御であると、どこかのマスタ―アジアもおっしゃってましたし、正面から行けば清一郎氏の奇策も使えないはずでしょう……やりますか、一か八かの大勝負に!」

 

 膝を叩き景気の良い声を発すると、覚悟を決めた凛々しい顔立ちで沙織さんは立った。新八さんはいかにも、当然だ、と言わんがばかりの様子で、無論俺も同じ気持ちになっている。何もせずに終わるよりかずっといい、たとえ負けたとしても納得のいく形に終われるはずだと確信した。

 

「では、皆の衆。ハジキは持ったかぁ!! いざ参ろうでござるぅぅぅ!!」

 

 唐突に思いついた言葉を発して沙織さんは拠点を飛び出した。何なんだ、そのカチコミに行くヤクザみたいな言い方は、と突っ込みたくなった。

 俺も出て行こうとする直前、新八さんに呼び止められる。

 

「……蒼一、ボムは使うか……?」

「いや、使わないでしょう。どちらかと言えば、沙織さんが持つべきなのでは?」

「……うむ、俺もそう思う。バジーナならこれの本当の使い方を理解できているからな……」

 

……本当の使い方って何だろう……、最後に呟かれたその言葉が異状に気になって仕方が無かった。

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 沙織が飛び出てから間もなく、佐野と鈴子が彼女を発見し射撃戦が始まる。沙織もライフルで応戦するものの全弾外してしまう結果となる。それでつい声色低い舌打ちをして悔しがった。

 

「……バジーナ、顔……」

「おっと、いけませんなぁ。あまりにもイラついて殺意の波動が芽生えそうになったでござるぅ★」

「……………」

 

 追い付いた新八に顔のことを指摘され、ハッとなって元に戻す。苛立ちを隠せないのか眉間にしわを寄せ、飢えた狼のように目元が鋭くさせる。いつもは見せない切り詰めた表情だ。そんな彼女の心境を知ったのか、下手に関わりたくなかったのか、新八は無言のまま受け流すのだった。

 

「さてクリーク、ここからどう巻き返していきましょうか?」

「……現状から見れば2on2……だが、大局を見れば2on3だ。奥にスナイパーがいる……」

「ほぅ、さては明弘氏をやったのはそのスナなのでしょうかな? 前衛に出てるのを除いたら……あのメガネ娘ですか。おどおどしててそそっかしく見えましたが、人は見掛けによりませんなあ」

「……それ、お前が言うか……?」

 

 新八が言うのも当然で、沙織はこの容姿を見せてはいるが、元々は清楚感あふれるどこぞの御令嬢なのだ。しかも、性格も口調も真逆で今の姿を並べさせても同一人物とは思えないほどである。

 

「鈴子氏も中々の挙動でありますなあ。拙者の弾丸で被弾したとは言え、清一郎と良い連携が取れている。いいチームプレイでござる」

「……あの連携を打ち崩すには苦労しそうだ、どうする……?」

「そうでござるなぁ……あ、いい考えが浮かんだでござる!」

「……どんな方法だ……?」

「まあ、ちょっと試してみるでござるよ♪」

 

 そう言うと急に、沙織は大声を上げだしたのだ。

 

「おーーーい! 清一郎! ちょぉ~っといいでござるかぁ?」

「………っ!?」

 

 突拍子もないような行動にさすがの新八も目を丸めて驚愕した。何をやっているんだ? と言わんがばかりの物言い顔を見せるが、沙織はまるで気にしない。

 しかし新八の予想を反して佐野は攻撃を止めた。

 

「なんや、バトル中に相談かぁ?」

「そうでござる。このままやっても時間が先伸びてしまう故、も少し早く終わらせようかと思いまして」

「へぇ~お前からそんなことを言って来るだなんて珍しいのぉ~……何か企んどるのかいな?」

「とんでもない詮索でござるなぁ、拙者がそんなことをするような人に見えるのですか?」

「……見える……痛っ」

 

 ぼそっと辛辣に呟く新八を沙織は軽く蹴飛ばした。

 

「せやなぁ~、そういうこったら構いやせぇへんわ。んで、何の相談や?」

「ふっふっふ、単刀直入に言うでござる。拙者と一騎撃ちするでござる!」

「はあぁ!?」

 

 沙織のまたしても突拍子もないことに、今度は新八だけじゃなく佐野たちも表情を驚かせた。特に鈴子は声を上げるほどだった。

 

「バカなことを言うものではありません! せっかくの有利な状況を捨てるだなんて、そんなこと許されるはずが――」

「エエで、別に」

「はあぁぁぁっ!!?」

 

 厳として受け入れない姿勢を見せていた鈴子に対し、佐野はあろうことか、すぽんと気持ち良く受け入れてしまう。

 

「ちょ、ちょっと清一郎?! どういうつもりですか!? 私に相談も無しに勝手に決めないでください!」

「はははは、まあエエやないか別にぃ~」

「別にぃ~、じゃありません! 軽い気持ちで物事を決めないでくださいよ! まったく、あなたと言う人は昔から―――」

 

 佐野のあの様子からして本当に考えが無いのだろうか? のほほんとした返事をする彼に鈴子はガミガミと説教口調になる。そんな2人の様子は壁が邪魔して見れないが、沙織はどこか可笑しく笑っていた。

 

「まぁ落ち着けや鈴子。俺かて何の考えも無しで(たたこ)うとるわけやない。ちゃんとしたビジョンがあるんや」

「ビジョン? また変なことを企んでそうですわ……」

「疑わしい目で見るんやないわ。ええか? 今の状況はな―――」

 

 口調がだいぶ和らいだのか、佐野たちの会話が沙織たちからは聞こえなくなる。嵐の合間の静寂か……だが、この静けさが逆に気持ちをソワソワさせる。

 現に、沙織たちの会話を傍から聞かされていた新八は気を揉ませていた。

 

「……バジーナ、お前いったい何を考えている……?」

「どうと言われましても、最適な手段を選んだまででござるよ」

「……お前、アイツとタイマンして勝てる勝算はあるのか……?」

「う~む、ハッキリ言えばないでござる!」

「……あのなぁ……」

「――で・す・が、このままであったとしても負ける確率の方が高いですぞ。2on2。傍から見れば同等かもしれませぬが、スナイパーのことも考えれば一気に逆転されてしまいしょう。さっきも何発か正確な射撃を当てに来てたでござる。同じライフルを使っているのに、ここまで厄介なものに変えられる相手の力量は侮れんのでありますよ」

 

 事実ここで使用されているアサルトライフルはどれも同じものだ。スコープもついているが近距離仕様になっているが、例のスナイパーは遠距離からの狙撃を可能にさせている。これとまともにやり合おうとするなど沙織と新八に余裕は無かった。それに気付かない新八ではない。彼は彼女の言い分に返すことができなかった。

 

「拙者の狙いは、あくまで勝率をあげることでござる。あのスナイパー、おそらくは拙者たちと蒼一氏のところを交互に見ているでござるよ。この短いスコープで小さな標的を見るのですぞ、相当な神経を使うはずでござる。そこにもうひとつ標的を作れば……」

「……狙撃の性能が悪くなる……!」

「間違いないでしょうね。けど、それは清一郎も気付いてるはずでしょう。あの鈴子という方、清一郎と同等にキレ者でござる。十中八九、進言するはず」

「……なら、尚更このままの方が……!」

「いいや、あの男はきっと受けるはずでござる。佐野清一郎と言う男は、そういう男なんでござる」

 

 ふっ、と鼻を鳴らすと、沙織は不敵な笑みを浮かばせた。どうしてそんなことを言えるのか、新八には不思議に思えるのだった。

 すると、壁の向こう側から、おい、と声が掛かった。沙織はすぐさま返事すると、佐野からこう返ってくる。

 

「エエで、やったろうか!」

「………!」

「ふふんっ、そうくると思ってたでござるよ!」

 

 偶然の一致なのか、それとも読みを完璧に捉えたのか、佐野の返事は沙織の期待通りとなった。この結果に新八は目を丸くさせ息を呑んだ。

 

「そんじゃあ、俺と沙織の1on1の勝負っちゅうことやから、こっちの鈴子とお前の連れは離れるようにさせるわ。エエやろ?」

「もちろん、異論はないですぞ」

「そういうこっちゃ鈴子。ここは任せときぃや」

「……はぁ……あなたと言う人は、いつもこう……無茶を押し通そうとする……。わかりましたわ。負けるようなことだけは赦しませんわよ?」

「わはははは! 俺が負けると思うたか? ちゃちゃっと終わらせたるわ! 鈴子も負けたら承知せぇへんで!」

「言われなくともですわ!」

 

 自信に満ちた声で言葉を交わす2人。彼の意見に反対し続けてきた鈴子も腹を決めたみたいで気持ちを前に向かせていた。

 

「さて、拙者たちも腹を決めようではないですか」

「……わかってる。どうなろうと俺は負けない。必ず、勝つ……」

「いいでござるよ~クリーク。でも、相手が好みの女であろうと油断はしないでほしいでござるよ~♪」

「……好みじゃ…………ないっ……!」

「ふふっ、バレバレでござるよ♪ 胸も大きいですし、お腹周りのくびれも素晴らしい魅力的なスタイルでありますからなあ、クリークも気になるのも仕方のないことです」

「……だから……違う……!」

「まあ、拙者のプロポーションには劣りますがな!」

「……そこは聞いてない……」

 

 冷静なツッコミに沙織は、ひどいでござるぅ――、と口を尖らせて文句を言う。図星を突かれた新八が嫌々そうに突き放したようなものだ。

 

「……負けるなよ……」

「言われなくとも、でござる」

 

 当たり前だと言わんがばかりに鼻を擦り、渾身のドヤ顔を見せる。ものすごく腹立たしい顔だったが、新八はうすら笑いで返した。

 

「ほな、そういうことや。鈴子、行ってこい!」

「はいっ、ですわ!」

「クリーク!」

「……任された……!」

 

 佐野の合図で飛び出た鈴子に続き、新八も沙織の合図で飛び出した。お互いサブマシンガンを構えだし、1弾倉を無くす勢いで連射を再開。鈴子は身体を身軽に動かし、かすりはしたが致命的には及ばず無事回避。新八も持ち前の俊敏さで難なく回避してみせた。力は互いにほぼ互角。長期戦になるのは目に見えていた。

 埒が明かないことを察した新八は、急にフィールド右に向かって駆けだした。鈴子もそれに釣られて追い駆けていく。

 しかしこれは沙織の策略にすぎなかった。もうひとつの標的をつくる――、沙織の言葉通りに彼は独自に判断し行動したのだ。

 この作戦は、ただ相手スナイパーの命中精度を減らすことを目的としたわけではない。佐野から鈴子を引き離すことが沙織の狙いなのだ。佐野と同等に頭が冴えてる鈴子をこの闘いが始まる前から気にかけていた。三人寄れば文殊の知恵、というわけではないが、あの2人が共に行動し続ければ沙織の考えが読まれてしまう恐れがあった。

 ならばあの時、明弘が鈴子を被弾させた際にトドメを刺せばよかったのにと疑問に思うだろう。けれど、闘いにおいてはその方が好都合なのだ。本来の力を発揮できず、身体の一部が使えないともなれば、仲間から心配の目が向けられる。現に相手スナイパーの森はそんな鈴子を心配し、スコープで何度も彼女の姿を見つめていた。いざという時は自分が守る、と言わんがばかりの気合を胸に込めている。

 となると、スナイパーの気は鈴子とそれに対峙する新八に向けられることとなる。そうなれば沙織にかかる脅威は一段と減る。つまり勝機が近付いたことになる。

 沙織はここまで計算していたのだ。

 

 

「さぁ~て清一郎、準備はできてるでござるか?」

「嫌味ったらしい言い方やなぁ。当たり前や、俺はいつでも準備はできてるんやで」

「では、心気なく戦えそうですなぁ~♪」

 

 気掛かりとなる相手がいなくなったことで余裕ができたのか、沙織はうすら笑いを見せる。今度こそ勝てるでござる――、と積年の恨みを晴らすかのような気持ちだ。佐野もつい苦笑いしてしまうほどだ。

 だが、闘う気持ちだけは変わらない。一瞬の隙も見せないとする思いで銃を構える。素早く撃てるようにと壁の見切れるところにまで身体を寄せた。一瞬で終わるか、それとも長引くのか……いずれにしてもここ一番の激戦になることはお互いに目に見えていた。

 

「さあ、いくでっ!」

「いくでござるよっ!」

 

 お互いに声を高らかに上げた。

 

「「Set,Go!!!」」

 

 無数の弾丸が砂埃のように舞った―――

 

 

 

 

 

――

――― 

――――

 

 

「戦闘が始まったか―――」

 

 拠点を出て間もなく沙織さんたちの方から銃撃戦の音が響いてきた。猪武者のように猪突猛進していった沙織さんだが、簡単に負けるようなことは無いだろうと信じたい。たとえ相手の挑発があったとしても新八さんがストッパーになってくれるはずだし、こっちが心配することは無いだろう。

 

 いま心配しなくちゃいけないのは――俺の方か……

 

 拠点から左翼に走った俺は相手の侵入を防ぐために待機し始める。身体半分の高さの壁を盾に身体を縮込ませて相手が来るのを待っていた。

 さて、どう出てくるのだろうか……

 植木耕助。

 いつも教室の端っこで机に突っ伏して寝ているあの男。何を考えているのか分からず、どこか腑抜けてて頼りなさそうだ。その相手を俺がするのかと思うと変な気分になる。言葉並べても対して強そうには思えない。けど、その分異質なんだ。読めない。植木耕助の思考がまったく読みとれないんだ。弱いとか強いとかハッキリわかればいい、けど、あの男にはそれがまったく見えない……。何か、内に秘めているモノがあるようで、ないような……。

 こうした心のざわめきが度々湧き上がってくるから無暗やたらに行動できないでいる。くっ……冷汗が出てきた……こんなにも変な気持ちにさせられたのは初めてかもしれない……。まるで、目に見えないモノと闘っているみたいで……

 

 

「………っ!」

 

 身を潜ませていると、コツコツと床を叩く足音が近付いてくる。来たか――、と武装を両手に構え、臨戦態勢に入った。身体を起こせば、すぐ目の前に現れるかもしれない……多分、一瞬で決まるかもしれない。

 肩に力が入り、手汗が滲み出る。銃を持つグリップが汗で濡れ、トリガーあたりも滑りやすくなっている。触り心地は最悪。それでもちゃんと掴めて入るのだから問題ないと自分に言い聞かせた。

 

 足音は着実にこちらに向かっている。耳にする音も大きくなってるし、気配もハッキリしてきた。もう少し……もう少しだけ引き寄せるんだ……。息を殺し、頃合いを伺う。絶対に逃すわけにはいかないと、腹をくくり両手を強く握った。

 

「………ッ」

 

 ちょうど生温かい空気が頬をかすったので、とうとう来たようだと思いドッと飛び出した。すぐ撃てるように腕は伸ばさず手首を捻る程度に構える。これで終わった――、そう確信していた―――

 

 

 

 

――はずだった

 

 

 

 

「――おわっ……!? びっくりしたぁ……!」

「―――っ!?」

 

 身体を立たせた瞬間、目の前に植木が現れた。俺は尽かさず手を動かして一気に仕留めようと思った……が、何故か手が動こうとしなかった。

 何故か?

 視線を上げた俺が見た植木が、ぽけぇっと腑抜けた顔で驚いていたのだ。

 なんて緊張感のないヤツなんだ……もっと張り詰めた、息も詰まるようなモノを予想していたと言うのに、これでは拍子抜けだ。おかげで戦意が削がれてしまった気持ちになる。

 はぁ、と大きな溜め息を吐いて、何と言いだせばいいのやらと難しい顔で言う。

 

「あの、さ……お前、闘う気があるのか……?」

「あぁ~、忘れてた」

「忘れて……うぅん……」

 

 何とも言い難い気持ちと言うのはこう言うことなんだろうか。まさか、この期に及んで何も考えていませんでした、か……こんな能天気もよくいたものだ……。しかもよく見てみれば、武器をホルスターにはめたままで構えちゃいない。何しに来ているんだ、と怒鳴りたくなる。

 だが、この顔を見てるとそんな気さえ無駄のように思えて、さらに気分が落ち込む。まったく、呆れたものだ……。

 

 

 バシュッ―――

 

「「!!」」

 

 全身から気が抜けようとする刹那、俺の近くに一発の弾丸が飛来した。幸いにも当たる距離にはいなかったモノの、遠くから雷のような怒号が飛んできた。

 

「コオォラアアァァァァ!!! ちゃんと闘いなさいよ植木ィ!!! さっさと倒しちゃいなさいよ!!!」

 

 なんちゅう迫力だよ、圧が強すぎて風でも吹いたのかと思ったわ! 声量だけじゃなくって、烈火の如き激怒を全身から放出させている。それが俺に向けられていないとわかっていても、とばっちり感を抱いてしまう。

 やっぱしアレか? 予定を狂わされたからその腹いせみたいなのかと青ざめる。女の怒りは恐いからなぁ、と以前身に受けたことを思い出して身震いしてしまう。

 

「あー……参ったなぁ……でも、森が早くしろって言うしなぁ……」

「う、うん……なんか苦労してるんだな……」

「まーな。けど、ちゃんとしないとまた怒られるから、ちょっとだけ頑張るようにするわ」

 

 と言うと、植木は両足に装着したホルスターから2丁のハンドガンを取り出した。

 二挺拳銃(トゥーハンド)――?

 植木が構えた装備に思わず目を見開く。サバゲ内においてもFPSにおいても、そんな装備をする人を見たのは初めてだった。射程も短く、自動連射ができない、総弾数も少ない。だが、銃本体が小さいことから小回りが良く効くのと身体能力に合わさった動きが可能になる。身軽な人が扱うと言うイメージだ。

 玄人向けにしか思えないそれを扱うと言うのか? 嫌な予感しか過らなかった。

 

「それじゃあさ、お互いフェアでやりたいからちょっと下がってから始めようか」

「あ、あぁ……わかった……」

 

 終始腑抜けた表情を崩すことなく植木は背を向けて淡々と後ろに進んでいく。そんな彼の背中を見つめることにいっぱいで銃を握ってることさえ忘れてしまいかける。冷静なのか、それともそういうヤツなのか……訳もわからぬまま俺はポツンと立ち尽くしていた。

 

 気が付けば、植木は俺から20歩くらい離れたところに立っており、俺を見て言ってくる。

 

「おーい、それじゃあーやってもいいかー?」

 

 ノリが軽いな……本当にこんな感じで闘うつもりなのだろうか……?

 少し首を傾げたくなるのだけど、ここで常識を語ったって何も始まらない。だったら受け入れてしまえとばかりに割り切って返事をする。

 

「あぁ、わかった。いつでも構わないぞー!」

 

 すぐ終わるだろう、と高をくくったような気持ちで返した。

 植木の方は、ああ――、と相槌を打ったと同時に近くの壁に潜み始めた。開口一番に撃つものかと思えば、慎重な手を使ってきたな。正しいと言えば正しい判断だ。後ろのスナイパーと連携すると言うのであれば、長期戦を望んだ方がやりやすいだろう。

 ならばこちらは逆手をとって短期決戦で行かせてもらうとするか。相手が慎重になっているのであれば、こちらが積極的に動けばいい。どちらが有利になるかはそこでは決まらない。流れをうまく掴むことが肝要なのだ。

 そう言うわけだから、俺は隠密的に行動して相手の不意を撃つことにしようと決めて近くの壁に逃げ込もうとした。ひとまずは気持ちを整えようとするつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――よっ」

「―――ッ!!?」

 

 

 

 逆に不意を突かれてしまうまでは―――

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。
最近は春の陽気がやってきて、気持ちの良い日差しに身体を干しています。あったかいです。花粉辛いです。でもあったかいです。

次回もぬくぬくしながら書きます。

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