「プロデューサー、ベロだよベロ!」
いつだって似たような感じだ。
俺とフレデリカがこうやって遊ぶのは。
そもそも遊べるようにスケジュール調整しているのだから、平日の昼に起こりがちなのは当然である。
今日もまた例に漏れず、いつものようにフレデリカが遊びを持ってきた。
「ベロ?舌のことか」
「そう舌。ベロりんちょ」
「舌がどうしたよ。あ、今のは駄洒落じゃないぞ」
「よ、よよよ・・・信じていたプロデューサーがダジャレを・・・」
これもまたいつものように意味不明なリアクションをとるフレデリカ。
一昔前の映画に出てくる王室仕えの女官みたいなポーズをとりながらへたり込む。
例のごとく俺と彼女以外に事務所には誰もいなかったが、はたから見ればちょっとよく分からない光景だろう。
宮本フレデリカとはそういう女だ。
19歳。フランスと日本のハーフ。にもかかわらずフランス語は話せない。
言動は概ね不審。一般人からすればアイドルなのか芸人なのか判別つくまい。
かと言って頭パッパラパーかというとそうでもない。知識がなくても知恵があるタイプとでも言おうか。
今もその均整がとれすぎた身体を惜しみなく使って哀しみを表現している。
「駄洒落の一つも許されない風潮な。正直息が詰まります」
「オモシロくないジョークは災いを呼ぶよ? 人によっては刺されちゃうよ?」
「世紀末かよ」
「蝋人形にされるよ?」
「聖飢魔IIかよ」
「角界に物申すよ?」
「デーモン閣下かよ」
「曹操の知恵袋だよ?」
「郭嘉かよ」
「今です!」
「孔明じゃねぇか」
お互いの自己満でしかない不毛な会話をしばらく続ける。
なんやかんや気が合うのだ、俺たちは。でなければ付き合ったりしない。
人間は気の合う者同士、平和に静かにやるのが良いと思う。
俺もフレデリカも、お互いがいるからこの程度で済んでいる。理解者が現れないというのはとても苦しいものだ。
さて、話題を元に戻そうか。
「で。舌の話だろ?」
「そうだった! フレちゃん危うくプロデューサーの巧妙な話術に騙されるところだった」
「それが今日の遊びか?」
「そうだよ、でもゲンミツに言うと・・・」
そこでまた怪しい光を瞳に灯すフレデリカ。
悪巧みしてますよ、と言わんばかりの。
ツッコムと先に進まないので、早く話を続けろと顎で促す。
「今日はね、舌マッサージ! しようと思うんだー♪」
「・・・あ?」
そんな昼下がり。
「それじゃあ行くよー、いい?」
「・・・」
「あ、指つっこんでたら喋れないね? じゃあイキまーす♪」
ソファに横たわり、フレデリカに膝枕をしてもらう。
そんな俺の口腔内。
舌を両側からつまむフレデリカの指。
彼女の親指と人差し指が頬を限界まで押しのけて俺の口の中へ入っている。
「ほーいっ」
「・・・んが」
彼女の指に軽く力が入った。
俺の舌が左右から挟まれる。舌の肉が押しつぶされ、ビリビリと鋭いが心地よい痛みが走った。
舌根の方、奥の方から舌先へと挟まれたまま指がスライドした。
ああ。
なるほど。
これはマッサージである。
「フフ、気持ち良さそう・・・」
「・・・あー」
「ほれ、くにくにー」
「・・・うあ」
今度は縦に挟まれ、点を圧すように薄い舌を揉まれる。
ぐにぐに。くにくに。
痛気持ちいい。
これは、ふつうに、ありだな。
というか、マッサージそのものの背徳感もあるが、思ったより繊細で優しい指運びをするフレデリカに対してアレな感情を抱きそうになる。
自分の中の劣情を圧し殺し、マッサージに集中する。
フレデリカから見たら相当間抜けヅラになってるんだろうな、と考えながら。
・・・うむ、なんだか、やすらぐぞ。
ふと、フレデリカを見つめてみる。
「?」
「・・・」
「ンフ、どうしたのプロデューサー」
思わず、跳ね起きそうになった。
彼女が時折見せるギャップは、破壊力が高すぎる。
なんだその慈愛に満ちた優しい声は。表情は。
母のような、姉のような。
愛おしそうな顔をするんじゃない。
危うく押し倒しそうになった自分を制御する。
・・・大丈夫だ。
「・・・」
「よしよーし、フフフ♪」
ああ。
だめだ。コイツ。
分かっててわざとやってるのではないかと勘ぐりたくなる。
これ以上は、マッサージ自体もそうだが、フレデリカの愛らしさにやられてしまう。
脱出しよう。
「あれ? もういいの?」
「・・・ああ、十分だ。ありがとう」
起き上がって、予想以上に気持ちよかったよ、と伝える。
「フフフーン♪ ってことは大成功だね?」
「ああ。これはとても良いものだった」
「ヤッタ。フレちゃん大勝利ー♪」
何と戦っているのかは知らないが大勝利らしい。
・・・さて。
「よいしょ、じゃあ交代だな」
「・・・アレ?」
「アレ? じゃないだろ。今度は俺がマッサージしてやるよ」
「い、イヤイヤイヤ、フレちゃんはダイジョウブだよ?!」
「大丈夫ってお前、なんだ恥ずかしいのか?」
赤面しながら後ずさるフレデリカ。
どうやら自分がされることは想定していなかったらしい。
いや、その、とかモゴモゴ言っている。
「なんだよ、イヤなのか?」
「・・・だから」
「ん?」
「アタシ一応アイドルだから、変な顔はしちゃダメだし、それに」
それに?
「プロデューサーには、イチバン見られたくないかな、って」
もじもじ、と。顔を赤に染めながら。
そう言った。
まったくもう、こいつは。
「分かったよ、じゃあ夜、代わりに何でもしてやるよ」
「ホント?! 何でも?」
「してもらいっぱなしはいかんでしょ。ギブアンドテイク」
「じゃあじゃあプロデューサー、お城を買って! 二条城みたいなヤツ!」
「徳川幕府将軍かな?」
「宮本幕府の第1代将軍だよ♪ プロデューサーは宦官ね」
「大陸文化と混ぜるのやめろよ。あとさりげなく俺を去勢するな」
そんな昼下がり。
やっぱりフレデリカ可愛い