しかし、誰が悪を裁くのか?   作:SKYbeen

9 / 10
第9話

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 ロールシャッハ記 帝歴一〇〇六年 四月二十日

 

 

 そもそも俺は初めからここに居るべきではなかったのかも知れない。ナイトレイドの実態を把握する・・・・・・その目的で近付いたが、しかし俺が思い描いていたものとはかけ離れていた。

 

 彼らの力が強いことは認めざるを得ない。掲げる正義も一応は形になっているとは思う。だがそれもあくまで外側だけだ。今のままでは死人を出すばかりでろくな戦果も上げられないだろう。腐敗した帝国を変えると豪語していても、果たして実現出来るのだろうか。少なくとも俺はそうは思えない。

 

 ナイトレイドという組織は、やはり俺にとっては障害足り得る。帝国のクズ共を裁く過程で否が応でも対峙するだろう。無論、手加減などは小指の先程も考えてはいない。邪魔をするなら殺すだけだ。

 ただ、タツミには正直手を出したくはない。あそこまで純粋な人間はそういないから。仮にそうせざるを得ない時が来れば俺は躊躇いなく頭を砕く。だが、晴れない気持ちになるのは確実だ。

 思えば、俺は少し腑抜けていたのかも知れない。誰かを案ずることなど未だかつてあっただろうか。ダニエル以外には思い付かない。

 

 俺は一人だ。今も、ニューヨークで街を駆けたあの時も。その方がいい。裁きを下すのは俺一人で充分だ。味方が誰一人居なくとも、例え世界中が敵だとしても、俺は妥協するつもりはない。

 

 ・・・・・・味方か誰一人居なくとも、というのは語弊があった。

 

 

 最初から俺に味方などいない。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 薄汚れた手帳を机に放り、暫し考え込む。

 

 ロールシャッハは確かにナイトレイドという組織の一員だった。手となり足となり、暗闇の中に潜んで悪を裁いた。過程こそ違えど、それはかつての自身と変わりない。

 たった一つの相違点を上げるとすれば、そこに行動を共にする者達がいたということ。帝具を用いる殺し屋達・・・・・・常軌を逸した力で持って断罪せしめる彼らには驚かされた。良い意味でも、悪い意味でも。

 だからこそ、ロールシャッハは彼らと相対する必要がある。いずれ戦わねばならない理由がある。

 

 人の本質に絶望し、それでいてなおロールシャッハは人々を護ってきた。下衆の牙に引き裂かれる罪なき者達を。どこに居てもそれは変わることはないが、この世界に至っては邪魔な障害が多すぎる。帝国然り、ナイトレイド然り。

 

 

「潮時か」

 

 

 此処に居た時間は長くはなかったが、それなりの情報は得た。個々の力量、組織としての実態、彼らの行動理念。陳腐と言えばそこまでだが、決して侮ってはいけない部分も多い。帝具もそうだが、実力のある人材がまとまったとなると大きな勢力となる。実際、戦闘力にのみ注力すればナイトレイドは大層強力な集団だ。個人個人ならともかく、多人数で来た場合はロールシャッハでも勝ち目はない。

 

 引き上げるなら今がベストなタイミングだろう。ただ、その前にやることが幾つかある。

 ロールシャッハは投げた手帳を手に取り、筆を走らせる。書き終えるとそのページを千切り、手帳の中へと忍ばせた。

 

 仮初めの協定だったが、彼らの元で過ごした時間は無駄ではなかった。無論、仲間意識が芽生えることはない。ロールシャッハにとって有意義な情報を得られたという意味では確かに良かったと言えるだろう。ならばせめてもの、"別れの挨拶"くらいは必要だ。

 

 手帳を机に置いたまま、ロールシャッハは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 自室。ナジェンタは深く思案していた。無論、それはロールシャッハのことだ。

 

 ロールシャッハ。得体の知れないマスクの男。この世の全ての悪を憎み、復讐を為さんとしている。だがそんなことは出来はしない。出来るはずもない。奇跡でも起きない限り、世界から悪の芽を摘むことなど不可能だ。人に善悪の観念がある以上、必ず不貞を働く者はいる。それはナジェンダほどの者でなくとも分かりきっていること。

 

 しかし、ロールシャッハはそうとは思っていない。それが出来ると考えている。いや、そう思い込んでいるとしか表せない。あらゆる悪を滅ぼし、罪に報いる。それを為すのが自身の義務なのだと。強迫観念にも似たその意思はナイトレイドの誰よりも強く、そして異常だ。狂っている。

 

 

(ロールシャッハ・・・・・・お前はいったい・・・・・・?)

 

 

 かつて帝国側に居た時、彼女は多くの人間を目にしてきた。中にはロールシャッハのような者も居た。それでも彼らには"妥協"することが出来た。そうしなければ人は自分を保てない。折れることが出来なければ待っているのは破滅だからだ。

 

 その破滅の道をロールシャッハは進もうとしているのか? 自らの命がどうなってもいいのだろうか? 彼の考えていることが分からない。あのマスクのように、彼の善悪は混ざりきることはなく、世界は完全なる白と黒としか見えていないのだろうか?

 彼の果てには滅びしかない。だがそれでもなおロールシャッハは歩みを止めないだろう。

 

 だからこそ、今一度問わねばなるまい。あの男の真意を。

 

 

「ボス、ちょっといい?」

 

「・・・・・・ああタツミか、入れ」

 

 

 丁度ノックの音がナジェンダの耳に届き、ハッと目を上げる。どうやらタツミが自分に用があるらしい。入るよう促し、タツミは畏まりながら部屋へ踏み入った。

 

 

「そう強ばらなくてもいい。何か用があって来たんだろう?」

 

「あ、えっと。ロールシャッハさんが話がしたいって」

 

「・・・なに? あいつがか」

 

「なんか大事な話らしいんだ。部屋で待ってるって言ってたけど」

 

「・・・・・・」

 

 

 ナジェンダはロールシャッハの全てを把握したわけではない。だが、性格や性質は少しだが理解できる。用心深く人を信用しようとしない男が一対一で話がしたいなど、何か裏があるのではと勘繰ってしまう。彼に与えられたのは窓もない倉庫、つまりは密室。仕掛けるには充分過ぎだ。

 

 ただこのタイミングはベストかも知れない。ナジェンダ自身、聞きたいことは多くある。タカを括る訳ではないが、ロールシャッハの性質上情報を提供した者の命までは取らないだろう。もしそうなったとしてもナジェンダ程の実力ならなんとでも出来る。いずれにしろ、用心せねばなるまい。

 

 

「分かった、今行く。すまんなタツミ」

 

「ロールシャッハさんには伝えておく?」

 

「いや、その必要はない。お前はこのあと皆と任務だろう? 万全の状態で行けるようにしっかり準備しておけ」

 

「ああ、分かったよボス」

 

 

 そう言うとタツミは部屋をあとにした。このあとは全員が任務に当たる。しかし、ロールシャッハは今回組み込まれてはいない。今このアジトにはナジェンダとロールシャッハの二人しか居ないのだ。これにはますます注意を払う必要がある。

 

 フゥ、と一つ息を吐き、ナジェンダはロールシャッハの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ロールシャッハ、入るぞ」

 

 

 手早くノックし、部屋へと入る。出来る限り周囲に神経を尖らせながらゆっくりと。だが、部屋には誰も居なかった。あるのは机の上で揺れるロウソクと乱暴に投げられた手帳のみ。肝心のロールシャッハ本人はどこにも居ない。

 

 

「あいついったい何処へ・・・・・・これは?」

 

 

 周りを見渡しても姿は見当たらない。気配も感じず、となれば何処かへ行ってしまったのだろうか。人を呼び出しておいて何とも失礼な男だろう。やれやれと思いながら、ナジェンダはふと机の上の手帳に目を落とす。ロールシャッハがいつも書き殴っている手帳だ。かなり汚れているところを見ると年季の入っている代物だと分かる。手に取って適当に日記を見てみると・・・・・・。

 

 

(・・・・・・ま、全く読めない・・・・・・)

 

 

 そこに記されているのは子供の落書きと見間違う程歪な文字だった。それもその筈、ロールシャッハの書く文字はこの世界の言語とは異なる英語であり、かつ金釘流という他人には読まれにくい自体を敢えて使っている。ナジェンダが読めないのも当然であった。

 

 

「おっと・・・・・・メモかなにかか?」

 

 

 パラパラと捲っていると小さく折り畳んであった紙面が床に落ちる。ロールシャッハのメモだろうか。手帳に記さずわざわざ別の紙に書いているのが気になるが・・・・・・。ナジェンダはそれを拾い上げ、紙を広げて内容を見る。そこにはこう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BeHinD yOU.┓┏.』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不用心だな」

 

「ッッ!?」

 

 

 突如として巨大な衝撃がナジェンダを襲う。床に組み伏せられた彼女が聞いたのは、他でもないロールシャッハの声だった。

 

 

「お前・・・・・・ッ・・・・・・いったいどこに・・・ッ」

 

「HUNH.俺は最初からここにいた。気付かなかったか? 今度周りを見る時は上にも注意することだ」

 

「・・・! そうか・・・・・・天井に」

 

 

 なんて失態だ。ナジェンダは歯噛みする。神経を張り巡らせていたつもりだったが、気配を消して天井に張り付いていたなんて考えもしなかった。確かに彼のフックショットを使えばそれも可能だが、そんな盲点を突かれてしまうとは。

 振りほどこうにもびくともしない。むしろこちらの肉体が痛む。そうなるようにロールシャッハは組み伏せたのだ。

 

 

「・・・・・・話があると言っていたな。ならこんなことをする必要もないんじゃないか?」

 

「HUNH.お前も分かっていたことだろう。甘かったがな」

 

「くっ・・・・・・何が目的だお前は」

 

「俺はここを出る。別れの挨拶というやつだ」

 

 

 ロールシャッハの声色は変わらず冷たい。もし不振な動きをすれば即座に無力化する為の手段を行使するだろう。それにこの力。ナジェンダでさえ振り払えない腕力。単純な筋力依然に一切の容赦がない。仮にも共に戦ってきた仲間だと思っていたが、やはりそうではなかったのだ。

 

 

「ふん・・・・・・ご丁寧にどうも。さっさと行ったらどうだ? それとも私を殺すか?」

 

「今お前を殺したところで俺に利点はない。せいぜいお前の仲間から恨みを買う程度だ」

 

「ならなぜ組み伏せたりする。普通に言えば止めはしないさ」

 

「確かめたいことがあったんでな。お前といえど、あの淫売のようにキレられては溜まったものじゃない」

 

「ほう。私が我を忘れ怒る程の質問なのかそれは?」

 

「・・・・・・」

 

 

 少しの沈黙。ギリギリと軋むナジェンダの義手以外、息遣いさえも聞こえない。緊迫した空気の中、ややもしてロールシャッハは口を開く。

 

 

「・・・・・・この数日、お前達を見ていてはっきりした。ナイトレイドという組織では到底帝国など救えはしない」

 

「救えない・・・・・・か。どうしてそう思う」

 

「簡単なことだ。お前達には信念がない」

 

「・・・・・・なんだと?」

 

 

 信念がない───ロールシャッハの言葉に少しばかりの怒気がナジェンダに顕れる。

 

 

 

「言葉通りの意味だ。前にも言ったな、『自分達はただの人殺し』と。お前達自身に確固たる信念がないからそんな戯れ言をほざくことが出来る」

 

「ふざけるな。私達に信念がないだと?

 撤回しろロールシャッハ。私達は命を賭して戦っている。全てはオネストを倒し、腐った帝国を終わらせる為だ。それを信念がないと切り捨てるのは余りにも勝手過ぎるぞ」

 

「HEH.笑わせるな。お前達はオネストを殺すことばかりでその先に目を向けようとはしない。確かにオネストが消えれば多少はマシになるだろう。

 

 しかしそれで悪が消えてなくなったとでも?

 血肉を貪り私腹を肥やすクズが居なくなると?

 

 ふざけているのはお前達だ」

 

 

 猛るナジェンダ。しかしロールシャッハの抱く憤怒は彼女の怒りよりも数段上を行っていた。

 先を見据えぬ戦い。今ナイトレイドは目先の敵に囚われ、蔓延ってばかりの悪に目を向けようとはしない。例え元凶たるオネストを始末したところで、一旦は治まるだろうがまた新たな悪は誕生する。潰しても潰しても奴らは無尽蔵に沸き、人々を骨まで喰い尽くすのだ。

 

 そんなことはさせない。止めなければならない。その為にはあらゆる感情を捨て、一切の妥協も許さぬ信念が必要だ。ナイトレイドにはそこが抜け落ちている。自らをただの人殺しと思っている限り、その悲願は達成出来ないだろう。そうロールシャッハは確信しているのだ。

 

 

 

「所詮お前達は革命が終わるまでの駒だ。役目が終われば投げ捨てられるポーンでしかない。だからそんな台詞が吐ける。『ただの人殺し』とな」

 

「・・・・・・ッ」

 

「お前には少し期待していた。他の奴らとは違うのだと。だがやはり所詮は『ただの人殺し』だったようだ」

 

「・・・・・・どうしてだ。どうしてお前はそうまでして悪を憎む? 罪を滅ぼそうとする? お前はただの人でしかないんだ。間違っても神様なんかじゃない。そんな事が出来るわけがない! いったい何故だ!?」

 

「決まっている」

 

 

 脳が揺さぶられる。ロールシャッハの振り下ろした拳はナジェンダの頭部にめり込み、大きな衝撃を与える。死ぬまでは行かないにせよ、その意識は数秒と保っていられないだろう。薄れゆく意識の中、立ち去るロールシャッハの背中を、そして暗闇に紡がれた言葉を耳にする。

 

 

「絶対に妥協しないと決めたからだ」

 

 

 それを最後に、彼女は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「────ス──!──ボス!!」

 

 

 朧気に届く声。目を覚ましたナジェンダが最初に見たのは泣きだしそうな面持ちで呼び掛けるラバックだった。まだ頭が働かず、殴られた箇所が鈍く痛む。薄ぼんやりとしながらもナジェンダは意識を保とうとした。見れば、周りには他の面子も揃っている。

 

 

「ラバック・・・・・・皆任務を終えたのか」

 

「ああ。さっき戻ったばっかりさ。ナジェンダさんの姿がないもんだから探してみたらこんなとこで倒れてんだもん。ホンっとに心配したんだぜ!」

 

「すまない」

 

「ボス、いったい何があった?」

 

「・・・・・・ロールシャッハの奴に一杯食わされてな」

 

 

 その言葉を聞いた時、全員に戦慄が走る。

 

 ナジェンダに、このナイトレイドという組織の長に危害を加えたのがロールシャッハだという事実。それを皆どこかで感じていたのだろう、納得したようでいながらもその面持ちは穏やかではない。これは明らかな裏切り行為、組織に歯向かう反逆者の仕業だ。

 

 

「アイツ・・・・・・! とうとうやりやがったな。ぶっ殺してやるッ!!」

 

「いや、止めておけレオーネ。奴には極力手を出すな」

 

「そうは言ってもよボス、俺らの頭がこうもやられちゃ黙ってるわけにもいかねぇぜ? 殺さないにせよ、相応の報いってやつは受けさせるべきだ」

 

「ダメだ。許可はしない」

 

「・・・・・・どうしてだ?」

 

 

 頑としてロールシャッハの処罰を許可しないナジェンダ。釈然としない空気の中、アカメは理由を問うた。そしてそれは恐らく、自分が感じていたものと殆ど同じだろう。そうアカメは予感していた。

 

 

「奴は・・・・・・ロールシャッハは最早我々では及ばない場所にいる」

 

「・・・・・・ボス」

 

「お前達も分かっただろう、あの男の異常さが。下手に手を出せば大きな痛手を被る可能性が高い。なにせ奴はタダでは終わらん男だ。タチの悪いことにな」

 

「だからって・・・・・・! アイツを野放しにしていいのかよ!?」

 

「奴はこの世界に大きな影響を与え得る。良い意味でも、悪い意味でも。だからこそ我々が手出ししていい存在じゃない。

 奴の行き着く先は破滅だ。自ら滅びの道を進んでいる。そうだと知っていてもロールシャッハは止まらないだろう。例え世界が滅びても奴は絶対に妥協しない。

 ・・・・・・すまないな、皆。手を出すなというのは私のエゴでしかない。だか私は見極めたいんだよ。ロールシャッハという男の行く末を・・・・・・」

 

 

 絶対に妥協しない───途方もない意思でもってロールシャッハは走り続けてきた。その身がどれだけ傷付き、死へ追いやられようとも構うことなく。世界を蝕む悪を裁く為に、彼は戦い続けた。

 妥協しないということは自身が下したあらゆる決断を曲げないということ。何にも折れることのない精神は気高く雄々しく、同時に歪で異常だ。

 

 ナジェンダは確かめたかった。ロールシャッハがただのイカれたサイコキラーなのか、それともモラルが地に堕ちた世界で一人戦う聖戦士なのか。彼の進む道の果ては本当に破滅なのか。

 

 

「・・・・・・〜〜ぁあクソっ! 分かったよ。ボスがそこまで言うなら納得するしかないじゃんか」

 

「・・・・・・すまない」

 

「けどよボス、流石に奴からけしかけてきた時はやっちまっていいよな?」

 

「ああ、それは構わない。だがその場合は細心の注意を払え」

 

 

 ロールシャッハの処遇は結局静観、向こうから手を出した場合は応戦という形になった。完全にナジェンダの願いでしかないが、なにより信頼のおける団長がそう懇願するなら聞き入れる他あるまい。

 ラバックがナジェンダを介抱しながら皆部屋をあとにしようとすると、何やら焦った表情のマインが飛び込んでくる。

 

 

「ねぇ! ザンクから回収した帝具知らない!?」

 

「いや、見てないな。どうしたんだ?」

 

「それがどこにもないのよ! 保管庫にもないし、どこを探しても全然見つからないのよ!」

 

「・・・・・・まさか」

 

 

 帝具スペクテッド。ザンクから回収し、程なくして革命軍本部へ送り届ける予定だったが・・・・・・恐らくはロールシャッハが奪取したのだろう。タツミはともかくとして他の面々が紛失などする筈がない。

 あれは視覚を強化する帝具。ロールシャッハにとってはかなり役立つものに違いない。全く、最後までやってくれる男だ。呆れると共に、ナジェンダはどこか感心していた。

 

 

「多分だがロールシャッハの仕業だ。まぁ、本部には私が何とか言っておく」

 

「はぁ!? アイツがなんでそんなこと──」

 

「それについては説明する。皆会議室に集まってくれ」

 

 

 ナジェンダはラバックに手を借りながら会議室へと足を運ぶ。

 ロールシャッハが帝具を手にしたというのなら途轍もない脅威になる。自分達の前に立ちはだかった時、どう対処するかも考えておかなければならない。今はまだ様子見をすると決めたが、最早彼はナイトレイドにとって"敵"だ。

 

 これから先、ナイトレイドには打ち破らねばならない壁がある。

 

 一つは帝国。

 そしてもう一つは───ロールシャッハ。

 

 

 

 

運命のインクが再び滲み出した。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。