余命一か月な恩人と介護要員な俺   作:ましほ

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モブオリキャラはまるっきり一般人なため、最初っから戦争的にはまったくもって戦力外通告…どころかまともに状況把握もできていません。残念!

※Pixivとのマルチ投稿です。



勇太、介護要員になる

 俺、東勇太。ただいま介護員やってます。

 お仕事の内容は、左目失明かつ左半身麻痺を患った男性の介護だ。ちなみにこの人、俺の恩人。俺が思春期真っただ中、盗んだバイクで走りだしたり窓ガラスを叩き割って回っていた頃に何かと世話になった人である。

 時は流れて、いろいろなバイトやら何やらを転々としつつも何とか大人と言える年齢になった俺が、彼と再会したのは偶然だった(この時の彼は普通に元気で五体満足だった)。で、積もる話もあるからまた日を改めて会おう…なんて約束をしたのに、その後の彼は連絡がつかなくなってしまった。

 でもなんだかどうしても彼に会いたくなった俺は、以前聞いていた彼の実家に突撃をかまし、そこで変わり果てた彼の姿を目の当たりにすることとなったのだ。で、なんやかんやとありつつも、めでたく俺は彼専属の介護員の座に収まることとなった。

 俺はこの時、バイトを転々としてきた自分のことを褒めてやりたいと思ったね。何せ俺、数あるバイト経験の中に老人介護施設での介護経験がけっこうありましたから!(ちなみにこの死にかけている恩人は二十代だよ! マジ薄命すぎる)

 

 

 

 正直いって再会してからの一週間足らずでいったい何があった!という気持ちでいっぱいだ。なにせ、ほんの一週間前までは黒髪黒目、言っては何だが可もなく不可もなくな極々平凡無難な普通顔だったはずなのに、なんだか一気にやつれ果てて総白髪になっていたのだ。そのうえなんだか体を引きずって歩いていて、あちこち具合が悪いのは一目瞭然だった。

 だがしかし、彼がどうしても言いたくなさそうなので俺もなぜそうなったのか深くは追求していない。いや、軽く説明はしてもらったが俺の短い人生で培った常識では理解不能だった。魔術、修行、蟲? ごめんなさい、はじめ聞いたとき、何その厨二?とか思っちゃった。とりあえず、世間一般の常識では測れない世にも奇妙なご実家事情のために、劇的ビフォーアフターしてしまったということは把握した。

 ただ、なんとも不自由そうであるし辛そうなので、俺は彼が歩くのを補助するのは勿論、着替えや入浴、食事の介護もさらっとしている。

 ちなみに二度目の再会の後もどんどんと容体は悪化していき、今現在の彼は血反吐や蟲(!?)やら吐き散らかしつつ、既に棺桶に片足突っ込んでるとしか思えないズタボロな状態にまでなってしまっている。

 そんな彼の世話をするのはなんともヒヤヒヤするのだが(もう骨と皮のような細さに脆さなので、いつうっかりポキッとかしてしまうんじゃなかろうかと心配)、彼は反骨精神旺盛でなかなかにガッツもあるので、あまり全面的には頼ってくれない。無理に世話を焼こうとしてもさり気にスルーされてしまったり、「そこまでさせるわけにはいかない」とかってキパッと断られてしまう。

 なので、あくまでさらりと自然に、でしゃばりすぎずあくまで自然に(大事なことなので二回言いました)介入する必要がある。

 特に食事は気を使っている。なにせ、彼の左半身麻痺は口元や表情筋にまで及んでいるので固形物が上手く食べられないのだ。そのため、半液体状態の食事を準備したり食べやすいような食器を準備したりと細々した気遣いが必要だった。

 ちなみに、ここでも老人施設での経験が生きた。ほら、歯抜けな爺ちゃん婆ちゃんのための特別メニューとかも用意されてたし、そういう人らで認知面で困難を抱える方々に「はいあーん」するのも俺達ヘルパーのお仕事だったからさ、彼相手にもその技術が生かされたってわけ。

 人生何が役立つかわかんないもんだね、まったく。

 ちなみに「はいあーん」は彼の状態が最悪MAXな時のみ発動が許可される最終奥義である。彼も立派な成人男性なんだから、可愛い女の子ならともかく野郎なんぞにされても嬉しかないのは当然だし、第一照れくさいだろうしな…俺は気遣いのできる男なのだ。

 

 

 

 そんな状態なもんだから、俺としては大人しく療養してほしいのだけれどそうはいかないらしい。彼は現在進行形で半死人にしか見えない体を引きずって、なんだか陰気でおぞましい雰囲気プンプンな実家に入っていってますますヨレヨレになっていたりする。なんとも介護員泣かせな人である。

 そうそう、恩人の実家はなんだかとても陰気で、まさに「お前んち、おっ化けやーしーきー!(©カンちゃん)」な建物だ。いや、庭木が鬱蒼と覆い茂ってなんだかおどろおどろしい雰囲気が漂っているもんだから、正直サツキちゃんとメイちゃん家なんて目じゃないどころか比較しちゃだめだよって勢いの不気味さである。 まぁ、彼曰く「醜悪な蟲妖怪が巣食っているから近寄るなよ」だそうなんだが、ほんと洒落にならない不気味さなんだよなぁ。

 なぜ庭師とか雇わないのか謎だ。ご実家は名家で金持ちなんだから、庭師でも雇えばこの陰気くさい庭の状態も改善されるだろうに…まぁ、俺ごときがどうこう言うことじゃないから、思うだけで言わないけどね。

 ちなみに、俺はこのご実家の敷地入口までは行ったことはあるんだが、内部に入れてもらったことはない。…きょ、拒否られてるわけじゃないんだからね!…きっと。

 なんか、彼は「勇太までこんな家にこれ以上かかわるべきじゃない」とかなんとか言って、お見送りしかさせてくれないんだから仕方ない。…あれ、これって普通に拒否られてる…? い、いやもうこれに関しては考えまい。

 まぁ、実際は玄関口までは行ったことあるんだけどね、一回だけ。彼のご実家を初めて訪ねた時ね。…なんか、お手伝いさんに中に通されかけたところで、変わり果てた姿の彼が血相変えてやって来てそのまま外にリターンさせられたもんだからホントに玄関口だけなんだけど。…でも正直、今ではその時そのまま奥に通されなくて良かったんだろうなって思ってたりする。俺はとくに第六感が働くとか幽霊とかが見える性質じゃないけど、今思えばな~んか、お屋敷の奥のほうがやけに暗かったっていうか、なんか暗がりで蠢いてそうな感じだかイメージが纏わりつくっていうか。…まぁぶっちゃけ、なんも考えずに先を進む旅人が、大口開けたモンスターの口を洞窟かなにかかと勘違いしてそのままテケテケ進んでモグモグゴックンごちそうさまコース一直線…なイメージしか沸かないんだな、これが。

 なんでなんだろうなと思いつつ、毎回彼が「絶対、これ以上この家の敷地に近づくな」って怖いくらい真剣に言い聞かせて行くもんだから、良い子の返事をしてはそわそわと彼の帰りを待つ俺なのです。俺ってばマジ忠犬ハチ公だし。

 

 

 

 なんて、いろいろ回想しつつ深夜の冬木市の路地裏を歩き回っていた俺の目の前にゴミ捨て場が現れた!

 

「って、あー! まぁたこんなとこでぶっ倒れて! 何度言ったらわかるんスかもう! 衛生的に最悪なとこで休憩せんでも俺を呼びつけてくださいっていつも言ってるじゃないスかぁ!」

 

 なんとゴミ捨て場のゴミと見事な一体化を果たした恩人まで発見されたぞ!

 ははははー、ただでさえ身体ズタボロなのにこんな衛生的に最悪ランキング上位なとこにぶっ倒れるなんてなー、ははははー。

 あぁもうなんでこの人自分からどんどん険しい茨道に突き進んでいっちゃうんだよもー。せめてもうちょっと人間的な生活できそうなところにいてよもー。俺の胃が心配という名のストレスでヤバい。いや、マジヤバいのは彼の健康…というか命なんだが(健康がヤバいのは今更…というか、今の彼に一番似合わないのが健康という単語だと思う)。

 とりあえず瞬間的にパーンてなった俺の頭は置いといて、彼が生きているかチェック。口と鼻の前に耳を近づけて…よし、息はある(良かったぁ…っ!)。ただし、一目見たとおり意識はなし、と。

 息と意識の有無の確認の次に、俺は背負ったリュックから取り出したウエットティッシュで血で汚れた彼の口元や手を拭ってやる。並行して外傷は無いか確認するが…とくには無いようだ。少しホッとする。

 服は…ざっと目を通してみて、この場でできる処置なし。主に臭い的な面で。…ほら、ここゴミ捨て場だしね。ぶっちゃけこの服は洗濯機に直行しても再起は難しい気もするが…まぁ、とりあえずここで脱がせて着替えさせるよりも、いったん彼を風呂場に放り込んでから着替えさせた方が効率が良さそうと判断して、服はそのままにしておく。仕方ないので臭いは一時我慢だ。大丈夫、人間は臭気で死んだりはしない。

 とにかく、こんな状態の彼をゴミ捨て場なんぞに放置しておけるわけがない。結論、ちゃっちゃと移動するに限る。

 そうと決まれば、俺は背負っていたリュックサックを身体の前に持ってきてぶら提げるように肩にかけた。

 

「よっと」

 

 癖で口にしてしまったものの、そんな掛け声なんかいらないんじゃないかと本気で思うほど軽い身体をそっと背負い上げて、俺はその場から移動を開始する。目的地はもちろん風呂場、そして最終地点は清潔なベッドだ。

 

「…もっと自分を大事にしてやってくださいよ、雁夜さん」

 

 思わず零れた言葉は、意識のない彼の耳にはやっぱり届かないんだろうなぁ。

 

 

 

 ―――そしてその心には、もっと届かないんだろう。

 

 




モブオリキャラの設定的に、きっと雁夜おじさんの結末はあまり変わらないと思います。
でも、少しでも誰かが気にかけてあげてほしい…そんな願望から生まれたお話でした。
読んでくださった方、ありがとうございます。
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