太陽の日差しと潮の香り。日よけのためのパラソル用意している山本の横で、遼太もレジャーシートを引いて、荷物を置く。
「あー暑い……」
「潤也君……」
早速、日陰に座っているのは、海パンの上にパーカーを羽織った潤也で、すでに海の活気にやられていた。
「でも、みんなこられてよかったな!」
「軽く、店長に裏切られた感じあるけどね」
日帰りとはいえ、三人がいなくなったらまずいのではないかと、もっともらしいことを言って、クーラーの効いた居残り組に志願した、二名がいるが、キドニーにたまには遊んで来いと、追い出されたのだった。
「おまたせー」
「着替えてきましたー!」
京子とハル、凛がくると、早速、日陰に入る凛。
「いやー暑いな」
「だったら、上着脱げよ」
凛もパーカーを羽織っていて、しっかりと前も閉じていて、この暑い夏ではなおさら暑そうだ。
「やーだーはずかしー」
絶対嘘だ。とは、全員が思ったが、声には出なかった。
ここに誘ってくれた了平へ、挨拶に行こうという話になれば、さすがに、日陰から出たがらなかった二人もついてくる。
「ライオンパンチニストで並森のランブルフィッシュは、夏の一時をライフセイバー見習いとして過ごすのだ!」
「あの妙な動きで溺れたやつ助けられんのか!?」
了平の言葉に、獄寺と綱吉が顔をひきつらせていた。遼太が小声で話を聞けば、なんでも綱吉の方が泳げるレベルで、泳ぎが下手だそうだ。
「……ライフセイバーって泳ぎの試験とかないの?」
潤也に聞くが、「不思議だねー」と笑われるだけ。
「困るんだよね。ゴミ捨てられっと」
その声に、周囲の人の目がそちらに向く。がらの悪そうな男が三人、男の子を掴みあげていた。
そして、その少年を投げ捨てるように落とすと、自分たちのゴミも投げ捨て、掃除しとけと、言うとその場から離れ、こちらに向かってきていた。
「……」
後ろで泣いている少年に、遼太は駆け寄ると、いつものように笑いながら頭を撫でる。
「ライフセイバーの先輩だ」
「ある意味、納得?」
了平に紹介され、そのリーダーらしき男が京子を見て、笑うと肩に手を回した。
「んじゃー女の子は一緒に遊んべ!」
ハルと凛にも手をまわそうとして、凛には避けられた。
「遠慮しておきます」
「そういうなって。俺が海での遊び方、レクチャーしてやるから」
「本当に結構です。ゴミ拾いしてた方が、ずっとおもしろそうなんで」
いい音が、男の後頭部から響いてきた。
「イッテェ! 誰だ!?」
「ライフセイバーなら、ちゃんと仕事しろよ!」
空き缶を投げたのは、遼太だった。男の子は、すでにいない。予想通りの展開に、潤也と凛が静かにため息を漏らした。
「俺らは、ポイ捨てした奴を注意しただけだぜ?」
「だったら、アンタたちのゴミまで片付けさせる必要ねぇだろ」
「ペナルティって、わっかんねぇかなぁ?」
「わっかんねぇよ」
今にも喧嘩が始まりそうな空気に、周りが遠巻きに携帯を握り締め始めているのが見えたのか、リーダーのような男が割って入った。
「喧嘩はなしだ。やるならフェアにスポーツで勝負してやる」
負けたら下僕の、4対4のスイム勝負。
最初こそ、全員反対していたのだが、パオパオ老師に“物理的”に勝負を飲まされた。
「んじゃ、俺、最初でいいか?」
「おう」
「おい。了平、お前、一番で行け」
「む?」
「おいおい……この勝負は、俺たちライフセイバーの誇りの勝負でもあるんだぜ? 一番手に、海の男ってもんを見せてやれ」
「なるほど!」
「え!? 俺、先輩となの!?」
遼太の驚きは最もだ。全員が呆れる中、凛と潤也だけは、後ろで笑いをこらえていた。
結果は、海に飛び込んだ時点で、決した。というか、了平がまともに泳げないのだから、勝負にならない。山本たちが救出したあと、遼太が帰ってくるのを待つが、一向に帰ってこない。
「あれ?」
「遼太君、帰ってこないね……」
「足でもつって、岩陰で休んでんじゃねぇの?」
「ま、どっちにしても、今回の勝負はそっちの勝ちでいーぜ?」
了平がスタートすらできていないのだから、勝負としてはそれでいいのかもしれないが、次の山本、獄寺も帰ってこない。
「素朴な疑問なんだけどさ」
「これ、ツナが勝ったら引き分けだね」
「ツナ? ツナってマグロのことだろ? 相当泳げんだろーな?」
残っている男子は、潤也と綱吉だけで、先程から座っている潤也は、例え名前を知らない相手でも、これから泳ぐとは思えない。そうなれば、自然と綱吉に目が向く。
先程までの三人に比べて、ずっと筋肉はない体。
「センパイだしな。いいぜ? 次の一本でお前が勝てば、そっちが勝ちにしてやるよ」
明らかに勝ちを確信したような笑み。もはや、岩陰で何か行われているのは、分かりきっていたが、どうすることもできず、勝負が始まった。
「お、ツナ。泳げてるじゃん」
学校で15m泳げなかったとは思えない泳ぎだ。
「誰かー!うちの子を助けてー!!」
その声に、沖を見れば、女の子が流されていた。本来なら、ライフセイバーである先輩た行くべきだが、一向に向きを変える気配はない。代わりに、沖に流されている女の子を、助けようと方向を変えたのは綱吉だった。もはや、勝負どころではない。
「お姉ちゃんたち、お兄ちゃんの友達……?」
振り返ってみれば、先程の男の子だ。
「お兄ちゃんが帰ってこないの、僕のせい?」
泣きそうな顔をしている男の子は、きっと勝負のことを見ていたのだろう。そして、遼太が帰ってこないことが自分のせいだと思っている。
「いや、あいつのせいだよ」
全く悪びれない凛に、男の子も目を丸くした。
「あいつ、バカなお節介で、優しいから、自分で巻き込まれに行くんだよ。ま、気にしなくても平気だよ」
その言葉を裏付けるように、ボコボコにされた男たちが浜辺に転がされ、帰ってこなかった遼太や山本、獄寺は、特に目立つケガもなく立っていた。
「ほらな」
「あ、お前、さっきの!」
「よ、よかった!」
駆け寄る男の子を、抱きとめながら、凛の方を見れば、スキンヘッドの男が凛の後ろで腕を広げていた。
「り――」
「ぶぺっ……」
遼太が声を上げるよりも速く、後ろに大きく振り上げられた凛の足は、男の最も大事な場所を遠慮なく潰していた。痛みを想像はしたくないが、まともな悲鳴もあげられず、泡を吹いて倒れる男に、自然と痛みを感じてしまう。
ドレッドヘアーの男は、運が良かった。後ろにいたおかげで、蹴られた詳細の場所がわからなかったのだから。ただ倒れるほど痛い蹴りを食らっただけだと、勘違いしたのだけは運が悪いとか言えない。
「何しやがった!このクソ――って!」
顔面にかけられた砂に、動きがひるんだ瞬間、顎に強烈な蹴りが入り、倒れた。
「なーいす」
「でしょ」
互いにピースサインで褒め合う凛と潤也に、鮮やかとしか言えない動きに、獄寺も山本も、男の子も開いた口が塞がらなかった。
「なんだよ……優しいお姉さんが一発で安らかにしたというのに」
「俺の知ってる優しいって意味と違う!!」
「え? 慈悲深き?」
「あっれぇ? 俺がおかしいんだっけ!? 獄寺ァ!」
「し、知るかよ……」
男の子の目をふさいでおけばよかったと、スキンヘッドが倒されてから青い顔をしている男の子に心の中で謝った遼太だった。
「それより、ツナ、戻ってきたみたいだよ?」
流されていた女の子を無事助けた綱吉だったが、死ぬ気ではなかった綱吉は女の子に、別の人だと言われてしまったのだった。
「まぁまぁ、みんな無事だったんだし、よかったじゃねぇか!」
「俺、精神的にまだちょっと痛い……」
遼太の言葉に、さすがの山本も笑顔が少し固まるが、獄寺以外は不思議そうに首をかしげるだけだった。