仮設テントで、書類が見事に積み上がっている。どれも、祭りには不可欠のもので、しっかり処理しないといけないわけだが、
「明らかにこれ、風紀委員がやるものじゃないよね」
そうは思うが、否定できないので、やるしかない。
「あれ……? これ、ツナの名前だ……」
屋台はチョコバナナで、結構高めの設定になってる。また何かに巻き込まれてるのかと、調べてみれば、公民館の壁の修繕費だそうだ。
「なにしたんだか……」
友人の好で、人がそこそこくる場所に設定しようと、屋台の場所を決めていく。
***
そして、祭り当日。毎年、勝負を持ちかけられた結果、妙なカラクリが施されるようになった射的場で、もはや恒例となった勝負を持ちかけられ、コルクの銃を構える。
「ねぇ、おっちゃん。台を回すなら、明らかに釘で打ち付けてるの見えないようにしたら?」
今年は、台が円形になり、回っていた。おかげで、商品の裏も見え、客引きのための高級ゲーム機の引換券が、裏で落ちないように抑えられてるのが丸見えだ。
「どうせ、誰も狙わねぇよ。一応、名物だし置いてあるだけだ」
客引きという意味では、台が回っているだけでも、十分客は集まっているから、構わないのだろう。
狙いは、中くらいの大きさのぬいぐるみ。裏止めはされていない。
「……」
軽い音と共に、コルクが発射され、ぬいぐるみを落とした。
「ぐわぁぁあああ!!」
まるで自分が撃たれたかのように、膝をつく店主。今回こそはと思っていたのに、一発で落とされたら、崩れ落ちたくもなる。だが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。
「……ぁ」
隣の甚平をきた赤ん坊が、一発で、三つ落とした。
「……注意書き、見た?」
警察、自衛官、本職の方は、ご遠慮願います。と、冗談混じりに書かれた注意書き。
「バレなきゃいいだろ」
「いやいや……」
「ぼ、ボウズ、できるじゃねぇか……!」
「おめーも、おもしろいの作るな」
もはや、リボーンが撃つだけで、歓声が上がる。動く台に、一発でいくつも落とす赤ん坊。これ以上にない客引きだろう。
「……」
コルクはあと三つ。ひとつ撃ったが、やはり倒れるのはひとつ。もうひとつ、マネして撃てば、二つ倒れた。
「おっ!」
「やるな」
最後のひとつ、よく狙って撃とうとした、その瞬間、
「その人ひったくりですー!!誰か止めてくださーい!!!」
その声と視界の隅で走ってくる男に、ため息をついて、後ろ足に男を引っ掛けた。
派手に転んだ男の手から離れた、巾着をキャッチしながら、手にもったコルク銃を目の前に突きつける。
「――ッテェ!! なにすん……ひぃいいいい!!!」
「ひったくりは、取り締まるらしいんで、一緒に来てもらいます」
ただ驚かせるためだけに、最後の一発を撃てば、男は泡を吹いて気絶してしまった。
「……え゛!?」
そこまで驚かせるつもりはなかった。それどころか、ケガだって、額にコルクが当たるくらいで、それほど痛くないはずだ。気絶してしまったスキンヘッドに、銃を返してから困ったように頭をかいていると、走ってきたのは京子とハルだった。
「あ、凛ちゃん!」
「はひっ!? 気絶して――!?」
「私もいまいちわかってないんだよ……とりあえず、ひったくり多いらしいから、気を付けなよ?」
「あ、うん。ありがとう」
巾着を京子に渡せば、一緒に回らないかと誘われるものの、
「一応、ジュンの兄ちゃんと町内会から、警備の手伝いしろって言われててさ。回れないんだ。ごめん」
多少、遊ぶ程度は許されているものの、基本はひったくり犯を捕まえろと言われていた。
「そっか……じゃあ、花火は一緒に見られる?」
「たぶん、それくらいなら平気じゃない?」
じゃあ、また花火の時間になったら連絡すると、京子と別れた。
「武ー!」
「お、遼太じゃねーか」
「ボールの的当てしにいかね? 勝負しようぜ!」
きっと、この二人も屋台泣かせなのだろうな。と、心で思いつつも、言葉には出さなかった綱吉は、ふと気になったことがあった。
遼太の腕についている、風紀の腕章。
「どうしたの? それ……」
「あぁ。今日は、ジュンの兄ちゃんの手伝いでさ。一応、つけてんの」
「そ、そうなんだ……」
「まぁ、ちょっとくらい遊んでもいいって言われてるし、ツナもいくか?」
「あ、いや、俺はいいよ。今、神輿見に行ってて人も少ないし」
「ワリーな。景品もってくっからな!」
獄寺もトイレに行き、元々ほとんどいなかったリボーンも踊りに行き、本格的に一人で店番をすることになった綱吉だったが、人も少なく、案外のんびりできるものだと、油断しているところに現れた、人を引きずっている知り合い。
「近衛さん!?」
「あ、ツナ。そういえば、店やってるって言ってたね……」
じっと、展示されているバナナを見つめると、ポケットから四百円を取り出すと、綱吉に渡し、展示されていたのを手に取る。
「え!? それ展示で……っていうか、どういう状況!?」
気絶している人を片手に、チョコバナナを食べている凛に、ツッコミがしきれない。
「さっき、ひったくり捕まえて回収したんだけど……あ、そうだ。おばあちゃんから、おばあちゃんのぼたぼた焼き貰ったんだ。はい。差し入れ」
「あ、う、うん。ありがとう」
もらったものを躊躇なく差し入れされ、なんとも言えない表情で受け取ると、
「さっき、リボーンにキャラメルもらったから、なんなら、分けて」
もう、何もつっこまない方がいいなと思った綱吉は、お礼を言うだけにした。
風紀委員の使う仮設テントの前が、やけに騒がしくなり、恭弥が不機嫌そうに顔を上げる。
「……見てくるね」
潤也がすぐに外に出れば、凛が見覚えのあるスキンヘッドを草壁に渡しているところだった。
「ひったくり犯だそうです。裏で話を聞いて、組織的なものか確認してきます」
「……あ、その人たち、並森中学の元ボクシング部の人だから、そこから調べたら早いと思うんで、お願いします。後輩たちもわんさかいると思うし」
潤也がスキンヘッドを連れていった草壁に、そういえば、数人が調べに向かった。
「知り合いだった?」
「海で、凛も会ってるよ」
「そうだっけ……?あんまり、覚えてないんだよなぁ」
数日前のことを覚えてないと言われ、潤也は少し目を細め笑うと、
「凛が全力で金的した人だよ。えぐいことしたのに、忘れないであげてよ」
「そんなことしたっけ……?そもそも、急所をぶら下げてるやつが悪いんだよ」
「生物的に仕方ないって……」
「あ、そうだ。花火、見に行ってもいい?」
「平気だよ。ひったくりの方も、目処たったしね」
潤也がテントに戻れば、恭弥が不満げに座っていた。
「兄さん、ひったくり集団のことなんだけど」
「なにかわかったの?」
「うん。詳細はたぶん、草壁さんが調べてくれると思うけど、場所はたぶん神社」
「……そう」
獲物を見つけた肉食動物のような笑みを浮かべて立ち上がった恭弥に、潤也は目を見開けば、
「群れはあるんでしょ? ひったくり集団じゃなくても、それ噛み殺せればいいよ」
そう言って、テントを出ていった恭弥に、潤也は苦笑いを浮かべた。
「祭りで人が多いもんね……」
群れるのが極端に嫌いな兄だ。祭の空気でも、ストレスになっていたのだろう。
日常編はこれで最後になります。
次からは、黒曜編入ります。