11 事件の予感
「ことがことですからね。ちょっと、調べに行ってきます。家のことは……まぁ、あなたたちなら勝手にやるでしょう?」
そんな適当なことを言って、キドニーがいなくなったのは二週間前。
「ちょっと用ができたので、しばらくごはんはいりません」
そんな潤也の書き置きが残されていたのが、つい一週間前。
「やっぱりおかしいだろ!」
「なにが?」
「ジュンだよ! 書き置き残してるからって、ほっとけって……あいつの兄ちゃんだって心配してるみたいだし」
はっきりと口に出されたわけではないが、潤也が家に戻ってるのかと、遼太が確認した時、恭弥から放たれた殺気は、恭弥も潤也の行動を把握していないと知るには十分だった。
そうなれば、心配するのは仕方ないことで、むしろ、まったく心配していない凛に、遼太が怒鳴っていた。
「なんで、お前普通にしてんだよ?」
「書き置きしてるんだから、別にいいじゃん」
「もし、喧嘩に巻き込まれてたらとか、考えねぇのかよ? 風紀委員、襲われてんだろ!?」
昔から、恭弥を倒そうとする人が、人質として潤也を使おうとする人は多かった。潤也自身、腕っ節が強いわけではなく、多人数に囲まれたら、なすすべはない。そして、案外使えるのだ。
なんだかんだ、恭弥は潤也に甘いところがあり、人質にした日には、後遺症が残らないことを祈るしかないほどに、噛み殺される。
「それこそ、あの兄貴がやってくれるだろ」
「ダチだろ!!」
「ダチって……」
「お前、一緒にいんのにわかんねぇのかよ!? あいつ、いっつも嘘ついてて、このまま、嘘ついたまま消えちまうかも知んねぇんだぞ!?」
言いようのない不安。どこかで、感じるのだ。肝心なことを隠したまま、彼が消えてしまうのではないかと。
だが、凛の反応は優れない。
「――ッ! もういい! 俺一人で探してくる!」
「あ、おい! 今はやめたほうが――」
「うるせェ!」
ぴしゃりと荒く閉じられた扉に、凛は一人伸ばしていた手を降ろすと、息を吐き、胸を抑えた。
「クソ……気持ち悪い」
月明かりの下、潤也を探すにしろ、不良相手なら、武器は持っておいたほうがいいだろう。いつものロッカーへ、荷物を取りに、夜道を走った。
***
けたたましい音に、重い体を起こせば、どうやら居間で寝てしまっていたらしい。その音の原因である、電話を取ると、ため息混じりに、返事をした。
「だっせぇ」
その言葉に、遼太はベッドの上で、何も言葉を返せなかった。
遼太がいるのは、病院のベッドの上。なんでも、ボコボコにされて、骨は数ヶ所折れ、歯も七本抜かれているそうだ。
「……」
バットやエナメルバッグが、発見された時に傍らに落ちていたということで、一緒に部屋に置かれていた。普通に見れば、ただのバッドとエナメルバッグだが、凛には見覚えの有りすぎる物だ。
「一応、持って帰るよ。着替えとか、適当に詰めて、また持ってくる。バットは返しとくよ」
「悪ぃ……」
二つを持って、出ていこうとする凛を慌てて呼び止めれば、相変わらずの表情で足を止めた。
「何?」
「俺を襲ってきたやつなんだけどさ、黒曜中の制服きてたんだ」
「……じゃあ、本当に不良の喧嘩じゃない?」
「……でも、なんか、店長と空気が似てたんだ」
それは、本職という意味だった。
エナメルバッグを持ち直すと、体を遼太の方に向ける。
「あいつらは、本気で殺しにくる……俺は、生きてるけど! あ、あいつらが狙ってるやつが潤也だったら……」
「死んでるかもね」
「ッ! り、凛! あいつの兄ちゃんでも、これはダメだ! 本当に死んじまう! 凛も、関わらないで、俺が治ったら絶対、ジュンの奴助けに行くから!」
「……」
「だから!」
「慌てなくても、私があいつ探す気がないのは、お前が一番知ってるだろ?」
遼太が、うなだれながら頷く姿に、凛はいつものように笑い、
「ばあちゃんに連絡されたくないなら、病院抜け出すとか、しないほうがいいからな」
「……わかってるよ」
もし、喧嘩に巻き込まれて、これだけの大怪我をしたと知ったら、ばあちゃんは居候を許してはくれないだろう。それだけは、避けたかった。
帰りたくないわけではない。だが、災厄を振り払うには、あの施設では厳しすぎる。
病室からでれば、大量にいる並森中学の生徒。
「近衛さん!?」
「ツナじゃん。なにしてるの?」
「じ、実は、京子ちゃんのお兄さんが襲われて……」
「あぁ、遼太と同じか」
「遼太君も!?」
「そうだよ。朝、いきなり襲われたって」
ようやく、凛の持っていた大荷物の意味を理解すると、また一人駆け寄ってきては、剣道部の持田先輩までやられたのだと、教えてくれた。
「並中生が無差別に襲われてるんだよ!! マジ、やべーって! 明日は我が身だぜ!!」
綱吉と男子が青い顔で叫ぶ中、凛は一人平気そうな顔をしていた。
「な、なんで近衛さん、そんな普通の顔してるの?」
「聞いてる限り、襲われてるの男子だけだし」
「こんな時は女子が羨ましいよ……って、あれ? 近衛たちって、よく三人でいないか? 潤也のやつ、見当たんないけど」
「そういえば……」
学校にも来ていなかった。時折いないことはあるが、大抵風紀委員の呼び出しのせいであるため、教師も咎める人はいない。
「最近、家にも帰ってきてないからね。まぁ、風紀委員関わってるなら、それ関連じゃない?」
雲雀恭弥の弟なのだ。それくらいのことはよくある。綱吉も一緒にいた男子も、妙に納得できるその答えに、異論を出すことはなかった。
「凛」
「ん?」
肩に乗ってくるリボーンに顔を向ける。
「遼太の奴、歯抜かれてたか?」
「七本抜かれたって言ってたよ」
「そうか……了平は六本抜かれたぞ」
「そうなんだ……」
リボーンはじっと凛を見つめると、首筋に手を当て、しばらくすると、
「体調悪いのか?」
「え……ま、まぁ、少しね」
言い当てられ、動揺していれば、綱吉も心配そうにこちらを見てきた。
「風邪? 大丈夫?」
「平気。ただ、今日は学校休むよ」
「そ、そんなに悪いの!? 送っていこうか?」
「家に帰るのくらい平気だよ。居間で寝落ちしたから、それでお腹でも冷えたんだよ。まぁ、早めに帰って寝ることにする」
「う、うん。気を付けてね」
「ありがと」
綱吉に手を振って、凛は病院を出ていった。
原作と変わらないところは飛ばして、三人が関わるところを書いていきます。