笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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13 群れたかった少年

 幼いときから、兄さんは強く、群れることが嫌いだった。もしかしたら、群れることが嫌いだったから、一人でなんでもできるように、強くなったかもしれないけど、少なくとも、僕が物心つく頃には、公園で同級生や年上が噛み殺されていた。

 

「……」

 

 大丈夫? と声をかければ、僕も群れの一員と認識されるかもしれない。

 最初に持っていたのは、そんな恐怖。

 

「ジュン」

「なに?」

「帰るよ」

「……救急車、呼ばなくていいの? 並森の公園で、死人ってたぶん良くないよ?」

 

 少しだけ学んだ、兄さんの並森が好きだってところ。言い方が悪ければ、つけ込むのかもしれないけど、そうでもしなきゃ、クラスメイトはこのまま放置される。

 

「そうだね」

 

 正直、兄さんの群れるのが嫌いって分が、あとに生まれた僕に全部上乗せされてるんじゃないかと、勘違いそうになるほど、兄さんは人と一緒にいるのが嫌いだ。その分、兄さんにあげた強さが、僕には差し引かれてるんじゃないだろうか。

 産んだことに文句はあまり言えないが、こんな偏った子供を二人産むより、平均的なのか、完璧な一人を産んだほうがよかったんじゃないかと、意味がないとはわかってるが、思ってしまう。

 

「お前、一人なのか?」

 

 小学校の三年になれば、さすがに兄さんの怖さを知った人は、あからさまに距離も取るようになる。

 でも、遼太はたくさんの人と一緒にいるわりに、僕によく声をかけてきた。

 

「なら、グループ、一緒に組もうぜ!」

「度胸あるね」

 

 純粋にそう思った。兄さんが怖くないのだろうか?

 

「なんだよ……お前こそ、おもちゃ貸して欲しそうな顔して、こっち見てること多いくせに」

「そんな顔してないよ」

「あ、そう。まぁ、グループ作んないといけないんだし、一緒にやろうぜ?」

 

 遼太なら、わざわざ僕に声をかけなくても、グループなんて作れそうなのに、話を聞く気がない。忙しなく辺りを見渡したあと、目当ての人物を見つけたらしく、走っていく。

 

「りーんー!」

 

 大声と駆け寄ってきた遼太に、凛は身を強ばらせていた。

 

「まだグループ決まってない?」

「え? あ、まだだけど……」

「んじゃ、一緒にやろうぜ! 決まり!」

 

 強引に決めたグループに、担任が青い顔をしていたが、遼太には見えていないらしい。

 放課後、早速課題の調べ物をしようという話になり、図書室でそれぞれで本を探す。植物についての課題だっていうのに、一目散に漫画が置いてある場所へ歩いていった遼太に、色々言いたいことはあったが、気にせず図鑑のある場所へ行けば、そこで本を開いていたのは、凛だった。

 

「狼……?」

 

 野草ではなく、こちらも動物の本を開いていた。しかも、狼の生態についての本。

 

「山にいるよ」

「あ、並森山?」

 

 色々試作していた時に、見かけたことがある。

 

「前におもしろい罠に引っかかってた」

「おもしろい?」

 

 こういうの、といって、手振りで教えられたのは、前に作った罠だ。しかし、獲物がかかった痕はあったが、外されていて、確かに不思議ではあった。

 

「君がやってたんだ……」

「え!? ダメだった……?」

「ううん。別にいいよ。それより、あれ、よく外せたね」

「がんばった」

 

 そうだろう。結構な自信作だったのだから。

 

「でも、狼の足にうまく食い込んでなかったから、返しとかつけたほうがいいかも……? あ、でも、外すにしてはバネがすごく硬いから、大変だった」

 

 ただの感想だっていうのに、僕は初めての感覚に震えそうだった。恐怖じゃない。喜びにも近い、その感覚。

 僕の作った物をおもしろいっていう人は、誰もいなくて、こうして、会話にでてくることなんて、まずない。

 

「そっか。返しかぁ……バネは、しょうがないんだよ。あれくらい必要だから」

 

 奥底に眠りかけていた、誰かと一緒にいたいっていう欲望が広がる。弱いからこそ、群れになって勝ち残りたいんじゃないか。草食動物も肉食動物も関係ない。動物は、ほとんどが群れを作っている。一匹でいる方が少ない。

 

「お前ら、課題やれよ!」

 

 遼太が頬を膨らませていた。

 

「さっきまで、漫画読んでなかった?」

「う゛……」

 

 凛たちといれば、群れと認識されて、兄さんに噛み殺されるだろうか。でも、最近、風紀委員というのを作っていた。大きな群れのようにも見えるが、噛み殺されることはない。いや、たまに数人が噛み殺されてることはあるけど。

 

「……はは」

「「?」」

「なんでもない」

 

 つまり、利用しあう関係は、兄さんは群れとは思わないんだ。たとえ、僕にとって友達だと思っていようと、そこにはひとつの壁がある。

 うまく偽って、隠せば、一人でいる必要はなくなる。

 そのために、必要なことは、まずは知識、情報。ギブアンドテイクの関係が、できる人たち。

 

「そうだ! 実際、その植物取ってくるとかどうよ? 並森山ならあんじゃね?」

「僕はいいよ。凛は?」

「どっちでも」

 

 この二人なら、その関係が成り立つかもしれない。

 でも、その前に、兄さんと、うまくやらないと……

 

「居候、ですか?」

 

 駄菓子屋と偽っている、いや、偽ってるつもりはないらしいが、情報屋の男のことは知っていた。キドニー。別名、ノーフェイス。たぶん、どちらも本名ではない。

 

「あなた、雲雀さんのところの弟さんでしょう? どうしてわざわざ、こんな寂れた店に?」

「必要とされたいんです。それで、僕はあなたが必要なんです」

「……ふむ。なるほど、なんとなく察しはつきました。というか、ぶっちゃけて聞きますけど、あなた、もうひとつ、ゆするネタ持ってきてるでしょう?」

 

 それには、笑顔だけで答えた。

 

「はぁ……わかりました。いいですよ。最近、妙にめんどうになってきたのは事実ですし」

 

 こうして、僕は家出をした。

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