ここ最近、恭弥がディーノと屋上で戦っているそうで、潤也は風紀委員の手伝いに毎日のように行っていて、遼太は山本が野球部に来ないことを心配して下手な嘘をついて、なにやら色々キドニーの周りを嗅ぎ回っていた。キドニーどころか、潤也や凛にもバレバレなのだが。
夜の人気のない並森の町を走る影が四つあった。
「こちら、01。二時の方向に幼児を含む、子供三名を確認」
「こちら、02。十二時の方向に、女一名を確認……気づかれたか……いや、気づかれてはいない。目標に接近する」
通信が飛び交う中、女は一度足を止め、携帯を取り出すと電話にでた。
「もしもし? あ、二人共、帰ってきてたんだ……は? だって、最近お前ら遅いから、夕飯遅くてもいいかな? とか思うじゃん」
電話に出ると、歩きだし女を追いかける影は、向こうに見えるもう一つの影に気がついた。
「え? 探すの? まぁ、別にいいけ――」
「凛姉ぇ!!」
「……うん。聞こえたならよかった」
抱きついてくるフゥ太を、捕まえながら電話を持ち直し、
「山の帰り。うん。よろしく。ツナん家まで送ればいいの? わかった」
「ありがとう! 凛姉――後ろッ!!」
フゥ太の叫びと共に響いてきたのは、金属音。一瞬にして、凛は三人の目の前から身を翻すと、その男の脇腹に蹴りをいれ、ナイフで男の首を切り裂いた。
吹き出してくる血に目もくれず、男の持っていたレイピアを流れるように奪い取り、フゥ太たちの後ろに立っていた男へ投げる。
「ぐぁッ……!」
男の目にレイピアが突き刺さった。
「……邪魔」
一瞬、目を携帯にやると投げ捨て、ナイフを一度振ると、痛みに悶えている男の首を切り裂いた。
もうその場には、四人しかいなかったが、足元のそれが目に入らないかのように、凛はどこかをじっと見ていた。
幸い、この場にいた全員が、裏社会を知っている。今起きた殺人に、今更叫び声を上げる人はいなかった。それどころか、今まで危険をかいくぐってきたフゥ太の行動は早かった。投げ捨てられた凛の携帯を拾うと、
「凛姉ェ!」
その手を引いた。
一人が屋根から四人を見つけた時、目の前で爆発が起きた。
「ったく……なんでアホ牛がリングを……」
「凛! 無事か!?」
「……」
獄寺たちが来てくれた。潤也と先程電話していたのだから、それをすぐに全員に場所を連絡したのだろう。遼太が、慌てて近づいてくれば、鼻についたその臭い。潤也も、薄々、電話先の声で気がついてはいた。
「血……? ケガしたのか!?」
「してない。別に、何もなかったし」
「でも……」
暗くて見にくいが、右腕に血がついていた。潤也だけは、どうするかとじっと凛の様子を伺っていた。
ちょうど、その時、綱吉もやってきて、リボーンもその臭いに凛を見つめたが、近づいてくる殺気に、そちらに目をやる。
「お前がやったのか?」
現れた大男は、凛を見下ろすが、凛は眉をひそめ、
「知らないよ。勘違いしてない? さっきの奴なら、そこの人がやった」
通信ではっきりと、女に攻撃をかけると言った後に、通信が途絶えたのだ。もし、戦って負けたということならば、リングはあの獄寺に指を指している女が持っているはずだ。
「……む?」
しかし、ランボの頭に光るリングを見つけると、少し目を見開いたあと、背中に刺さった傘へ手をやる。標的は、リングを持つ人間だ。その殺気に、全員が身構えるが、聞き覚えのある大声でそれは遮られた。
同時に現れたのは、六つの影。
「よくも騙してくれたなぁ。カスども!」
そこには、つい先日、黒曜で会った男もいた。
遼太に庇われるように後ろにいる凛をじっと見つめる金髪の男に、潤也は凛を一度見るが、ザンザスと呼ばれた男の手から溢れる光と殺気に、動けなくなる。
「待て、ザンザス。そこまでだ」
つるはしがザンザスの足元の地面に刺さった。投げた男は、綱吉の父である、家光だった。
「と、父さん!?」
綱吉の驚きと疑問を答えたのは、リボーンだった。ボンゴレファミリーの門外顧問である家光は、次期ボスに渡される、ハーフボンゴレリングを綱吉に渡し、九代目は目の前の男、ザンザスに渡した。
ハーフボンゴレリングは、二つをそろえ、完全な形にしてこそ、後継者として認められるものであり、門外顧問とボスが別々の人物に、それを与えることはほとんどない。
しかし、今回、別々の人物の手に、ハーフボンゴレリングが渡った。そこで、無益な戦いや血を流さないためにも、同じリングを持つ同士での、一対一の勝負を行うことにした。
そのための審判を務めるという、チェルベッロ機関の二人組の女も現れ、一方的に確認を取る。
「場所は深夜の並森中学校。詳しくは追って説明いたします」
「え!? 並中でやるの?」
そんなことをしたら、明らかに怒る人がいる。
「それでは、明晩十一時。並森中でお待ちしております」
「さよなら」
「本当に言うだけ言って帰ったね……ジュン?」
「だ、大丈夫かな……?」
その心配は、最もだ。ディーノに、どうにかしてもらうしかない。
ザンザスたちも去ろうとした踵を返した時、金髪の男だけ少し前に出てくると、
「りぃ~ん」
名前を呼んだ。それには、リボーンも家光も慎重にその様子をうかがい、ヴァリアーも思い出したように足を止めていた。
「しししっさっき、お前の家に行ってやったのにさ、いねーから探したんだぜ?」
「そうなの? ごめん……?」
話しかけられた本人が、一番リラックスしていた。
「知り合いなのかよ!?」
「……うーん、知ってるような気はするんだけど……」
「は? 王子のこと忘れたとかいうわけ?」
「あー……王子。あ、そっか。お父さんたち探しに来た……あぁ、そっか」
微かに雰囲気が変わった凛に、男はなおさら口端を上げると、
「俺がいない間に、ふぬけてたらどうしよっかって思ってたけど、さっきの見て安心したぜ。うししっ」
「さっきの……? なんかあったっけ?」
本当に訳が分からないという顔をした凛に、男は驚いたように口を開けた。
「あ? あーそっか。凛は確か、殺しじゃなくて“いなくなった”って言うんだっけ?」
ぞわりと、背筋に嫌なものが走ったのは、遼太だった。
「ま、いーや。ほら」
投げられた白いそれ。凛の手に収まったのは、一輪のカサブランカの花だった。
「じゃあ、彼女なんだ。ベルが探してたっていうのは」
「まーな。ししっ」
手の中に収まる、カサブランカの花を見つめる凛の表情は、誰がどう見ても見間違いようのない、やわらかい笑顔だった。
ヴァリアーがいなくなったあと、遼太はじっと凛の手元を見つめる。そこには、血のような赤黒い染み。
「……凛」
異様にのどが乾いた。聞くのが恐ろしかった。だが、聞かないわけには、いかなかった。
言葉にしていいものか、迷ったが、それでも口を開き、絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「お前、親、って……」
遼太の両親は、いない。物心ついた時からいなかった。親代わりの施設の婆ちゃんは、施設の子供がよく買い物に来る駄菓子屋だし、顔もよく見せている。それに、一種の社会勉強だと。だから、居候を許してくれている。
潤也の両親は、もちろんいるが、家のことは恭弥が取り仕切っているため、あまり表に出てこない。たまに帰ることもあって、居候をしていても、何も言ってこない。
なら、凛は? 彼女は、親について、何と言っていた? 見ず知らずの男の店にいても、なぜ両親は何も言ってこない? 確かに、昔はいたはずだ。だが、ある時、居候を始めた頃から、気になって聞いたことがあった。その時、必ず同じ言葉を返してきた。
「“いなくなった”って……知ってるだろ?」
やはり、同じ言葉が帰ってきた。
ぶっちゃけると、この話にR15部分は、ほぼ全部凛が原因じゃないかと思ってます(笑)