01 居候の日常
ボコンという音と揺れに、驚いて振り返れば、全く気にした様子もなく、軒下を見ている居候の少女、近衛凛。
「凛」
「遼太が倉庫でやらかしたんでしょ……」
めんどくさそうに顔を上げて言うのは凛に、いいから様子を見てこいと、目だけで伝えれば、なおさらめんどくさそうに眉をひそめた。
「なら、店番します?」
「そっちの方が明らかに暇だと思うんだけど」
「手厳しい……」
「凛! ヤバい!」
慌てて降りてきたのは、もう一人の居候である、雲雀潤也。正真正銘、この並森で最も逆らってはいけないといわれる、雲雀恭也の弟である。
「倉庫の壁と屋根が吹き飛んでる!」
「まぁ、あの音だし」
潤也が降りてきては仕方ないと、凛はようやく立ち上がると、外に出ていった。
そして、二人の目に入ってきたのは、壁の一部と屋根がキレイに無くなった倉庫。
「……うわぁ、予想以上。遼太、死んだー?」
「死んでねェよ! もう少し心配しろよ!」
ガレキの中から出てきた男、これまたこの店に居候している比賀遼太は、ゴミを払いながらでてきた。
「残念」
「ふざけんな!」
もはや遼太に味方はいないのは、いつものことだ。諦めて現場に振り返れば、驚いて声を上げる。
「ひっでぇな……これ」
「遼太がやったんだからね」
「そ、それはそうなんだけど…って、半分以上お前らのせいだからな!?」
「だーかーらー遼太は倉庫にできる限り入るなっていっておいたのに、それを無視したのは遼太じゃん」
「う゛……」
趣味で色々実験のようなことをしている潤也は、並森山はもちろん、この倉庫にも試作品を置いておいたりしてある。
それに店の品である、花火も倉庫にしまわれている。そのため、薄暗い上に危険ということで、遼太は入らないように言ってあるのだが、よくこうして入っては、何かが起きる。
「花火に引火しなかったし」
「まぁ……そうだね」
引火したら、もっと惨事になるとは思うが、ちゃんと火薬は別に金庫にしまわれている。ただ、周りにある試作品の方がもっと危険だったりするが。
「とりあえず、直さなきゃなぁ……これ」
「トタンと木材。あと釘?」
「釘って足りる?」
「まだ残ってるはずだよ? とりあえず、必要な分、計算しておこっか」
「頼んだ。遼太は、早いとこ、この散乱したの片付けろよ」
「うえ……俺一人でやんの?」
「私はこれから夕飯の買出し」
「う゛……」
そう言われてしまっては、手伝ってもらうのだって無理だ。ため息と共に、三人はそれぞれ行動を開始した。
その頃、店の中では、スーツを着こなした赤ん坊がいた。
「あいつらが、お前の弟子か?」
「そういってしまうと、少々誤解を生みますね」
「だが、お前を暗殺しようとしてた奴らを排除してるのは、あいつらだろ」
「えぇ。こんな引退した情報屋を殺してなんになるんだか……」
引退したと、自分では言っているが、まったく引退したとは思えない量の情報を持っているこの男には、きっと安心できる時などないのだろう。
「まぁ、あの子達が私の手から離れた時はお好きなように。あなたなら、そんなことわざわざ言わなくても勝手にやりますかね?」
やはり、食えない男だ。
***
三限と四限の間の休み時間にやってきた遼太は、来て間もないというのに、机に突っ伏していた。
「あ゛ーーーつかれたーーー!!」
「なんかあったのか?」
親友であり、野球仲間でもある山本武が不思議そうに首をかしげれば、遼太は嬉しそうに立ち上がると、
「聞いてくれよ! 武! こいつら、手伝わないで俺のこと置いてったんだぜ!?」
指さすのはもちろん、凛と潤也だ。二人共、ちゃんと一限から授業を受けていた。
「よくわからないのな……」
「実は、倉庫が壊れて……」
「それ、前にも言ってなかった?」
綱吉が苦笑いで聞けば、遼太の表情が固まる。つい、数週間前にもドアが壊れ、修理したのだ。
「…………と、とにかく、前回みたいに、ちょっと削ってはめ直すとかじゃなくて、今回は屋根も吹っ飛ぶレベルでだな」
「何やったの!?」
「わからん!」
「えぇぇぇえ!?」
「なんか、スイッチみたいの押したら、爆発した」
「い、意味が分からないよ!?」
少しだけ脳裏に、家に居座っている牛柄の服を着た少年が思い浮かんだが、アレは少し特殊な事情だ。一般的な家に、手榴弾を持ち歩いていたりする子供や、部屋に大量の銃器が置く赤ん坊はいない。
「あいつのなんかだとは思うんだけど…」
潤也に向けられた視線を軽く無視して、潤也は携帯を操作している。
普通なら、なにを倉庫に置いてるんだと言いたくなるところだが、彼の苗字である『雲雀』の名を聞けば、それ以上口が開けなくなってしまう。
「お前らも気をつけろよ? あいつ、学校にも少し仕掛けてるし、あと並森山にトラップゾーンあるから」
「えぇぇ……」
「そんなの見たことないのな。どこにあるんだ?」
「一応、危ないからって、猪注意の看板置いて、有刺鉄線で足元に柵作ってあるんだけど」
「「あー」」
記憶にある。ただ、ずいぶん昔からあるような気がするが、いつから潤也がそんなものを作っているのか、少し不安に思った二人だった。