倒れているヴァリアーの隊員に、慌てて駆け上がっても、もう遅かった。
壊れた校舎の中に、すでに恭弥はいた。
「あちゃぁ……」
「じゅ、潤也君! 雲雀さん止めてェ!!」
綱吉の情けない叫びに、潤也は慌てて恭弥の元に行ったが、潤也が止めるまでもなく、恭弥のことはリボーンが止めてしまった。
「ずいぶん遅かったのな」
「ちょっと野暮用でね……学校の修理は、ちゃんとやってくれるから、兄さんもそんなに怒らないでよ」
「……」
「あぁ、それから、風紀委員の仕事、一応確認しておいてね」
「わかった」
恭弥とヴァリアーがいなくなると、ようやく全員が安心したように息を吐き出した。
「なんか、兄さんがごめんね」
「なっ!? もう恭弥帰ってきてたのか!?」
驚く声に振り返ればディーノがいた。恭弥と共に修行の旅に出ていて、今、帰ってきたそうだ。
「それで、まっ先に学校に来るって、自分の兄だけど、本当にすごいと思う……」
綱吉たちからも乾いた笑いが漏れた。先程、学校を壊した罪として、噛み殺されそうになったことを思えば、苦笑いにもなる。
「っと……山本。ここに来たのは他でもねぇ。スクアーロのことをお前に話そうと思ってな」
かつて、ヴァリアーのボスを倒し、次のボスは彼だとまで言われたスクアーロは、次々と他の流派を吸収していった。だからこそ、流派に頼っては勝ち目がない、と。
「そんな……!」
遼太が目を見開く中、背中を叩いてきたのは、山本だった。
「なんとかなるって! イメトレもバッチリしてるし、流派を越えるってのも、一日考えればなんかいい案浮かぶって!」
そういって笑う山本に、ディーノは少し眉をひそめたが、山本は気にせず、遼太に笑いかけ、肩を組んだ。
「俺は大丈夫だから、遼太はちゃんとあいつらと話せよ」
遼太にだけ聞こえるように、小声で囁いた。
「武……」
自分だって強敵と戦わないといけないというのに、気にかけてくれる。
「ごめん……ありがとう。俺、お前に助けられてばっかだな」
「なにいってんだよ。ダチだろ。気にすんなって」
「……今度、なんかで返すから」
親友がこれほど気を使ってくれたのだ。もう、迷っている暇はない。
潤也を呼び止めれば、不思議そうな顔をして、凛と分かれこっちにやってくる。
「なに?」
久々に話したような気がする。いつも一緒にいて、一日話さないことなんてことは、まずなかった。
それが数日続いたのだから、さすがに違和感がある。
「聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「……凛は呼ばなくていいの?」
潤也も内容を察したのか、確認してくるが、遼太の表情を見る限り、ここに凛を呼べば、もっと混乱が起きる。
「それで、なに?」
先を促され、遼太は意を決して、それを聞いた。
「お前らは、今までの奴ら、殺してたのか?」
「……うん」
一瞬、考えていたが、それは嘘偽りのない答えだった。
「なんで……!?」
「不良の喧嘩じゃないんだよ? 殴って、脅して、はい。終わり。ってわけにはいかないからね。報復は当たり前にあるかもしれないことだよ。それに」
潤也はじっと遼太を見上げると、
「命を狙われてるのに、対価が命じゃないなんて、おかしいと思わない?」
「でも! なにも、殺さなくたっていいだろ!?」
「そうかもしれない。もしかしたら、一度痛い目にあえばやめてくれるような、ヘタレもいるかもしれないけど、店長はあれでもすごい情報屋だからね。生半可な覚悟の人が、見つけられるような人じゃないよ」
依頼ならば必ず完遂する。私怨ならば、自らが死んでもキドニーを殺す。
そんな奴らばかりなのだ。一度の失敗で、暗殺をやめるような殺し屋がいるはずがない。一度目を逃せば、二度目はもっと警戒するし、もっとうまくやる。
「なら、油断してる時に終わらせるのが、一番効率のいい勝ち方だよ」
とても、彼らしかった。常に勝てるように、その努力をする。
「なら、なんで俺だけ、知らされなかったんだ……」
遼太だけが知らなかった。襲いかかったこともあるというのに、後々殺されていることなど、全く気づかなかった。
「嘘が下手だから?」
「うん」
即答だった。
「でも、一番大きかったのは、普通だから」
「ぇ……?」
「凛も僕も、店長も同意見だったんだよ。遼太は、普通だから、人を殺すなんてできない。できたところで、一生それに後悔するって。だから、言わなかった」
「……」
「本当は、参加だってさせる気なかったけど、それじゃあ、バレるかもしれないって。それだけでも、遼太、すごく気にしてたじゃん。あれ以上なんて、できるの?」
かつて、権利書を奪うために盗み紛いのことをした時だって、悩みに悩んだ末に行い、失敗したが、投げ込まれた火炎瓶とそれによって起きた抗争によって、怪我をした人や死んだ人がいると聞けば、それを悔やんでいた。
しかし、それが大事なあの施設を守るためだったと、そう自分に言い聞かせた。
大切なものを守ったのだと。だが、ばあちゃんの顔を見るたびに、いたたまれなくなり、今までどおり施設で暮らすこともできなくなってしまった。
「俺は……俺は……」
「今だから言うけど、遼太はこのまま、今までのことを忘れて、普通にこのまま生きていきなよ。今までやってきたこと、遼太が思うほど悪いことじゃないよ。子供なら、誰だって適当に投げた石が車とか人の家の窓ガラスを割ることあるでしょ? それくらい、大したことじゃない」
このまま、気づかないなら、気づかないままで過ごしてしまえばよかったのだ。
「たぶん、それを一番望んでるのは、凛だよ?」
「!!」
それは、とても意外な言葉だった。