店の前で気絶した綱吉に、キドニーとリボーンは呆れながら縁側に寝かせる。
「そういえば、潤也のやつは一緒じゃねーのか?」
「ジュンは骸様が、雲雀恭弥を見に行く、付き添い」
「あいつがか……? 雲雀に見つかったら大騒ぎになるぞ」
いくら潤也とはいえ、骸と雲雀の戦いを止められるわけではない。おそらく、見つかることはないようについて行ったのだろうが、心配だ。
それにしても、事件を思い出すたびに三人のことを心配していたというのに、実際にあったら気絶してしまうとは、さすがに呆れてしまう。
「夜までに起きるの……? こいつ」
「日頃の疲れですかねぇ……学校までは連れていってあげなさい」
「えぇ……私が?」
「後で遼太が帰ってきたら、頼めばいいんじゃないですか?」
「……わかったよ」
今は、山本の見舞いに行ってしまっていないが、夜までに帰ってくるはずだ。
「昨日はどうにか首の皮一枚つながりましたけど、まだピンチですね」
「んあッ!? 骸様が負けるわけねーだろ!」
「どちら側にもついていない私からすれば、絶対なんて言えませんからね。物事はちゃんと見ませんと」
「こいつ、みょーにあのヒヨコに似ててムカツク!」
「ヒヨコ?」
「ジュンのことだよ」
雲雀の子供はヒヨコではないが、そういうことではないだろう。凛はあとでからかおうと予定を立てつつ、棚の後ろから、フルーツガムの箱を取り出し、犬に渡す。
「君は、守護者には選ばれてないんだ……」
「そもそも、ファミリーでもないし。レシートいる?」
「いらない」
「骸様らって――」
「犬」
食いついてくる犬をなだめると、凛からおつりをもらい店から出ていく。
「てめーにはもったいない霧の守護者らって、ボンゴレに言っとけ!」
そう残して、店を後にした。
遼太が帰ってきたのは、その数時間あとのことだった。店に入ると、縁側で凛が座って、その膝の上にリボーンが座っていた。その後ろには、綱吉が気絶している。
「ど、どういう状況だ……? これ……」
「お邪魔しています。比賀殿」
奥から顔を出したバジルが、今までの経緯を大雑把に説明してくれると、納得できたようなできないような、なんとも言えない表情になる。
「つ、つまり、霧の守護者は俺を襲ってきたあいつのボスで……ジュンが今、そいつらと一緒にいるってことだよな……?」
「はい」
潤也があの時、骸たちのところにいたことは聞いていた。危険だと、前までなら連れ戻しに行ったかもしれないが、今は行こうとは思わなかった。
潤也が大丈夫だと思って、向こうにいるのだ。なら、友人として、それを信じてやらなければ。
「連れ戻しに行ってくる。とか、言わないんだ」
「言わねぇよ。だいたい、お前ら、俺に内緒でいろいろやってたくせに」
「……あぁ、聞いたんだ。怒ってんの?」
襖越しで表情は見えないが、リボーンだけは膝の上から見上げていた。
「怒ってないわけじゃねぇけど……なんで、俺に言ってくれなかったんだよ」
「なんでいうの?」
本気で不思議そうな声色で聞く凛に、遼太も反応に困る。
確かに、大っぴらに言うことではないが、一緒に仕事をしていたにも関わらず、たった一人だけ伝えられなかったのだ。
「言ってくれてもいいだろ」
「……そう」
バジルが気まずそうに、辺りを見渡せば、目に入ったカサブランカの花。ヴァリアーが現れた日、ベルから凛に送られたものだ。
「近衛殿」
「ん?」
「この花……カサブランカ、ですよね?」
「そうだね」
あの時、あえて渡してきたのだ。何か意味があるはずだ。しかし、何も思いつかない。
「ベルフェゴールは、なぜこれを近衛殿に渡してきたのですか?」
凛だけが、この花の意味を理解している。回りくどく聞くわけでもなく、直接、バジルは聞いた。
「私を殺すつもりだからでしょ?」
ごく当たり前のように、不思議そうに返した凛に、その場にいた全員が驚き、凛を見つめた。
殺すと予告され、嫌だと泣き叫ぶわけでもなく、むしろ、心の底から嬉しそうに微笑んでいた凛。それは今も変わらない。今までの、どんな状況よりも嬉しそうに微笑んでいた。
「……」
じっと凛を見上げるリボーンの脳裏には、潤也が前に言っていた『凛を殺してくれたら、ファミリーに入ってもいい』という言葉。
「一回だけだったのに、助けてって言ったの、ちゃんと覚えてたんだねぇ」
きっと、彼は知っていたのだ。彼女にとって、死は祝福で、生きていることからの救済。
だからこそ、あんなことを願い、黒曜の時も自ら銃を手にとった。
「昨日のアレは、そういう意味なのか?」
「アレ?」
リボーンの目が、少しだけ怒気をはらんでいるような気がしたが、それに気がついたのは凛だけだった。
「あぁ……ベルとの」
だが、どれだけ他人が怒ろうと、もう関係ない。
「不安なんだよねぇ。随分怪我してるし、ちゃんと、殺してくれるのかな?」
見上げる漆黒の目に、困ったように泣きそうな表情の少女が映った。
「苦しいのは、イヤだもん」
***
綱吉を背負いながら、並森中学校へ向かう途中、遼太は塀を歩くリボーンに目をやる。
「……ツナたちが勝ったら、ヴァリアーは手出して来れないんだよな?」
綱吉が正式なボンゴレ十代目となれば、例えヴァリアーであっても、綱吉やファミリー、友人に勝手に手を出すことはできない。
「ツナ……頼む。勝ってくれよ……!」
体育館で目を覚ました綱吉は、現れた犬、千種、そしてクロームに驚き、獄寺はダイナマイトまで取り出し、山本に止められる。
「やっぱりこうなった……」
「潤也君!? なんで一緒に……!?」
「手伝いだよ」
「え、あ、えぇっ!?」
「兄さんと会ったら大変じゃない。それを防止のためだよ」
「な、なるほど……」
そう言われてしまえば、確かに納得できなくはない。恭弥が、一度負けた相手を放置しておく訳がない。もし、戻ってきてると知れれば、また殴り込みに行く。
「……凛と話したんだ」
「な、なんでお前らそんなすぐわかるんだよ……!」
山本にもひと目でバレていた。それほど顔に出てくるのかと、ペタペタと顔を触るが、わかるはずもなく、潤也に笑われるだけ。
「なんかもう、吹っ切ったって顔してる」
「……この試合に勝てば同点。あとは、お前の兄ちゃんだろ」
「うん。負けるとか、考えないの?」
「も、もう信じるしかないだろ! 何もできないんだし! 応援でもなんでもしてやるよ!! いつもの円陣組もうぜ!」
半ばやけになりながらも、クロームに声をかけるが、
「いらない」
そんな冷たい一言が突き刺さった。