笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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 遼太は早起きして、病院に来ていた。昨晩の霧の対決は、無事、クロームと骸が勝利し、今は同点。

 

「残りは、あいつの兄ちゃんだけど……」

 

 何度か、潤也に群がっていると勘違いされて噛み殺されかけたことがあり、その強さはよく身にしみている。

 それでも、不安だった。

 

「お、リョウじゃねーか!」

「武! お前も?」

「まぁな……」

 

 みんな、考えることは同じらしい。山本は頬をかくと、病室をノックし、中に入った。

 中には、獄寺と了平の姿もあったが、二人共眠っている。起きているのは、ディーノとロマーリオだけ。

 

「やっぱり来たな。心配すんな。恭弥は完璧に仕上がってるぜ」

 

 その言葉に、二人は嬉しそうな表情を作る。

 しかし、ディーノは遼太に目をやると、少しだけ険しい表情を作った。

 

「あの二人のこと、もう聞いたんだろ?」

 

 潤也と凛。それに、キドニーについてのことも。今まで知らされていなかった事実。

 山本も心配そうに遼太を見つめるが、遼太は歯を噛み締めると、頷いた。

 

「実は、前に俺が初めて来た時も少し試させてもらってたんだ。お前には、バレないようにって口止めされててな」

「え……」

「凛と潤也がな。本当は、キドニーさんとこで仕事してる奴、全員を試すつもりだったんだけどな。あの二人、本当にお前のことは、巻き込む気はなかったみたいだぜ?」

「……」

「俺が言えることじゃねぇかもしれねーけど、何かあったら力になる。それこそ、キドニーさんのとこから自立するってんなら、手を貸す」

 

 それは、遠回しにもう関わるなと言っているようなものだった。友人である二人と、もう一緒にいるなと。

 

「なんで、っすか……? 急に」

「……知らないままなら、勝手にいなくなると思ったんだろうが、こうなっちまったら、お前、ずっと関わり続けるだろ? そうなれば、遅かれ早かれこっち側にくることになる。今なら、十分引き返せる。今、引き返さないなら、相応の痛みを伴うことになる」

「相応の痛み……?」

 

 頭によぎったのは、施設だった。逆恨みの矛先が向くかもしれない。それがいやで、今までだってキドニーの店に居候しているのだ。潤也の話では、施設出であることは、そう簡単に調べられないようにしてあるそうだ。

 情報で金のやりとりをしているような仕事の人間がいうのだから、間違ってはいないのだろう。

 

「……」

 

 山本と遼太が見つめる中、難しい表情で腕を組んでいたディーノは、突然ヘラりと困ったように笑った。

 

「俺もわかんねーんだ」

「「え!?」」

「わりーな。本当は、今のこと、リボーンの奴にいっとけって言われてたことなんだ。正直、俺もリボーンの考えてることは、完全にはわかんねぇ。でも、このタイミングで言ってくるってことは、遼太はこの戦い最後までいないほうがいいんだろうな」

 

 そう言われて、ようやく少し察しがついた。

 

「リョウ?」

 

 山本が心配そうな表情が目に入る。

 

「凛が、ヴァリアーに殺されるかもしれない、ってことっすよね」

「!? どういうことだ!?」

「……ベルフェゴールか?」

 

 かつて、一度凛とベルがあっていることを知っていたディーノは、すぐに予想がついたが、山本には全く理解できなかった。毎晩、会うたびに楽しげにあいさつを交わしている相手に、殺されるなんて、意味が分からない。

 

「あいつが言ってたんす。あのユリの花は、ベルが凛を殺すっていう意味だって……」

「は、ハァ!?」

 

 肝心なところをリボーンはディーノに伝えていなかったらしく、ディーノも声を上げ、遼太も表情を歪めた。

 

「お、俺も意味わかんねーんすよ! 凛も、その話の時は妙に楽しそうにするし……」

 

 薄々感じる、実は死にたがっているのではないかという疑問。

 

「たぶん、見えてねーんじゃねーの?」

 

 親友の言葉に顔を上げれば、困ったように頬をかきながら笑っている。

 

「ほら、俺も一回飛び降りようとしたことあるしさ。あんときはただ腕骨折しただけなのに、全部なくなっちまったような気になって、リョウのことも周りのみんなのことも見えなくなっちまってたしさ。凛のやつも、そうなんじゃねーのかなって」

 

 あの時、綱吉が来てくれなければ、山本は今ここにいなかった。

 

「俺にとってのツナは、凛にとって遼太とか潤也とかじゃねーかなって、思ってんだけど」

「そうだぜ? 恭弥が勝てば、ヴァリアーは簡単に手を出してこれない。凛と話すのは、それからゆっくり腹わって話せばいい」

「……はい」

 

 結局のところ、今日、恭弥が勝てば、最悪の結果は回避できるはずだ。

 

***

 

「兄さん」

「なに?」

 

 久々に家で、恭弥と向かい合って座っていれば、恭弥は前にハルにヒバードと名付けられていた小鳥に餌をやる手を止めて、こちらに向く。

 

「今日の相手のゴーラモスカだけど、相当強いんだって。ザンザスの……向こうのボスのことね。の、補佐をやるくらいで」

「ふーん……」

 

 まるで興味がない。それどころか、

 

「そいつ倒したら、ボスザルをかみ殺せる?」

 

 ザンザスとまで戦いたがっている始末。

 

「頼んでみれば? ちゃんと相手、倒したあとなら大丈夫かもよ?」

 

 確かに、数時間前そういった。言ったが、

 

「本当にやるとは思わないじゃない?」

 

 ゴーラモスカを一瞬にして倒した恭弥は、本当にザンザスと戦おうとしていた。

 しかも、ザンザスもやる気のようで、フィールドへ降りてくると、戦いが始まる。

 

「凛?」

 

 恭弥のことは心配ではあるが、ザンザスの言葉を信じるなら手は出してこないだろう。もう一つの心配の種である、凛に目を向ければ、少し眉を下げている。遼太に目を向ければ、恭弥のことをなんとも複雑な表情で見ていたが、口端は持ち上がっていた。

 

「……僕は、どっちにつけばいいかな?」

 

 残念だったねと、同情するか、それともよかったねと、友人を失わなかったことに喜ぶか。

 しかし、そのどちらでもなかった。

 

「兄さん!?」

 

 壊れたゴーラモスカが暴走を始めた。狙いなどなく、ばらまくように発射されるミサイルにビーム。

 

「む、無差別かよ!?」

 

 逃げる遼太たちに襲いかかるミサイル。ヴァリアーも状況は同じだった。

 笑っているのは、ザンザス、ただ一人だけ。

 

「アハハ。これは……すごいね」

 

 戦場という言葉では、足りないかもしれない。凛は試合前に腰を下ろした位置を変えることなく、座ったままその様子を眺めていた。

 

「ホント……一発くらい飛んできてもおかしくないと思うんだけどなぁ」

 

 ぼやきながら、足を撃たれ動けない兄へ走り寄る潤也を見る。

 

「兄さん!」

 

 恭弥へ肩を貸せば、後ろ手に四角い箱を投げた。直後、周りの自動砲台がその四角い箱へ向かって発砲をはじめ、爆発した。

 地雷は先程自分が歩いてきた場所を。砲台は、遊びで作っていた道具でどうにかなるが、どうにもならないものが、ひとつ。ゴーラモスカだ。

 

「ジュン! 上!!」

 

 遼太の叫びに見上げれば、ゴーラモスカの撃ったミサイル。

 

「ッ」

 

 同時に叩きつけられるように、地面に押さえつけられた。数秒遅れて、周りでミサイルが着弾した音が響いてくる。そっと目を開ければ、恭弥が自分をかばうように地面に伏していた。

 

「……ありがとう」

「一人で歩ける」

 

 ふらふらしながらも、恭弥は一人で起き上がると、フィールドの外へ歩きだし、その途中で足を止めると、

 

「いつまで寝てるの?」

「あ、う、うん!」

 

 慌てて潤也も追いかけた。

 遼太は、危険なフィールドから出る二人を横目に、銃を構えた凛の方へ顔を向ける。先程、ミサイルの弾道を数発で逸らしていた。おそらく、相当高度な技術だが、そんなことよりも、銃を使い慣れたように撃っていることに、少し唇をかむ。

 だが、同時に口端も上がっていた。

 

「そうだよ。変わんねぇ。変わんねぇんだよな」

 

 潤也と恭弥が危険だから、助けた。それは、友人である凛、そのものじゃないか。

 これで綱吉たちの勝ち。もう不安はない。喧嘩してもいい。ちゃんと話して、それで仲直りできればいい。

 

「九代目……!?」

 

 そんな叫びが、耳に入ってきた。

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