ボンゴレリング争奪戦は、一夜にして九代目の弔い合戦となった。
遼太は、学校が終わると、二人を探して校舎を走り回っていた。
「どうしたの? 遼太君」
「あ、ツナ! ジュンと凛見てないか?」
「見てないよ?」
「そ、そっか……あ、そうだ。ランボの奴、一回目を覚ましたって、さっき連絡あったぜ」
「本当!? よかった!」
綱吉は安心して胸をなでおろしたが、リボーンは見上げて、二人について聞く。
「それが、探してるんだけど……見つかんなくてな」
「そうか」
三人は下駄箱に来ると、凛の靴はもうないが、潤也の靴はあった。
「ってことは、風紀委員のところか……」
だとするなら、さすがに行けない。先に帰っていようと、遼太も靴を取り出した。
「絶対、勝てよ。ツナ」
「うん」
遼太は靴を履き変えると、店に向かった。
その頃、応接室では電話を切った潤也がいた。
「これでよし……と」
ちょうど、そのタイミングで入ってきた恭弥は、少しだけ目を見開く。
「おかえり。兄さん」
「なに?」
「足、痛くない?」
「痛くない」
強がりなのはわかるが、わざわざ否定する必要はないだろう。潤也は、微笑むと、
「死なないでよ。兄さんは」
そう言って、部屋を出た。
凛は古いアパートを眺めていた。ずいぶんと寂れてしまったアパートは、もう取り壊しを待つだけの建物だそうだ。
「後悔してんのか?」
振り返れば、リボーンが塀の上に立っていた。
「後悔? 何を?」
「……うすうすは気づいてんだろ。もう何も分からねぇ子供じゃねぇんだ」
「知らない。だいたい、家族は大好きなんだ。大切なんだから」
笑う凛の表情に、嘘はなかった。
「愛を貰った。いっぱい。私も愛してあげるんだ」
リボーンは静かに帽子のつばを下げた。
***
夜の並森中学に遼太、凛、潤也の姿はなかった。三人はそれぞれ別の場所から、戦いの様子を見ていた。
それは、キドニーがキャッチした、ヴァリアーがこちらへ向かってきているという情報。
「ヴァリアーは、おそらく今回の件に関わったすべての人間を消しに来るでしょう」
「なっ……!?」
「だろうねぇ。一応、応援は頼んでおいたから、遼太、その人のこと案内してあげてくれない?」
「お、応援?」
「メチャクチャ強い応援。期待しててよ」
そう言われ、奈々やイーピン、京子たちがいる病院の近くで、遼太は隠れてヴァリアーが現れるのを待っていた。凛や潤也がどこにいるかはわからないが、関わった人間全てとなれば、守る人は多い。分担する他ない。
「……」
言いようのない不安に、金属バットを握る手が汗ばむ。
「さて、ランチアさんは間に合うかな?」
時間を考えれば、間に合ってもギリギリだ。
「……もういい加減諦めればいいのに」
それは誰に向けられた言葉か、返事が返ってくることはなかった。
「……」
凛は並森中で行われている戦いの光を眺めていた。
死角に、影が降り立った。
***
ザンザスが綱吉に破れ、ついにベルがチェルベッロの一人を殺した。コロネロたちも戦おうと、観覧席から出ようとするが、装置に細工され赤外線センサーが解除されない。
「くっそう! こうなりゃ、俺たちだけでやるしかねぇ!」
獄寺がダイナマイトを構えた時、現れた黒い服を着たヴァリアーの隊員。
「ナイスタイミーング。待ってたぜ」
ベルが笑う中、息も絶え絶えに男は口を開いた。
「報告、します。ヴァリアー隊は――」
しかし、その口はそれ以上の言葉を紡ぐことはできなかった。後ろ首に引かれた赤い線は、血飛沫を吹き出し、倒れていった。
代わりに現れたのは、凛。
「!」
「あんなかっこいいことして、負けるとかだっさいねぇ」
いつもと変わらない人をおちょくる笑顔で、その片手には血のついた幅広のナイフ。
引きつった笑顔のベルなど気づいていないのか、凛は一度ぶるりと震えると、心底嬉しそうに表情を歪めた。
「これなら、私を連れていってくれるかな? 消してくれるかな?」
目の前を切り裂いた剣を男は、目の前で笑う女の目がじっと自分の目を見ているにも関わらず、どこか焦点のあわない視線に疑問を抱く間もなく、銃声を聞いた。
その瞬間、後ろで構えていた仲間が倒れた。自分の目を鏡にして、後ろの仲間を見ていたのだと気がついた時には、男の世界から光は消えた。
「近衛さん……泣いてる……?」
ただ一人、綱吉は嬉しそうに笑う凛の目が涙を流しているように見えた。
「ぐあっ……!」
どうにか不意打ちで数人は倒せたものの、姿を見せて戦うことになれば、さすがに厳しかった。肩で息をしながら、少し目を後ろにやった瞬間、剣を構え迫っていた男。
「ッ!!」
反射的に身をよじり、遼太は尻餅をついた。次に来る痛みにバットを構えるが、一向に痛みは降ってくることはなかった。そっと目を開ければ、周りにいたヴァリアーが倒れている。
「大丈夫か?」
鋼球を携えた男が、遼太を見下ろしていた。
「あ、アンタがランチアさん……?」
「あぁ。潤也が言っていたのは、お前か」
手を差し出され、立ちあがると、すぐにお礼を言った。もう少しくるのが遅ければ、遼太も危なかった。
「ここにいない奴らはもうボンゴレの元に行っているのだろう」
「! なら急がないと!」
「どうした? なにかあるのか?」
確かに急ぐことに疑問はないが、遼太の焦り方は少々異常だった。
「あいつを助けないと……」
「……ならば、急ごう」
なにを焦っているのかはわからない。だが、彼からは、確かに大事な何かを守りたいという気持ちが感じられた。