笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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27 助けを乞うた

 その場にいた全員が、その光景に見入っていた。鮮やかだが、隙だらけにも見える戦い方だというのに、一向に負ける気配だけがない。

 

「な、なんだあいつは……」

「近衛凛。素直だからこそ死にたがってる女の子かな」

 

 シャマルの疑問に答えたのは、潤也だった。潤也は赤外線センサーの隣に座ると、コードをつなげ、ロックの解除を試みる。

 

「死にたがり……?」

「シャマル先生は嫌いなんでしたっけ。死にたがりは」

「ったりめーだ」

「じゃあ、消えたがりにしましょうか」

 

 凛にとっては、そっちの方が正解だ。

 

「お前、凛の友達だろ。それでいいのかよ」

「凛は凛だから」

 

 ディーノの言葉にパソコンから目を離さず返せば、ディーノは眉をひそめた。

 

「助けてほしいんだって。凛は……友達だからね。助けてあげたいでしょ?」

「なら!」

「おめーはどうしたいんだ?」

 

 真剣味を帯びている殺気にも近い声に、潤也はリボーンに目をやれば、そのつぶらの瞳からは想像もできないような鋭い視線が潤也を射抜く。

 その視線に、自然と手が止まった。

 

「……」

 

 答えれば助けてくれるのだろうか。心のうちを吐露してしまえば、手を貸してくれるのだろうか。

 でも、それは今じゃない。

 

「凛は臆病な寂しがり屋なんだ。だから……僕はこの賭けが終わるまで、凛の味方するよ」

 

 そう笑って答えた。

 

「だからさ、助けてあげてよ」

 

 この意味を、リボーンはもう知っているはずだ。

 

***

 

 水を得た魚とはこういうことなのだろうか。苦しかった呼吸が、今はすごくラクだ。息を、している。

 

「貴様ァ!!」

 

 後ろにいた大男は、大きな斧を振りかぶっていた。

 だが、斧はまっすぐ降りてこず、大男は後ろから何かに殴られ、よろけた。

 

「リョウ……?」

「ま、間に合ったァ……!!」

 

 遼太は足元に倒れている首筋などの急所が切られるか、撃ち抜かれている男たちに、今までの惨状を察し、息をのんだ。これが、今まで凛がやってきたことだ。そして、今こうして目の前にいつものように、いやいつも以上に楽しげなのが凛だ。

 

「もうやめようぜ……? な?」

「……あぁ。変わらないね。リョウは」

 

 笑った凛は、銃を遼太に構えると、撃った。

 

「っ」

 

 遼太の後ろで、剣を構えていた男が倒れた。

 

「ありがとう。だから、好きにさせて」

 

 次の瞬間、凛は身を翻すと、独特な形状をしたナイフを掴んだ。手からは血が流れる。触れれば切れるナイフ。

 投げてきたのはベルフェゴールだった。

 

「助けてほしいんだろ?」

 

 それは、開幕の合図だった。ベルと凛が互いに駆け出す。

 

「凛……!! ぃ……いやだ。いやだ……!!」

 

 この二人の対決の先にあるのは、どちらかの死だ。

 誰も割って入ることはできなかった。自分たちの力で割り込もうとすれば、逆に味方が不利になるかもしれない。それが、友人の生死であるならば、なおさら割り込めなかった。

 

「ッ」

 

 ケガのせいか、ベルが一瞬動きを止めたが、直後凛も動きを止めた。

 すぐに首の薄皮が一枚裂ける。あと少しでもベルに追い打ちを仕掛けていれば、ワイヤーが血管を切り裂いただろう。間近まで迫った死に、全員に鳥肌が立つ。

 

「あぁ……! すごい……! あと少し。でも、痛いよ。苦しいのはきらいなの」

 

 細かについた傷が痛む。呼吸は良好。心が跳ねていた。それはもう踊り狂うように。

 

「せめて言葉くらい普通に話せってーのっ! つーか、今ので死んどけ」

 

 悪態はつくが、ベルも凛となんにも変わらない。命をかけた戦いだというのに、これ以上楽しいことはない。

 

「愛だね。愛して、愛されて、祝福されて……!」

 

 涙がこぼれ落ち、

 

「だから、おとなしくしてればサクっと殺してやるっての」

 

 その滴をナイフが切り裂く。

 二人のダンスは、徐々に終わりが近づいてきていた。二人の体は、互いに傷だらけ。だが、それでも凛の方が多い。

 

「ダメ、だ……」

 

 遼太は、決着がつきそうなことにもっとも喜んでいる彼女に、ありったけの力で叫んだ。

 

「死ぬなんていうなよッ!!!!」

 

 振り返った凛の表情と、弾き飛んだこちらに向けられた銃。それから、早撃ちすぎてほとんどひとつに聞こえた二発の銃声。

 遼太の腕をかすめた幅広のナイフは、黒いスーツを着込んだ赤ん坊が立っていた位置へ正確に突き刺さったが、赤ん坊は避けて、その硝煙香る銃をベルに向けていた。

 

「凛……?」

 

 ようやく状況が飲み込め始めたのは、凛が倒れ、飛んだ銃が地面に落ちる音を聞いてからだった。

 足元に倒れた凛は、赤い血溜まりを作り始めていて、涙を流しながら笑っていた。だが、その苦しみを止められることはない。今一歩でも動けば、もう一発銃声が轟くだろう。

 

『この役たたず! 調子乗ってんじゃねぇぞ!』

『イヤァ!! やめて! 助けて! 凛! 痛い、痛い……!!』

 

 薄れる意識の中、耳の中にこだましていたのは、最後の両親の喧嘩だった。

 

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