笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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02 刺客?現る

 まだ、夜は明けず、起きているなら新聞配達の人か、電車の始発を動かす人くらいだろう。

 そんな真っ暗な時間のビルの裏口の非常階段は、非常灯以外の光はなく、ぼんやりと物の影が見える程度。そんな暗闇の中、数回火花が辺りを照らし、赤く丸い点が浮かび上がった。

 

「ふぅ……」

 

 その赤い点が動くと、また元の場所に戻り、気の抜けた音と共に下へ落ちた。

 淡く赤い光が足元を照らす中、その影はゆっくりと階段の外へと滑り落ちていった。

 

***

 

 朝日が昇り、早起きの人がそろそろ活動しだす時間。薄手の上着を着ていても、体を震わせる凛と潤也の二人。

 

「さすがに寒くなってきたね」

「同感。なんで、お前、普通にしてるわけ?」

 

 二人の隣にいる遼太はというと、上着を羽織ることもなく、ジャージ姿だ。

 

「お前らが寒がりなんだよ。運動すればあったかくなるぞ!」

「遠慮しとく」

「コーヒー飲んで温まるほうが好き」

「お前ら、風流じゃないな!」

「運動して温まるのが風流なんて、聞いたことないよ」

 

 兄顔負けの冷たい視線を向けられれば、遼太は助けを求めるように凛に視線を向けるが、凛は大あくびをしていて、助けてくれる様子はなし。いや、あくびをしていなくても、助けてくれることはないだろうが。

 

「この薄情者めェ!!」

「ぅぁ?」

 

 聞いていなかったのか、不思議そうに振り返る凛は、指された指を折り曲げ、拳を作ると、自らは手を開き、

 

「ジャンケンポン」

 

 と、早口でいうと、

 

「よーし。勝ったー回収、お前なー」

「ずりぃ!!」

「じゃあ、多数決にする?」

「俺、絶対負けるじゃん!!」

「「そうだよ」」

 

 全く悪びれる様子がない二人に、遼太はもはや慣れはじめ、悔しいとも思えなくなっているものの、負け惜しみだけは必ず叫ぶ。

 

「友達パシる奴なんて、地獄に落ちろ! バーカ!!!」

 

 野球で鍛えられた瞬発力で、すぐに姿は見えなくなった。

 残された二人は、先に店に帰ろうと歩いていたが、ふと凛が足を止める。

 

「気持ち悪い」

「……え?」

「……少しだけど、気持ち悪い気がする」

「……」

 

 胸を軽く押さえながら、呟いた。

 

***

 

 特に何事も無く放課後がくると、遼太は楽しげに立ち上がる。

 

「終わったー!」

 

 じっと、何も言わずに見つめてくる凛に、少し身構えるが、頬杖をついているだけで何も言ってこない。

 

「な、なんだよ。倉庫の修理は終わったんだから、部活行ってもいいだろ」

「別に。ホント、野球好きだなって思っただけだよ」

「楽しいだろ。野球」

「私は、別に。そもそも、運動が好きじゃないし」

 

 それに、少しばかり意外そうな声を上げたのは、山本だった。

 

「凛って、体育苦手って感じにも見えないけどな」

「あ、違う違う。こいつ、スポーツのルール覚える気ないんだよ。俺らよりずっといい頭持ってるくせに」

 

 そりゃ、赤点ばかりで補習常連の山本や綱吉、遼太に比べれば、頭はいいだろう。少なくとも補習を回避はできるくらいの頭は持っている。

 

「人間、頭が使える容量なんて決まってるんだよ。スポーツのルール覚えるのに割り振る分がないだけ」

「んーじゃあ、俺が教えてやろっか? 野球なんて簡単に言えば、ビューって投げて、ガンって打って、ババーって走るだけなのな!」

「へーそーなんだーわかりやすーい」

 

 見事な棒読みだった。

 二人が部活に行き、すでに潤也もいない。凛は一度、携帯を開くが、すぐに閉じた。

 靴を履き変えて、昇降口から一歩足が出た瞬間、全身に寒気が走る。自然と止まっていた呼吸をゆっくりと再開すると、出した足を戻し、下駄箱へ戻った。

 

「……はぁ」

 

 ため息をつくと、携帯を取り出し、メールを打った。

 その頃、ビルの屋上で、腹ばいになりながら、ライフルで並森中学の昇降口に狙いを定めていた中年の男は、驚いたように声を漏らしていた。

 

「ターゲットの一人、途中で引き返したぜ。ボス」

 

 男は感心したようにそれを報告するのは、隣に座る金髪の青年。キャバッローネファミリーのボスである、ディーノだ。

 

「へぇ、ロマーリオの狙撃に気づいたってことか? そりゃ、有望だな。どいつだ?」

「近衛凛。リボーンさんが一番の難敵って言ってただけはある」

「……あぁ、さすが、ってところだな」

 

 リボーンと三人が店長と呼ぶ、キドニーから渡された情報で、おおよその三人の情報は知っている。その上で、リボーンやキドニーが、一番の難敵として上げたのは近衛凛だった。そして、その理由はディーノでも簡単に納得できるものだ。

 

「さて、どうする? ボス。このままいくか? それとも、別のやつを先にやっておくか?」

「そうだな……」

 

 遼太は野球部の練習のおかげで、場所や行動を読むのは容易い。凛も今は学校から出てはいない。裏口にも部下を一人置いているが、そっちから出たという情報もない。残りは潤也だが、こちらは終礼の時から姿は確認できていないが、鞄が教室に残っていることから、学校内にいることは想像がつく。

 

「凛か潤也の二人の姿が確認できしだい、順番に仕留める」

 

 まずは行動が予想できない二人からだ。ロマーリオの「了解」という返事を遮るように、聞こえてきた音。

 そして、強烈に目にしみる赤いガス。

 

「催涙ガス……!?」

 

 霞む視界でどうにか見えたガスを発生させているそれを、鞭で投げ飛ばせば、徐々にだが痛みが引いてくる。

 ロマーリオが懐から出した銃を、ドアに構えるが、ディーノはため息をつくと、それを下ろさせた。

 

「完全に出し抜かれたな。子供だと思って油断してた」

「ボス?」

「雲雀、潤也だな。何もしねぇから、顔ぐらい見せろよ」

 

 すると、現れたのは思ったとおり、雲雀潤也だった。

 

「いつから、気づいてた?」

「なにに、って言われると少し変わるけど、ストーカーのことなら朝から。あなたたちだっていうことなら、昼過ぎから」

「朝から……って」

「最初っからバレバレってことか」

 

 さすがに、それほど早いとは思わなかった。

 

「凛はそういう嗅覚すごくいいんだよ」

 

 朝、二人と別れた遼太はコインロッカーの並ぶ建物に入ると、縦に長い大きめのコインロッカーに近づき、暗証番号を打ち込む。中に入っていたのは、バットを入れるケースが二つとエナメルバッグ。

 

「そろそろ洗わねぇとなぁ……」

 

 そうぼやきながら、エナメルバッグとケースを一つを抱えると、近くのバッティングセンターに向かった。

 遼太が出ていった直後、スーツ姿の男が入ってくると、迷わず先程遼太が使っていたロッカーの前で屈み、中の残ったケースを取り出すと、中身を取り出した。

 

「ただの、バット……?」

 

 中学生がよく使っている木製のバッドだ。おかしな点はどこにもない。使い込まれてはいるが、妙なへこみひとつ見当たらない。

 男は、不思議に思いながらも、それをしまうと、建物から出ていった。

 

「……めずらしい」

「本当にね」

 

 建物が見える角で、塀に寄りかかりながら、一連の行動を見ていた凛と潤也は、塀から体を起こすと、店に足を向ける。

 

「店長じゃなくて、私たち狙いなら、早いところ排除したいところだけど」

「同感。あの様子だと、僕たちの存在は知ってるけど、確信は持てないから証拠を探してるって感じだし、早めに手を打つべきだね」

「警察……じゃないよね?」

「それはないよ。それこそ、店長が隠蔽はしてるし、第一、そんなことになってれば、まず兄さんに呼び出されてる」

「……ヒバリサンチコワァイ」

 

 町内会どころか病院でも警察でも、雲雀の名前が出れば、まずは表情が恐怖にひきつる。そして、次に笑顔に変わる。恐怖の対象である風紀委員長でも、一応そのおかげで平和が守られていることを考えれば、逆らわない限り、人にとってはプラス、つまり利益なのだから、いいのだろう。

 

「でも、妙ではあるよね」

「ん?」

「凛が言ったみたいに、警察なら証拠もなしに捕まえるなんてできないから、ああいうふうに証拠を集める必要はあるけど、そうじゃないなら、証拠集める必要なんてなくない?」

 

 確かに、言われてみればそうだ。裏社会に生きていて、元凄腕の情報屋であるキドニーを暗殺しにきて、その周囲に妙な居候がいたとなれば、十中八九そいつらは護衛か、キドニーの弟子といったところだ。

 少なくとも、凛や潤也ならそう考える。つまり、その居候は気にせず、皆殺し前提のキドニー暗殺ミッション。

 

「それをあの人たちはしてない」

「その心は?」

「余計な犠牲者を出したくない、すごくいい人。もしくは――」

 

***

 

「私たちが“そういうこと”に付き合ってるのを知ってて、能力があるか確認したいスカウトマン」

 

 凛は横目に窓枠に腰掛けたスーツの赤ん坊を見つめる。

 

「んじゃ、俺の言うことはわかってるな」

「お・こ・と・わ・り」

「ファミリーになれ」

「話聞けよ」

「いいじゃねーか。減るもんじゃないだろ」

「そんなヘタなカツアゲじゃないんだから……」

 

 ため息をつきながら、潤也の鞄も回収すると、今度こそ帰るために下駄箱に向かう。

 

「なんで、催涙ガスにしたんだ? 命を狙われたかもしれねぇんだぞ」

「どうせメチャクチャ痛いゴム弾とかでしょ? 遊びに付き合うなら、最高に痛く仕上げた催涙ガスでしょ」

 

 遊びと言い切ってしまう凛に、リボーンは帽子のつばを下げると、

 

「ちげーぞ。ゴム弾なんて生ぬるいもん入れるわけねーだろ」

 

 その声色に足を止めて振り返った凛は、ニヒルに笑った口元を見た。

 

「メチャクチャ落ちにくいペイント弾だ」

 

 なんて地味な嫌がらせだ。と、あと少しで喉から溢れ出しそうだった。

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