病室の前では、遼太が頭を抱えていた。つい先程まで、綱吉たちも一緒にいたが、さすがに今までの戦いの疲れもあったのか、倒れるように眠ってしまい、今は別の部屋に放り込まれている。
あの時、リボーンの行動を理解できた人は誰一人していなかった。その撃った本人は、たった一言、
「ムカついた」
それだけの言葉しか発さなかった。
「リボーン」
ディーノが責めるように視線をリボーンに向けたが、リボーンはどこ吹く風。
「なんであんなこと……凛だって、ツナのファミリーだろ?」
「違ェぞ。凛はファミリーになってねぇ。お前も聞いてたじゃねぇか」
それは初めて凛と潤也と会った時。即答で断られていた時のことだ。
「だからって……」
死にたがっていたことは知っている。だが、何も撃つことはない。ファミリー、友達ならなおさらだ。
「バカは死ななきゃ治らねぇからな。殺してみた」
そんな明らかにハズレの新商品を買うような感覚で、撃たれたらたまったものじゃない。
いくら死ぬ気弾であっても、本人に生きる気力がないなら、生き返ることだってない。
「それで本当に死んだらどうする気だ!? お前!」
「その時はその時だ」
いくらなんでも、ここまで横暴な元家庭教師は知らなかった。長い付き合いだが、死にかけても死ぬことはない。その辺、ちゃんと見極めている。
なのに、今回は完全に賭けだ。凛がこのまま目を覚まさない可能性も十分にある。
「生き死にってのは、対に存在していて、光と闇みてーに互いに消すことはできねぇもんだ。だから、死にたいって思ってた凛には、同じくらいの生きたいって思いもあったはずだ」
でなければ、自分に迫る危機を恐怖に感じるはずがない。それが、才能も相まってヴァリアー幹部ですら対等に戦えるほどにもなった。
「だからこそ、殺したんだ。たとえ、賭けでもな」
「……」
「あいつに乗せられたみてーで少しシャクだがな」
「あいつ?」
ディーノの疑問に、リボーンは答えなかった。
その頃、病室でシャマルは困り顔で頭をかいていた。視線の先には、眠っている凛。
「こんにちは」
そっと病室に入ってきたのは、キドニー。外には遼太たちもいたはずだが、開いたドアから見る限り誰もいない。
「あの子達は眠っていたようなので、ツナ君たちの部屋に放り込んでおきましたよ」
「そうかよ」
「それで、容態は?」
「……」
それが一番の困り種だった。
「一応、聞いていいか?」
「はい。なんでしょう」
「こいつ、本当に人間か?」
「人間ですよ」
先程よりも強く頭をかく。死ぬ気弾ではあるが、リボーンの晴れの死ぬ気の炎を込められた銃弾で、本気で殺しにかかられた。普通なら死ぬ。だが、
「急所をギリギリで避けて、晴れの炎が逆に治癒始めてた」
あの世界一のヒットマンが急所を外し、しかも相手を仕留めるための炎が逆に獲物を回復させてしまうなど、まず起きない。奇跡だと言ってもいいくらいだ。
「……死なねぇよ。こいつは」
目を覚ますかどうかは別だが、この傷で死ぬようなことはない。
「死にたがりなんざ、女じゃなけりゃ助けねぇからな。目覚ましたら言っといてくれ」
「おやおや……相変わらず、女性には弱いんですね」
「うっせーよ!」
シャマルは、捨て台詞を残して病室を出ていった。二人きりになった部屋で、キドニーは凛を見下ろす。
凛を見つけたのは、本当に偶然だった。ベルフェゴールが日本に来る前、もう一人名の通ったの殺し屋が並森に来ていた。凛の父親の妹、叔母に当たる彼女が家光に目撃されていた。なんでも凛と何か会話をしていたらしい。
殺しの腕でも、もちろん有名だったがもう一つ、彼女は狂っていた。兄が好きだと豪語し、兄を抹殺しようとする噂を聞きつければ、たった一人でそのファミリーを潰した。そんな彼女は突然、その兄に大怪我を負わせ、その兄の行方は分かっていなかったが、彼女が現れたことで存在が割れた。
生きていたことに驚きはしない。彼女がある意味、逃がしたのだと考えれば不思議なことではない。子供がいることには驚いたが、それよりもその子供が彼女に似た雰囲気を持っていることの方が大きな驚きだった。
「監視……ですか」
「あぁ。今だに接触した理由がわからないが、もしあいつが凛を狙ってるなら……」
「普通に、姪に会いに来ていただけでは?」
「それならいいんだ。九代目もそれなら安心されるだろう。だが、あいつはマトモじゃない。単身でどんなファミリーだろうと潰しにいくようなやつだ」
「……わかりました。ちょうど、居候させている子もずいぶん仲がいいようですし」
そして、ベルフェゴールまでやってきて、彼女がベルフェゴールを殺そうとしている時、割って入った。
「ベルフェゴールが謝っていましたよ。ついでに開き直ってました」
九代目が目を覚まし、動けるようになり次第、ヴァリアーの処遇は決めるのだろう。今度はベルフェゴールも逃げることはできない。
「それだけです。元々、監視対象だったというだけですから。好きにしなさい」
キドニーはそれだけ言うと、病室を出ていった。