ある日、竹寿司には貸切の看板がかけられていた。
ランボと凛の退院祝い。表向きは伏せているが、一応リング争奪戦の祝いでもある。並んでいる寿司と明らかに嫌がらせも含まれている駄菓子の数々。
「コレ、ランボさんの好きなアメだもんね!」
「あ! ランボ! アメ食ったら寿司食えないだろ!」
「リョウはおバカさんだねー! アメ出せば食べられるもんね」
口からアメを出すと、袋に戻し、頭の中に突っ込んだ。
「せめて頭にしまうなよ!」
ランボに振り回されている遼太に、潤也はその間に遼太が皿にとっていた寿司にわさびを詰め込んでいる。凛はさすがにそれほど動き回ることはないが、醤油などが置かれている場所をなにやら探っていた。
「潤也さーん!? 見えてるからなァ!?」
「わさびは寿司につきものだよ。大丈夫」
「限度があるだろ!?」
「トロにはわさびをたっぷりつけても、辛くないんだって」
「お、よく知ってるな。潤也君」
「前にテレビでやってて。ほら、リョウ。試してみて」
「いやだァ!!! 助けて! ツナ!」
「い、イヤだよ!?」
「十代目に食べさせるくらいなら、俺が!」
「その心意気よし」
獄寺の口に放り込まれた大量のわさび入りのトロだが、その上から緑色の何かが乗せられていた。それを乗せた記憶はない。乗せたとするなら、無慈悲に今、獄寺の口に寿司を放り込んだ凛だろう。
「~~ッ!」
涙目になって鼻をつまむ獄寺に、綱吉も遼太も顔を青ざめさせた。
「いやーさすがに限度はありますなぁ」
「「そうだよね!?」」
やった本人が何を言っているんだ。
「それより、凛。何乗せたの?」
「刻みわさび。すっごく辛いって」
それで、あの悶絶だ。
「あ、ちなみに、コーラ飲むと消えるって話があるよ」
隣で口に同じものを放り込まれた遼太に聞けば、手を差し出してくる。
続々とわさび寿司の被害者が増えていく中、良心の都合で被害に遭っていない女子は、まともな寿司を食べていた。
「凛ちゃん、体辛くなったらいってね」
「今はヘーキ」
「それにしても、倉庫が爆発なんて大変だね」
「はひっ!? 爆発!?」
「まぁ、花火しまってるからねぇ。目の前が真っ白になったよ?」
普段からあの倉庫は崩れかけたり、爆発したりと、事件に事欠かないため、だれもそれを疑う人はいなかった。
ランボやフゥ太がわさび寿司の被害に遭って、大泣きし始めると、慌てて京子やハルも走っていく。
「にしても、さすがに回復早すぎねぇか?」
凛が一人で黙々と寿司を食べていると、ディーノが苦笑いで声をかけてきた。
「それは私も思う。こんなに化け物じみた回復力だとは……忘れっぽいのと一緒で、痛いのも早くどっかにやれるからだなのかなぁ?」
「便利でいいじゃねーか」
「でたな? 世界最強のヒットマン(笑)。ちゃんと殺せよ。生きてんぞ」
「なんだ。覚えてんのか?」
嫌な記憶は、奥底に封じ込める。それは、今回も同じだと思ったが、凛はハッキリと口にした。
「正直あんまり。ジュンから教えてもらった」
「そうか。それにしても、おめー目覚ました翌朝、なんで屋上で寝てたんだ?」
朝、ベッドにいない凛に、看護師が慌てて探せば、屋上で眠っていた。夢遊病ではないかとか、色々心配されたが、結局、凛本人が屋上で空を見ていたのだと答えたので、長々と説教されることになった。
「さぁ……? 月がきれいだったから? まぁ、ベルと話してたら、そのまま寝ちゃったのかな?」
「ベルフェゴールと!? あいつ、一回いなくなったって騒ぎになってたんだぞ」
「ふーん」
「少し危機感持てよ……」
ベルと殺し合いをして、殺してやるとも言われているというのに、やはり他人事のようだ。
「だって、今のところ、あいつじゃ私殺せないし。リボーンだってムリだったんだよ?」
ディーノは驚いたように目を見開くと、リボーンの方を見た。微妙にではあるが、口元が笑っている。
「だれかパパーっと殺してくれる人現れないかなぁ?」
女の子が抱くような白馬に乗って現れる王子さまを望むように、物騒なものを望む凛に、つい苦笑いが漏れるが安心した。
もう彼女は死にたがっていても、わざわざ死ぬようなことはしないだろう。
「凛」
「んー?」
「ファミリーになれ」
「い・や・だ」
前と変わらない清々しいほどの即答だった。
***
パーティーも終わり、片付けの手伝いをしていた遼太は、皿洗いをしていると、背中を叩かれる。
「なんだよ。ちゃんと洗ってるって」
「おう。頼むぜ」
隣で洗った皿を拭きながら、山本は楽しそうに笑う。
「な、なんだよ……」
「いや、リョウたちが仲直りできたみたいで安心したぜ」
「……おう。まぁ、仲直りっつーか、俺の一方的な感じだったけど……てか、凛は神経図太すぎるだろ……」
ついこの間まで死にかけていたというのに、その原因であるリボーンと普通に会話して、
「懐が大きい……いや、違ぇか。ま、あいつらはいい奴らだし、よかったよ。本当に」
「だな」
竹寿司の土産を片手に、並森中学に向かっている潤也の後ろにはもう一人、いや、二人いた。
「もともと、僕らは嘘ついたり、隠したり、それで過ごしてたからね。さすがに、ここまですごいことになるとは思ってなかったけど。まぁ、そのおかげかもね。まだ三人でいられるのは。ありがとう。ディーノさん」
「礼を言われるほどのことじゃねぇよ。俺は何もしてないしな」
「確かに」
「は、ハッキリいうなぁ……お前」
まったく、兄そっくりだ。
「それにしても、まだ兄さんに指輪渡してなかったんだね。リボーンにバレたら怒られるんじゃない?」
「色々ごたついててな……早めに渡したかったんだけどな」
雲のボンゴレリングは、今ディーノの手にあった。家庭教師として、しっかり渡せと言われていたのだが、九代目のこともあり、なかなか渡せていなかった。
「リョウを家光さんに会わせる準備が大変だったの?」
「……お前、ホント、どっからその情報仕入れてくるんだよ」
「さぁ? どこだろう?」
潤也にも凛にも内緒にしていたはずだ。だというのに、こんなにも簡単にバレている。
「しばらくリョウ、イタリアに行くのかと思ってたけど」
「家光さんがツナの友達として、中学卒業までは一緒にいてやってくれって言ってな。それで、たまに稽古はつけるが本格的に修行するのは、卒業してからってことになったんだよ」
「あ、そうだったんだ。じゃあ、しばらくは本当に一緒にいられるんだ」
「ま、そうだな」
嬉しそうに前を歩く潤也に、恭弥と同じ血が流れるとは、少し考えにくかった。
「……これは、アレか? 潤也の爪の垢を恭弥に飲ませてやりたいっていう」
「違うね」
これまたバッサリと切り捨てられ、ロマーリオに笑われたのだった。
山に入れば、すぐに現れた長老たち。目を見開き、嬉しそうな泣きそうなそんな表情。群れの一匹が走り寄ると、飛びついてきた。
「うわぁっ!?」
押し倒されながらも、擦り付けられる顔に腹を数回軽く叩けば、長老たちに押しのけられるそいつ。
「びっくりした……お前、本当に人懐っこいというか、リアクションがオーバーっていうか……」
起き上がりながら、今だに脇腹に頭をすり寄せてくるそいつは無視して、長老を見つめる。
「ただいま。大好きだよ」
これにて、三人の話は完結になります。
が、もうちっとだけ続くんじゃよ。
一応、ここまででストーリーは終わりですが、後日談こと未来編を今後はやってきます。