笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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06 ネズミ、動く

 モズは臨時基地の外に出ると、月を見上げた。ミルフィオーレは現在撤退命令が出ている。この基地も一時的な拠点だ。現在、ミルフィオーレの形勢は逆転し、ボンゴレ連合軍が追い打ちを仕掛けるように、基地を襲っていた。いつここがターゲットになるかはわからない。

 

「……」

 

 携帯を開くと微笑む。

 

「どうした?」

 

 上司の言葉に、緩みきった笑みを向けると、

 

「いやぁ~彼女から電話っす! ちょっとでてきまーすっ!」

「あ、おい! ったく……」

 

 人気のない方へと走っていったモズに、上司はため息をついて、見張りを続けた。

 その頃、森では、ミルフィオーレの臨時基地を見つめる影があった。いくら人数が減ったとはいえ、頭数が違う。見張りも多い。

 

「んじゃあ、正面で凛が暴れてる間に、俺とフランは裏からしらみつぶしに敵の頭を潰すってことでいいな?」

「スクアーロがいればもう少しラクだったはずなのに……」

「ホント、迷惑ですよねー」

 

 凛がポケットから二つのリングを取り出して指にはめれば、ベルとフランは驚いたように声を上げた。普段、凛はリングを指にはめない。なんでも、邪魔に感じて逆に集中できないらしい。そのため、使うリングは全て匣と共にベルトにつけられていた。

 

「めっずらしぃ。つけんだ」

 

 そして、例外としてつけるリングはたった二つ。しかも、戦闘に使えるレベルの炎を出すことはできない二つの属性のリングだ。

 

「まぁ、たまに使わないと、いくら凛先輩でも制御効かなくなりますし」

「うん。前にアレがきたから、そろそろ一度使っておこうかなって」

「「アレ?」」

 

 ヴァリアーにいると、どうしても日付の感覚がなくなりがちになり、大雑把な凛は定期的に使うということを忘れてしまうため、スクアーロがなにか定期的に行うものに合わせて一度使うようにしろと言われて、誕生日などいろいろ試した結果、一番安定したその周期。

 首をかしげるベルとフランに、凛は腹を軽く数回叩けば、

 

「「……あ゛」」

 

 察しが付いたらしく、なんとも微妙な顔をした。確かにほぼ定期的なものではあるが、それを基準にするのはどうなのだろうか。

 

「ま、まぁ、いっか」

「いや、ホント、デリカシー云々を女性に言うのもなんですけど、というか、女じゃないとかですかね? あ、先輩。もう何も話さなくて結構です。これ以上は下ネタ大量放出しそうなんで」

 

 二人が去っていき、一人残った凛は、その二つのリングに炎を灯した。藍色と橙の弱々しい炎が、闇に浮かんだ。

 見張りが気がついたときには、一人が既に首を切られていた。切った本人は、幅広のナイフを振り抜いたヴァリアーの制服を着た女。

 

「なっ……!?」

 

 突然現れた女は、後ろで鎌を構えた男の顔面に蹴りをいれると、男の首から先が無くなった。女が怪力で、蹴りひとつで首を引きちぎって落としたわけではない。文字通り、引きちぎれるのと同時に、消えてなくなった。

 

「ごめんね。この子、面食いなのかわからないけど、まぁ、とにかく欲しがりさんなんだ。だから、もらうけど、許してね? 代わりに愛してあげるから」

 

 無邪気に笑った凛に、その場にいた全員が背筋に嫌なものを感じていた。目の前にいる人間が、本当に人間なのか、それすらも怪しく感じた。

 フランは、ふと視界の隅に写ったヤマアラシを追いかけていた。その先には、黒い長い髪を後ろで団子にしている知り合いの顔。

 

「あっ、やっぱりジュン兄さんじゃないですかー」

「ひさしぶり。フラン」

「ひさしぶりって、あんだけ情報送られると、まったくひさしぶり感ないんですけどー」

「使えたでしょ? それに骸さんも危なかったし、あの時はありがとうね」

「別にそれはいいんですけどー」

 

 ちらりと目をやったのは、一方的にミルフィオーレを倒している凛の姿。

 

「あのリング、もうヘルリングの仲間入りしてもいいと思うんだけどなぁ」

 

 苦笑を浮かべたくなるほど、圧倒的な力を持つあのリング。ヘルリングと同様、死ぬ気の炎が灯せるようになる前から、呪いなどの噂が立っていたものだ。しかし、ヘルリングよりもその効果は絶大ではなく、使った人間の代償もヘルリング以上に大きい。

 そのため、その存在を知っていても、よほどの物好きでなければ使うことはまずない。たとえば、使用者とリングの思考が似通っていて、仲良くなって使用者が支払うべき代償を相手に支払わせるのを許したり。

 

「ミーはあんなの使いたくないですけどねー」

 

 ヘルリングを使っている人が何を言っているんだと、潤也は心の中でツッコミをいれるものの、口には出さない。

 

「そもそも、大空属性が流れてないとアレ使えないから」

 

 本来の契約を別の人間に払わせるには難しいことだ。それを可能にしているのが、微かに凛に流れている大空の属性だった。攻撃をした相手と調和することによって、全ての代償を相手に強制的に払わせる。はた迷惑な能力だが、それ故に相手にとってみれば恐ろしくて仕方ない。

 

「まぁ、いいや。僕はまだやることあるから合流はもう少しかかるけど、フランはそろそろ犬たちに合流しておいて」

「わかりましたー」

 

 基地の一番重要な部屋は、真っ赤に染まっていた。

 

「う゛……ぅぅ……」

 

 血溜まりの中、どうにか逃げ出そうと、這いずって外へ向かうその男の目の前にナイフが刺さる。振り返れば、ベルが金庫に保管していた、匣を手に立っていた。

 

「おーい。他に隠してるもんはねーよな?」

「……」

「ダンマリかよ。んー……保存用の匣……」

 

 重要な書類やデータは、アナログでの手渡しが最も情報漏れが少ない。今の時代、それを匣にいれることで、特にその秘密は守られていた。最も強いセキュリティと呼ばれているのは、大空の匣に保存することだ。

 個数こそ少ないが、大空の炎を灯せる者は少なく、たとえ奪われてもそれを開けられる人間は少ない。

 目の前にいる男が、大空の炎を灯せるとは思えなかった。ここで自分が死んだとしても、見られることはないだろう。

 

「……チョー重要ってことじゃん? コレ。しししっ」

 

 部屋に顔を出した凛は、男と目が合うと、驚いたように身を引いた。

 

「生きてる!? 生きてるじゃん!」

「凛」

 

 投げ渡された匣を取ると、眉をひそめてベルを見た。

 

「開匣」

「え? ボスに頼むんじゃなくて?」

「別にボスに頼んでもいーけど、今、鮫いないぜ?」

「わかった。開ける」

 

 もしくだらない内容のものだったら、ザンザスが怒る。今はサンドバッグ(スクアーロ)がいないのだ。危ないことは回避しなければ。

 凛が外していた大空のリングを取り出すと、炎を灯し、注入した。それを見た男が目を見開いていたが、それに気がついたのは、嬉しそうに笑ったベルだけだった。

 崩れるように開いた匣の中からは、色のくすみ、微かに黄色がかったおしゃぶり。そして、それは光と共に消えていった。

 

「ぇ……?」

「今のって……おしゃぶりだよな? マーモンの?」

「でも、黄色かったよ? たぶん……というか、消えた」

「消えたな」

 

 ベルが腕を組んで悩むと、何か思いついたように手を打った。

 

「あれじゃね? 今、日本にあいついんだろ? そのおしゃぶりは今のあいつの奴で、過去のあいつがいるから入れ替わったとか、そんなんじゃね?」

 

 かたくなにリボーンの名前を呼びたがらないベルに、凛は特に気にしないどころか、全く別のところに気を取られていた。

 

「おしゃぶり本体! じゃあ、数秒だけタイムパラドックス起きたのか! スゲェ!」

「アレ? まだ呪いのアイテム着用中でしたかー? なら、少し時間開けてきますねー」

「タイムパラドックスだよ! フラン!」

「いや、意味わからないですから」

「矛盾だよ。矛盾! あ、でも十年後バズーカがすでにパラドックス……」

 

 合流したのはいいが、いきなり凛のハイテンションだ。帰りたい。

 

「あいっかわらず、凛のツボは意味わかんねぇ……」

「ツボどころか、会話が成立してませんよ。どうにかしてくださいよ。先輩」

「ムリ」





 ようやく潤也登場です。
 では、補足です。

メインの属性は霧・嵐。
 十年前と変わらず、あまり戦闘には参加せず、潜入が主。
 ただ潜入先で使う炎は、ほとんど嵐属性。霧は幻術を疑われるので、まず使わない。
 武器は、銃。近接系は苦手なので、まずは逃げるが最優先。逃げるときは幻術を使って相手に自分がただ逃げているように見せ、かつ相手は攻撃を食らってないように錯覚させながら嵐属性の分解の炎をぶつける。
 遼太曰く、気がついたら、いきなりものが消えるからびっくりする。

匣兵器は、霧ヤマアラシ。
 霧属性の炎で姿を隠しながら、後ろの刺で攻撃する。
 刺の中には嵐属性の炎が充填されているため、一本でも刺さったら気がつかないうちに分解される。
 ただし普段は使わない。
 アニマルボックスで、自分だとバレては全く意味がないので、基本的に匣兵器は持っていないと偽っている。知っているのは、仲のいい数人だけ。
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