「いやー悪かったな」
悪びれた様子もなく、笑いながら謝るのは、ディーノだった。
ディーノたちは少し話をしようと、キドニーが経営する駄菓子屋の奥の居間に集まっていた。
「なにも本気で殺す気はなかったんだ。ただ、ツナのファミリーになるって聞いて、少し試させてもらった」
「ツナのファミリーって……僕たち、全くそんなこと考えてないんですが」
「え? あー」
おそらく、またリボーンが本人に確認せずに、予定に組み込んでいたのだろう。その辺、何年もの間、家庭教師を受けていただけあり、容易に想像がついた。
一応、リボーンの方に言っておけよと視線を送ってみたものの、効果はない。それどころか、ここでお茶を出されてから、ずっと文句有りげな視線を浴びているというのに、どこ吹く風だ。
「……」
一言も発さず、ただじっと自分の膝の上でくつろぐリボーンを見つめる凛の表情は読めない。
いや、絶対に文句ある。それに、なぜそこに座っているんだ? という疑問は持っているだろうが、諦めたのか、自分の湯のみでお茶を飲むと、あろうことかリボーンの頭の上に湯のみを軽く添えるように置いた。
「おい」
さすがのリボーンも、それには反応した。
「なに?」
「人の頭の上に物乗っけるな」
「カメレオンだって乗ってるじゃない。あと、人の膝の上に勝手に乗るのはいいの?」
「レオンとは全然違うだろ。高さがちょうどいいんだ」
「座布団ひけ。もしくは、机の上に乗ってろ。許可する」
「紳士はマナーってものを大事にするんだ。机に乗るなんてもっての外だぞ」
「人の膝に乗るのはマナー違反じゃないのか?」
「……椅子だ」
「知ってるか? 椅子に人語は伝わらない」
そういって、凛はまた一口お茶を飲むと、リボーンの頭の上に湯のみを置いた。
リボーンの恐ろしさを知っている身としては、その行動が恐ろしくて仕方ないのだが、意外なことにリボーンは動かなかった。いくら女には、あまり手を出さないと言っていても、頭に湯のみを乗せられたら、叩き落とすくらいはしそうなものだが。
「それにしても、おめーら、遼太には伝えなかったのか?」
遼太はまだ野球部の練習で、帰ってきてはいない。今回のことも、二人は伝えていなかったらしい。
「遼太は嘘つくの苦手だし、危険だったら伝えるつもりだったけど、跳ね馬だったから」
「気づかれてたとはな……これでも気は使ってたんだが」
「動きで店長じゃなくて、僕たちが狙われてるのは分かってたし、尾行され始めたのが、仕事してから結構経ってからだったってところで、たぶん個人の情報をもう手に入れてるとは思ったので」
仕事が終わってから、三人は一度それぞれ別のタイミングであのロッカーには行っているのだ。尾行やら確認をするなら、三人が一度ロッカーに訪れたあとすればよかった。だが、それをしなかった。
つまり、仕事場からつけられていたのではなく、三人が合流してからつけられた可能性が高かった。そうなると、すでに顔はバレている。
「自分で言うのもなんだけど、この三人、情報集めるにはちょっとめんどうな三人なんですよね。それこそ、よく知ってるのは、店長くらいだし、あとは店長の最近連絡をとった人たちの名簿を調べたってだけですよ」
「いやぁ、人の顧客情報勝手に調べるとは、なかなか成長しましたねぇ」
おそらく、わざと見えるようにしたのは、全員が察していたが、誰も文句は言わなかった。
「でも、もうできればやめてほしいな」
「わ、悪かったって」
さすがに試すためとはいえ、悪いことをしたとは認識しているのか、ディーノが謝るが、潤也の目はまだ疑っているようで、鋭い。
「ガハハ! ランボさん登場だもんねー! 出てこい! ランボさんの部下!」
「ちょっ! ランボ! 変なこと言うなよ!」
扉が開く音と共に騒がしい声。どうやら店に客が来たらしい。店から居間は、直接見えないように襖があるが、声は聞こえるし、顔を覗かせれば簡単に中の様子は窺える。昔ながらの妙に距離感が近い駄菓子屋は、人が来れば大抵誰かわかるが、その中でも特に聞き分けが簡単な子供がやってきた。
何も言わずに、潤也と凛は手を出すと、グーとチョキ。
ため息をついて、リボーンを机の上に置くと、店の方へ歩いていく。
「お前の部下なら、部活で今はいないよ」
「あららのら? ランボさんに恐れをなして、逃げちゃったんだぁ。じゃあ、代わりにお前、ランボさんの部下にしてやるもんね! 感謝しろよ!」
「わぁースゲー不名誉。ありがとう。遠慮しとく」
意味が分かっていないらしく嬉しそうに笑っているランボに、後ろで綱吉も頬をひきつらせていた。
「今日は、近衛さんが店番なんだね」
「まぁ、奥に店長たちいるけど、ジャンケンで負けた」
中学に入ってからというもの、すっかり来なくなっていた駄菓子屋だったが、ランボたちが来てからというもの、週に一回はついてきている。さすがに、クラスメイトが店番をしていたことには驚いたが、それにもすっかり慣れてしまった。
「よっ!ツナ」
「ディーノさん!? なんでここに!? リボーンまでいるし!」
だが、さすがに家庭教師やその元教え子までいるとは思っていなかった。
「って、まさか!!」
嫌な予感に、居間の方に身を乗り出すが、靴を履いたままではリボーンのところまで手が届かない。
「近衛さんたちまでファミリーにするとか、言ってるんじゃないよな!?」
「察しがいいな」
「やっぱり!! 近衛さんも潤也君もあいつのいうこと、気にしなくていいから! ちょっと変わってて!」
必死にリボーンの言葉を誤魔化そうと、声をあげる姿に、凛はおかしそうに笑うと、
「別に気にしなくていいよ。うちには、そいつの部下もいるくらいなんだし」
「あ、あぁ! そ、そうだよね! 慣れてるよね!」
ランボたちのおかしを買うと、リボーンにも声をかけるが、まだ帰る気はないと一蹴され、凛たちに一度謝ると店を出ていった。
「ツナたちにも隠してんのか?」
「何を?」
「キドニーさんのところでやってること」
もちろん、大っぴらに言うようなことではないが、ファミリーの、しかもボスであるツナにまで隠す必要はない気もする。むしろ、戦力や護衛としての信用を得られるはずだ。
「そもそもツナのやつ、キドニーのことも知らねぇしな。ディーノがいる時点でおかしいってのに……観察力が足りてねぇな。まぁいい。とりあえず、お前らファミリーになれ」
「いきなりだな!」
唐突に始まった勧誘というなの命令に、ディーノが呆れるが、二人の様子を窺えば、潤也は最初にキドニーに目を向ける。
「別にお気になさらずに」
そう言われると、凛に目を向けた。その凛はというと、店からきなこ棒を取ってきていたらしく、縁側に座って袋を開けていた。
「おい」
「え? なに?」
どうやら聞いていなかったらしい。
「ツナのファミリーになれって話」
「だから、やだよ」
即答だった。潤也は、わかっていたようで、「だよね」と笑って、お茶を一口飲んだ。
***
「で? どうだったんだよ? ボス」
ロマーリオは運転しながら、ディーノに聞けば、ディーノは困ったようにため息をついた。
「そうだなぁ……信用は、まだ厳しいな」
山本や獄寺のように、何かあれば必ず駆けつけるようなタイプではない。だが、ファミリーには必ずそういった人間も必要だ。
「あの二人、自分たちのためなら、ファミリーであろうと普通に殺しそうな性格だろうしな」
それは、ファミリーを大切にするディーノにとっては重要な要素だった。