チョイスのターゲットであった、入江とデイジーが同時にやられ、現在チェルベッロによって判定されているところだった。
「引き分け……」
誰もがそう思った時、デイジーが呻くとターゲットマーカーであった炎が灯る。
「やっぱり死ねないか~」
「デイジーは不死身の肉体を有しておりましてね。死ねないというのが悩みという、変わった男なのです」
桔梗の言葉に、スクアーロが部下の一人のことを思い出して眉をひそめた瞬間、後ろからの気配に身をよじる。
「何すんだァ!? テメェ!」
「違うから! 違うから!!」
「ひ、比賀殿……! 落ち着いてください!」
「いや、だって、絶対今、凛みたいだとか思っただろ!?」
「そういうおめーも思ったんだろーが」
「う゛……」
鋭すぎるリボーンの言葉が胸に突き刺さる。ヴァリアーとの戦いの凛を見ていれば、誰もが思い浮かぶのは、正直仕方がなかった。
「だ、だいたい、凛なら『やっぱり死ねないか~』じゃなくて、『殺せてねーじゃん。だっさ!』とかいいそうだし」
「そうだな」
ついこの間、世界最強のヒットマン(笑)と言われた身としては、絶対的な確信があった。
入江たちの元へいくと、そのケガを見てすぐに遼太が晴アンコウで治癒を始める。その間に語られる白蘭のこと。いくつものパラレルワールドの情報を共有し、その情報によって数々の奇跡を起こしたのだと。
そして、入江たちが大学時代に行なった最後のチョイスでの約束のこと。
「僕はチョイスの再戦を希望する!」
「うーん……悪いけど、そんな話覚えてないなぁ」
白蘭は本当に覚えているのか覚えていないのかわからないが、もう一度ハッキリと断った。
「私は反対です。白蘭」
聞き覚えのない声に全員がそちらへ目を向ける。そこにいたのは、ユニだった。
白蘭によって魂を壊されていたが、ユニもまた魂を別の場所にやっていたのだという。そして、入江と白蘭の約束は本当に存在していたが、白蘭は聞く耳を持たなかった。
「わかりました……では、私はミルフィオーレファミリーを脱退します」
はっきりと白蘭にそう告げると、ユニは綱吉に振り返り、
「お願いがあります。私を守ってください」
「え、えぇぇええ!?」
「私だけではありません。この、仲間のおしゃぶりと共に」
そう言って取り出したのは、四つのアルコバレーノのおしゃぶりだった。
「どうやってそれを……」
おしゃぶりは厳重に保管していたはずだ。例えユニであっても、簡単には取り出せない場所だったはずだが、ひとつ頭によぎった男の顔。
「……チャシャ猫君かぁ」
「!」
その名前に目を見開いたのは遼太で、ユニは少しだけ眉をひそめた。どうやら図星らしい。
「ふーん、この世界の彼は僕の敵なんだ。ちょっと意外だよ。どの世界でも、君らをどれだけいたぶっても出てきやしなかったっていうのにね」
考えてみれば、おしゃぶりがひとつ、輸送中に襲撃されたおかげで届いていなかった。それは、今ここにいるリボーンのものだったはずだ。
「あの時点で、操作され始めてたって事か……」
同じ時代に同じおしゃぶりが二つ存在することは、世界に影響を及ぼす可能性がある。だからこそ、二つの矛盾が出会う前に片方を消し去った。方法こそわからないが、襲撃したのはヴァリアーだ。彼に近い人間が中にいる。
「だ、誰!? チャシャ猫って」
「潤也の通り名……」
「じゅ、潤也君の!?」
かつて、チェシャ猫と言われ始めてはいたのを聞いた遼太が、発音を間違えチャシャ猫と言ったことをきっかけに、潤也がわざとその通り名を定着させた。おかげで、その通り名を聞くたびに、間違えたことをいじられているような感覚に陥り、好きではなかった。
「ってことは、ジュンも一緒なのか?」
「いえ、まだやることがあると……ですから、私とこのおしゃぶりだけは先に、と」
ユニはそう言うと、おしゃぶりが突然輝き出した。同時に、遼太の携帯も震える。
まさかと思い、そっと携帯をのぞき込んでみれば、案の定差出人は潤也だった。
『早くユニ連れて、並森に帰りなよ。いたいけな少女をお家に返してあげるのが、年上の役目でしょ』
ちょうど、綱吉もユニを守ることを決め、ユニの腕をつかんだところだった。そして、まだ画面下に続いているメール画面。
『並森への帰りは、行きと同じ。転送装置が近くにあるから探してね☆』
少し怖くなって辺りを見渡すが、見つかるはずもなかった。
「ツナ! 転送装置がこの辺に来てるらしい! 一旦、並森まで退こう!」
「本当だ……ボンゴレ基地上空に金属反応がある……」
「どうしてそんな情報……」
「俺だって知りてぇわ!」
その言葉だけで、潤也の仕業かと、全員察しがついてしまい、それ以上聞くことはしなかった。
***
ベルは大広間に入ると、さすがに疲れたようにソファに腰掛けた。隣には、クッションを抱えて眠っている凛。
「……凛。これ食っていい?」
凛の前に置かれていたクッキーを指させば、微かに頷かれた。
ヴァリアーはミルフィオーレの残党狩りで、幹部を含め全員がしっかりと休む間もなく任務に向かっているというのに、ザンザスは元からにしても、スクアーロすらいないこの状況では、さすがに忙しすぎる。
「食わねーの?」
「……………………ねむい」
もはや口ぶりは完全に寝ている。
「ベル、全部食べちゃダメよ。それ、一応凛の分なんだから」
「てか、カエルは? 死んだ?」
「誰かに会いに行くって、誰だったかしら……」
「だぶ……りゅ……だ……ぶ……」
「……寝てていいぜ? 王子が許す」
うわ言のように囁く凛に、ベルがそういえば、それを皮切りに動かなくなった。
そして、数分も経たないうちに、クッションから顔を上げると、ザンザスの部屋の方を見つめる。この十年でヴァリアー幹部もすっかり慣れた凛の癖。ベルが何も言わずに、ルッスーリアを見やり、ルッスーリアは表情を歪めたもののザンザスの部屋へと向かった。
『う゛ぉぉぉい!!』
スクアーロから直接ザンザスへの通信だったらしい。久々に聞いた大声が隣の部屋まで響いてきた。
もしザンザスが直接あれに出た日には、運悪く通信器が置いてあった方向が蒸発して消え失せるだろう。
静かなところを見ると、ちゃんとルッスーリアが通信をとったようだ。
(もはや、超直感レベルじゃね?)
少しだけ、そんなことを思ったベルだった。