川平という不動産屋でザクロを撒き、もう一つの懸念材料であった学校に落ちたデイジーも、恭弥がボンゴレ匣を使い倒したという。
浮かない表情で携帯を見つめる遼太は、顔を上げると、浮かない顔の山本。
「武? どうしたんだよ?」
「ん? あ……そうだな。俺、一回アジトに戻ってみようと思う」
「え゛!?」
「あー……スクアーロか」
「あぁ。ピンピンしてるとは思うけど、一応な」
意外にも、アジトに戻ろうとするのは山本だけではなかった。ビアンキ、スパナ、ジャンニーニが戻ると言い始めたのだ。
全員別々の理由ではあるが、止めても無駄なのはわかった。
「じゃ、ツナたちのこと頼むぜ。って、なんか違和感あるな。やっぱ」
改めて十年歳をとった親友と向き合うと、少しだけ違和感があった。
「でかいよな」
「十年経ったら武も似たような身長になるからな……」
そもそも成長期を挟んで十年経っているのだ。体だって大きくなる。
慎重に送り出そうと、外の様子を伺ってみても、殺気はない。
「大丈夫そうだな」
「ランボさんも一緒に遊びに行くもんねー!!」
「ランボ!?」
先程まで寝ていたランボが、大きな音を立てながらドアを開けた。張り詰めていたはずの緊張感が一気になくなり、獄寺もランボを捕まえて怒り始めてしまい、もはやいつもの光景に戻ってしまった。
「気をつけろよ」
「おう」
山本たちを送り出すと、もう一度携帯を開くが、メールはない。
「ジュンの奴から何かあったか?」
「いや……とりあえず、どこか安全な場所探さないといけないわけだけど……」
ボンゴレに関係ある施設は全て把握されてしまっている今、一般人を巻き込まないような場所が思いつかない。
「野宿ではありますが、並森山とかはどうでしょう? てめーらが作った罠とかもあるだろ?」
確か遭難した際にビアンキが、三人が昔宝探しと称して遊んでいた缶詰が隠されていたと言っていたし、潤也が作った罠に、天然の山や崖もある。それに一般人だっていない。
「罠は……あるかなぁ? 一応、撤去してたみたいだし。食料は、見てみないことにはなんとも……」
「でも、今のところそれが一番いいかも」
「わかった。そういうことなら案内は任せろ。野宿にいい場所ならいくつか知ってるから」
次の行き先も決まり、綱吉がユニの方に向けば、青い顔をしたユニとクローム。二人は、青い顔をしながら何かいると言うと、遼太がすぐにドアへ向かい、気配を確かめるが感じない。
「ザクロが戻ってきたのか?」
「ありえるな」
バジルたちも同じようにドア付近を固めれば、突然、視界の隅のランボがトリカブトに姿を変え、ユニを抱え上げる。
「ランボに化けてたのか!?」
すぐさま向き直るものの、背後からの殺気に一瞬目をやれば雲の炎を纏った花が見えた。
「しまっ……!」
リングに火を灯した直後、ドアは爆発し、建物の崩壊に巻き込まれた。
攻撃が降り注ぐ中、ふとその攻撃が止んだ。見上げてみれば、そこにはユニを抱えたγの姿があった。
「あいつ……!」
獄寺が驚く中、遼太は匣を開けると、けが人に晴れの炎を照射し始める。
「沢田殿だけでは……!」
上空で戦われては、手の出しようがなかった。その上、トリカブトの修羅開匣でクローム以外は全員まともに動けない状況に、バジルが表情を歪め、綱吉たちを見ていれば、少しだけ情景が歪んでいた。
「パクリだな」
「うっせー! いいだろ!」
怒りながらも、丸いそれを取り出すとダイヤルを回し、桔梗に投げつけた。バジルもようやく状況を理解すると、雨イルカを出すとその上にリボーンが乗る。
「頼みます!」
山本がチョイスで幻騎士に使った、雨ツバメを上で旋回させ、雨の炎を浴びせ、物体の動きを微かに遅らせる。つまり、その歪みに向かえば桔梗がいる。
「くっ……」
トリカブトも綱吉にやられ、ユニを確実に無傷で連れていける保証がない状況で、無理に攻めればユニが自殺してしまう可能性もある。それだけは避けなければならない。
「一旦退きます」
戦力が整えば、ことは簡単だ。無理に攻める必要はない。
桔梗たちは去ったものの、怪我人は多い。辛うじて遼太の治癒のおかげで、全員動けるということで、ほかの住人の騒ぎになる前に、並森山へと向かった。
運がいいのか悪いのか、潤也が遊びで作っていた罠はほとんどなくなってしまっていた。
「まさか生きてやがったとはな」
「お前こそ生きていたとは恐れ入ったぜ。まぁ、俺たちも姫がくるまでは半信半疑だったさ」
「どういうことだ?」
「ま、まさか……」
そこはかとなく嫌な予感がして、γに振り返れば、
「そのまま並森に残っていれば、姫が帰ってくるっていうメールがあってな。差出人不明で半信半疑だったが」
「やっぱり!!」
もはや遼太でなくてもわかる。その差出人。ブラックスペルの三人だけが、不思議そうに首をかしげていた。
ため息をついていると、揺れる草むらの音に全員が一斉に目を向ける。そこから現れたのは、狼だった。興奮しているようで、息が荒い。
「きゃぁっ!」
女子が悲鳴を上げ、γや綱吉たちが構える中、その狼は駆け出し遼太に飛びついた。
「うわぁっ!」
「比賀殿!!」
バジルが慌てる中、遼太はその狼を抱きとめ、狼も嬉しそうに顔を遼太に擦りつけていた。
「お前、相変わらずスキンシップ激しいな!」
「………………へ?」
全員が呆然とする中、リボーンだけが眉をひそめていた。
「長老、じゃねぇよな?」
「こいつはニセーだよ。長老の次の群れの長。っていうか、リボーン、狼の見分けつくのか……」
自分だって数年通って見分けが付いたくらいだというのに、リボーンは一度や二度しか長老達に合っていないはずだ。ひと目で見分けがつくのは、さすがに驚く。
「そ、そういえば、前もこんなことあったよね……」
「遭難したときっすね……」
狼とこうして仲がいいのは、どうにも不思議だった。ニセーはまるでついてこいというように、獣道を歩き始めた。
「ついてこいって……どうする?」
「え、じゃ、じゃあ、ついていこうか……」
遼太以外が半信半疑になりながらも、ニセーを追いかけた。
***
「いやー人間かな? 本当に」
「んらと!?」
会って早々喧嘩が始まりそうな二人にため息をつく周り。黒く長い髪を後ろで束ねた潤也は、久方振りの本物の自身の姿を晒していた。
「水の中にいて、すぐに戦いに向かうってねぇ?」
「手配、してある?」
「もちろん」
骸は今は眠っているが、戦地にたどり着く頃には目を覚ましているだろう。戦いの前の休息だ。息を吐き出し、力を抜く。
しかし、パソコンに手をやり、そこには暗号化された音声が届けられていた。
「……」
「時に思うんですけど、それって盗聴器ですか?」
「まさか。これで内容はさすがにわからないし、これは一時間置きに発信されてる音が発されたっていう信号だよ。まぁ、それがどこから届けられてるのかは、僕しか知らないんだけど」
これで三度目。三時間、その通信器が置かれている場所付近で、誰かが大勢しゃべっていたことになる。
「遼太……遼太かぁ、気づいてないだろうなぁ」
スキンシップが激しいニセーとはいえ、体をこすりつけるような激しいスキンシップをするのは、彼らが懐き、信頼している凛くらいだ。遼太だって、抱きしめたり撫でまわしたりすることはないため、おそらく気づいていないだろう。
「アレですねー後ろで私が操作してたんだぜー感ハンパないです。ついでに、バレたら即行でやられそうですね」
「操作なんてしてないよ。臆病だからこそ、用意周到だって言って欲しいね。そもそも、予知ができないんだから、自分のキャパ限界まで五感引き伸ばして使うのは当たり前でしょ」
ヴァリアーは諜報も行うには行うが、大抵は実行側だ。特に幹部が潜り込んで諜報を行うことは少ない。だからこそ、目の前の男の莫大な情報を常に自分のもとへいれている男の考えは、いまいち理解できていなかった。
「ミーには理解不能ですね」
「それならそれでいいよ。そっちの方が儲かるし。ヴァリアーは結構お得意様だしね」
笑っている潤也に、少々頭にスクアーロが潤也の情報が高いこと文句を言っていたような気がしたが、まぁいいかと無視して、外を見たのだった。