笑って、群れて、失った    作:こっここーまん

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12 最終対決 開始

 現れた骸たちに桔梗たちが驚いている頃、恭弥はじっとなにやら青い顔で腹を抑えている黒く長髪をまとめた男を見ていた。

 随分と印象は変わったものの、実の弟だ。十年経っているとはいえ、さすがにわかる。

 

「……その髪型は校則違反だよ」

「えぇ!? 僕、もう並中卒業してるんだけど……」

「関係ないよ」

「わかったよ……明日までに切っておくから」

 

 きっとその頃には過去に戻っているだろう。戻っていなければ、きっとここで死んでいる時だ。

 恭弥はそう聞くと、ようやく納得したように桔梗たちを見上げる。

 

「ってかいつまで六道骸の幻覚出してんだ? あいつは復讐者の牢獄に沈んでんだろが」

「あれー? 凛先輩言ってないんですか?」

「なにが?」

「あ、そういえば、この人都合のいい記憶しか記憶しないハッピーブレインの持ち主でしたね……」

「手組んでもいいぜ?」

「事実だしなぁ……ハッピーなせんべい好きだし。ところで小さい時、カエルの口に爆竹大量に突っ込んだことなかった?」

「しししっ今でも楽しいんじゃね? それ」

「二人共ちゃんと目あります? 哺乳類すら見分けられなくなりました? あ、ベル先輩は目、なかったですね」

 

 フランの頭にナイフが刺さるものの、やはりいつものように死ぬことはない。

 

「三人が話すると、いつも話が進まなくなるね。あの骸さんは正真正銘、本物だよ」

「ミーの師匠、復讐者の牢獄から出所しちゃいましたー」

 

 そういえば、そんな内容がメールにあったような気がするが、やはり覚えてはいなかった。いや、覚えていないというよりも、的確にそうとは書かれていなかったはずだ。

 

「ハハン。なるほど。脱獄不可能といわれる牢獄の門番、復讐者を欺いたのが六道骸の弟子、ミルフィオーレのトップシークレットの情報を盗み出したのが、キドニーの弟子というのならば、納得もできるというものです」

 

 その言葉に困ったように笑うと、そっと恭弥の方を見る。同じように恭弥もこっちを見ていて、目が合った。

 

「……」

「……まぁいいさ。話の続きはアレを倒してからだ」

「あれ? なんか微妙に死亡フラグ立ってる?」

 

 考えてみれば、十年前の恭弥にはっきりと骸側に立っているのがバレたのは、これが初めてかもしれない。

 この戦いが終わるまでに、適当な理由か逃亡経路を考えておこうと心に決めた潤也だった。

 

「うーん……M・Mにクローム探しに行ってもらったけど、やっぱりまだ来てないかぁ」

 

 遼太がクロームの守っていた場所を教えれば、潤也はだいたい想像はついていたのだと困ったように笑う。

 

「本当なら、僕が行ったほうが絶対速いとは思うんだけど……」

 

 少なくとも慣れた山だ。初めて来たM・Mよりもずっと目的の場所に早くたどり着けるはずだ。

 本来なら潤也がいくつもりだった。つもりだったのだが、

 

「戻ってきたニセーに頭突きされてねー……」

 

 遼太、獄寺の目が凛に向けられたが、どこ吹く風。

 

「ニセーたぶらかしたじゃん」

「たぶらかしてないよ。善意」

「善意を弄んだんだから、それはたぶらかすって言うんだよ。あの子は素直なんだから」

「うん……そうだね……本当に素直だよね。あそこまで頭突きに迷いがない動物も珍しいと思うよ」

 

 生物にとって大事な部分を、迷いなくぶつけられるられるなんて、相当な信頼関係、懐き具合だ。

 小さくため息をついていると、視界の隅で斧を構え直す男の姿。

 

「……一応聞くけど、なにしてるの?」

「なにって、戦うんだろ?」

 

 先程まで大怪我で動けなかったというのに、立ち上がって戦いに加わろうとしている遼太。その後ろには晴れの炎を灯すアンコウ。

 

「ムチャ……するね」

 

 遼太の炎は、晴と雨。活性によって簡易的な治療を施し、それ以上の痛みは鎮静で抑える。

 

「ここで戦わないで、いつ戦うんだよ」

 

 それは命を縮めるに等しい行為だ。自分が長く生きるよりも、他人のため、何かを守るために戦おうとするなんて、会った時から変わっていない。

 

「ヘーキだって! ラルのスパルタ特訓、10年受けてきてんだぜ?」

「8年でしょ」

「細けェな! 誤差だろ。誤差!」

「2年違ったら、リョウが店に居候してリング争奪戦が起こるくらい違うけど」

「う゛……」

 

 細かくはない、大きな出来事が有りすぎた2年間。遼太が眉をひそめていると、潤也は大きくため息をついた。

 

「あーぁ、なんで僕の周り、こんな戦闘狂なんだろ」

「お前の兄貴と比べんなよ!?」

「兄さんだけじゃないよ」

「ん? 他いたっけ? 犬? あれは別にただのじゃれ合いとかじゃねぇの?」

「あ゛!? なんか言ったか!?」

 

 犬と遼太の口喧嘩が始まる中、潤也は一人小さく頬をかく。恭弥ももちろんそうだが、それと同じくらいの戦闘狂がもう一人いることを忘れているのだろうか。

 いや、もしかしたら、本気で気づいていないのかもしれない。身近すぎて見えていなかったのかもしれない。

 

「ベル」

「んー?」

「ナイフ、そんなに使って大丈夫?」

「かわいい後輩の心配しろよ」

「すぐに回収できっし、つーか、なにがかわいい後輩だよ。クソガエル」

 

 もしかしたら、素直な言葉を正直に受け止めているだけかもしれない。

 

「……」

 

 振り返ってきた凛としっかりと目が合った。潤也としては家族以外で、最も長く一緒に過ごしていた一人であり、言葉にするのが苦手だった凛の言いたいことをいち早く察していたからこそわかったその意味。

 

 そこ、危ない

 

 凛が言葉にするよりも早く、長年の癖で理解した潤也は、思いっきり後ろへ跳んだ。

 直後、髪を掠めていった紫の雲の死ぬ気の炎をまとった恐竜の顔を持った桔梗の匣兵器。

 

「ハハン、驚きましたね」

 

 驚いたのはこっちだ。桔梗の修羅開匣の範囲はある程度、骸の幻術で調べ、安全圏にいたはずなのに、こうして攻撃された。もし凛が違和感を感じなければ、潤也が一瞬でも理解するのが遅れていれば、死んでいた。

 

「……本当に、真っ向勝負は僕の分野じゃないって」

 

 愚痴ったところで、戦いは始まってしまった。

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