綱吉と白蘭、ユニのいる空間に、どれだけ攻撃してもヒビひとつ入らない。
「なんか壊す方法ねェのかよ!?」
「そんなこと言われても……」
一瞬、気絶してしまっている凛に目を向ける。
もしかしたら、凛の持っている呪いの指輪の能力であれば、どれだけ硬い壁だろうが、空間であろうが、壊す、消すのどちらかは可能かもしれない。
「今のところ、どうにもならないよ」
しかし、今生きているのですら、ザンザスの機転のおかげだというのに、これ以上あのリングを使わせたら、次は本当に死んでしまう。
(ザンザスは、あの時、唯一ゴーストを倒せる可能性があったから、凛を助けた。なら、今度だって……)
あの壁を破壊できるというなら、凛を叩き起してでも破壊させるだろう。起こさないのは、確証がないから。
「おしゃぶり?」
遼太の声に、潤也もユニの方へ目を向ければ、地面に落ちたおしゃぶりから飛び出しているなにか。
大空のアルコバレーノの力をもってすれば、仮死状態のアルコバレーノを復活させることができる。しかし、それには時間とあるリスクが伴う。
「まさか、ユニ様の逃亡の狙いは最初から……」
「……アルコバレーノの復活の時間を稼ぐためだよ」
「ふーん……それで、潤也君が非73線装置を破壊してたんだ」
最強の赤ん坊と言われていても、また非73線がでていてはまた負ける可能性がある。そのため、ミルフィオーレから脱出する際、すべて装置を破壊してきていた。
「でも、その様子じゃ、下手すりゃあと1時間はかかりそうだね」
「!!」
「図星だね」
その声と共に綱吉の首から、ゴキャと骨が外れる音が響いた。
「ツナ!」
仲間たちの叫びが響く中、綱吉は額に灯っていた炎を消しながら、地面に力なく倒れた。
「ツナ、お前は白蘭を倒さなきゃなんねーんだ」
たった一人、リボーンだけが綱吉に静かに語りかける。
「いいか。ツナ、死ぬ気で戦ってんのはお前だけじゃねぇ。ユニもお前たちを平和な過去に帰すために、命を捧げる気なんだ」
「なっ……!?」
「いくら大空のアルコバレーノだっていっても、死ぬくらいのリスクは、あるだろうね」
「お前、それ知ってて……!?」
ユニを逃がしたのは、潤也だ。そして、おしゃぶりを託したのもの。
死ぬかもしれないと分かった上で、ユニを助けたのかと、すぐ喉元まで迫った言葉に、潤也は小さくため息をついた。
「そうだよ」
たった一言だけ。そう、答えた。
現状の戦力で白蘭を倒すには、それくらいのことをしなければ、難しいのだから。
「げほっ!」
リボーンの言葉が届いたのか、綱吉が目を覚まし、起き上がる。
今までの綱吉の人生が不運の連続だと、白蘭は笑ったが、綱吉ははっきりと違うと否定した。
「この時代にきてなくてよかったものなんてひとつもないんだ。つらいことも、苦しいことも、楽しかったものも……そして、みんながいたから、俺はここにいるんだ」
言葉に呼応するかのように、綱吉の額には橙色の炎が灯る。
「俺の炎は、お前が支配するこの世界だからこそ生まれたみんなの炎だ! むやみに人を傷つけたために倒されることを、後悔しろ!!」
グローブからも大空の透き通った炎が溢れ出した。
そして、現れたボンゴレⅠ世。ボンゴレリングはふたつに分けるため、その炎の力をマーレリングやおしゃぶりに比べ弱くしているという。そして、今、この時、その封印解くと。
封印を解いたおかげか、綱吉も白蘭と同等に戦えるようになり、結界の中での戦いは一層激しさを増し始める。
「これ、本格的にユニを安全な場所に移動させたほうがいいんじゃない?」
「そうだな! ユニがどうするにせよ、あそこは危険すぎる」
「なぁ、そのことなんだけど」
遼太の提案に、全員が頷いた。
綱吉と白蘭が結界の中で戦う中、遼太たちはタイミングを計っていた。全ての匣でコンビネーションを行うのは、どうしてもタイミングが難しかったが、バジルが叫ぶ。
「今です!!」
雨イルカに全ての炎が集まり、凄まじいエネルギーを発していた。
「アレなら破れるかも」
「頼む…!!」
バジルと雨イルカの攻撃が結界に当たるが、人一人がようやく入れるくらいの小さな穴を作っただけ。
しかし、その小さな穴へと飛び込む人影。
「よぉ。姫」
γだった。
「俺の炎も使ってくんねーか?」
そういうと、γはゆっくりとユニを優しく、強く抱きしめた。そして、二人は数度言葉をかわすと、二人は消えた。
「……笑ってた」
「ぇ?」
「ユニのやつ、笑ってた。ホント、うれしそうに」
「……そう。なら、よかったんじゃないかな」
「……」
結界の中で、白蘭と綱吉が互いに最後の一撃に全てをかけて、攻撃を放った。
その衝撃は、あの結界すらも破壊し、大きなくぼみに残っていたのは、綱吉だった。
「十代目!」
「ツナ!」
「大丈夫か!?」
慌てて駆け寄った獄寺、山本、遼太たちに綱吉は支えられると、涙を流す仲間たちを悲しげに見つめる。
戦いには勝ったが、いろいろなものが傷つきすぎた。
だというのに、ヴァリアーはまだ桔梗を攻撃する。
「ちょっなにしてるの!? これ以上の犠牲者はいらないよ!」
「こんなカスを庇ってどうする気だ。こいつは殺ししかできぬ怪物だぞ」
「それは違う……彼らは、元々一般人だ」
ミルフィオーレの幹部時代、各方面でスカウトのために調べていたが、桔梗たちは誰一人として引っかからなかった。つまり、リストにあがらない一般人。
「一般人とは安い言われようですね……我々はパラレルワールドなら各分野で天下を取った人間だ!だが、この世界ではくだらぬ不運でそれは叶わなかった……白蘭様はそんな我々の憤りを力に変えてくださったのだ」
綱吉や入江が息を呑む中、たった一人笑いを堪えなかった人物がいた。
「ふっ……アハハハ!」
「雲雀、潤也……」
「ジュン!?」
「いや、ごめんごめん。僕も少しは空気を読もうとは思ったんだけどさ、さすがにコレは、ね?」
潤也は困ったような笑みを作りながら続けた。
「だってそうでしょ? パラレルワールドのことなんて、ユニや白蘭でもなければ確証が取れない。もしかしたら、実力があって、その失敗を白蘭が“奇跡”で助けられる人物からピックアップされたとかさ。
そもそも、ボンゴレ匣が作られるただひとつの世界で、ちょうどその各分野天下を取れるはずの人間が、運良く失敗するなんて、相当な確率だとは思わない?」
「ッ――」
桔梗が口を開いたその瞬間、こめかみに当てられた銃口から撃たれた炎が、首から上を全て消し去った。
「うわっ……」
潤也を初めとする、数人の悲鳴があがるものの、撃った本人は気にせず、どこかに歩き去ってしまう。ルッスーリアだけが、首のない桔梗の命を繋ぐために晴の匣兵器を開いていた。