白い天井。消毒液の匂い。
「……」
ここはどこだろうか? 体についているチューブを全て外して、扉から外に出れば、驚いた顔の女の子たち。
「凛ちゃん!!」
なぜだか、この子の泣き顔は好きじゃない。
「よかった……」
「よかったです……」
泣いている彼女たちにかける言葉は、なんとなくわかった。
「なかないで。きみらになかれたら、あいつにのろわれそう」
「呪われる……?」
「あいつ?」
「過去の凛だろーな」
いつの間にかいた黒い赤ん坊は、何故かニセーの上に乗っていた。
「はひっ!? あの狼ですか!?」
「外でうろちょろしてたから連れてきたぞ」
「ニセー……? どうし――」
言い終わる前に、のしかかってくる狼。気が付けば、悲鳴と天井が見えた。
「今の悲鳴なんだ!?」
「ニセー!? なんでここにいるの!?」
「てか、凛食われてるー!!!! だめだー! ニセー! 凛、今スゲーけが人!!」
遼太とニセーの戦いが始まると、凛は起き上がりどこか寝起きのような表情で、全員を見上げていた。
「完全に後遺症でてるね……あと数時間もすれば戻るとは思うけど」
「大丈夫なの?」
「うん。いや、左手は、歴史が修正された時に治るんじゃないかな? というか、これも」
「そうなんだ。よかった……」
「だから、凛のことは僕らに任せて、京子ちゃんたちは過去に戻る準備してきなよ」
京子とハルが部屋に向かったあと、まだニセーとじゃれ合っている遼太から目を離し、また眠ってしまった凛の傍らに座るリボーンに目をやる。
「そういや、キドニーの奴はいねぇのか?」
「いやーそれが、いるみたいなんだよ。僕がミルフィオーレから逃げるときに、手助けしてくれたし、桔梗たちのデータをくれたのも、実は店長でさ」
「あの人もしぶといなぁ……ぐへっ!! のやろー!! やったなぁ!! こ――って、アレ?」
遼太が構えると、突然ニセーが走り出し、大きくうなり始める。その角から現れたのはベルフェゴール。
「あ? んだよ。なんで王子が威嚇されんだよ」
ベルは一度凛の方を見ると、廊下で寝ているようだ。
「……なんで廊下で寝てるわけ? つーか、そこのアルコバレーノ。今すぐ、凛起こしてくんね!? こいつ、スゲー威嚇してくんだけど!?」
あと一歩でも近づいたら飛びかかってきそうだ。
「お前なら殺していっかとか言い出しそうなのにな」
「それしたら、ぜってー凛ブチギレんだろ」
「「あっ……」」
ありえる。潤也が迷った結果、近づくと傍で屈み頭を撫でた。
「その人は悪い人じゃないから。今はちょっと凛の血の匂いすごいかもしれないけど、この人のせいじゃないから、ね?」
そういうと、少しは信じてくれたらしく、唸るのをやめた。しかし、その目はやはり疑っていた。
「凛の回収?」
「そ。王子が迎えにきてやったってのに……」
一瞬ニセーを見たが、抱えたら噛み付いてくるのは想像できた。
「マーモンも後からくるだろうし、それまで待ってれば?」
「そーすっか……」
その間に、一度目を覚ましてくれるのが一番いい。
凛はベルに任せ、潤也は恭弥のもとに行こうと歩いていれば、出口に向かっている骸たち。
「あれ!? 骸さん、見送りは?」
「いきませんよ。クロームには今済ませました。あぁ、でも、君がどうしてもというならいきますが?」
わざとそんな潤也の胃が痛くなりそうな提案をする骸の表情は、笑っていて、潤也も冗談と分かりながらも少しだけ胃が痛くなりそうだった。
「牢獄出てテンション高いのはわかるけど、はしゃぎすぎは禁物ですよ?」
「クフフ……では、クロームのことを頼みます」
「はいはい。わかりました」
今度こそ恭弥の元へ行こうと、踏み出したところで、息をついた。
「やめよう……」
行ったら髪の事やら、骸のことで色々聞かれるだろうし、下手すれば問答無用で噛み殺される。
バジルは荷物をまとめ終え廊下に出ると、なにやら忙しなく何かを探している遼太がいた。
「比賀殿?」
「ん? おーバジル。準備できたのか?」
「はい。比賀殿、これを未来の拙者に返しておいてはもらえませんか?」
取り出したのは、匣と指輪、それから戦いの指南書だ。どれも未来の自分のもので、今までは借りていただけだ。直接返すことはできないが、遼太であればちゃんと返してくれるだろう。
「おう。任せとけ」
「それで、なにか探しものですか?」
「あー武の奴が見当たんなくてさ。知らねぇ?」
「山本殿でしたら、先程スクアーロと外に」
「ん? 俺になにか用だったのか?」
いつの間にか山本がそこに立っていた。その手にはバット。それ以外には何も持っていない。
「お前、荷物それだけ? あ、いや……ありえなくはなさそうだけど……マジで?」
「牛乳は飲んじまったしな」
律儀にそこまでしっかり持ち帰る必要はない。入江から言われているのは、匣兵器は過去へ持ち帰れないこと、指輪は未来で手に入れたものは持ち帰れない。それ以外のボンゴレリングは持ち帰ることができる。その他、未来で開発、手に入れたものに関しては、全て持ち帰ってはいけない。
それを全部なくすと、ほとんどが手ぶらになった。
「そういや、準備できたって言ってたぜ? 俺たちもいこうぜ」
山本が装置の場所へ歩き出すと、バジルと遼太もついていく。その途中、少しだけ山本が歩く速度を緩めて、遼太の隣に並ぶと、先程の探していた理由を聞いた。バジルもそれが聞こえたのか、二人の会話の邪魔にならないよう、少しだけ距離を開けて歩く。
「あー……その、なんていうか、昔の俺にさ、言伝をだな……ほら、リング争奪戦のあとだろ? だから、色々さ」
「ん。なんて伝えりゃいいんだ?」
少しだけ恥ずかしそうに頬をかくと、
「『ありがとう』……それだけで」
「そんだけでいいのか?」
「もっと言いたいことはあるけど、たぶん俺の今までって、白蘭がどうとかで変わるもんでもないだろうし、だから、あんまり未来のことは言えないだろ?」
この年、仲間の誰が死んだとか、それを助ける方法とか、今ならわかるが、それを教えるのは反則だろう。
「だから、あの時、俺がした選択は間違ってなかったって、それだけ伝えられりゃいいわ!」
「……そっか! ちゃんと伝えるからな!」
「あぁ、頼むぜ!」
二人は、互いに笑いあうと拳を突き合わせた。