応接室に戻ると、実の弟が校則違反ではない長さの髪で、慌てて書類を片付けていた。
「あぁ、おかえり。兄さん」
「うん。それなら問題ない」
「へ?」
不思議そうに首をかしげる潤也を後目に、椅子に座ると、書類が少し散らばっている。
「さっきの地震大きかったね」
「地震?」
「知らない? さっき大きいのがあったんだよ」
それで書類の山や、ファイルが崩れて、慌てて今片しているところだった。恭弥が知らないこと自体は、別にちょうど噛み殺しているタイミングだったら、気づかないこともあるだろうと、特に気にした様子もなく潤也は混ざってしまった行事の書類を分けるのを進めた。
「ん……」
河原の木陰で、昼寝をしていた凛は、目を覚ますと枕にしていた長老の顔を見るように寝返りを打つと、その毛に顔を埋める。
その様子に、不思議そうに顔を上げた長老に、
「なんでもない。やな夢みただけ」
そういうと、また目を閉じた。
その頃、孤児院に響く子供たちの元気な声。
「よーしっ! お片付け、始めるぞー!」
「「「「おーーーっ!!!」」」」
先程の地震でおもちゃなど本が散らばり、みんなで遊ぶ室内がなおさら狭くなっていた。
「本当にそっちは手伝わなくて大丈夫?」
「大丈夫だよ。危ないから、みんなにはこっちにこないようにちゃんと見といておくれ」
「はーい。というわけで、台所には近づかないように! そんじゃ、かかれー!」
子供たちが片付け始めて数分、入口の方でなにか騒ぎが大きくなり行ってみれば、山本が立っていた。
「よっ! 片付け中なんだって? 手伝うぜ」
「マジで? 助かる! でも、店はいいのか?」
「あっちは親父がやるってさ。それに、ちょっと伝言もあったしな」
「伝言? 俺に?」
「あぁ。ありがとう。だってよ」
不思議そうな顔をする遼太に、十年後の遼太からだと伝えると、驚いて声を上げたが、すぐにランボかと苦笑いになってしまった。
「武が当たったのかよ」
「まーな」
「十年後ねぇ……どんなだった? 俺、かっこよかった?」
「身長はデカかったぜ」
「おっマジか。それうれしいな!」
「あ、でも、未来の俺の方が高いって」
「なんだと!?」
そんな遊びが混じってしまったせいか、片付けが終わったのは、陽がすっかり沈んだころだった。
駄菓子屋木戸屋は、すでに電気が落ち、奥に一応光は点っているものの、閉店の文字がかけられている。その引き戸を開ければ、すでに帰っていた潤也が顔を出した。
「おかえりー最後だから、閉めちゃって」
「あいよ」
雨戸を降ろし、本格的に扉を締めて、中にはいる。店は、案外被害がなかったのか、きれいなものだ。
「地震平気だったの? 散らかってないみたいだけど」
「いえいえ。駄菓子は吹き飛ぶし、ひどかったですよ。潤也も帰ってくるのが遅かったので、ほぼ全部凛が片付けましたね」
「店長、手伝わなかったの?」
「私は裏の片付けしてたもので」
台所で夕飯をつくる凛の方を見れば、黙々と夕飯を作っている。潤也もそれを手伝ってるらしい。
「倉庫は?」
「まだですね」
「んじゃ、様子だけ見てくるかぁ……」
危険物も大量に入ってることだし、吹き飛んでないか少し心配だった。
そして、数分も経たず、爆発音。
「ジュン、凛」
「そうめん冷やすのに忙しい」
「めんつゆ作るのって難しいね」
「どっちも簡単でしょうが」
「「学ばないリョウが悪い」」
「ほら、そっちは私がやっておきますから。二人は早く行きなさい」
渋々、二人は遼太が爆発させたであろう倉庫へ向かっていった。
倉庫は屋根が浮き上がり、ドアが外れかけている。
「ま、ひどくはなさそう?」
「危ないのは固定あるんでしょ? さすがに」
「…………うん。もちろん」
「なにその間……」
「大丈夫だよ。本当に危ないのは地震程度で爆発しない」
「お前ら、ちょっとは心配しろよ!!!」
倉庫の中から出てきたのは、少し服が焦げた遼太。
「心配はしてる。ジュンが置いてる中身とか」
「いやいや、ここにおいてあるのはまだマシだよ。山の方が危ないかも」
明日、ちゃんと解除しに行こうと決めた凛に、全く心配されずため息をついた遼太を無視して、潤也がその倉庫を見つめる。
「ま、これくらいなら今ある材料で足りるんじゃない?」
「でも今日はもう暗いし、疲れたし、明日にしねぇ?」
「「さんせー」」
そう決めると、三人はビニールシートだけもってくると倉庫にかぶせて今に戻ったのだった。
なんでもない日常…………あと、***日。