「今回は、ずいぶん溜まってるね」
積み上がった書類に、最初にこぼしたのはその言葉だった。
「だから、ジュンを呼んだんでしょ」
「うん。わかってるよ」
兄である雲雀恭弥に、こうして呼び出されることはよくある。大抵は、風紀委員の仕事の手伝いだ。
群れるのを嫌う恭弥ではあるが、さすがに無理なものは無理だ。忍者のように分身でもできれば、組織を作る必要なんてないだろうが、さすがに最強の不良と呼ばれていようとも、そんなことはできず、風紀委員という組織を作った。
「いつまで群れるつもりだい?」
遼太と凛のことだ。
「とくに、決めてないよ」
基本的に、恭弥は放任する。そうでなければ、小学生の時に半ば家出のように家を出て、胡散臭い駄菓子屋に居候するなんて許さない。
「別にジュンが裏でやってることは、気にしないであげるけど、あまり群れると、かみ殺すよ」
「わかってるって」
あまりにも群れとなれば、弟であろうと容赦なく噛み殺しに来るだろう。
そのへん、遼太はともかく、凛も友達が多いほうではないし、二人共両親がいないこともあって、トラブルも起きにくければ、近所での交流もほとんどない。
あるのは、たまに絡んでくる不良くらいだ。
「……」
「兄さん?」
外をじっと見つめていた恭弥は、立ち上がるとドアへ向かう。
「少し、出てくるよ」
「? うん。いってらっしゃい」
恭弥が出ていったあと、外を見れば白銀の世界。日曜日というのも相まってか、校庭は白一色。
かと思ったが、誰か外で遊んでいるらしい。
「って、ツナたちじゃん。あ、遼太もいるし」
生徒が遊んでいるにしては、大きなカメや、穴があると思っていたら、どうやら綱吉たちが遊んでいるらしい。
しかも、ちょうど今、恭弥が外に出ていった。
「あーぁ……」
手を合わせ拝んでいれば、ノックの音の後に入ってきた、リーゼントの男。草壁だ。
「潤也さん。いらっしゃったんですか」
「兄さんなら、ちょうど今出かけていきましたよ」
「そうでしたか……」
「書類とか伝言なら、渡しておきますよ」
この仕事のたまり方だ。副委員長である草壁も忙しいだろう。不良グループをひとつ潰したという報告を聞くと、それを簡単にメモしておく。
「……潤也さんは、いつ家にお帰りになられるのですか?」
その言葉に、ペンが止まる。
「帰らないよ。僕があそこにいたら、兄さんに噛み殺されるのは絶対だからね」
「そんなことは……!」
「絶対、だよ。喧嘩も強くないし、それに、僕、群れるの好きだし」
「……」
群れれば、確実に噛み殺される。それは草壁も理解していた。
「でも、勝ち馬に乗りたい。だから、兄さんとうまく距離をとってるんだよ。本当なら、もっと手伝ってあげたいけど、あんまりやりすぎると、ボロがでて、病院送りにされそうだしね」
「委員長も、あなたには甘いようですから、もう少し会う頻度を増やしていただけないでしょうか?」
「考えとく」
昔から、弟というだけで、逆恨みされて、年上の不良に狙われることはあった。だが、ほとんど恭弥本人に事前に察知されるか、潤也をおとりに使って負けるかのどちらかだ。
そういう意味でも、自然と距離をとっていたのは自覚があった。
「僕も、嫌いじゃないんだけどね」
一人になった部屋で、潤也は一人そう、こぼした。
遼太が倉庫を爆発させた時のような、光と爆発音に、慌てて校庭を見れば、倒れている綱吉たち。
「……噛み殺されは、しなかったんだね」
ただ救急車は必要かもしれない。
***
「ただいまー」
「おかえりなさい」
居間には、キドニーしかいなかった。遼太は病院にいるからいないことに違和感はないが、凛が見当たらない。台所かと覗いても、いない。
だとすれば、二階の部屋かと、荷物を置くついでに確認してみたが、いなかった。
「凛は?」
「体調が悪いそうです」
「……」
「ほんの少しだそうですけどね。使います?」
ノートパソコンを軽く小突けば、潤也も座り、それを自分の方へ引き寄せた。
凛の居場所を調べたあと、付近のカメラを確認してから、電話をかける。向こうがでるのには、そう時間はかからなかった。
『今日、兄貴のところ行ってるんじゃなかったの?』
「もう帰ってきたよ。調子は?」
『だいぶ良くなった。もう平気じゃない?』
「一応、確認しておくよ」
『よろしく』
電話を切ると、キドニーも分かっていたようで、微笑んだ。
「本当に、引退って言葉の意味ちゃんと調べて欲しいですね」
「店長も調べたら? スーツのいかついおっさんが、駄菓子屋にくるっておかしいよって教えてあげたほうがいいって」
「私だって不本意ですよ。あと、顔で人を判断したらいけませんって。コワモテのサラリーマンがスイーツ食べちゃいけないって言ってるようなものですよ。かわいそうでしょ」
今だに、キドニーから情報を買いたがって、店に来る人は多いが、やはり子供が多く来るこの店では、やはり目立つ。
情報屋として、周囲に奇妙な目を向けられるのはよくないことだ。しかし、引退して、もう情報を売る気があまりないとなれば、普通の人から奇妙だと思われたくないヒットマンは、自然と店にはこなくなり、仕事も減る。
もしかしたら、そういったことも狙っているのかもしれないが、真意は不明だった。
遼太は基本、山本が参加してるイベントには参加してる設定ですが、他二人が参加しないことが多いので、カットすることが多い…(笑)
雪合戦の話は好きなんですけどね。