もしも、オリ主がノーネームに居て黒ウサギを惚れさせていたら 作:ミミヤヤ
『待っててくれ。絶対に勝って戻ってくる』
そう言った彼がそれ以降、帰ってくることはありませんでした。一年経った、今も。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「~さぎ、~ろウサギ。……おい黒ウサギ!!!」
「は、はい! 何でございますか!?」
虚ろとしていた心中の中、突然降りかかってきた大きな声にウサ耳を生やした少女は身体を跳ねさせた。
ガーターベルトに超絶ミニスカートなど、刺激の強い服装をしている彼女は黒ウサギ。変わった名前だが、そうなのだ。
そして、黒ウサギに向けて声を放ったのはくせっぱねのある金髪をした少年、十六夜だ。十六夜は不機嫌まっしぐらといった様子で、険しい表情をしている。
「何でございますか、じゃねえよ? お前は何してんだよ、ここで」
「何、と言われますと……」
唐突な十六夜の質問に言葉を濁す。黒ウサギが今何していたか。それを端的に言うのであればただ丘で星空を見ていた、だ。その行動になんの意味があったのか、どんな意図が存在したのか、それは黒ウサギにしか分からない。
「……良いのか?」
「……何がでございますか?」
「ハッ、まだしらばっくれる気か。グレン、だったか?」
「やめて下さい!!!」
一つの言葉に反応して、黒ウサギは普段出さないような悲壮感溢れる声を出す。そこにあるのは本当に悲哀と絶望。まるで今まで見ていた希望を失ったかのような様相。何か、尋常ではないことが起こったのだとだけは理解できる、そんな状況だ。
「もう、やめて、下さい。黒ウサギは、ダメでございます。申し訳ございません」
「……グレン、ねえ。確かレティシアを取り戻しに行ったらしいが、それから帰ってこないらしいな。そして今日七光りの話を聞けば、か。……お前は良いのか、このままで。何の真相も明かさずに聞いた話に怯えて蹲ってただ嘆いているだけで満足――」
「――満足な訳がありません!!!」
淡々と、しかし何かを望むように綴っていた十六夜の言葉に遂に黒ウサギは反応を示した。十六夜を睨みつけるその瞳にはキラリと光る涙が浮かんでいる。
「ずっと待っていたのです! ずっとずっとずっと!! それで、帰ってきたら“おかえり”と言おう、そう決めていたのですよ!! ずっと待っていたのです、何度も何度も“もしも”の可能性が頭によぎって身体が震えました。でも、あの人が約束を破る訳が無いと信じていました。だから、今までやってこれていたのです。なのに、なのに!!! グレンは、もう居ないのでございます。居ないの、ですよ。もう会えない。もうグレンの声も笑顔も、無い。黒ウサギは、もう限界でございます。……申し訳ございません」
涙を流していた。只々悲しそうに、そしてその悲しさを起こさせた元凶を恨むように。いつも元気なウサ耳も萎れ、抱えた膝にはポツポツと雫が落ちている。その姿は今まで百何十と居る子供のみのコミュニティを支えてきた人物とは思えないほどに小さく感じた。
十六夜はその姿を黙って見つめるのみ。だが、すぐに無理かと諦めたのか踵を返して去って行く。
「グレン、何でで、ございますか。黒ウサギは、黒ウサギは……!!」
そう嘆き苦しみ、未だ突然にやってきた絶望から逃れられないでいた。
◆◇◆
所変わって“ノーネーム”の館。そこには異世界から呼ばれた者達、飛鳥、耀、十六夜。そしてコミュニティのリーダー、ジンが集まっていた。
「どう、十六夜君。黒ウサギの様子は」
「ありゃ、無理だな。今すぐ連れ出すってのはほぼ不可能だ。相当落ち込んでやがる。いや、あれは絶望してるって表現の方が正しいか」
「……グレンって、誰なの?」
耀の呟きで、三人の視線はジンへと向けられた。
俯き加減だったジンはその視線に気づき、口を開く。
「グレンさんは、“ノーネーム”になってからコミュニティに入った方です。適当な所も多々ありましたが、でも、やる時はしっかりとやる、そんな人物でした」
そう、悲観の念が溢れている言葉の中に気になる箇所があったのか三人は疑問顔となる。
「……“ノーネーム”になってから入った?」
「どういうこと? 名無しのコミュニティに入る、というのは私達のような例外を除いてほとんど無い筈ではないの?」
その疑問は最もだ。名無し旗無し良いとこ無しの蔑称“ノーネーム”のコミュニティに入るメリットなど一銭も無い。にも関わらず、件のグレンという人物は加入した。三人が疑るのは無理も無いことだ。今でこそ、水の問題や金銭などは異世界から来た三人の活躍で遥かに豊かになった。しかし、以前は違った筈だ。黒ウサギの収入だけで、百何十といる子供達を養う。そこには十六夜の獲得した水樹も無ければ、優れた人材も居ない。食糧も水も人材も居ない廃れた破滅へと向かうのみのコミュニティ。それが“ノーネーム”だった。
「どんな奴なんだ?」
十六夜も続けて聞く。グレンという人物を推し量りたいのだろう。聞いた話のみでは到底本来の実力や人柄までは把握できない。だが、十六夜は少しでもグレンという人物のことを知りたかった。
「グレンさんは、“タルタロス保持者”と呼ばれる者です」
「“タルタロス保持者”だと?」
「はい、神であり奈落でもある、神々ですら忌み嫌う存在。彼はそんなタルタロスのギフトを継いだ人物でした。その力は絶大で、“ノーネーム”を支える大事な柱にもなっていた。ですがある日、レティシアさんを助けに行くと言ってから、帰ってきません」
ジンから聞いた話しによると、グレンという人物は相当に腕が立ったのだろう。しかし、そんな人物が帰ってこない。帰ってこないことが続いてからは皆悲しみに暮れたようだ。
「それでも、黒ウサギはグレンを信じて待っていました。……なのに、まさかあんなことになっているなんて……!」
ペルセウスの七光り、ルイオスから聞いた話を思い出してその顏を苦痛に歪め拳を固く握る。
『グレン、あぁそんな奴も居たかな~。何かレティシアを仕入れる時に邪魔してきたけど、まぁ仕入れ先の
ルイオスの言葉は、レティシアを取り戻そうと“サウザンドアイズ”の支店で行った会談で聞いた。当初は十六夜、飛鳥、耀の三名は誰のことなのかまったくわからない様子だったのだが、黒ウサギとジン、そして白夜叉の尋常では無い様子に関係のあった人物だと分かった。そして、その人物が既に死んでいることも。頭が吹っ飛んだ~という話が真実かは分からない。しかし、事実としてグレンは帰ってきていないのだ。そして、窮めつけにルイオスはグレンの所有していた“ラプラス紙片”を持っていたのだ。コミュニティの旗印が記されていない、ギフトとして“タルタロス”が記されているギフトカードを。
そこからの話は重く、しかし早かった。黒ウサギは呆然自失となり、ルイオスはそこを付け狙って黒ウサギの勧誘と称した愛玩奴隷としての服従を提案し、それに飛鳥や白夜叉が猛反対するという状況が出来上がった。ルイオスは白夜叉の怒りが爆発する前に去って行ったが、それでも残された言葉による傷跡は計り知れない。
「……タルタロスのギフト、か。おいおチビ、そのタルタロスの能力について教えてくれ。もしかしたらもしかするかもしれない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、まだ仮説と推論でしかないけどな。一つ目の質問だ。タルタロスのギフトは、神話のタルタロスに放り込まれた者達を今でも幽閉しているのか?」
「は、はい。その筈です。中には解放された者もいるでしょうけど……」
「そうか、二つ目の質問だ。幽閉されている者達の特性、もしくは能力をグレン某が使用することは可能か?」
「……それについてはなんとも言えません。タルタロスのギフトは謎が多いですから。少なくとも、僕は知りません」
「……そうか」
そんなジンと十六夜の会話に痺れを切らしたかのように飛鳥が声を上げた。
「ねえちょっと十六夜君、あなたは何をさっきから聞いているのよ。話が見えてこないわ、説明してちょうだい」
「ん、まぁちょっと気になることがあってな。タルタロスが奈落ってのは聞いた通りだ。そして、そのタルタロスには神話上、罪を犯した神が幽閉されている。その神の中に“タンタロス”っていう不死の体を持つ神がいるんだ。いや、元は人間だったか? まあそこらへんはいい。だから、もしグレン某がタルタロスに幽閉している者の特性や能力を
そう言い終わるや否や十六夜は立ち上がった。「どうした?」という視線を十六夜に向ける他三人に気付かず、十六夜は真剣な表情で、しかし何かに気付いたようにしている。
「おいおい、もしそうだとしたらどれだけ間抜けだよ俺達は……! おい、おチビ! 死んだ人間の
「え? いえ、死んだ場合所有している恩恵は共に消える筈なので記されない……、そうか! あの時見せられているギフトカードにはタルタロスの名前があった、つまり――」
『グレンという人物は生きている』
その結論に至ったが否や、ジンは飛び出し黒ウサギの元へ。十六夜は“サウザンドアイズ”の支店、つまりは白夜叉の元へと向かって走って行った。
「……」
「……」
まぁ、その結果部屋には飛鳥と耀が取り残される訳で。二人も一応グレンという人物が生きている可能性が高いという結論にたどり着いたことは分かったが、しかし不満に思うことも多々あった。
いや、急に飛び出して私達放っておくってどうよ……? と。
ありがとうございました。次回があれば、どうぞ。オリ主が出て少ししたら明るい感じになるかもです。断言はしない。