生きるとは一体。 作:ホットケーキで殺人
入学前に足を洗っておくことした。
具体的には洗脳した役人達の始末だ。
No.18とNo.7のクローンをトラックで轢き殺、いや事故死したことにして、整形させたオリジナルの二人に暗躍させる。
役人たちは一人ずつ、確実にナノマシンで洗脳チップごと分解処理することにした。
専用の銃と弾丸も用意している。
衣服はおろか脛毛さえ残るまい。
しばらく世間が騒がしくなるだろうが、俺はIS学園で青春してるから関係ないね。
公的な立場というのは実に都合がいい。
さて、この任務が終わったら二人に長い休暇を与えてやろう。
どうも演じている時間が長かったせいか、NO.18は鬼道タケル、NO.7は鬼道ヨウコで固定されてしまった。
性交はしていないようだが、添い寝や膝枕といった行動記録がある。
俺に対する忠誠心は不明だが、まあ求めてないしそれはいい。
あぁ、そうだ。
賢者の石の出力が安定したことで、ついにラボが地下へ潜行出来るようになった。
燃料も一人っ子政策を守らなかったどっかの国のおかげでしばらく困りそうにない。
なので家も焼いておこう。
これぐらいの悲劇性があれば、マスコミや宗教関係も手を引くだろう。
しつこいようなら同じ目に合わせてやる。
◇◇◇◇
葬式屋というのは、ハイエナに近い生態を持っているようだ。
高い金を払わせようとする魂胆が見え見えだ。
まあそういう連中は棺の中で自らに掛けられた金額を知って満足するだろう。
生きたまま火葬されるなんて人生で一度しか出来ないしな。
偽装の為に犠牲になったクローン二名の葬式は略式で行われた。
まあ遺体がぐちゃぐちゃなので焼いて骨粉を壺に詰め、近所の寺から七万円で雇ったお坊さんがお経を唱えるだけだ。
三日で作ったクローンの骨なのでカスみたいなものだが。
そもそも存在しないのだが、あの二人は駆け落ちした設定になってるので親族は参列していない。
御近所さんと二人の職場の同僚たちが多くを占めていた。
基本的に、あの二人には極力模範的に過ごすよう命じていた。
その実態は、健康で無遅刻、要領も良く仕事をこなし、飲み会の付き合いも良い、というものらしい。
部長さんが言うにはやや常識に欠けていたようだが、完璧そうに見えて抜けたところがある分可愛げがあったようだ。
息子という設定である俺に対しても親身になってくれる。
何かあったら力を貸してくれるそうだ。
辛くなったら学園なんて辞めて息子になれという人も居た。
こういう人達ってきっと道徳で5を取って来たんだろうな。
素晴らしい心をお持ちだ。
だがしかし、人造人間でシリアルキラーで男のIS適合者な俺の面倒を見れる人間が果たして存在するのだろうか?
答えはNOだ。
「IS学園で頑張ろうと思います」
ちょっとナノマシンを弄るだけで涙を流せるこの体は実に使い勝手がいい。
困難へ立ち向かう幼き勇者を演出出来るのだからな。
大人に混じって悲痛な面持ちしてる一夏や弾たちへの体面というのもあるがね。
これからはアドリブの出来る人造人間が求められるのだよ。
◇◇◇◇
いよいよIS学園へ赴く日となった。
テレビ局が一つ無くなったようだが、まあ世間を賑わすという点でいえば本望なんじゃないかな。
俺が両親を殺したとかいう報道は中々的を射ていて面白かったが、国民にゴミだクズだと酷評されていたので民意を尊重し、潰すことにした。
やはり狙い目は出資者だな。
寮生活になるらしいので、ラボは海底に待機させておこう。
キャリーバッグに必需品を詰め込んでホテルを出る。
家を焼いた際、いつの間にやらNo.18が保険に入っていたらしく、結構な額の補償が入ってきた。
おかげで桁が一つ増えた。
遺産って素晴らしいな。
駅へ到着。
通勤、通学などの人々で混雑している。
「ちょっと、どこ触って──」
いきなり人の腕を掴むとは失礼な人だ。
反射的に手の甲から右腕のブレードが飛び出し、女性の脇腹へと突き刺さる。
先端部から分解処理用のナノマシンが注入され、ブレードを収納すると三秒ほどして衣服が重力に従って下へと落ちた。
『現在停車中の列車は──』
アナウンスが鳴り、人の波が幾つかに分かれて車両へと雪崩れ込む。
乗るしかない、このビックウェーブに。
◇◇◇◇
前後左右に女子がいる。
一夏は右前方だ。
大部分の視線はネームバリューもあってか一夏へ向けられている。
そして一夏の視線は助けを求めるように俺へ向けられる。
だが俺は形態端末を使ってちょっとしたゲームに忙しい。
旅客機をレーザーで撃ち抜くゲームだ。
衛生とリンクさせて狙いを付けるが、中々難しい。
射角修正、発射。
おぉ、一撃で轟沈とは、さすが兎印のレーザー砲だぜ。
「織斑君? 織斑君!」
幼さを感じさせる声に我に帰る。
どうやら教師は既に来ていて、自己紹介の途中らしい。
多数の女子生徒の視線に怯みながらも、一夏は名乗りをあげた。
「織斑一夏です、よろしくお願いします……以上です」
クラスメイト達がずっこける中、一夏は遅れてやってきた千冬さんに出席簿で脳天を叩かれた。
ハンマーで殴ったような音がする。
さすがは世界最強だ。
「諸君、私が1年1組担任の織斑千冬だ。
私の仕事はこの1年で諸君らに最低限の基礎を叩き込むことだ。
私の言うことを良く聞き、そして理解しろ。
逆らってもいいが、それ相応の罰があることを覚悟したまえ。
いいな」
軍曹めいた発言に応えたのは、女子生徒達の歓声だ。
同性からの人気は計り知れない。
結局、女子生徒達を怒鳴ったり、一夏を叩いたりしている内にチャイムがなり、自己紹介をすることなくSHRは終了した。
去り際に千冬さんが哀れむような視線を向けてきた。
身に覚えがない。
◇◇◇◇
休み時間になると、箒が一夏を連れてどこかへ消えた。
正確には俺も連れ出されるはずだったが、男二人に対して女一人というのは非常に絵面が悪い。
俺は未来人ではないのだ。
二人で仲良く青春しているがいい。
生徒達は俺の両親が割と最近死んだってことを知っているらしく、近付いてくる様子はない。
それが自作自演だとも知らずに……間抜けな奴らだ。
暗記済みの参考書を適当に流し読みしていると、袖を余らせた女子生徒が間延びする声で自己紹介してきたので、こちらも適当に返す。
彼女が言うには、新入生が一人来ていないらしい。
どうでもいいことだ。
授業が始まり、山田先生が教鞭を取る。
挙動不審の一夏に誰もが注目している。
「解らないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生なのですから」
柔らかい笑みを浮かべ、胸を張る山田先生に一夏は答えた。
「全然わかりません!」
鬱屈としていた中学時代と違って実に清々しい。
呆然とする山田先生に代わって千冬さんが聞くと、参考書を電話帳と間違えて捨てたらしい。
えぐい音がするぐらい叩かれたが、何だかんだで再発行して貰えるようだ。
「ISは過去の兵器を遙かに凌いでいる。
そう言ったものを深く知らずに取り扱えば必ずしも事故が起こる。
理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ。
……諸君らの中には、自分は望んでここにいるわけではないと思っている者もいるだろう」
束さんが望んだのか、それともISが望んだのかは分からないが、望まれたからには応える選択肢がある。
俺はそれを選んだに過ぎない。
状況を楽しんでいるとも言えるが。
「人は人と、つまりは集団の中で生きなくてはならない。
それすら放棄するなら、まず人であることを辞めるものだな」
用意された台本めいた言葉で、千冬さんはそう締めくくった。
人造人間は人に入りますかー?
正確には試作機操兵二号機なので人というよりサイボーグだが。
しんみりした空気を打破するためか、山田先生がやや大きめの声で授業を再開する。
ぎこちない学校だなー。
◇◇◇◇
「助けてゆうえもーん」
そういうのは束さんにやって欲しい。
たばえもん、素晴らしい語呂だ。
とりあえず要点だけ纏めたメモを一夏へ渡す。
これはダメ、あれはダメ。
それだけ分かって入れば十分だろう。
「ちょっとよろしくて?」
時代錯誤も甚だしい髪型をした女子生徒が話しかけてきた。
この手の人間は賢者の石に登録していなかったな。
とはいえ、ここまで目立つ相手だと捕らえるのは難しいだろう。
「よろしくないな」
「何ですのその返事は! わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
「素晴らしい滑舌と肺活量だが、俺はよろしくない。 一夏、相手をしてやれ」
「まあメモ貰ったし……えっと、君の名前は?」
「わたくしを知らないですって!? このセシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして入試主席のこの私を!?」
二人のやり取りをどこか遠くに感じながら、携帯端末を取り出してNo.18からの定時連絡を確認する。
複数の国の言語を組み合わせたメッセージなので、平和ボケした学生に見られても問題ない。
どうやら、役人が集中的に狙われていることは周知の事実となりつつあるようで、警備が強化されたとのこと。
今更だが、教育委員会や第三者委員会まで洗脳範囲を広げたのは間違いだったかも知れん。
『警備諸共消しましたけど問題ありませんよね?』
あぁ、実に問題ない。
その調子で頼む。
せっかくなので無関係の人間を何人か消すといい。
そうだな、顔面偏差値なんかで消すと捜査を撹乱させることができるかも知れん。
世の中五体満足な生物が多すぎる。
『試してみます』
避妊しろよ、と最後に日本語で返信して端末を閉じる。
そろそろ次の授業が始まる時間だ。
◇◇◇◇
クラス代表を決めることになった。
どんな役割かと言えばクラスの顔、まとめ役、担任教師のパシリ。
中学時代の委員長とあまり変わらないな。
「自薦他薦は問わない。 意見あるものは挙手をして発言しろ」
千冬さんの言葉に応じて、女子生徒達が手を上げた。
それぞれが名前を呼ばれるより早く、皆口々に一夏を推薦していく。
「俺!?」
驚いて立ち上がった一夏は辞退しようとするが、千冬さんに諭されて屈したように席についた。
しかし、ふと何か思いついたかのように再び立ち上がる。
「俺は有機を推薦する!」
一夏がそう宣言すると、少数だが女子が俺を推薦していく。
それに対し、数秒ほど無反応を装ってからゆっくりと立ち上がる。
苛立ち、怒りを想像したのか、口を閉じて静かになるクラスメイト達。
気分を良くした俺は統領気分で演説を始める。
「どのような組織であれ、代表というのは羊ではなく獅子として振る舞うことが求められる、というのは周知の事実だと思う。
そこで諸君らに一つ提案がある。
一夏とかいう羊の推薦を取り消してみないか?
なあに、一度や二度の撤回ぐらい、織斑先生なら分かってくれるさ。
情けない弟を矢面に立たせたくないだろうしな」
「なっ、馬鹿をいうな! それなら自薦してやる!」
「やる気があるみたいなので一夏君を推薦します」
「え? ……はっ!? しまった!」
「……乗せられるな、馬鹿者。 鬼道も冗談は慎め」
「はい」
まあこのままいけば多数決で一夏が代表だ。
民主主義って素晴らしいね。
袖を余らせた女子が執拗に俺を推薦していたのは嫌がらせかな。
それとも孤独な男子に付け入る女の技か。
無駄なことだ。
「待ってください! 納得できませんわ!」
待ったを掛けたのは時代錯誤も甚だしい髪型をした女子生徒だ。
猿、男、弱者、国の品格などなど。
見た目にマッチするような暴言の数々に一夏が反撃。
祖国とメシマズという言葉が飛び交う舌戦を讃えて思わず拍手だ。
「素晴らしいヒステリーだ。 精神科医の名前を教えてくれ」
「だ、だ、誰がヒステリーですって! 極東の猿の分際でよくも私を侮辱しましたわね!」
「I was made in Japan. It isn't a monkey.」
「ファァァァ! 決闘ですわ! 二人共完膚なきまで叩きのめして差し上げますわ!」
「あれ? bornじゃないのか?
アイワズボーン、インジャパッ」
俺と似た英語を使おうとして、一夏が千冬さんに叩かれた。
「それぐらいにしておけ。
3人には一週間後の放課後、第三アリーナにて試合をしてもらう。
オルコット、織斑、鬼道は準備をしておけ。では授業を始める」
一度でいいから、この人のヒステリーも見てみたいものだ。
◇◇◇◇
初日の授業が終わり、荷物を纏めていると山田先生が現れた。
寮の鍵を渡しに来たとか。
一夏が姉から着替えと携帯の充電器だけを受け取っている。
俺があげた音楽プレイヤーはどうしたと聞くと、制服の内ポケットに常備しているとのこと。
物持ちがいいな。
寮へと向かおうとする前に、千冬さんに呼び止められる。
「久しいな、鬼道」
「そうですね」
「……両親のことは残念だった。 保護プログラムがあったにも関わらず」
「お気になさらず。 もう終わったことなんで」
始まったともいえるがね。
「だが」
「運が悪かっただけの話です」
「有機君、そんな悲しい言い方は……」
「そう言われましてもねー」
自作自演だし。
たかがクローンがグチャグチャになったぐらいでお涙を期待されても困る。
道徳1は伊達じゃない。
困惑する山田先生と千冬さんを置き去りにして、一夏と共に寮へ向かう。
親を知らないという一夏は何か思うところがあるのか、蒸し返してくることはない。
まあ葬式にも来てたしな。
代わりという訳ではないと思うが、チョコチョコ姉の話しを混ぜてくる。
家事が全く出来ないだとか、下着を脱ぎ散らかすとか。
クールビューティが実はズボラとか、有りがちな属性であざとく見えるな。
そんな感じで雑談しながら数分も歩けば到着だ。
俺と一夏は番号が違うらしい。
すなわちルームメイトは女子生徒だ。
1010号室に着いた俺は扉をノックをした。
しばらく間が空いて、扉が開く。
水色の髪に赤い瞳の、眼鏡をかけた気弱そうな女子生徒だ。
俺の姿を見て驚き、目を見開いている。
その目の前に鍵を持ってくると、納得したのか落ち着きを見せた。
「……よろしく?」
「あぁよろしく」
ルームメイトの名前は更識簪というらしい。
メモっておけば覚えられるんじゃないかな。
それより問題はこの部屋だ。
機械達の視線を感じるぞ。
実験室で幾度と無く感じたものと似ている。
あらゆる死角に隠しカメラと盗聴器が仕掛けられているに違いない。
余り気分のいいものじゃないな。
使っていない方のベッドに荷物を置き、キャリーバッグからノートパソコンを取り出す。
No.18とNo.7の仕事の進行具合をチェックだ。
おぉ、あと少しで五割のターゲットを始末出来そうだな。
F地点に支援物資を支給しておこう。
「……なにしてるの?」
いつの間にやら、後ろに回って興味深そうにこちらを見ている。
「ちょっとしたシュミレーションゲームだ。
これがスパイ工作の進行速度、こっちが目標の選択というわけだ」
「そ、そうなの? でも何か違うような……」
「リアリティを追求した作品だからな。 そう思われても仕方無い」
別のソフトを起動させる。
ふーむ、こっちの進行度は四割といったところか。
刃の重金属の生成に手こずっているようだ。
まあこれは時間の問題だろう。
もう一つの進行度は三割ってところだ。
「IS用の、刀? それに、心臓?」
「興味津々なのは結構だが、一方的に見るというのはよろしくないな」
「ご、ごめんなさい。 つい……」
「分かればいい。 自分の作業にでも戻るんだな」
「……うん」
「あぁ待て」
「な、なに?」
シャワー時間や着替える時などの取り決めを決める。
こちらから提案してやれば勝手に頷いてくれるから楽でいい。
簡単な夕食を取って、眠るとしよう。