生きるとは一体。   作:ホットケーキで殺人

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 快眠、というか俺は夢を見ないのでよく分からない。

 夜遅くまで作業をしていたかんざっしーは起きてはいるが、ぼーとベッドの上で呆けている。

 フリスクを投げ渡し、顔を洗って食堂へ向かう。

 道中、一夏と気高き箒と出会う。

 一夏のルームメイトらしい。

 昨日は随分騒がしそうにしていたが、その割にはギスギスしている訳でもない。

 騒ぎたいだけだったのかな。

 

「久しいな、鬼道」

 

「そうだな、気高き箒よ」

 

「その呼び方はいい加減やめてくれっ!」

 

「気高きってうぉ!?」

 

 一夏にそう呼ばれるのは恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして両肩を掴み、鼻先が触れるぐらいの距離でやめてくれと懇願する箒。

 一夏も恥ずかしそうで、我に返った箒は慌てて距離を取る。

 初々しいね。

 

◇◇◇◇

 

 授業の前に、千冬さんが一夏に専用機が用意されるとの旨を伝えていた。

 専用機か。

 出来ることなら、機体を選ばずに使いこなすようになりたいものだ。

 一夏が教科書を音読すると、一人の女子生徒が手を上げた。

 

「篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか………?」

 

 千冬さんはそれを肯定した。

 箒の元へ女子生徒達が集まり、それぞれが口を開く。

 

「あの人と知り合いなの?」

 

「IS制作に関わってるの?」

 

「専用機持ってるの?」

 

 などなど。

 無遠慮とはこういうことを言うんだな。

 

「私はあの人と関係ない!」

 

 箒自身の一喝によって女子生徒達は席へと戻り、授業が始まる。

 そして放課後、一夏と箒が決闘に備え、道場にて訓練をするらしい。

 俺も誘われたが断った。

 

「……鬼道、剣道は嫌いか?」

 

「嫌いだな。俺が好きなのは刃物であって、剣道ではない」

 

「……」

 

 何やら消沈しているところを一夏が励ます。

 

「俺は好きだぜ」

 

 いい台詞だな。

 

「おめでとう箒!」

 

「おめでとう~」

 

「めでたいな!」

 

「おめでとさん!」

 

 俺が二人を祝福すると、どこから沸いたのかノリのいい女子生徒達が続いた。

 顔を赤くした箒が一夏を引っ張るようにして逃げていく。

 仲が良くていいね。

 

「ゆっきーはキューピットなんだね」

 

 三分もあれば余裕余裕。

 とりあえずISを使って訓練しようと思ったが、既に予約が詰まっているらしい。

 あのヒステリーとグルなんですね、と山田先生に言うと顔を青ざめて何とかしますとのこと。

 教師の鏡やで。

 賢者の石に取り込みたい。

 

◇◇◇◇

 

 一夏の頭から煙が上がっている。

 PICや量子化は難しかったようだ。

 箒が珍しく優しさを発揮して、一夏にノートを見せている。

 俺のメモはもう要らないな。

 

「やっ、ちょっといい?」

 

 昼食として豪勢にパフェを食べていると、見知らぬ先輩が正面に座ってきた。

 水色の紙に既視感を覚える。

 恐らくはかんざっしーの親族だろう。

 

「ISの訓練について、なんだけどね」

 

 先輩が直々にISについて教えてくれるらしい。

 口調としては優しげで余裕があるように見えるが、どうやら違うらしい。

 周りの女子生徒達が恐れて近寄ってこないことが考えて、隠しきれない程の怒気、敵意があるのだろう。 

 ここで切るべき手札は、逃げや受けに回ることではい。

 挑発──所謂様式美というやつだな。 

 

「訓練とは言いますがね。

 女子高生が相手ではいつ後ろから撃たれるか分かりませんな」

 

 遠回しな女尊男卑に対する皮肉めいた言葉を返すと、先輩はニヤリを笑みを浮かべた。

 

「私なら引き金を引く前に槍で貫くわ。

 今のあなたが相手なら、その方が早い」

 

 面白い冗談だな。

 

◇◇◇◇

 

 決闘まであと三日といったところでアリーナの使用許可が下りた。

 山田先生がもぎ取ってきた打鉄を使って訓練をする。

 何だかんだで水色髪の先輩の教え方は上手く、分かりやすい。

 とある市役所の人間が消えたとか、住宅街で爆発事件が起きて身内が死んだとかいうバカバカしい話題さえ無ければパーフェクトだったが。

 それとは別にここで驚きなのだが、なんとISとのコミュニケーションを取ることに成功した。

 まあチャット形式なんだが。

 ISコアがこんにちわと入力してもISには表示出来ないが、半機械化された俺の脳をWi-Fi的に使うことでISに表示しているらしい。

 ISコア→俺の脳→ISにチャット。

 ということらしい。

 俺の脳をISコアに使われていることに思うところはあるが、脳の稼働率には余裕があるし、便利だからいいか。

 思念操作で入力が出来るのは楽でいい。

 

『この機体との同調限界は50%です』

 

 生体維持機能や各種システムに使われてるナノマシンを俺の神経系を同調させることで、かなり強引だが稼働率を上昇させる。

 脳の演算システム使用率が83%まで上昇し、徐々に下がっていく。

 同調にはかなり演算領域を使うようだな。

 

『受信したデータとの同調を開始』

 

 脳にインストールしておいた各国代表の動きをIS側へと送信し、同調したナノマシンと神経を介して少しずつ再現していく。

 打鉄側の補助もあってか、本物の五~七割程度であれば問題無く動けるようだ。

 それ以上は機体が持たない、というか打鉄は機動性より防御力を重視した機体だから適性の問題だな。

 なので出来ることをしよう。

 

『警告、六時の方向』

 

 逆様の状態で瞬間加速をしたり、片側のスラスターだけで加速することで高速回転したりしていると背後から銃弾が飛んでくる。

 それを打鉄の非固定浮遊装備の盾に角度を付けて受ける。

 ISのハイパーセンサーと機動性があれば、射線に対して最適な角度を算出し、位置取ることは容易い。

 

『右盾の損傷率7%』

 

 打鉄側からのサポートもある。

 かつて剣や槍から銃への近代化の真っ只中にあった中世でも、盾に角度を付けて銃弾を弾きながら前進する変態的な歩兵軍団が居たらしいし、現代でも可能だろう。

 それにこの盾は、損傷してもエネルギーを使うことで再生するらしい。

 一桁レベルの損傷なら余裕だな。

 やがて水色髪の先輩に注意されて銃撃していた女子生徒が退散していく。

 女尊男卑とか都市伝説だと思っていたが、実際にいるとは驚きだ。

 こっちは性別以前に性能で差別してたから些細なことだが。

 

「素人には思えない動きね。有機君、あなたは何者なの?」

 

 スタイリッシュな専用機・ミステリアス・レイディの水のドレスを揺らしながら、水色髪の先輩──打鉄を通じてISネットワークとやらから得た情報によれば、IS学園生徒会長、更識楯無。

 本名では無いらしく、それを知るISが沈黙していて聞き出せないらしい。

 政治家じゃあるまいし、本名などどうでもいい。

 気がつけばアリーナには俺と会長さんしかいない。

 いや、かなり上空にIS反応がある。

 これは山田先生かな。

 となると先程の女子生徒も仕掛け人の一人か。

 打鉄が言うには布仏虚、というらしい。

 いい名前だ。

 

「ノーコメントで」

 

 適当に返答すると、ランスを突きつけてきた。

 蒼流旋、ねぇ。

 ガトリング内蔵とは怖い怖い。

 

「あなたの経歴は綺麗過ぎる。

 周りで起こた事件に比べて、余りにも綺麗過ぎる。

 有りもしない報道をしてあなたを貶めたとはいえ、

 テレビ局が僅か一ヶ月で潰れるなんてどうかしているわ。

 もう一度聞くわ、何者なの?」

 

 何やら強い敵意を感じる。

 情報によれば、彼女は日本の対暗部の暗部組織の当主とのこと。

 その立場からして、市役所の職人や警察官、教育委員会やその他いろいろの洗脳を行い、今はそいつらの抹殺を命じている俺は相当な悪なのかも知れない。

 テレビ局の一件も加えて、そういった疑いのある危険人物が妹と同室となれば、敵意が剥き出しになっても仕方が無いか。

 家族の絆ってやつだな。

 うむ、俺も人間の感情が少しずつ分かってきたようだ。

 軽く咳払いをする。

 

「んん、そこまで言うなら教えてやろう。

 鬼道有機というのは偽名だ。

 本当の名前は試作機操兵二号機、略してNo.2。

 二郎と呼ぶ研究員も居たな。

 生まれは試験管の中だ。

 母乳の代わりにナノマシンとエネルギーパックを注入され、

 三週間で五歳児相応の体へと急成長し、

 小麦アレルギーで死んだNo.1に変わって主要な実験体となった。

 まず最初に脳の改造を受け──」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「物心がついたころには、既に脳は機械化されていた。

 脳の約七割が機械であり、生体組織は三割しか残っていない。

 その後は脳にインストールされた動きで銃弾を躱したり、

 時に掴み取ったり切り払い、生意気なNo.3をぶっ殺したり、

 内圧弄って水圧に対抗したり、ピンを抜いた手榴弾を胸に叩きつけたり、

 サウナの中で一週間過ごしたり、夢のある薬をがぶ飲みしたりしていたら──

 俺以外の実験体は死に絶えていた。

 なんと当時二歳だ!

 体は六歳相当だったがね。

 研究員たちからすれば、小さい体に異常な力というのは様式美らしい。

 体格のいい男は幼女に叩きのめされるのが仕事とかどうとか……まあどうでもいいか。

 そんな彼らは蠱毒の勝者となった俺の遺伝子を喜々として培養し、

 いろいろ手を加えて新しい機操兵を作り始めた。

 だがまあ、増えすぎてちょっと気持ち悪くなって来たので、

 当時研究中だったウイルス兵器で皆殺しにしてやったよ。

 強化ガラス越しにワクチンを見せびらかすのは楽しかったなぁ。

 二人だけウイルスに適合していたので連れだしたが、まあ身の上話はこれぐらいか」

 

「えぇっと……」

 

 我ながら良く回る舌だ。

 会長さんはミステリアス・レイディが文章化したものを何度か読み返し、

ようやく顔をこちらへ向けた。

 

「……これを信じろというの」

「全部うっそぴょーん」

 

 会長さんの額に青筋が浮かび上がる。

 まるで漫画だな。

 

「……もう一つ聞かせて頂戴。

 ルームメイトのこと、どう思う?」

 

「余り価値は無いな」

 

 青筋が一つ増えた。

 これは面白い。

 

「だが数少ない価値があるとすれば、それは名前だな」

 

「名前ですって?」

 

「更識簪、珍しい名前だろう?

 そのままでもいい響だが、せっかくなので心の中ではかんざっしーと呼んでいる。

 ミッフィーに近い響きがあってお気に入りだ」

 

 ミステリアス・レイディの生態維持機能が仕事をしていないな。

 蒼流旋を持つ腕が震えているぞ。

 

「……楯無の私は、たてなっしーになるのかしら?」

 

「姉の方は別に……」

 

 アクア・ナノマシンを纏った槍が迫ってきたので、打鉄の盾で防御する。

 二枚重ねの盾を槍先が突破し、先端部にエネルギーが収束していく。

 ミストルティンの槍、か。

 かなりのエネルギーを感じるが、打鉄の装甲とシールドエネルギー、絶対防御で耐えられるかな?

 

『死ぬほど痛い、と判断致します』

 

 マジで?

 

『うぃ』

 

 急に砕け始めたなこいつ。

 シンクロの影響かな?

 エネルギーが炸裂する。

 結論から言えば、俺は生き残った。

シールドエネルギーとは別に、俺の体の表面を覆う流体ナノマシンが飛散し、衝撃を殺したからだ。

 手榴弾程度なら無力化出来る。

 まあ今回はそうもいかないようで、殺しきれなかった衝撃によってアバラに罅が入っているようだ。

 内臓もいくつか出血している。

 機械化されていない部位のあちこちに裂傷が見られる。

 衝撃を殺したとはいえ、砕けた装甲や盾の破片で皮が裂けてしまったようだな。

 体内の余剰ナノマシンを使って止血、および代謝の活性化を行う。

 裂傷の完治が四時間、内臓とアバラが丸一日ってところか。

 その間は痛覚を切らないと痛くて歩けないのが難点だな。

 夕食も多めに取らないといけないな。

 下半身は打鉄の装甲が集中していたおかげで、上半身に比べてダメージは少ない。

 機械化された両足は、生体組織とは比べものにならない強度がある。

 砕けた装甲の破片が刺さるようなことはなし、痛みもない。

 歩行に問題はないな。

 

「こ、こんなつもりじゃ、いやでもなんでそんな平気そうな顔を──」

 

「やり過ぎだ」

 

 会長さんだが、爆発の直後に現れた生身の千冬さんにIS諸共引っ掴まれてどこかへ消えていった。

 上空の山田先生同様、どこからか見ていたのかも知れない。

 ISのセンサーに映らないとは、さすがは世界最強だ。

 さてさて、打鉄君は大丈夫かい?

 

『うぃ』

 

 さすが専守防衛国の機体だぜ。

 装甲は殆ど残ってないけどね。

 山田先生が慌てた様子で空からやって来た。

 ラファールを纏っている。

 

「大丈夫ですか有機君!」

 

「大丈夫です山田先生」

 

「えぇ!? いやいやそんなボロボロなのに本当大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫ですよ山田先生。生徒の言葉が信じられませ、ゴホッ」

 

「あぁ! 有機君が血を吐いた! 強がってる場合じゃありませんよ!」

 

「それはともかく、上空からの援護射撃があれば、こうならずに済んだと思いません?」

 

「っ、それは」

 

「そんな先生にお願いがあるんですが」

 

 山田先生にズタボロになった打鉄を押し付け、血を拭いてアリーナから出る。

 痛覚を切って歩くのは久しぶりだな。

 まあ昔ほど神経が残っている訳ではないが。 

 夕食にはまだ早いので、一夏の様子を見に剣道場へ。

 箒の竹刀に一夏が一方的にやられている。

 打ち込まれる度に一夏は闘志を燃やし、何度も挑みかかる。

 青春ってのはこういうのを言うんだろうな。

 邪魔をしてはいけないので踵を返す。

 俺も刀一本で会長に挑めば、こんな感じになっていたのだろうか?

 答えはない。

 保健室をスルーして自室へ向かっていると、片付けを終えたのか千冬さんと山田先生、そして生徒会長が慌てた様子で追ってきた。

 生徒会長の動きが鈍い。

 尋ねてみると、ミストルティンの槍を制御し切れず、反動でダメージを受けたらしい。

 

「大変ですね」

 

「……えぇ、自業自得よ」

 

 三人からの謝罪と身を案じた言葉、その中に混ざる俺への探りを聞き流していると、両肩を掴まれた。

 

「有機、まさかとは思うが痛覚がないのか?」

 

「っ、そんな」

 

 山田先生が顔を青くした。

 大袈裟な……オンかオフかの話だろうに。

 

「異常はありませんよ。

 俺は正常だ」

 

 ポケットに忍ばせておいた打鉄の装甲片を取り出し、生徒会長へと投げ渡した。

 

「俺が打鉄より硬くてよかったですね」

 

 (意味深)

 こういう台詞を一度で良いから言ってみたかったんだよ。

 腕を振り解き、自室へと向かう。

 追ってくる人間はいなかった。

 少し残念。

 

◇◇◇◇

 

 ふーむ、No.18とNo.7に疲労が溜まっているな。

 休むよう命令を出す。

 ユーラシア大陸を潜行中のラボに資源探しをさせていたが、希少な素材を大量に入手出来たようだ。

 中国の地下資源も馬鹿にならんな。

 採掘の関係上、中国各地で陥没や土砂崩れが起きてしまったが、まあいい。

 ニートが多いと聞くし、これを機に土木へ就職する人が増えることを祈ろう。

 それにしてもかんざっしーの機嫌が悪い。

 タイピングの音が昨日より大きい。

 特にエンターキーを押す時の音が大きい。

 妙なポーズを取りながらこちらをチラ見してくる辺り、実はツッコミ待ちなだけなのかも知れない。

 まあいいか、寝よう。

 

◇◇◇◇

 

「久しぶりだねゆーくん!」

 

 夢の中に現れた兎人間に驚きを隠せない。

 初めて見る夢に知り合いが出てくるとは、運命ですかな。

 

「必然だぜい!」

 

 束さん曰く、ここは電脳世界らしい。

 ISの同調機能とナノマシンを使って操縦者の意識を仮想可視化させてプラグインするらしい。

 俺が打鉄と同調したことで、ここへ来るための条件が揃ったとのこと。

 今IS持ってないけど、どうなの?

 

「それは起きてからのお楽しみってやつよ!」

 

 なるほど、粋なサプライズですな。

 ところで電脳世界っていうには殺風景ですね。

 とか思っていると一瞬で世界が変わる。

 足元にはどこかで見たようなパネルが広がり、俺の体は群青色のタイツと青色の装甲に覆われている。

 

「ふふふ、束さんのドリームオーラを破れるかな?」

 

 さすがは電脳世界、割とどうにでもなるらしい。

 ドリームソードを食らえ!

 え、ちょ、三マス目とか届かないから。

 しかも束バスターめっちゃ痛い。

 更に毒パネルとリカバリー反転だと!?

 あ、あ、あ。

 デリートされた俺が目覚めると、右手に銀色の腕輪がついていた。

 これがISか。

 シルバークローズ、というらしい。

 直訳で銀服か。

 仲良くしようぜ。

 おっと形態端末に着信だ。

 送り主はシルバークローズ?

 本文は──『うぃ』。

 こいつの中身打鉄じゃん。

 コア同士で引っ越しでもしたのかな。

 千冬さんに事情を話すと、昨日の一件のこともあっていろいろな手続きに関して協力してくれるらしい。

 まあ、IS学園の学生が学園所属になるのは簡単なことだ。

 

◇◇◇◇

 

 決闘当日。

 思いの外早く届いた専用機に乗って一夏の試合が始まった。

 白式というらしい。

 俺なりの応援として放送システムにハッキングを開始。

 盛り上がるクラシックをアリーナに流す。

 まあ、一夏というよりオルコットに似合いそうな曲ではあるが。

 ワーグナーは偉大だよ。

 やがてエネルギーを削られ、直撃弾を食らう一夏。

 しかしそこで一次移行を終え、姉の名誉を守ると宣言して突撃。

 装備している剣が光を帯びる。

 あれは零式白夜か。

 射撃を掻い潜って接近するが、いざ斬りかかる寸前でシールドエネルギーが尽きた。

 用意して置いたツィゴイネルワイゼンを流そうとしたが、システム権限を取り返され、失敗に終わった。

 ハッキングは専門じゃないとはいえ、間の悪いことだ。

 オルコットの換装、補給、メンテナンスを待って俺の試合を行うことになった。

 ここで千冬さんが辞退の話を持ってきた。

 先日の件で負傷したことを思ってのことだろうが、今更な話しだ。

 先にアリーナへ出て、装甲を変化させて椅子を作り、そこに座って待つ。

 高い視線というのは中々気分がいい。

 国王や皇帝というのはこういう気持ちだったのかも知れない。

 

「……待たせましたわね」

 

 肘掛けの硬さを調整していると、オルコットがアリーナへ現れた。

 

「随分と余裕ですわね、椅子型のISなんて聞いたことがありませんわ」

 

「見たものを信じるのは美徳だが、無知な子供も同じことをするだろう」

 

 腰掛けていた椅子が変化し、水銀めいた金属が俺の体を這うように広がり、全身装甲が展開される。

 液体金属とナノマシンの合金で出来ている装甲は、俺の意思で自在に形状変化が可能だ。

 額部分にある制御コアが無事な限り、ではあるが。

 コアが無くとも、機械化によって増幅された俺の脳波でも操作は可能なのだがね。

 束さんも粋なISを作るものだ。

 彼女は賢者の石より価値がある。

 俺の準備が整ったを見て、オルコットがレーザーライフルを構えた。

 確かスターライトmkIIIだったか。

 Ⅲ、か。

 No.3は雑魚だったが、この銃はどうだろうな。

 

「その言葉を、先日の自分に聞かせたいものですわ」

 

 心境の変化があったようで、ヒステリーを起こす様子はない。

 

「薬でもヤったのか? まるで別人だぞ」

 

「ふふ、あなたはブレませんね。 ですが、挑発のつもりなら無意味ですわよ」

 

 まあ思いたいように思えばいいさ。

 ブザーが鳴り、試合開始だ。

 

◇◇◇◇

 

「この、どうなっていますの!」

 

 レーザーライフルといっても、その本質は銃と変わらない。

 質量か、熱量かの違いがあるだけだ。

 銃口から射線を、視線や手の動き、表情などからいつ撃たれるかまでを予測し、更にはISの機動性があればレーザーに限らず実弾だって躱すことは容易だ。

 まあ集中力の問題で疲れやすいのが玉に瑕か。

 スラスターにエネルギーを取り込みながら、牽制用に持ち込んだIS用の拳銃の引き金を引く。

 

「っ」

 

 人の眼球ほどある弾頭が顔面スレスレを飛んで行くのを見て、オルコットが表情を引き攣らせた。

 センサー系が優秀過ぎると、時として恐怖を煽ることになるようだな。

 ISのハイパーセンサーで対物ライフルによる人の狙撃を目にした時、どんな反応をするか割と興味がある。

 

『チャージ率73%』

 

「行きなさい、ブルーティアーズ!」

 

 ライフルとピット兵器の射撃を同時に躱すのは流石に厳しい。

 牽制を止め、地面に降りて回避に専念する。

 際どいところをレーザーが横切って行くのは、なまじISのハイパーセンサーが優秀過ぎてはっきり映る。

 実にスリリングだ。

 思わず笑顔。

 まあ取り換えて以来どうも表情筋の反応が鈍いから、微妙な表情のままだと思うが。

 

『チャージ完了』

 

 ピットによる包囲を避ける為にアリーナのシールド付近まで後退したところで、スラスターに取り込んだエネルギーを開放する。

 跳躍と同時に連続して瞬間加速を行い、ほぼ直角の起動をジグザグに刻みながら射撃を掻い潜り、オルコットへ接近。

 結構やばいGが掛かり警告が表示されるが、人造人間にその手の心配は無用だ。

 右側のスラスターのみで加速することで回転し、その勢いのまま蹴りを叩き込む。

 

『オルコット君吹っ飛ばされたー!』

 

 森崎君は優秀だよ。

 ただ相手が悪過ぎたのだ。

 手足の装甲を刃状へ変化させ、再び加速。

 制御が疎かになったピットを体ごと回転して切り刻んでいく。

 体勢を整えたオルコットからの反撃のレーザーを半身になって躱し、最後のピットを掴み取る。

 手の平に展開した杭状の装甲で貫くと、ISのモニターに妙に凝ったフォントで破壊完了の四文字が浮かんだ。

 こういう拘り、嫌いじゃないぜ。

 悔しそうなオルコットの表情をシルバークローズがアップで映してくれる。

 まあこっちもブースト用に取り込んだエネルギー使い果たしているから、五分みたいなものだが。

 手の平の装甲から短槍を引き抜くようにして作り出し、それを投げる。

 

「え、きゃっ」

 

 一瞬驚いたオルコットの顔が映し出されるが、

クルクル回転していたはずの短槍が突如姿勢を変え、槍先が顔面に向かって直進かつ加速してくると慌ててそれを避けた。

 通り過ぎた短槍が反転し、再びオルコットへ向かっていく。

 

「意趣返しのおつもりですか!」

 

 返答代わりに、二本、三本と短槍を追加していく。

 オルコットはスターライトmkIIIで撃ち落していくが、

完全に消失させない限り、短槍は再び彼女へ襲い掛かる。

 

『警告、装甲を使い過ぎです』

 

 もっともな警告だ。

 装甲の遠隔操作はエネルギーを食うからな。

 だが──気にするな!

 

『了解!』

 

 力強い返答をありがとう。

 手元を離れた短槍を遠隔操作し、様々な方向からオルコットを狙う。

 楽しくなってきたので、指揮棒を作ってそれを振る。

 今はまだ避けられているが、いずれはパイロットが消耗して直撃するだろう。

 ヒス持ちとはいえ、美女を弄ぶことに愉悦を感じなくもない。

 そう思わないか?

 

『ちょ危な』

 

「うぉっ」

 

 遊んだのが行けなかったのか、新しい槍を追加する瞬間を撃たれる。

 ヘッドショットってやつだな。

 俺自身はシールドエネルギーと流体ナノマシンのおかげで無傷だが、IS側はかなりのエネルギーが削られた。

 やるじゃない。

 まあこれでライフルの出番は終了だがな。

 スターライトmkⅢには三本の短槍が突き刺さっている。

 単発のレーザーライフルで俺が怯むと思わないことだ。

 生身なら重度の火傷でのた打ち回っているところだが。

 オルコットはライフルを捨て、ミサイルビットを使って短槍の群れを強引に吹き飛ばすと、こちらへ一直線に向かってくる。

 

「インターセプター!」

 

 音声認識と共に現れた小剣を手に突きを放ってくる。

 指揮棒をナイフに変化させて小剣を打ち払い、三次元的な起動を描いて応戦する。

 ナイフ以外に蹴りや肘鉄、時に回転してカスタムウィングによる打撃を混ぜながらエネルギーを削っていくが、どうにも心踊らない。

 機械は人に合わせて作られるものだ。

 ISを使って白兵戦をしていると、人が機械に合わせているようで面白くない。

 まあナノマシン漬けとも言える俺が言えたことじゃないし、

人間に空を飛びながら白兵戦が出来るかと言われたなら無理なのだが。

 

『気にするな!』

 

 力強い言葉をありがとう。

 

「そこですわ!」

 

 わざと受け損ねたかのようにナイフを手放す。

 チャンスかと思ったのか、オルコットは小剣を大上段へと構える。

 予想を裏切らない人だな。

 小剣が振り下ろされる前にこちらから飛び込む。

 装甲を集中させ、二回りほど大きくなったシルバークローズの拳を握りこむ。

 スラスター全開!

 昇竜拳!

 

『オルコット君吹っ飛ばされた―!』

 

 今度はくの字じゃなくてちゃんと仰け反りながら吹っ飛んだな。

 脳震盪を起こしたのかバランスを崩し、落下していくブルーティアーズに糸状に変化させた装甲を掌から射出し、巻きつけて吊り下げる。

 神にでもなったような全能感があるな。

 ここが地獄って訳じゃないがね。

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 乙でーす。




 戦闘中に右下からホップしてくるチャットメッセージ。
 想像してみると邪魔過ぎるよね。
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